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本編
epilogue:the latter part
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「シェシュティンが、カナメの熱狂的信者であることはご存知ですか?」
思い出していたロドルフにステファニーの穏やかな声が問いかける。
「ああ。もうすっかり周知の事実だな。彼女の暴走にカナメがどうしたらいいんだと慌てふためき……まあ幼い頃と違いしっかり外見を繕う術を身につけたがためにそんなふうには見えないが……だからこそ、なんとも可哀想になる。リンドマン侯爵もカナメが可哀想なくらいに謝っておった……娘が本当に申し訳ないことをしていると」
「父と同じほどの歳の男性に会えば必ず『うちの娘が本当に申し訳ないことを』と言われていますから…その上あれ程深く頭を下げられて……。可哀想に、カナメはこの調子ではずっと困惑続きですわね……」
「ある種の負の連鎖だろう。暴走気味のシェシュティエンに謝る侯爵、困惑したカナメにまた暴走するシェシュティエン……うむ。連鎖しておる」
二人は顔を見合わせて、負の連鎖と言って笑う。
本当にカナメが可哀想だと思っているのか、さあ、どうなのだろうか。
「そのシェシュティン、『頭が良くて可愛くてかっこいい子供をたくさん産みますから!』と言い出して……リンドマン侯爵がまた小さくなって……」
「令嬢がそのような発言。はて……いいのだろうか」
ステファニーの顔色を伺うと、困った顔で笑うだけ。きっと自制しなさいとは言っているのだろう。
「そうなったら、ここも賑やかになりましょうね。あの子、『五人もいればきっとマチアス殿下がこの子だって思う王子が見つかると思うのです。それにマチアス殿下にカナメ様、そしてエティとわたし、四人の親が育てるんですよ!きっと世界中が驚くほど素敵な子になります』って今から張り切っていて。正直、わたくしも何から注意すれば良いのか……」
しかしこう言いながらも困った顔で笑う程度なのだ。
母としてシェシュティンの気持ちが嬉しく感じ、淑女であれだのなんだのという話よりも先にその気持ちが先に立つのかもしれない。
彼女だってこの件でどれほど気を揉んだだろう。想像に硬い。
「ステフ、そなたの優しさ、そして包容力、大きな愛情に心から感謝している」
「まあ!それは全て、ロルフが私を大切にしてくれるからよ!」
試練が乗り越えられたのかどうかは、ロドルフにも判断がつかない。
ただ分かるのは今のところは何も問題がなさそうだ。ということだけ。
しかしこの二人ならば大丈夫だろうと彼は感じる。
死が二人を分かつ時まできっと、この二人ははお互いを伴侶とし慈しみ合うだろうと、今ならそんな二人を簡単に想像できた。
ああなんと、幸せな未来が待っているのだろう。
きっと二人は、大丈夫だ。
そう思うとロドルフの胸がなんともジンとする。
「ここが賑やかに……か。これはさっさと退位して、孫を可愛がるという隠居生活も悪くなさそうだ」
「それはいけませんわ。マチアスとカナメには今度こそゆっくり王へ至る道を歩かせてやりたいですし、なによりあなたにはまだまだ王座がお似合いですよ」
「そうか?しかし、可愛い孫に囲まれただのじいさんをするのも、楽しそうなんだかなあ」
「なりませんよ、わたくしが許しませんわ!あんまりにそんなこと言うのでしたら、わたくしが女王になりましてよ?」
ステフならできそういかんな。そう言って大笑いするロドルフは、溢れそうになった涙を指で弾く。
スタファニーは「本当にもう、あなたは笑いすぎですわ!」と軽く流してロドルフの手を取って「執務に戻らないと、そろそろ怒られますわね」とロドルフを引っ張るように歩き出す。
その背中にロドルフはまた笑い、彼女の優しさにありがとうと小さく呟いた。
