彼者誰時に溺れる

あこ

文字の大きさ
上 下
19 / 19
★ 常闇に蕩ける

後編

しおりを挟む
「りゅうじさんがおれのこと、ぐっちゃぐっちゃにするから、また気絶しちゃったね」
「嬉しそうだな」
「ん。だって、俺にいっぱいくれるからうれしーもん」

俺専用にしたいのにな、とむくれて言うと龍二が笑う。
「でもいいよ。龍二さんは浮気者だからね。下半身浮気やろーだもんね。俺はやさしーからゆるしてあげる」
、なんてどこかの誰が言われていたような、なんて思った龍二はそれを頭から追い出して、鎖骨に頬をくっつけたまま動かない奏の頭をゆるゆると優しく撫でる。
「なんで俺がゆるしてあげるかわかる?」
「さてな。お前の心が広いからか?」
「龍二さんがおれにいっぱい痛くして、痕残して、中にたくさん出してくれるからだよーだ」
他の誰もがもらえない龍二の本気。それがあれば、奏は奏でいられる。
「奏の中にぶち撒けるのはたまらねぇんだが、お前がしっかり飲み込むから掻き出すのは一苦労だぜ?たまにはきっちりゴムしねーとなあ」
「俺のせいじゃないよ。龍二さんのがでかいからです。ゴリゴリ奥まで突っ込んで、そこで出すからいけないの」
「俺のせいかよ」
酷い“下品”な会話をする奏は嬉しそうにくふくふ笑い、顔を上げて龍二の顎にキスを落とす。
そのまま出来る範囲にちゅちゅと奏が龍二にキスをすると、その擽ったさに龍二が笑うが、その声は聞いてる方が擽ったくなるような優しさと甘さが含まれている。
この声をもし、彼の妻や今までの愛人が聞けば、奏は今までの比ではないほどにに違いないだろう。下手をしなくても“大戦争”が起きる。それほどの声だ。
好き勝手にキスをしていた奏は、龍二の笑い声に聞き入りながら入れ墨が飾る肌に指を滑らせて鎖骨でその指を止めた。
「ねえねえ、りゅーじさん。俺もしてい?」
「はっ、なんだそりゃ」
「カプカプだよ、カプカプ」
龍二の胸に手をついて上半身を上げ、奏は目を細めた龍二と目を合わせ口を大きく開けて「カプカプ」と言って口を開け閉めする。
「俺もつけたいなー龍二さんに『おれの!』って痕つけたいな。それで龍二さんが他の女の前で裸になった時にとされたらいいと思うんだー」
「は、はは!したきゃすればいい。誰も見やしねぇよ」
「なんでさ。時々どっかの誰かとセックスしてるくせに」
「あれはセックスじゃないらしいぜ?中町が『これをセックスと言うな、くそ野郎』って言ってるからな」
「ふうーん」
「そんな可愛くない顔をするなよ。なあ、かなで」
龍二の手が奏の頬に伸びる。
ゴツゴツした男らしい太さの指先が奏の柔らかい頬に触れると、そのまま奏の肌を堪能するように撫でた。
「俺が痕を残すのも残したいのも、俺に痕を残していいのも、奏だけ。だから俺に聞かずにやりゃあいい。俺に痕を残したいなら好きなだけ残せ」
頬を滑っていた龍二の指が、奏の唇に触れ、その唇を割って歯をなぞる。
「この歯で俺を噛みちぎったっていい。奏が俺にそうして痕をつけたいなら、許してやるよ」
コツコツと爪を当てるように優しく綺麗に並ぶ歯を叩く。
奏は誘われるように口を開け、龍二の指を優しく噛んだ。
「そんなんでいいのかァ?」
ニヤリと挑発的な笑顔を向けた龍二に奏も笑みを返す。
龍二の指をペッと吐き出すと、ゆっくりと鎖骨に顔を近づけ口を大きく開けた。
奏は狙い定めた鎖骨に優しく噛みつくが、何を躊躇してかハムハムと噛むだけだ。
龍二の手が奏の頭を、髪の毛を梳くように撫でる。
「やりたきゃやれ。構わねえよ。我儘放題のお前が可愛いんだよォ。こんな事で今更、躊躇するんじゃない。奏はそんなじゃないだろう?」

俺は教えてやったろう?我儘好き勝手に振る舞って、俺の愛をねだる、で可愛いんだと。

「ほら、奏。してみたいんだろう?」
甘く落とされる自分の名前に誘われて、奏は今までの躊躇を捨てて力の限り噛み付いた。
ゴリゴリ、と歯が骨にあたる感触がし、皮膚が切れて鉄の味が口に広がる。
奏の頭にやり過ぎたと一瞬過ぎるも、鉄の味がするほど噛んだのだから相当“酷い傷”になったと思うと、満足感もある。
誰もが驚くはずだ。この痕を見れば。
(龍二さんには、こんな痕をつけれる人がいるんだって)
口を離して傷口を舌で撫で最後にキスを落として顔を上げると、優しく笑う龍二の顔が出迎えた。
「満足したか?」
「うん」
「なら寝るぞ。明日はそうだな、どっか行くか?」
「うん!」
龍二が左腕を広げると奏は龍二の上から降りて腕を枕に横になる。
「りゅーじさん、こっち向いて」
「はいはい」
腕の中に囚われるようにしまわれて、向かい合って目を閉じる。

布団から僅かに見える龍二の背中にある自慢の刺青。
天を翔ける龍の、その荒々しくも神々しいその姿に、今まで誰もつけた事のない引っ掻き傷がある事をさて、奏は知っているのだろうか。
彼の龍にいかなる理由でも傷がひとつもついた事がない事を、そしてそれをつけた唯一が自分である事を。
きっと奏はずっと、知る事はないのだろう。
そう、態々噛みつかなくたって、奏はちゃんと龍二に所有印を残しているのだ。
それを知らない奏は今日も幸せそうに眠っている。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

るる
2024.08.13 るる

すごく好みの2人で見ていて満足感が凄かったです✨️
2人の毎日をもっと見たいなと思ってしまう2人でした!
ただ最初の方の文字の上の・が少し多すぎて読みづらかったです

あこ
2024.08.20 あこ

るるさま

二人のこと、気に入ってくださってありがとうございます!
サイトの方から転載が進んでいなくて数は少ないのですが、コツコツこちらに転載していく予定がまだあるので、お時間のある時にまた覗きにきていただけたら幸いです😊

文字の上の『・』、読みにくくて申し訳ありません。
数を気をつけたり、もう少し工夫していきます。

メッセージ、ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鬼ごっこ

ハタセ
BL
年下からのイジメにより精神が摩耗していく年上平凡受けと そんな平凡を歪んだ愛情で追いかける年下攻めのお話です。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

恋した貴方はαなロミオ

須藤慎弥
BL
Ω性の凛太が恋したのは、ロミオに扮したα性の結城先輩でした。 Ω性に引け目を感じている凛太。 凛太を運命の番だと信じているα性の結城。 すれ違う二人を引き寄せたヒート。 ほんわか現代BLオメガバース♡ ※二人それぞれの視点が交互に展開します ※R 18要素はほとんどありませんが、表現と受け取り方に個人差があるものと判断しレーティングマークを付けさせていただきますm(*_ _)m ※fujossy様にて行われました「コスプレ」をテーマにした短編コンテスト出品作です

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。