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本編

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カナメは自分が契約精霊を使役するつもりがない事と、今の状態でも特段困っているわけでもないから、この件についてはどうでもいいと言えるくらいの感覚である。
それはもちろん、知る事が出来たのならそれはそれでいいのかもしれないけれど、今までこの件に関して誰も何も言わなかったから、カナメは気にもしていなかった。
カナメがちょっと困ったなと思えば手を貸してくれるし、何かにつけて勝手にやってくれる。
この状態で「じゃあ契約しているらしい精霊を使ってみようかな」と思うほど、カナメはで自分の身に危険が及んでいなかった。
及んでいたとしても、護衛の騎士や従者のアーネが何かと手を回してくれるし、何よりマチアスとサシャがカナメの身に危険が及ぶような状態にするはずもない。
契約している精霊に不満があるとかそう言う事ではなく、ただただ
(本当に精霊魔法が使いたいとか状況に駆られたら、他の精霊を召喚して契約すればいいような?)
なんてこの事に関しては結構楽観的に考えていたのである。

対してマチアスはカナメだけでいいと、側妃持つ必要がない──────カナメ以上の能力がなければ側妃にはなれないと大義名分に掲げられるものになればと、考えていた。
この国では精霊魔法と魔術魔法の両方を使えるものは天才と言われており、尚且つカナメの優秀さは彼に教育を施す王宮の講師たちの評価で十分だろう。
魔法と学術、彼以上のものがなければ側妃として存在する意味があるのかと、我こそはと手を上げるものに突きつけたいのだ。マチアスが。
子を成すためだけだとしても、の際は王妃の代わりに公務をしなければいけない。カナメと同じだけのことが、カナメ以上のものが、お前にできるのかと突きつけたじろぎでもすればそれを口実に突っぱねてやりたいのである。
今から側妃にとなれば、カナメ自身が勝手に進めているあの空恐ろしいと言われるペースと同じペースでさまざまなことを頭に詰め込まなければいけないだろう。
その時きっと講師陣はだろうし、王と王妃には自分たちの考えを伝えるだろう。
今の王妃がもっと時間をかけていいとカナメに言っているのは、彼女がそのペースで飲み込んでいったからだ。
彼ら講師陣はカナメの進み具合とその勢いが空恐ろしいと言いながら、もし側妃が生まれようとしたらきっと、彼らはカナメと比べる。そして思うだろう。
子を成すことが第一にあったとしてもカナメ様に比べてでは……なんて。
それだけカナメの教育のペースはおかしいけれど、それを恐ろしいと言いながらそれでも彼らは比べるのだ。あのカナメが王妃ならば、側妃もそれに近しい能力があって然るべきではないか、と。
もし、教育のペースがおかしい優秀なカナメが、高位精霊と二体契約しているのであれば側妃として求められるレベルがもっともっと上がるだろう。
それにあんなに好き勝手する精霊が高位精霊であるのなら、それだけでになるかもしれない。
今まではカナメの優秀さだけで押し通してみようと思ったけれど、もし高位精霊であるのならそれも強みになるはずだ。

カナメだけでいいのだと、これからの時代の王──────つまり彼の理想とする王の姿で、周りを納得させるにはどうしたらいいのかと悩み考えるマチアスは、彼が思うよりももっと焦慮している。



そうしてノアがカナメの精霊に力を借りて試した結果、カナメの精霊はやはり二体いること、高位精霊である可能性が限りなく高い事、そして属性はであるが雷の属性も使えること。が判明した。

「なんだか高位精霊の底知れない感じがするのに、中位精霊の力しかなくって……どこか違和感が強かったかんじ。もしかしたらぼくに力を貸したくなくてとか?そんな気持ちがあったら借りられないと思うから、うーん、それかぼくがお願いした精霊が気後れしていたのかな?一応ぼく、全属性みんなの中から、高位の子たちにお願いしたんだけど……うーん、警戒心が強いとか?」
「精霊って気後れと、警戒心とかあるの?」
「精霊同士何か思うところがあったりするのかもしれないけど……そういうのって研究する人がいないんだ。調べようがないし。ぼくが今、研究したいってお願いしたらマチアス殿下に怒られそうだから、この件はぼく、解決を諦めようと思う。今は、だけどね。今は!」