そのロドルフの背中には、カナメがなにやら、マチアスに言い募っている声が当たる。
きっとマチアスがまた真面目なあまり何か余計な言葉を言ったのだろう。カナメの声は随分と拗ねている。
やはりロドルフは思う。
死した後、神に会うことができたのならば、きっと子憎たらしい顔をしているだろう神の眼前にたって「うちの息子をみくびらないでいただきたいものですね!」と文句の一つでも言ってやろうと。
できるのなら一発くらい叩いてもいいのではないか、とまで彼は思っていた。
彼が亡くなったその後、人の知らぬ世界で神と相対することができたのか、そしてそれが叶ったかどうかは誰にも分からない。
しかし彼は最後まで「神に一言物申してやる」と言っていたから、マチアスはエティエンヌの子供達に「執念で叶えたのではないかと思う。執念というのはすごいものだからな……」と言っていたそうだ。
さて、本当の最後に。
のちの世で、とても怪しい手記が見つかった話をしておこう。
それはトリベールへ旅行へ来たという青年が残した、手記だ。
彼の手記には精霊に関わる事が多く書かれており興味をそそられるものの、しかしそのどれもが怪しく信じ難いために精霊研究をしている学者たちのほとんどが「怪しい」と架空の物語──────書き手の青年の妄想だろうとしか捉えないものである。
だがこの手記には後の世で『賢王マチアス』と『六華の王妃カナメ』と呼ばれた二人に関していると思われる記述がある。
そのため他の国ではただ怪しいだけの手記が、この二人と思しき人物が出てきたという一点だけでこの国では「もしかして真実なのでは?」と事情が変わってしまう、そんな手記だ。
後の世でも語られているように、マチアスとカナメは貴族界に蔓延っていた不健全な不文律をひっくり返し、長年の努力によりそれを健全なものにすべく奔走したという事実がはっきりと残されている。
──────今までもそれを成そうとしていた人間はいたのに、どうしてか成せなかった。しかし、この二人は幼い頃からこれを解決しようと奮闘し、そして人の助けを借りながらもこれを成した。
時間が経てば経つほど、二人が「どうしてそうしたのか」について、この国の歴史研究者たちは首を傾げ不思議がった。なにせどこにも、『どうして二人はそれを成そうとしたのか』これに関する事柄が公の文章として残っていないのだ。
同性婚をしたからこそではないか。など色々と、事実から考えうることで議論も行われるのだが、なにせ国王はあの賢王マチアスである。
いくら「誰よりも愛している」と公言して憚らなかったカナメが王妃であっても「賢王ならば慣例どおり側妃を娶ったのでは?」なんて意見も出てくるために、最終的には「どうしてだろうか」と元に戻る。
──────なぜ、二人は生涯かけてまでこの問題とこれほど向き合ったのだろうか。
そこでこの手記の登場だ。
この手記には二人と思しき記述と、この二人が成したきっかけと思われる様な記述がある。
本当に二人のことなのかどうかも判断すらできないものの、それが理由で手記の内容が嘘だとか怪しいとか思う人間ばかりの中、この国では「もしかしたら、そうだったのかもしれない」と思わせるのだ。
それならば、二人が幼い頃から戦っていた理由にもなりそうだ、と。
そう、だからこれが発見されてからこの国では、さまざまな憶測と議論を呼んでいる。
彼らと思しき人物が登場するそんな一節を、ここで紹介しておこう。
セーリオと彼の双子の弟であるカムヴィは、自分達が愛おしいと思った少年にただ幸せになって欲しいと思っていた。
だからこそ、『はたして、あのただのバカ真面目な王子に自分たちの可愛い少年を任せて良いものか。あの子は幸せになれるのだろうか?あの男にそれができるのか?』そう思ったのだ。
そしてこの双子は“ひらめいた”。
──────そうだ。わからないのならそれができるか見てみるしかない!
