彼者誰時に溺れる

あこ

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high school education

03

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明日は休み。
高校生活始めての休みだ。
教室内も心なしか浮き足立ち、仲のいい同士すでにグループ化された室内では約束をしているグループもある。
奏は喧騒の中、静かに淡々と帰り支度をしていた。
帰ってから月曜日まで。奏はひたすら構い倒してもらえる。
龍二がそう言ったのだから、奏が我儘を言っても大体叶えてくれるであろう最高の週末。
(んー、早く帰ろ帰ろっと!)
全くそんな雰囲気が漏れていないけれど、奏の心は教室内の誰よりもきっと浮き足立っている事だろう。
登校拒否したいという言葉に心配になった祥之助が電話をした時、「週末は構ってもらえるから、我儘いっぱい言ってやるんだ!」と奏は鼻息荒く言った。その時祥之助は優しい声で「奏さんの我儘ならなんでも叶えてくれると思いますよ。今まであの人が我儘を言われてちゃんと叶えてるのは、あなた一人だけですから」とまた一つ、奏が龍二に夢中になる言葉を渡したから、余計に楽しみになっている。
基本的にと付け加えて、祥之助は無駄な嘘をつかないと奏は考えているから、彼の言葉はあっさり信じる。
奏がいるのが教室ではなくこれがもし事務所であれば、鼻歌を歌いご機嫌な笑顔を振りまいていたはずだ。
誰もが目を止めてしまう、あの魅力的な無邪気な笑顔を振りまいていただろう。

鞄の中に全て入れたか確認を終えた奏は、走り出したい気持ちを抑えてそうっと廊下に出た。
このところとにかくだから、邪魔が入らないかあたりを警戒しつつ階段を降りる。
降り切って靴を履き替えたら、足早に校門を目指した。
祥之助が「黒塗りの高級車だろうが、普通車だろうが、“一般的な子供”にヤクザのお迎えはないからな」と龍二に言ったらしく、守れる距離に護衛がつくものの基本的に奏は普通の登下校をしている。奏としてはお迎え大歓迎の姿勢だけれど、帰りに“買い食い”が出来ると気がついたのでこれはこれで良しとしていた。
今日もまるで当然のように途中のコンビニでホットミルクを入れて食べるタイプのフラッペを購入。このコンビニにあるフラッペ全制覇を目論む奏はバナナのフラッペをご機嫌で口に入れながら歩く。
(ふふーん。買い食いっていいなー!)
高校生活が始まると同時に、奏は徒歩圏内に住居を変えた。今までのマンション──愛人になって初めて言った我儘を反映し奏が買ってもらったマンション──そこは今でも奏の住まいに変わりはないけれど、徒歩で通学すべく奏が高校生活を送る間は別のマンションで生活する事となり、引越しをした。そこが今のである。
奏は本当の住まいの方が大好きだから、わざわざ高校のために場所を移すのは嫌だと少しごねたのだが「お前がどこに暮らしてても、お前のもとに俺は帰ってくる事に違いないだろ」と言っただけで仮住まいに行く事に同意した。全く持って単純である。
まあ、龍が愛する奏に与えるマンションだから、どこであろうと住み心地は良いようで、住み心地の点に関しては満足しているのか奏から一つの文句も出ていない。

さて、フラッペの味にも満足している奏はご機嫌だ。甘さも実に奏の好み。
ついにはるんるんと鼻歌まで歌いながら奏はマンションに到着した。
奏は隠れるようについてきているはずの自身の護衛を見つけてみようと、登校初日からマンションの出入りの際にあたりを見るのがお決まりとなっている。
今日もそれを実行し、そして今日も見つけられなかった事に少しがっかりしながらエントランスに入った。

「えー、かなでちゃんってお金持ちなの?」

そんな声が聞こえるのはカラオケボックス。
いくら煩いカラオケ店内とはいえ、隣の客に迷惑だろう音と声が充満する部屋にいるのはマナとその友人のジュリ。
そしてだ。
「なに?突然どうしたのー?」
「ん、いまねえ、かなでくんが高層マンションに入るの見たって友達からメールきたの」
「へー、お金持ちなのかなあ」
このところ二人の口から出てくる面白くない名前に、彼氏である少年も片思い中の少年も反応した。
「俺らもらってみようかなァ」
「やだー、うちらの前でとか、ちょーありえないんだけどお」
ありえないとか言いつつもやめろとも言わないマナは、彼氏の腕に自分の腕を絡め胸をグニっと押し付ける。
「マナあ、ほしーものあるけど、かなでちゃんのかわいいかおがかわいくなくなるのは、いやだな」
「ああ?てめぇ、やっぱりあの一年が言ったとおりなわけ?」
ギラリ、と睨み付けるとマナは慌てて首を振った。喧嘩が強くて顔も良い。少し不良少女なマナにとって自慢の彼氏。嘘をついてもバレそうになっても、甘えてセックスで誤魔化せるのがまたいい。キレると危険なのはマナも解っているから、キレそうな時は慌てて自分に被害が及ばないようにするのだけ気をつけていた。
マナからすればのは“喧嘩の強さ”だけ。奏が彼氏なら顔は誰にでも自慢出来るし、どうやらお金持ちらしいから同じ歳の子が持てないものをたくさん買ってもらってまた自慢出来る。あの少し高校一年らしからぬ不思議な雰囲気も変わってて彼氏という“アクセサリー”にはばっちりだ。
つまり、喧嘩さえ強ければ今の彼氏より奏がいい。
今の彼氏より、で何でもかんでも出来そうなのも奏の方がいいなと思う理由だった。
そんな事をマナが思っているなんてつゆ知らず、彼氏たちは不良らしい話を騒がしい音に紛らせているのである。

「っしゅん!」

小さなくしゃみをした奏は
「うー、噂されてるんだ」
とよくある事を言う。宣言通り構い倒しに奏の今の家に“帰ってきた”龍二はそれを鼻で笑う。
「悪い噂じゃねぇか?どうせお前はクソガキな高校生活してんだろ?」
「いい子にしてます!優等生だよ。の先輩たちが絡んでくるだけだもん」
「へえ」
楽しそうに余裕の顔で笑う龍二に奏は抱きつく。抱きついてきた奏を抱き上げ、龍二はソファに座った。膝の上に下ろしてやると幸せそうな奏が龍二を見上げる。
「龍二さん、キス。キスして、キス」
催促すれば唇が触れ合う。もっとと離れ側に奏は言って、口を少しだけ開けてまた催促。
「なんでも言ってみろよ。叶えてやるから」
「セックスしよ。龍二さんが枯れちゃうくらい」
「その前に奏がへばるだろ?」
「俺がへばったら、叩いて詰って無理やりして?いっぱいいっぱい、龍二さんのせーえきちょーだい?」
キスの合間に交わされる会話をもし彼らが聞いたら、きっとギョッとするだろう。
「かなで」
柔らかくて優しい声。奏の好きな音。
自分の名前を呼ぶ時にだけに現れる、夜叉なんて嘘みたいな声。
この声を聞くたびに、奏は心が舞い上がる。

「呼んで、もっと、かなでって」
「可愛く足広げて誘えたらな」
「可愛く誘えたら、痛いほどご褒美ちょーだいね」
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