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番外編:本編完結後
★ 君と雨の日:後編
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怒鳴り声と体を打つ痛みにハッとした巽は目を開けた。
パチパチと何度も瞬いて辺りを見れば自分の家のベッドの下、だ。
そう、下。
ふるふると頭を振って背中が痛い事に
「くそダセェ。夢見て怒鳴って落ちるとか……格好悪すぎだろ、俺」
である。
少しの間、そのままぼうっとしていたが夢見と落ちた時の痛みにすっかり目が醒めてしまい、巽は体を伸ばしながらキッチンへ向かう。
階段を下りた時に膝の痛みにも気がつき、一体どんなふうに落ちたんだろうかと思う情けなさ。ここにカイトがいなくてよかったと安堵もした。
あんな夢を見て怒鳴りベッドから転がり落ちるなんて、巽は嘘でも言えない。
キッチンに入るとコーヒーメーカーに豆を入れ、機械任せにコーヒーを淹れる。
その間に顔を洗い歯を磨き、鏡で顔は打っていないかのチェックを済ませた。
顔の痛みはなかったが、万が一腫れていたりしたら
(情けねえどころじゃねーよ)
どこにも問題がない事を確認した所で、コーヒーメーカーが淹れ終えたと電子音を鳴らした。
コーヒーを飲みながら、タブレット端末でメールや仕事のチェックをしていた巽は手を止めた。
あの夢を思い出してだ。
「色っぽかったよなあ」
しみじみこんな事を言うなんて、とカイトだけではなくリトにだって白い目を向けられそうだけれど、夢の中の想像とは言え、夢の中の自分が怒鳴っただけはある姿だったカイト。
カイトは自分の容姿を、自分に起きた事だけではなく、姉や父、そして彼はもう何とも思っていないだろうが彼の母がカイトに向ける言葉でも理解していた。
そしてカイトは何より姉に心配をかけたくない、その気持ちで自分自身で出来うる限り気をつけているし不用意な行動は避けている。
今ではリトの夫であり義理の兄の俊哉、そして巽にも無駄な心配をかけないように気をつけている事も。
本人からすれば『見知らぬ男にも恋愛や性的な欲求をぶつけられる事実』を痴漢被害にあった事やストーカー被害で理解なんてしたくはなかっただろうけれど、お陰でカイトは自分がそう言う対象になりうる可能性がある事を正しく理解していた。
「でもなあ、あいつ、だからって雨の日にずぶ濡れでどうこうなんて、思ってねェだろォなあ。夢ン中みたいに、素直に解ったとは言いそうにねぇな」
その辺りはカイトが男だからこそ、まさかねと思っていそうな所で巽が心配する事だった。
だからこそ夢にまで出たのだろうけれど。
もし『こんな夢を見たんだ』と巽が言えば、リトや俊哉は笑って「バカね。わかってるわよ」とでも言うだろう。
しかし巽はリトとは違い、カイトは濡れて服が透けてどうのなんて考えもしないと思っていた。
理由はひとつ。カイトが男であるからだ。
様々な嫌な目にあっていたとしても、自覚をしていても、男の自分が濡れた所でどうなんだとそこらへんは緩く考えているのではないかと、巽は考えている。
「どーせ俺を笑うだろうリトだって、海であいつにパーカー着せっぱなしにする時に、何で、あんな問答無用でやらなきゃなんねえかって事をちっとは考えろってェの」
巽の中ではすっかり自分を笑うだろうと決まってしまっているリトは「日焼け防止よ」とかなんとか言ってカイトにパーカーを着せていたが、彼女は日に焼けない──焼けても赤くなって痛いだけなのである──カイトの白い肌と彼の見た目と雰囲気を鑑みると、さあ水着で海で遊び倒すぞなんて言えなかったのだ。
しかしカイトは暑いからとか当然の理由でやんわり断る。そしてリトはそのカイトの意見を問答無用で却下しカイトにパーカーを着せるハメになるのだ。