──────ダメだったら、自分たちが保護して悲しみを取り除いてあげよう。
──────やるしかないな。やるぞ兄弟。
──────もちろん、やるしかないな、兄弟。
そう思い至り、神託をおろしたのだという。
今までは『一応自分たちを敬う国のことを考えて』神託をおろしていたが、今回は他の何も考えず、それだけを考えて神託をおろしたのだと、双子は得意げに語ってくれた。
もっと得意げに語ったのは、その思いが強すぎて自分たちの小さな分身というべきか、自分たちから生まれた精霊を思わず彼につけてしまったのだと言う事。
彼を慈しみ守り支えるようにと、それぞれの分身をつけたという。
なんて素晴らしい事をしたのかと、それは得意げに話してくれた。自分たちはなんて頭がいいんだろう、なんて。
ともかく、神託の結果それはいい方に行ったが、ぼくはやはり精霊はどこかずれているとあたらめて感じている。
精霊は人の考えや、理、そして常識をよく分かっていないし。そもそも、分かろうともしない。
そう、彼ら精霊は人の常識も何もかも、理解しようとしないのだ。
だから精霊は、人の感覚では図りかねる行動を『可愛いと思う人のため』になると思い実行しては『可愛い人を困らせる』のだ。
人間界の都合なんてお構いなしで行動するから、おかげで人間は大いに困り右往左往する。
彼ら精霊にとって『可愛い人が幸せになれば良い。そのためにそれ以外の人間が頑張るのは当然』という思考があるとぼくは思っている。
なんて思考だ。人間の身になってほしい。
でも彼らはそれを変えないだろう。だって、それが自分たちの愛しい人を前にした彼らの常識なのだから。
それでも彼ら双子の大精霊のためにも書いておきたい。
セーリオと彼の弟カムヴィが、この少年を心底慈しみ愛していたのは事実である。
なぜなら、二人がぼくに、言ったからだ。
──────自分たちは、彼を愛している。だから彼が愛した国を、そして彼を愛し守り抜いたただのバカ真面目な王子に敬意を評して、これからもこの国を守ってやる。
そう言って、偉そうに胸を逸らし、彼らは幸せそうにぼくに言ったから、ぼくもそれを信じようと思う。
全くもって眉唾の、非常に胡散臭い手記だ。
そもそも、この手記がどこから出てきたのかも実のところ分かっていない。
しかしけれども、なぜだかこの国の歴史を紐解くとどこからともなくこれは必ず登場する。
謀ったようにこの手記は登場し、もっと先の世のトリベール国では伝説のような真実として語られるのだろう。
ただ、一つの事実は正しく真実として最後に書き示しておこうと思う。
これだけは事実だと、どうか覚えていてほしい。
カムヴィの試練を乗り越え、セーリオからの祝福を得た二人が生涯、幸せであったと。
思い出していたロドルフにステファニーの穏やかな声が問いかける。
「ああ。もうすっかり周知の事実だな。彼女の暴走にカナメがどうしたらいいんだと慌てふためき……まあ幼い頃と違いしっかり外見を繕う術を身につけたがためにそんなふうには見えないが……だからこそ、なんとも可哀想になる。リンドマン侯爵もカナメが可哀想なくらいに謝っておった……娘が本当に申し訳ないことをしていると」
「父と同じほどの歳の男性に会えば必ず『うちの娘が本当に申し訳ないことを』と言われていますから…その上あれ程深く頭を下げられて……。可哀想に、カナメはこの調子ではずっと困惑続きですわね……」
「ある種の負の連鎖だろう。暴走気味のシェシュティエンに謝る侯爵、困惑したカナメにまた暴走するシェシュティエン……うむ。連鎖しておる」
二人は顔を見合わせて、負の連鎖と言って笑う。
本当にカナメが可哀想だと思っているのか、さあ、どうなのだろうか。
「そのシェシュティン、『頭が良くて可愛くてかっこいい子供をたくさん産みますから!』と言い出して……リンドマン侯爵がまた小さくなって……」
「令嬢がそのような発言。はて……いいのだろうか」
ステファニーの顔色を伺うと、困った顔で笑うだけ。きっと自制しなさいとは言っているのだろう。
「そうなったら、ここも賑やかになりましょうね。あの子、『五人もいればきっとマチアス殿下がこの子だって思う王子が見つかると思うのです。それにマチアス殿下にカナメ様、そしてエティとわたし、四人の親が育てるんですよ!きっと世界中が驚くほど素敵な子になります』って今から張り切っていて。正直、わたくしも何から注意すれば良いのか……」
