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第1章
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「ふむ。わたしが実在すると理解した上で、これを起こすか。さすがは腐っているなァ……。そうかよくわかった」
シュピーラドの顔が無になる。
美しい顔が無表情になり、そのあまりの美しい顔に浮かぶ“無”に全員が恐怖で震えた。
「貴様らにかける慈悲は一つもないが、死ぬ前に聞かせてくれぬか?」
「は、ひ……」
恐怖で何も言えない法王を国王は殴りつけた。
まったく何も考えていない行動である。国王はこういう哀れな男なのだ。
「お前の様に勝手に動くと邪魔でならんな」
シュピーラドの声に従い精霊も動いた。全員体が何かに縛られているかの様にピクリとも動かない。
「さて、ここにいる法王、そして枢機卿と言ったか?どうでもいいがお前らは知っていたのではないか?加護がないものの話を」
何も言えず青い顔で震えている法王と枢機卿たち。枢機卿の一人は失禁し、気絶しそうなものもいる。
「話せと言っても話す気はないのだな。あいわかった……」
手をさっと動かすと法王が叫び声を上げた。隣の国王が自由になる視線を動かしてみると、法王の右の膝から下がなくなっている。
「あがッ……アッ、アッ!」
「今度は痛みで話せないのか?人というのは実に、正しく、面倒よのう」
睨まれた法王は痛みに堪え、息も絶え絶え、涙と鼻水を流しながら「あひ、はい、はひ」と繰り返す。
「そうか。お前らはどうだ?」
枢機卿も全員頷いた。
「知っていて、加護なしは悪魔というたか……!」
「なんと!!まさか違うとおっしゃるのですか!!?」
国王がわざとらしく声を張り上げる。
シュピーラドはそれを面白いものを見たかの様な顔で嘲笑う。
「知っていただろう?お前も知っていたはずだ。エングブロム公爵家を手に入れるために、くだらぬ理由に加護なしが呪われていると大々的に発表したではないか」
「そんなことは!」
「わからぬと思うか?わたしにはわたしに忠実な僕がおる。お前らの周りにどれほどの僕がいると思うか?」
「しも……まさか」
「そうさ。精霊はわたしの可愛い僕たち。残念であったな」
自分は騙されていたと主張していたのが一転した国王が黙ったのを見て、シュピーラドは畳み掛ける。
「それにお前はよく知っておろう?加護がなくとも悪魔ではないと、呪われてもいないと」
これに教会内の複数の視線が国王へ向かう。境界内にいるほとんどが国王を見たかもしれない。
「お前に加護を与えた精霊は、お前が優秀な末の弟を殺したところで見限り、加護を消失させておるはずだぞ?なあ?さて、それはお前が何歳の頃であったか?まさかそれも忘れたとはいうまいな?」
息を飲み沈黙したそれが肯定とになる。今までの比ではないざわめきが広がった。教会の外では悲鳴も聞こえる。
「ああ、そこの。エングブロム公爵家の当主と長男であったか?自分達は騙されていたなどというつもりはないだろうな?わたしが寝ていた時に起こったことはわたしにも非があると思い黙っておるが、それ以降はいかん。どこまでもハイルを利用し自分達の欲を満たそうなどと考えた報いは受けさせる」
「そんな……!」
「ハイルは加護がない!悪魔なんでしょう?何がいけないんですか!!」
絶句する当主と反論した長男に「ふむ」と顎に手をやったシュピーラドは
「悪魔であるのなら、そこなお前もそうであったな?違うか?エングブロム公爵家の倅も加護を失っておる、国王も。して二人は悪魔であると?呪われていると?」
「そんな、まさか!お前、加護を失っているのか!!?」
「突然だったのです!私までハイルのように虐待されたらと思うと言い出せませんよ!」
