彼者誰時に溺れる

あこ

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こちらから読むと、なんとなく登場人物のことがわかります。

せめてチーズは増量で

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一緒にいるとチェーン店のデリバリーを許してくれない龍二だから、奏は護衛にいた男の一人を捕まえて言った。
「店舗で一枚買うと一枚タダになるんだって。これと、これが食べたい。チーズは増量でね」
「怒られますよ、こういう食いモンは」
「龍二さんいないし、来る予定ないんだから!どうせこないんだからさ」
急いで急いで、と一人を家から追い出す。金は龍二がしてるから気にしない。気にしても無駄なのは龍二に金で一生を買われてから、嫌でもすぐに理解していた。
「あ、こっちもよかったかも。いいなぁ、
脂っこいデリバリーチェーン店の天丼。きらきら輝いて見えるのは、龍二が彼にを与えないからだ。自分は食べるくせに、奏の食生活はにより妙に気にする男である。
だから龍二がこないとはっきり解っている日は周りをやきもきさせながら、奏は大いにファストフードを楽しんだ。
楽しむ日以外は“良い子”に言いつけを守るのだから良いじゃないか。が奏なりの言い訳である。

しかし“はっきり解っている日”だとしても、龍はきままにふらりと姿を見せるのだ。

「──────で?」
「龍二さんがいないから仕方ないよね?俺の護衛さん、俺のいう事を聞く様にって龍二さんがんだから。ね?」
「脅してないだろ」
「いーや、あれは脅してる、だよ。これだから困るよ、は」

ね、と護衛の若い青年に奏は微笑む。なんともまあ色気を振りまいて。当然龍二の眉間に皺がよる。
場所はリビング。団欒とは程遠い雰囲気である。
「そんなに俺の食生活が心配なら、龍二さんが、ずぅぅぅぅっと俺と一緒にいればいい」
「出来ないの知ってて言ってやがるな」
「隠居すれば?」
ちっ、と激しい舌打ちに青年二人の方がビクつく。それにさえ苛立った龍二は彼ら二人を下がらせた。面倒臭く感じてきたのだろう、小さな事でビクつく彼らを。
いや、この男の舌打ちだから、ある意味仕方ないのだけれど。
って言う?」
「言うかよ、クソガキ」
「キス」
睨み続ける龍二に奏は抱きついてキスをねだる。
龍二は諦めきった顔で触れるだけのキスをした。
「怒らんから言え。何食って過ごした」
「今日までの、しかも三食言うの?」
「当たり前だろう」
「初日は龍二さんが運ばせたのを素直に食べて、二日目はたまにはと思って料理した。三日目は二日目の残りと買ってきてもらった。四日目のブランチが
「おまえ……」
「ならひとりにしないでよ」
奏がぴたりと体を密着させ、甘える様にすり寄った。
「すまん」
「謝るなら一緒にいてよ」
「悪い」
「ひどいな、誰のところに帰ってるの?奥さん?一号さん?二号さん?もっといる!?」
「古い言い方だな、お前。なんの影響だよ。お前も知っての通り、“愛人”はいない。ただはいる」
「同じだよ」
「違うさ」
むくれた奏は龍二から離れソファに座る。目の前にあるまだ温かいピザに手を伸ばした。
それを見て額に手を当てた龍二は諦め、奏を抱き上げ自分の膝の上に座らせる。後ろから抱きしめるように奏の細い腰に太い腕を巻きつけた。
「愛人。愛する人と書く」
「んーん」
口がもぐもぐと動く。声は“ん”だけだが不満がたっぷりだ。
「愛するのは奏一人。お前にぶつけるにゃ都合の悪い暴力的な“性行為”になりそうな時に利用するのが“都合のいい相手”。愛なんてねぇ。都合のいい人間なんざ、ひとりふたり壊れてなんぼだ。お前に代わりはいない。だから壊したくねぇ」
「うわあ、言い訳!」
「いいや、だ」
「ほめさん」
「ほめ──────ああ、俺のバカな嫁さんか?あれはもう見切ってんだよ。あんな女、最初から愛はねぇ。親父の頼みじゃなきゃ結婚するか。だからがいねぇんだよ。知ってるだろうが」
奏の口角が少し上がる。機嫌が上昇してきた様だ。
しかし手はまたピザを掴み取る。チーズを二倍にしてもらっただけあって、かなりの量だ。そのチーズの量をうんざりと見つめた龍二は奏の腰に巻きつけていた右腕だけ外し、手を伸ばすと同じものを掴む。
後ろを向いて睨みつけた奏の視線は受け流し、それに齧り付く。こってりした味付けの照り焼きチキンとマヨネーズ、そしてたっぷりのチーズ。
こんなものを食べ続けたら胸焼けしそうだ、と龍二は独り言ちた。
「なあ、機嫌直せよ。悪かった」
「こないだも、今回も、俺はいつも後回し。仕方ないよ、解ってる。でも、俺は心がある人だ。寂しい」
ぽつり、と呟きまたピザを口に入れる奏はピザを流し込む様に、コーラを飲み込んだ。