二人の話を横で聞いているアーロンは、眉間に皺を寄せたまま考え込んでいるマチアスを訝しげに見ている。
声をかけたいところだけれど、それも憚られる様子だ。
アーロンの横ではカナメがノアに「どうやって精霊魔法を使っていけばいいのか、契約してるけどしてないようなものだったからよく分からないままなんだ」と相談し、それに「属性は判明したから、それを使えばいいと思う。不安だったら魔法の練習した時もしたと思うけど、そういう感じでまずコップの水を氷にするとか、そう言う簡単なものを使ってみるとか?」とノアが答えている。
そのうち二人の会話が全く違うものに変わり始め、お互いの幼少期に流行ったものを話題にし始めたところで、難しい顔をして黙っていたマチアスがようやく口を開けた。

「実は、この国が神としている大精霊は知っていると思う。実は王族はその大精霊と双子の大精霊を神としているんだ」
王族だけ、という部分に同じ王族のアーロンは興味深そうに聞く体制だ。
「で、国としては大精霊セーリオ、そして王族は大精霊カムヴィも神としている」
「セーリオは『氷と風』カムヴィは『雷』をこの世界にもたらしたと大精霊ですね」
「さすがノア殿。で、これが偶然とは、俺には思えないんだ。俺はこう言うことを、自分の都合のいいように紐づけて考えていくのが大嫌いでやるべきことではないと思っているのだが、どうしてもカナメの精霊と繋げてしまいそうなんだ」
自分の信念を曲げようとしていることに悔しさがあるのか、苦い顔のマチアスの視線が、カナメに向く。
とうのカナメは不思議そうな顔でその視線を受け取った。
その顔は「突然何を言い出したんだろう」とでも思っていそうだ。
「仮にそうであっても、偶然でも、実際はそうではなかったとしても、問題はないのではないですか?もちろん、であったりすれば大ごとですが」
『神の雫』というのは大精霊や精霊王から生まれ落ちた高位精霊のことで、よく言われる高位精霊とはまた少し違う立場にあると“人間界では”考えられている。
精霊界の基準を推し量ることは不可能なので、人間界としてはの基準であり、実際はどうであるのかも分かってはいないが、とにかく人の間ではそう考えられていた。
先のノアの言葉にマチアスは少し躊躇ってから、自分たちの置かれている状況を説明した。
試練を与えられていること、そしてそれはカムヴィからの神託であることを。
話すのはリスクがあるが、それでもマチアスには打ち明ける方のメリットが大きいと感じたのである。
打ち明けたマチアスに真っ先に答えたのは、アーロンであった。

「もし、仮に二柱の神の雫であっても、結局はマチアスが思う、考えているというか、信念を持って乗り越えたいものを乗り越えればいいと思うし、利用できるものは全て利用すればいいと思う。僕ならそうするよ。利用して守れるものがあったり乗り越えることができるのであれば、僕は迷わず利用する。簡単に言うなって思うかも知れないけれど。このことを理由に誰かを牽制する事で君が乗り越えられるものがあるのであれば、僕が協力しよう。父に連絡し判定できるものを呼んでもいい。ただ、精度が若干下がるとは思うけれど、そんなの誰も確認できないからね。うちの国の判定者ってだけで結構信頼されると思う。だから、お墨付きのようなものがあった方がいいのなら、やって損はしないと思うよ」
黙っているマチアスにアーロンはケロッとした顔で
「君が真面目なのは、これでも知っているつもりだけどね。でも、守りたいものや、乗り越えたいもののためなら、なんだって利用したら良いと思うよ。僕ならやっちゃう。多少汚くってもまあ良いかなって。だから、僕だろうが、ノアだろうが、それこそ精霊だったとしたって、利用すべきだと思う。君の周りには、君が思うよりももっと多く、利用してくれと言ってくれる味方がいることに気がつくべきだと思うな」
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