しかしこう言いながらも困った顔で笑う程度なのだ。
母としてシェシュティンの気持ちが嬉しく感じ、淑女であれだのなんだのという話よりも先にその気持ちが先に立つのかもしれない。
彼女だってこの件でどれほど気を揉んだだろう。想像に硬い。
「ステフ、そなたの優しさ、そして包容力、大きな愛情に心から感謝している」
「まあ!それは全て、ロルフが私を大切にしてくれるからよ!」
試練が乗り越えられたのかどうかは、ロドルフにも判断がつかない。
ただ分かるのは今のところは何も問題がなさそうだ。ということだけ。
しかしこの二人ならば大丈夫だろうと彼は感じる。
死が二人を分かつ時まできっと、この二人ははお互いを伴侶とし慈しみ合うだろうと、今ならそんな二人を簡単に想像できた。
ああなんと、幸せな未来が待っているのだろう。
きっと二人は、大丈夫だ。
そう思うとロドルフの胸がなんともジンとする。
「ここが賑やかに……か。これはさっさと退位して、孫を可愛がるという隠居生活も悪くなさそうだ」
「それはいけませんわ。マチアスとカナメには今度こそゆっくり王へ至る道を歩かせてやりたいですし、なによりあなたにはまだまだ王座がお似合いですよ」
「そうか?しかし、可愛い孫に囲まれただのじいさんをするのも、楽しそうなんだかなあ」
「なりませんよ、わたくしが許しませんわ!あんまりにそんなこと言うのでしたら、わたくしが女王になりましてよ?」
ステフならできそういかんな。そう言って大笑いするロドルフは、溢れそうになった涙を指で弾く。
スタファニーは「本当にもう、あなたは笑いすぎですわ!」と軽く流してロドルフの手を取って「執務に戻らないと、そろそろ怒られますわね」とロドルフを引っ張るように歩き出す。
その背中にロドルフはまた笑い、彼女の優しさにありがとうと小さく呟いた。
そのロドルフの背中には、カナメがなにやら、マチアスに言い募っている声が当たる。
きっとマチアスがまた真面目なあまり何か余計な言葉を言ったのだろう。カナメの声は随分と拗ねている。
やはりロドルフは思う。
死した後、神に会うことができたのならば、きっと子憎たらしい顔をしているだろう神の眼前にたって「うちの息子をみくびらないでいただきたいものですね!」と文句の一つでも言ってやろうと。
できるのなら一発くらい叩いてもいいのではないか、とまで彼は思っていた。
彼が亡くなったその後、人の知らぬ世界で神と相対することができたのか、そしてそれが叶ったかどうかは誰にも分からない。
しかし彼は最後まで「神に一言物申してやる」と言っていたから、マチアスはエティエンヌの子供達に「執念で叶えたのではないかと思う。執念というのはすごいものだからな……」と言っていたそうだ。
さて、本当の最後に。
のちの世で、とても怪しい手記が見つかった話をしておこう。
それはトリベールへ旅行へ来たという青年が残した、手記だ。
彼の手記には精霊に関わる事が多く書かれており興味をそそられるものの、しかしそのどれもが怪しく信じ難いために精霊研究をしている学者たちのほとんどが「怪しい」と架空の物語──────書き手の青年の妄想だろうとしか捉えないものである。
だがこの手記には後の世で『賢王マチアス』と『六華の王妃カナメ』と呼ばれた二人に関していると思われる記述がある。
そのため他の国ではただ怪しいだけの手記が、この二人と思しき人物が出てきたという一点だけでこの国では「もしかして真実なのでは?」と事情が変わってしまう、そんな手記だ。
後の世でも語られているように、マチアスとカナメは貴族界に蔓延っていた不健全な不文律をひっくり返し、長年の努力によりそれを健全なものにすべく奔走したという事実がはっきりと残されている。
──────今までもそれを成そうとしていた人間はいたのに、どうしてか成せなかった。しかし、この二人は幼い頃からこれを解決しようと奮闘し、そして人の助けを借りながらもこれを成した。
時間が経てば経つほど、二人が「どうしてそうしたのか」について、この国の歴史研究者たちは首を傾げ不思議がった。なにせどこにも、『どうして二人はそれを成そうとしたのか』これに関する事柄が公の文章として残っていないのだ。