「龍二さんは、突然連絡もなくキャンセルされる時、俺がどう思うか、知ってる?知らないでしょ?」

不安になるのだ。
どこかで何かあったんじゃないか。死ぬほどの、連絡出来ないほどの危ない目にあったのではないかと、何か事件に巻き込まれたのではないか。
悪い事を想像するには事欠かない龍二が相手だ。
それを雰囲気で言ってのけた奏は両手でピザの箱をずる、と遠ざけた。
「下っ端でいいから、連絡させてよ」
「ああ」
「愛足りないって家出するよ?」
「すぐバレるぜ?」
「カード使わない」
「金はどうするんだよ」
「そこらへんの持って出てって現金化してやる」
奏がぎゅっと膝を抱える様にソファに座る。勿論腰に回った龍二の左腕は巻き込まれた。
「バレるぜ、奏」
下を向いた奏の動きで現れた頸に、龍二の唇がつく。
「ひどいな。カード使わなくても質屋使わなくても、スマホ持っていなくても、俺の居場所なんてすぐ解るようにしてるくせに」
「お前がだからな」
「なら奔放にあちこち逃げてやるんだ。慌てて迎えにくればいいんだ。龍二さん以外が来たら、死んでやる」
「死ぬなよ、ここが空いちまう」
ここ、と言って自分のは奏を抱きしめていて触れる事が出来ないから、代わりに奏での胸に手を当てる。あの墨の入ったところに。
「嫌いだ、俺を蔑ろにする龍二さんなんて」
「してない」
「してるよ、他の人とセックスしてさ、俺は一人で寝て。都合のいい相手にはどんなかともかくセックスして、龍二さんの精子──────はゴムのなかでも、体の中で受け止めて。女のところにいっちゃうと、俺は一人きり俺はそれすらもらえない。俺に頂戴よ。セックスして、愛してよ。精液も唾液も何もかも、ちょこっとだってほかの女にあげるの嫌だ」
「あからさまな発言を、お前な」
「愛してよ、俺だけ」
「愛してるのは、お前だけ」
不満そうに奏は膝に顔を埋めた。

「愛してる、奏、本当にお前だけだ」

嘘つき、と呟いた奏を龍二は痛いほどに抱きしめる。
彼の愛と同じ、いやそれ以上の力強さできつくきつく抱きしめた。
(ずるいよ、龍二さんは。いつだって、ずるいや)
奏は知ってるのだ、自分だけが愛されてると。
自分にいらない“護衛をつける”。こんな“可愛い事”をする龍二は本当の事を言っていると、彼の実兄から、彼が今も世話を焼いてしまう青年からも聞いているのだから。
それでももはや奏には、不満なのである。
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この小説は『Tally marks』とリンクしています。
あちらの主要登場人物が出張してくる事もあるかもしれませんが、『Tally marks』を読んでいなくてもわかる様に書いてあります(そのはず!)
感想 1

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