その時の言動は無意識で、彼女は意識もせずにカイト相手にはそれが当然であると思い、そうしている。
つまりは、カイトは自分の水着姿くらいなんだと思っていそうであるし、リトは無意識で未然に防ごうとしているために説明すら出来ない。
となると、この件に関して──実際にそう言う事が起きたら──説教するのは巽一人になるだろう。
「言えばきっと『もう、巽さんくらいだよ、そんな事思うの。きっとね』とか言って、俺が言うからじゃあ気をつけようくらいに思ってはくれるンだろうけど、そう言う奴がどこにいるか解らないから気をつけよう、ってなって欲しい俺としては、なあ……」
解らないからと言って気にし過ぎるのはどうだと言われそうだけれど、美人なカイトを好きすぎる巽はそれくらいして欲しいなと本気で思っている。
すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干して、見る気の失せたタブレット端末はテーブルの上に伏せて置く。
ソファにだらしなく横になって、ぼんやりと天井を眺めた。
「美人な彼氏を持つと、大変なもんだなア」
ずぶ濡れのカイトなんて見た事はないが、海で遊んだ時から想像すればやはり恋人の欲目があっても魅力的だ。
巽の意思は揺るがない。
誰にあきれ返った顔をされても、過剰なくらい心配して気を使うくらいが丁度いいくらいだと巽は本気で思っている。
今の巽はそんな男に変貌を遂げたのだ。
夢の中でカイトに──あんな夢とは言え──会えた巽は、唐突に、無性にカイトに会いたくなった。
会って誰かに見せつけるようにデートしても良いし、家で腕の中に閉じ込めて過ごしても良い。
どんな形でも良いから、カイトと過ごしたいと思った。
一度思うと止められない。巽はスマートフォンを操作し、会えないかとメッセージを送ろうとしたが、新着のメッセージがあるとアイコンが教えていて、それを確認した巽は嬉しそうな顔で電話をかける。
「──────よオ、カイト。こっちにくるって?」
電話の向こうのカイトは巽が起きている事に驚いた様子だ。
「たまには早起きくらいするンだよォ。そっちにいろよ。迎えに行くから。アァ?俺が行くって言ってンだから、カイトはそこで待ってりゃ良いんだよ。解ったな?は?買い物?迎えに行ってからでもいいだろ?車で行けば楽じゃねェか。俺が荷物持ってやるし。よし、今すぐ迎えに行くからな」
苦笑いした顔で「わかった、わかったよ」と言っている姿を思い浮かべた巽は了承を得て直ぐに電話を切り、カップを手早く片付けて着替えるべく足早に主寝室へ向かう。
適当に服を手にして身につけ、車のキーや財布をポケットに突っ込んだ。
車に乗りハンドルを握った巽は思い浮かんだ事に、なるほどそうか、と二度頷いた。
「雨降るかもっつー日は、俺が送り迎えすりゃ良いじゃねえか。ついでに、雨予報の日は白シャツ類は全面禁止。どんな手段を講じても、必ず頷かせてやる」
味方がいないなら、理不尽だと言われようとなんと思われようと、そうならないように自分が行動すれば良い。
自分が出来ない時は、代わりに誰か──誰かと言っても巽がカイト関係で“パシリ”にするのは金森という男一人だけれど──に行かせればいいと、そこまで決めた。
そして巽はこの日以降、雨の日はカイトを送り迎えする事になる。
この巽の送り迎えの意味を、カイトが理解し気をつけると言うまで誰がなんと言おうと巽はこれを続けた。
巽のこの行動の意味を理解した後、リトは雨を見るたび思い出しては呆れた溜息をつき、俊哉は雨を見るたび巽の行動は可愛かったと顔を綻ばせ、そしてカイトは過保護だけれど愛されてると少し嬉しそうにする。