「安心するといい、当主。お前の子供たちは誰一人、もう加護を持っておらんよ。それももう随分前のことだ。お前はどうかな?お前は他人には加護だなんだと言いながら、当主らしからぬ加護しか持たぬと、聞いたがそれは今もあるのか?」
目を大きく見開いた当主とバラされ泣き出した長男を目を細め見たシュピーラドは、ゆったりとした口調で話す。
加護なしの真実を。
顔色が悪くなる周囲、自分達は知らなかったと騒ぐ人間たち。
シュピーラドは愉快そうに笑い言う。
「さきも言ったがな、ハイルがヴァールストレーム辺境伯爵に保護されるまではわたしにも落ち度があっただろう。それは認めてやらんこともない。だからといってお前たちが自分達の私利私欲でハイルを傷つける様な原因を作ったことは、許してはおらん。しかし落ち度があるからわたしはきさまらに何もしなかったであろう?が、ヴァールストレーム辺境伯爵に保護されてからのことは別じゃ。全員が甘い汁を吸うために、死んでいるかもしれないハイルまで利用し、自分達へ向かう悪意をハイルに押し付けようとしたこと、わたしは決してゆるさん」
淡々と続けるシュピーラドの耳にも、教会の内外から自分達は関係ないと騒ぐ声は届く。
「だからなんだと言うのだ?お前たち、いや、ここにおらぬものでも、自分達の恐怖を勝手ハイルに押し付け殺してもいいと思ったであろう?ハイルが罪人に仕立て上げられた時、誰もがそうだと声をあげ、お前たちはすぐに殺せと叫んだだろう。今叫ぶものたちは『本当かどうか』自分で考えて声を上げなかったではないか。自分達の恐怖が消えるのなら、お前たちはなんでもしただろう。我が知らぬと思うか?お前たちがハイルという名を持つだけの、関係のないものたちをも一方的に攻め暴力を振るい殺したことを!」
法王は意味のない言葉を叫び、枢機卿の一人はあんなものはおとぎ話だと思ったんだと喚く。
国王はこの場にいた自分の息子たちに「父上も加護がないのか!」と怒鳴られ、自分は悪くないから父を殺せと声を張り上げた。
教会内外でも仕方がなかったとか、権力を前に逆らえないんだとか、必死に言い募る声が重なり合う。
「言い訳は結構。自分の発言、行動に反省もせずに喚く様なものはいらぬだろう?お前らは先から反省もせずにうるさく罵り合うだけ。なすりつける言葉を吐く時間があれば、謝罪の一つもできるのるものではないのか?まったくうるさくて敵わぬ。もう聞きたくもないわ!」
うるさく騒ぐ声がピタリと止んだ。
口だけ動いているものも複数いる。“僕ら”が強制的に、黙らせているのかもしれない。
「いいか、精霊王はなァ、愛し子を傷つけるものは、いかな理由でも決して許さんものだ。それを自覚しているから、教会にも、王家にも、精霊王とその愛し子が人が理解できるように優しく聖霊王と愛し子の関係を書き残しているはずだ。そうしなければ、お前たちのせいで『精霊王が国を滅ぼしかねない』と考えた愛し子が、そうしてやったはずだろう。お前らは私利私欲のために、全てを利用した。愛し子も、そしてこのわたしをもだ。愛し子もわたしのことも、貴様らの様に有象無象のやからが利用していいものではないぞ!ハイルの痛みを思い知るがいい!わたしの怒りを身をもって実感しろ!」
目が潰れそうな光が王都を包んだ。
教会を中心に爆発する様に王都中に広がり、王都を満たした光は天に向かい柱の様に伸びる。
王都以外にもその光の柱が立った。
ヴェヒテはその光景を城の最上部のバルコニーで見た。
王都よりも標高の高い領地の中で最も高い場所にある城の上から、あちこちに光の柱が立つのが見えた。
正確にはどこに柱ができたかわからないが、その数はある程度把握できる。そして一番大きな柱が王都のものであろうことも。
隣にいるリネーの体は震え思わず父の体に縋りつき、ヴェヒテの顔を仰ぎ見る。
