Tally marks

あこ

文字の大きさ
上 下
4 / 39
本編

04

しおりを挟む
授業が終わったカイトは素直に帰路につく。
帰宅部だから学校に残ってる必要がない。
相談したいと言われたらがいれば付き合うし、カイトだって放課後友人と話をしたり“寄り道”もするけれど、このところはそれも断っている。
心配性なリトと俊哉が暫く自分たちと暮らす事を提案し、二人を大切に思うカイトはそれを受け入れ共に暮らしていた。遅く帰っても文句は言われないけれど、心配性な二人を思うと用事がない放課後は早く帰り、花屋の倉庫に顔を出し、俊哉と少し話して帰るというルーティンになった。

「カイト」

にカイトは立ち止まる。
校門を出て左、大きな公園に差し掛かったところだった。
「藤春さん、何か?」
首を傾げるとさらさらと黒髪が流れる。痛んでいない髪の毛が光を湛えて美しい。
金色に染めた自分の髪の色とよく比較された、と巽は思う。
「何か?じゃねぇ。俺は認めてねぇぞ。お前はまだ、俺のものだ」
「俺は、物ではないです。強いて言うなら、自分のものです」
淡々と言われて巽はイラつく自分を抑え込む。何せ巽の中ではまだ別れていない。ならばまだ恋人だ。恋人には優しくしたいからイライラとして爆発はなるべく避けたい。
それに彼がいくらバイセクシャルとはいえ、公園で大声をだしてのなんてしたい事ではないから。
「藤春さん、考え違いを、していませんか?」
しっかりと二人の間に時間が過ぎてからカイトは言う。
「考え違い?」
眉間にしわを寄せた巽が言えばカイトはこくりと頷いて、少し間が空いてからまた口を開く。
「俺にも俺の、価値観や考えがあって、従順ではないんです」
まっすぐ目を見て言われてから巽はごくんと唾を飲んだ。
リトと歩いてるカイトを見つけ存在を知り知り合いになって、カイトの独特の間を巽はに見えると思いそれを伝えた事があった。その時カイトは従順ではないんだと言い、自分の価値観も考えもこれでもあるのだと伝えている。それはその後友人になり恋人になり付き合う中で理解をした。確かに、それが仮にカイト以外の人間が理解するかどうかは別としても、カイトには自己主張もあり考えもあったし、従順ではなかった。
キスをしたいと思えばしたいと言って、セックスしたいと言っても今日は無理だと言われた事もある。年上の巽がカイトの友人に嫉妬した時はちゃんと真摯に話をし、その上で彼は自分の考えを話し伝え、二人で納得した。
だけれど巽は浮気に関して、いつも同じように別れなくて済んだから
(たしかに、俺は、考え違いをしたのかもしれねぇ)
それでも巽は諦められない。
だからカイトが背を向けた時、その腕をつかんだ。
掴まれた腕をじっとみた立ち止まるしかなかったカイトがゆるゆる、とまた巽と向き合う。
「どうして、別れないんですか?」
「納得してねぇからだ」
「だって、約束をしたはずです。五回まで。俺はもう、藤春さんは姉や兄との知り合いとしか思えません。セックスはもちろんキスだって、気持ち悪くて出来ません」
「なんだって」
「だって、それはとするコトだから」
無理、と視線がぶつかった上で言われた言葉に巽の手が緩む。カイトはこれ幸いと礼儀として頭を下げて未来の兄(俊哉)がいる花屋に向かった。
背中を見つめるしか出来ない巽は今ようやく解ったのだ。
もはや自分はのだ、と。
取り繕う余地さえなくなった事も。

「四回までは許したじゃねぇか」

言っても無駄だと解っても言ってしまう。
それほど四回目までのカイトはくれたからだ。別れてほしい、自分だけ見て、と。
ただこの姿を見ると縋っていたのはどちらなのだろうかと思うだろう。
「ははは、はは、くそ、俺はこんなに、カイトが好きだったって?ふざけんなよ。あり得ねぇ」
二回目の浮気を認められた時、カイトはわんわんと泣いた。
ゆったり考えて口に出すカイトが、わんわんと泣いて他の人なんて見ないで、俺だけにして、別れてよ、と泣きじゃくった。
カイトはゆったり考えてから話すから、感情の起伏が少ないと思われるかもしれないが、その実感情の起伏もそれが表に出るのもしっかりとある。だから泣きじゃくる事だって、息が出来ないほどに笑う事もあったし、不機嫌そうな顔になる事もあった。それを誰に対してもするかどうかは別としても、確かにカイトはそうして感情の起伏がしっかりとある。
だから巽はあんな風に告げられて“ニュースの一つ”と言われた事を実感した。
ずるずるとそばのベンチに腰掛けてタバコを取り出す。
けれども火をつける力がどうして、持てなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

国王の嫁って意外と面倒ですね。

榎本 ぬこ
BL
 一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。  愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。  他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。

偽物の僕は本物にはなれない。

15
BL
「僕は君を好きだけど、君は僕じゃない人が好きなんだね」 ネガティブ主人公。最後は分岐ルート有りのハピエン。

僕は君になりたかった

15
BL
僕はあの人が好きな君に、なりたかった。 一応完結済み。 根暗な子がもだもだしてるだけです。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

王子のこと大好きでした。僕が居なくてもこの国の平和、守ってくださいますよね?

人生1919回血迷った人
BL
Ωにしか見えない一途な‪α‬が婚約破棄され失恋する話。聖女となり、国を豊かにする為に一人苦しみと戦ってきた彼は性格の悪さを理由に婚約破棄を言い渡される。しかしそれは歴代最年少で聖女になった弊害で仕方のないことだった。 ・五話完結予定です。 ※オメガバースで‪α‬が受けっぽいです。

【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます

夏ノ宮萄玄
BL
 オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。  ――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。  懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。  義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。

処理中です...