彼らが巽の行動の意味を知り理解したのは先の事になるが、その時が来ても、その先も、なぜ巽がこんな事を始めたのか、その切っ掛けを彼が言う事は決してなかった。
真実は全て夢の中である。
パチパチと何度も瞬いて辺りを見れば自分の家のベッドの下、だ。
そう、下。
ふるふると頭を振って背中が痛い事に
「くそダセェ。夢見て怒鳴って落ちるとか……格好悪すぎだろ、俺」
である。
少しの間、そのままぼうっとしていたが夢見と落ちた時の痛みにすっかり目が醒めてしまい、巽は体を伸ばしながらキッチンへ向かう。
階段を下りた時に膝の痛みにも気がつき、一体どんなふうに落ちたんだろうかと思う情けなさ。ここにカイトがいなくてよかったと安堵もした。
あんな夢を見て怒鳴りベッドから転がり落ちるなんて、巽は嘘でも言えない。
キッチンに入るとコーヒーメーカーに豆を入れ、機械任せにコーヒーを淹れる。
その間に顔を洗い歯を磨き、鏡で顔は打っていないかのチェックを済ませた。
顔の痛みはなかったが、万が一腫れていたりしたら
(情けねえどころじゃねーよ)
どこにも問題がない事を確認した所で、コーヒーメーカーが淹れ終えたと電子音を鳴らした。
コーヒーを飲みながら、タブレット端末でメールや仕事のチェックをしていた巽は手を止めた。
あの夢を思い出してだ。
「色っぽかったよなあ」
しみじみこんな事を言うなんて、とカイトだけではなくリトにだって白い目を向けられそうだけれど、夢の中の想像とは言え、夢の中の自分が怒鳴っただけはある姿だったカイト。
カイトは自分の容姿を、自分に起きた事だけではなく、姉や父、そして彼はもう何とも思っていないだろうが彼の母がカイトに向ける言葉でも理解していた。
そしてカイトは何より姉に心配をかけたくない、その気持ちで自分自身で出来うる限り気をつけているし不用意な行動は避けている。
今ではリトの夫であり義理の兄の俊哉、そして巽にも無駄な心配をかけないように気をつけている事も。
本人からすれば『見知らぬ男にも恋愛や性的な欲求をぶつけられる事実』を痴漢被害にあった事やストーカー被害で理解なんてしたくはなかっただろうけれど、お陰でカイトは自分がそう言う対象になりうる可能性がある事を正しく理解していた。
「でもなあ、あいつ、だからって雨の日にずぶ濡れでどうこうなんて、思ってねェだろォなあ。夢ン中みたいに、素直に解ったとは言いそうにねぇな」
その辺りはカイトが男だからこそ、まさかねと思っていそうな所で巽が心配する事だった。
だからこそ夢にまで出たのだろうけれど。
もし『こんな夢を見たんだ』と巽が言えば、リトや俊哉は笑って「バカね。わかってるわよ」とでも言うだろう。
しかし巽はリトとは違い、カイトは濡れて服が透けてどうのなんて考えもしないと思っていた。
理由はひとつ。カイトが男であるからだ。
様々な嫌な目にあっていたとしても、自覚をしていても、男の自分が濡れた所でどうなんだとそこらへんは緩く考えているのではないかと、巽は考えている。
「どーせ俺を笑うだろうリトだって、海であいつにパーカー着せっぱなしにする時に、何で、あんな問答無用でやらなきゃなんねえかって事をちっとは考えろってェの」
巽の中ではすっかり自分を笑うだろうと決まってしまっているリトは「日焼け防止よ」とかなんとか言ってカイトにパーカーを着せていたが、彼女は日に焼けない──焼けても赤くなって痛いだけなのである──カイトの白い肌と彼の見た目と雰囲気を鑑みると、さあ水着で海で遊び倒すぞなんて言えなかったのだ。
しかしカイトは暑いからとか当然の理由でやんわり断る。そしてリトはそのカイトの意見を問答無用で却下しカイトにパーカーを着せるハメになるのだ。
その時の言動は無意識で、彼女は意識もせずにカイト相手にはそれが当然であると思い、そうしている。