どんな恐怖も周りに感じさせない父の体も震えていたのだ。
美しい光の柱が、酷く恐ろしい。
光の柱が前触れなくフッと消えるその時まで、二人はその場でただただそれを見つめていた。
シュピーラドの顔が無になる。
美しい顔が無表情になり、そのあまりの美しい顔に浮かぶ“無”に全員が恐怖で震えた。
「貴様らにかける慈悲は一つもないが、死ぬ前に聞かせてくれぬか?」
「は、ひ……」
恐怖で何も言えない法王を国王は殴りつけた。
まったく何も考えていない行動である。国王はこういう哀れな男なのだ。
「お前の様に勝手に動くと邪魔でならんな」
シュピーラドの声に従い精霊も動いた。全員体が何かに縛られているかの様にピクリとも動かない。
「さて、ここにいる法王、そして枢機卿と言ったか?どうでもいいがお前らは知っていたのではないか?加護がないものの話を」
何も言えず青い顔で震えている法王と枢機卿たち。枢機卿の一人は失禁し、気絶しそうなものもいる。
「話せと言っても話す気はないのだな。あいわかった……」
手をさっと動かすと法王が叫び声を上げた。隣の国王が自由になる視線を動かしてみると、法王の右の膝から下がなくなっている。
「あがッ……アッ、アッ!」
「今度は痛みで話せないのか?人というのは実に、正しく、面倒よのう」
睨まれた法王は痛みに堪え、息も絶え絶え、涙と鼻水を流しながら「あひ、はい、はひ」と繰り返す。
「そうか。お前らはどうだ?」
枢機卿も全員頷いた。
「知っていて、加護なしは悪魔というたか……!」
「なんと!!まさか違うとおっしゃるのですか!!?」
国王がわざとらしく声を張り上げる。
シュピーラドはそれを面白いものを見たかの様な顔で嘲笑う。
「知っていただろう?お前も知っていたはずだ。エングブロム公爵家を手に入れるために、くだらぬ理由に加護なしが呪われていると大々的に発表したではないか」
「そんなことは!」
「わからぬと思うか?わたしにはわたしに忠実な僕がおる。お前らの周りにどれほどの僕がいると思うか?」
「しも……まさか」
「そうさ。精霊はわたしの可愛い僕たち。残念であったな」
自分は騙されていたと主張していたのが一転した国王が黙ったのを見て、シュピーラドは畳み掛ける。
「それにお前はよく知っておろう?加護がなくとも悪魔ではないと、呪われてもいないと」
これに教会内の複数の視線が国王へ向かう。境界内にいるほとんどが国王を見たかもしれない。
「お前に加護を与えた精霊は、お前が優秀な末の弟を殺したところで見限り、加護を消失させておるはずだぞ?なあ?さて、それはお前が何歳の頃であったか?まさかそれも忘れたとはいうまいな?」
息を飲み沈黙したそれが肯定とになる。今までの比ではないざわめきが広がった。教会の外では悲鳴も聞こえる。
「ああ、そこの。エングブロム公爵家の当主と長男であったか?自分達は騙されていたなどというつもりはないだろうな?わたしが寝ていた時に起こったことはわたしにも非があると思い黙っておるが、それ以降はいかん。どこまでもハイルを利用し自分達の欲を満たそうなどと考えた報いは受けさせる」
「そんな……!」
「ハイルは加護がない!悪魔なんでしょう?何がいけないんですか!!」
絶句する当主と反論した長男に「ふむ」と顎に手をやったシュピーラドは
「悪魔であるのなら、そこなお前もそうであったな?違うか?エングブロム公爵家の倅も加護を失っておる、国王も。して二人は悪魔であると?呪われていると?」
「そんな、まさか!お前、加護を失っているのか!!?」
「突然だったのです!私までハイルのように虐待されたらと思うと言い出せませんよ!」
「安心するといい、当主。お前の子供たちは誰一人、もう加護を持っておらんよ。それももう随分前のことだ。お前はどうかな?お前は他人には加護だなんだと言いながら、当主らしからぬ加護しか持たぬと、聞いたがそれは今もあるのか?」