同性婚をしたからこそではないか。など色々と、事実から考えうることで議論も行われるのだが、なにせ国王はあの賢王マチアスである。
いくら「誰よりも愛している」と公言して憚らなかったカナメが王妃であっても「賢王ならば慣例どおり側妃を娶ったのでは?」なんて意見も出てくるために、最終的には「どうしてだろうか」と元に戻る。
──────なぜ、二人は生涯かけてまでこの問題とこれほど向き合ったのだろうか。
そこでこの手記の登場だ。
この手記には二人と思しき記述と、この二人が成したきっかけと思われる様な記述がある。
本当に二人のことなのかどうかも判断すらできないものの、それが理由で手記の内容が嘘だとか怪しいとか思う人間ばかりの中、この国では「もしかしたら、そうだったのかもしれない」と思わせるのだ。
それならば、二人が幼い頃から戦っていた理由にもなりそうだ、と。
そう、だからこれが発見されてからこの国では、さまざまな憶測と議論を呼んでいる。
彼らと思しき人物が登場するそんな一節を、ここで紹介しておこう。
セーリオと彼の双子の弟であるカムヴィは、自分達が愛おしいと思った少年にただ幸せになって欲しいと思っていた。
だからこそ、『はたして、あのただのバカ真面目な王子に自分たちの可愛い少年を任せて良いものか。あの子は幸せになれるのだろうか?あの男にそれができるのか?』そう思ったのだ。
そしてこの双子は“ひらめいた”。
──────そうだ。わからないのならそれができるか見てみるしかない!
──────ダメだったら、自分たちが保護して悲しみを取り除いてあげよう。
──────やるしかないな。やるぞ兄弟。
──────もちろん、やるしかないな、兄弟。
そう思い至り、神託をおろしたのだという。
今までは『一応自分たちを敬う国のことを考えて』神託をおろしていたが、今回は他の何も考えず、それだけを考えて神託をおろしたのだと、双子は得意げに語ってくれた。
もっと得意げに語ったのは、その思いが強すぎて自分たちの小さな分身というべきか、自分たちから生まれた精霊を思わず彼につけてしまったのだと言う事。
彼を慈しみ守り支えるようにと、それぞれの分身をつけたという。
なんて素晴らしい事をしたのかと、それは得意げに話してくれた。自分たちはなんて頭がいいんだろう、なんて。
ともかく、神託の結果それはいい方に行ったが、ぼくはやはり精霊はどこかずれているとあたらめて感じている。
精霊は人の考えや、理、そして常識をよく分かっていないし。そもそも、分かろうともしない。
そう、彼ら精霊は人の常識も何もかも、理解しようとしないのだ。
だから精霊は、人の感覚では図りかねる行動を『可愛いと思う人のため』になると思い実行しては『可愛い人を困らせる』のだ。
人間界の都合なんてお構いなしで行動するから、おかげで人間は大いに困り右往左往する。
彼ら精霊にとって『可愛い人が幸せになれば良い。そのためにそれ以外の人間が頑張るのは当然』という思考があるとぼくは思っている。
なんて思考だ。人間の身になってほしい。
でも彼らはそれを変えないだろう。だって、それが自分たちの愛しい人を前にした彼らの常識なのだから。
それでも彼ら双子の大精霊のためにも書いておきたい。
セーリオと彼の弟カムヴィが、この少年を心底慈しみ愛していたのは事実である。
なぜなら、二人がぼくに、言ったからだ。
──────自分たちは、彼を愛している。だから彼が愛した国を、そして彼を愛し守り抜いたただのバカ真面目な王子に敬意を評して、これからもこの国を守ってやる。
そう言って、偉そうに胸を逸らし、彼らは幸せそうにぼくに言ったから、ぼくもそれを信じようと思う。
全くもって眉唾の、非常に胡散臭い手記だ。
そもそも、この手記がどこから出てきたのかも実のところ分かっていない。
しかしけれども、なぜだかこの国の歴史を紐解くとどこからともなくこれは必ず登場する。
謀ったようにこの手記は登場し、もっと先の世のトリベール国では伝説のような真実として語られるのだろう。
ただ、一つの事実は正しく真実として最後に書き示しておこうと思う。
これだけは事実だと、どうか覚えていてほしい。
カムヴィの試練を乗り越え、セーリオからの祝福を得た二人が生涯、幸せであったと。
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