つまりは、カイトは自分の水着姿くらいなんだと思っていそうであるし、リトは無意識で未然に防ごうとしているために説明すら出来ない。
となると、この件に関して──実際にそう言う事が起きたら──説教するのは巽一人になるだろう。
「言えばきっと『もう、巽さんくらいだよ、そんな事思うの。きっとね』とか言って、俺が言うからじゃあ気をつけようくらいに思ってはくれるンだろうけど、そう言う奴がどこにいるか解らないから気をつけよう、ってなって欲しい俺としては、なあ……」
解らないからと言って気にし過ぎるのはどうだと言われそうだけれど、美人なカイトを好きすぎる巽はそれくらいして欲しいなと本気で思っている。
すっかり冷めてしまったコーヒーを一気に飲み干して、見る気の失せたタブレット端末はテーブルの上に伏せて置く。
ソファにだらしなく横になって、ぼんやりと天井を眺めた。
「美人な彼氏を持つと、大変なもんだなア」
ずぶ濡れのカイトなんて見た事はないが、海で遊んだ時から想像すればやはり恋人の欲目があっても魅力的だ。
巽の意思は揺るがない。
誰にあきれ返った顔をされても、過剰なくらい心配して気を使うくらいが丁度いいくらいだと巽は本気で思っている。
今の巽はそんな男に変貌を遂げたのだ。
夢の中でカイトに──あんな夢とは言え──会えた巽は、唐突に、無性にカイトに会いたくなった。
会って誰かに見せつけるようにデートしても良いし、家で腕の中に閉じ込めて過ごしても良い。
どんな形でも良いから、カイトと過ごしたいと思った。
一度思うと止められない。巽はスマートフォンを操作し、会えないかとメッセージを送ろうとしたが、新着のメッセージがあるとアイコンが教えていて、それを確認した巽は嬉しそうな顔で電話をかける。
「──────よオ、カイト。こっちにくるって?」
電話の向こうのカイトは巽が起きている事に驚いた様子だ。
「たまには早起きくらいするンだよォ。そっちにいろよ。迎えに行くから。アァ?俺が行くって言ってンだから、カイトはそこで待ってりゃ良いんだよ。解ったな?は?買い物?迎えに行ってからでもいいだろ?車で行けば楽じゃねェか。俺が荷物持ってやるし。よし、今すぐ迎えに行くからな」
苦笑いした顔で「わかった、わかったよ」と言っている姿を思い浮かべた巽は了承を得て直ぐに電話を切り、カップを手早く片付けて着替えるべく足早に主寝室へ向かう。
適当に服を手にして身につけ、車のキーや財布をポケットに突っ込んだ。
車に乗りハンドルを握った巽は思い浮かんだ事に、なるほどそうか、と二度頷いた。
「雨降るかもっつー日は、俺が送り迎えすりゃ良いじゃねえか。ついでに、雨予報の日は白シャツ類は全面禁止。どんな手段を講じても、必ず頷かせてやる」
味方がいないなら、理不尽だと言われようとなんと思われようと、そうならないように自分が行動すれば良い。
自分が出来ない時は、代わりに誰か──誰かと言っても巽がカイト関係で“パシリ”にするのは金森という男一人だけれど──に行かせればいいと、そこまで決めた。
そして巽はこの日以降、雨の日はカイトを送り迎えする事になる。
この巽の送り迎えの意味を、カイトが理解し気をつけると言うまで誰がなんと言おうと巽はこれを続けた。
巽のこの行動の意味を理解した後、リトは雨を見るたび思い出しては呆れた溜息をつき、俊哉は雨を見るたび巽の行動は可愛かったと顔を綻ばせ、そしてカイトは過保護だけれど愛されてると少し嬉しそうにする。
彼らが巽の行動の意味を知り理解したのは先の事になるが、その時が来ても、その先も、なぜ巽がこんな事を始めたのか、その切っ掛けを彼が言う事は決してなかった。
真実は全て夢の中である。
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