目を大きく見開いた当主とバラされ泣き出した長男を目を細め見たシュピーラドは、ゆったりとした口調で話す。
加護なしの真実を。
顔色が悪くなる周囲、自分達は知らなかったと騒ぐ人間たち。
シュピーラドは愉快そうに笑い言う。
「さきも言ったがな、ハイルがヴァールストレーム辺境伯爵に保護されるまではわたしにも落ち度があっただろう。それは認めてやらんこともない。だからといってお前たちが自分達の私利私欲でハイルを傷つける様な原因を作ったことは、許してはおらん。しかし落ち度があるからわたしはきさまらに何もしなかったであろう?が、ヴァールストレーム辺境伯爵に保護されてからのことは別じゃ。全員が甘い汁を吸うために、死んでいるかもしれないハイルまで利用し、自分達へ向かう悪意をハイルに押し付けようとしたこと、わたしは決してゆるさん」
淡々と続けるシュピーラドの耳にも、教会の内外から自分達は関係ないと騒ぐ声は届く。
「だからなんだと言うのだ?お前たち、いや、ここにおらぬものでも、自分達の恐怖を勝手ハイルに押し付け殺してもいいと思ったであろう?ハイルが罪人に仕立て上げられた時、誰もがそうだと声をあげ、お前たちはすぐに殺せと叫んだだろう。今叫ぶものたちは『本当かどうか』自分で考えて声を上げなかったではないか。自分達の恐怖が消えるのなら、お前たちはなんでもしただろう。我が知らぬと思うか?お前たちがハイルという名を持つだけの、関係のないものたちをも一方的に攻め暴力を振るい殺したことを!」
法王は意味のない言葉を叫び、枢機卿の一人はあんなものはおとぎ話だと思ったんだと喚く。
国王はこの場にいた自分の息子たちに「父上も加護がないのか!」と怒鳴られ、自分は悪くないから父を殺せと声を張り上げた。
教会内外でも仕方がなかったとか、権力を前に逆らえないんだとか、必死に言い募る声が重なり合う。
「言い訳は結構。自分の発言、行動に反省もせずに喚く様なものはいらぬだろう?お前らは先から反省もせずにうるさく罵り合うだけ。なすりつける言葉を吐く時間があれば、謝罪の一つもできるのるものではないのか?まったくうるさくて敵わぬ。もう聞きたくもないわ!」
うるさく騒ぐ声がピタリと止んだ。
口だけ動いているものも複数いる。“僕ら”が強制的に、黙らせているのかもしれない。
「いいか、精霊王はなァ、愛し子を傷つけるものは、いかな理由でも決して許さんものだ。それを自覚しているから、教会にも、王家にも、精霊王とその愛し子が人が理解できるように優しく聖霊王と愛し子の関係を書き残しているはずだ。そうしなければ、お前たちのせいで『精霊王が国を滅ぼしかねない』と考えた愛し子が、そうしてやったはずだろう。お前らは私利私欲のために、全てを利用した。愛し子も、そしてこのわたしをもだ。愛し子もわたしのことも、貴様らの様に有象無象のやからが利用していいものではないぞ!ハイルの痛みを思い知るがいい!わたしの怒りを身をもって実感しろ!」
目が潰れそうな光が王都を包んだ。
教会を中心に爆発する様に王都中に広がり、王都を満たした光は天に向かい柱の様に伸びる。
王都以外にもその光の柱が立った。
ヴェヒテはその光景を城の最上部のバルコニーで見た。
王都よりも標高の高い領地の中で最も高い場所にある城の上から、あちこちに光の柱が立つのが見えた。
正確にはどこに柱ができたかわからないが、その数はある程度把握できる。そして一番大きな柱が王都のものであろうことも。
隣にいるリネーの体は震え思わず父の体に縋りつき、ヴェヒテの顔を仰ぎ見る。
どんな恐怖も周りに感じさせない父の体も震えていたのだ。
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