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番外編
掌の行方:後編
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「なら、私も一緒に選ぼうか」
子供が苦手──どう接して良いか全く見当がつかないのだ──な兵馬にもおかまい無しに「わかさま」と笑顔を向ける純粋な千代は、兵馬がぎこちなく相手をするだけで至極喜ぶ。
そんな姿を何度も見れば兵馬も下手なりに可愛がろうと思うわけで、だから兵馬はこうして提案しゆづかはそれにはにかんだ顔でこくんと頷く。
最近漸く、こういう“普段良く見るゆづか”以外の顔を兵馬は見れる様になった気がしていた。それだけ剥がせているのだ、と思うとなかなかどうしてもっともっとと欲が深くなる。
昔の兵馬ならまた違う事を思うだろうけれど、今の兵馬はそんな事も楽しくて仕方が無い様だ。
「そういえば、ゆづか。髪の結い方を変える気はないのかい?」
「え?」
「もったいじゃないか。もっと可愛い物ならいくらだってあるのに。ゆづかの歳の頃ならもっと色々と」
お香もだが兵馬も「もっと可愛らしい着物にしたら良いのに」とか大振りの飾りを選んだりしてゆづかを甘く困らせる。可愛い物は可愛い、綺麗な物は綺麗、という感覚をゆづかはしっかり持っているのに、ゆづかはその感覚で今も自分の物を選んだりしない。なんとなく、地味で個性的ではない、そういう物の方をゆづかは選ぶ。
それが今の自分を──────女としか生きられないように育てられた所為かもしれない。
しかし最近少しだけ、気持ちが違ってしまうからゆづかは困るのだ。困るだけだから強引にも思える勢いで渡されても、ゆづかはそれを身に着ける事が出来てしまう。
ゆづかがどう思うかは定かではないが、ゆづかはそんな自分も困惑しつつ受け入れようとしていた。
「困らせてしまったね──────うん、そうだね、お前が困るのは嫌だから、今度また、ゆづかが『うん』と言ってくれる様な何かを探しに行こうか」
「ぁ……兵馬様、私」
「あぁ、そんな顔をしないでおくれ?ほら、ゆづかが嫌じゃなくて、私がお前に着けて欲しい物。そうやって選ぶくらいは許してくれるだろう?」
口を閉じてしまったゆづかに兵馬は
(もっと強引にしてやる方が良い物なのか……この部分が今も難しい物だねえ。ああして困られると決意が鈍る自分が一番の問題なのだけれど……)
なんて独り言ちて、隣で自分へ視線を向けるゆづかの頭をゆるゆると撫でる。
ここでおしまいにして先に言った様に千代紙を選ぼうと思うのに兵馬の手は千代紙に移らず、結局頭からその細い肩に移動した手で自分の方へ引き寄せた。
体にもたれる様にして、肩よりちょっと下あたりにゆづかの頭が申し訳なさそうに当たる。遠慮されてると思うそれすら兵馬は愛おしい。
いつか──────仮に何年かかっても、ゆづかからこうした触れ合いを求められたいと兵馬は欲が出てきている。
「ゆづか、今度はこんな柄の飾りを買おうか。それかこちらの柄みたいな生地の鼻緒が付いた、のめりの下駄でも良いね。これならゆづかの好きそうな色合いだろう?」
兵馬が手を伸ばし、文机から取った千代紙をゆづかの前に数枚並べて指で示す。
男の指だが若旦那らしいと言うのか、どこか細いその指の影が真っ直ぐ愛らしい柄の千代紙に落ち、ゆづかの視線はその指から兵馬の横顔に移った。
「兵馬様、私の物の話ではなくて、千代ちゃんにあげる千代紙を選ぶって言って下さったのに」
ゆづかの稍困惑気味の声に、肩に置いた兵馬の手がピクリと少しだけ力がこもる。そして見上げた横顔はどこか困った様子だ。
(兵馬様が、なんだか珍しい表情……。でもこの肩を抱く手を今しばらく、千代紙の上ではなくてここに置いたままにして欲しいなんて、私……)
そう思ったゆづかはそっと兵馬の袂を握ってみせた。きゅっと、優しいけれどきちんと握っているのだと、自分の意思であるという事が分かってもらえる程度に。
それだけなのにゆづかは心にじんわりと、兵馬が自分へ向けてくれる好きだと言う気持ちが流れ込んでくる気がして、トクトクと心音が忙しくなる気がするから不思議だ。
「私はまだ不器用だから、お前とこうしているとどうして、お前に触れていたくなっていけないね。もう少しだけこうしたらきちんと選ぶから少しだけ、今しばらくはこのままでいさせておくれ」
だからそう言われたゆづかは頬を淡く桜色に染めて、小さく頷くだけで精一杯なのである。
子供が苦手──どう接して良いか全く見当がつかないのだ──な兵馬にもおかまい無しに「わかさま」と笑顔を向ける純粋な千代は、兵馬がぎこちなく相手をするだけで至極喜ぶ。
そんな姿を何度も見れば兵馬も下手なりに可愛がろうと思うわけで、だから兵馬はこうして提案しゆづかはそれにはにかんだ顔でこくんと頷く。
最近漸く、こういう“普段良く見るゆづか”以外の顔を兵馬は見れる様になった気がしていた。それだけ剥がせているのだ、と思うとなかなかどうしてもっともっとと欲が深くなる。
昔の兵馬ならまた違う事を思うだろうけれど、今の兵馬はそんな事も楽しくて仕方が無い様だ。
「そういえば、ゆづか。髪の結い方を変える気はないのかい?」
「え?」
「もったいじゃないか。もっと可愛い物ならいくらだってあるのに。ゆづかの歳の頃ならもっと色々と」
お香もだが兵馬も「もっと可愛らしい着物にしたら良いのに」とか大振りの飾りを選んだりしてゆづかを甘く困らせる。可愛い物は可愛い、綺麗な物は綺麗、という感覚をゆづかはしっかり持っているのに、ゆづかはその感覚で今も自分の物を選んだりしない。なんとなく、地味で個性的ではない、そういう物の方をゆづかは選ぶ。
それが今の自分を──────女としか生きられないように育てられた所為かもしれない。
しかし最近少しだけ、気持ちが違ってしまうからゆづかは困るのだ。困るだけだから強引にも思える勢いで渡されても、ゆづかはそれを身に着ける事が出来てしまう。
ゆづかがどう思うかは定かではないが、ゆづかはそんな自分も困惑しつつ受け入れようとしていた。
「困らせてしまったね──────うん、そうだね、お前が困るのは嫌だから、今度また、ゆづかが『うん』と言ってくれる様な何かを探しに行こうか」
「ぁ……兵馬様、私」
「あぁ、そんな顔をしないでおくれ?ほら、ゆづかが嫌じゃなくて、私がお前に着けて欲しい物。そうやって選ぶくらいは許してくれるだろう?」
口を閉じてしまったゆづかに兵馬は
(もっと強引にしてやる方が良い物なのか……この部分が今も難しい物だねえ。ああして困られると決意が鈍る自分が一番の問題なのだけれど……)
なんて独り言ちて、隣で自分へ視線を向けるゆづかの頭をゆるゆると撫でる。
ここでおしまいにして先に言った様に千代紙を選ぼうと思うのに兵馬の手は千代紙に移らず、結局頭からその細い肩に移動した手で自分の方へ引き寄せた。
体にもたれる様にして、肩よりちょっと下あたりにゆづかの頭が申し訳なさそうに当たる。遠慮されてると思うそれすら兵馬は愛おしい。
いつか──────仮に何年かかっても、ゆづかからこうした触れ合いを求められたいと兵馬は欲が出てきている。
「ゆづか、今度はこんな柄の飾りを買おうか。それかこちらの柄みたいな生地の鼻緒が付いた、のめりの下駄でも良いね。これならゆづかの好きそうな色合いだろう?」
兵馬が手を伸ばし、文机から取った千代紙をゆづかの前に数枚並べて指で示す。
男の指だが若旦那らしいと言うのか、どこか細いその指の影が真っ直ぐ愛らしい柄の千代紙に落ち、ゆづかの視線はその指から兵馬の横顔に移った。
「兵馬様、私の物の話ではなくて、千代ちゃんにあげる千代紙を選ぶって言って下さったのに」
ゆづかの稍困惑気味の声に、肩に置いた兵馬の手がピクリと少しだけ力がこもる。そして見上げた横顔はどこか困った様子だ。
(兵馬様が、なんだか珍しい表情……。でもこの肩を抱く手を今しばらく、千代紙の上ではなくてここに置いたままにして欲しいなんて、私……)
そう思ったゆづかはそっと兵馬の袂を握ってみせた。きゅっと、優しいけれどきちんと握っているのだと、自分の意思であるという事が分かってもらえる程度に。
それだけなのにゆづかは心にじんわりと、兵馬が自分へ向けてくれる好きだと言う気持ちが流れ込んでくる気がして、トクトクと心音が忙しくなる気がするから不思議だ。
「私はまだ不器用だから、お前とこうしているとどうして、お前に触れていたくなっていけないね。もう少しだけこうしたらきちんと選ぶから少しだけ、今しばらくはこのままでいさせておくれ」
だからそう言われたゆづかは頬を淡く桜色に染めて、小さく頷くだけで精一杯なのである。
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