シンデレラボーイと猟奇的御曹司のイカサマな事情

紀木 冴

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$1.イカサマな日常①

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  "デルタ航空から出発便のご案内をいたします。ニューヨーク行き、11時30分発、123便は、ただいま皆様を機内へとご案内中でございます"

  世間ではゴールデンウィークの真っ最中。ごった返した空港には大きなキャリーケースを引く集団が目立つ。家族、恋人、友達。とにかく大人数で楽しげに喋って開放的な雰囲気に包まれたこの空間はある種類の人間に取っては好都合。

 注意散漫な旅行者はカモだ。

 "忽那くつな"と作業着についた名札のズレを真っ直ぐに戻して掃除道具を乗せたカートを押した。
トイレの入り口に立てた"清掃中"の黄色い看板を回収してカートの上に乗せて広い通路の端っこを歩く。

 向かいから黒スーツの男達の集団がバタバタと忙しなく横切った。さすがに目立つその集団を周囲の人達も振り返って去っていく背中を見ている。
空港で働いているとVIPと遭遇する事も珍しくないから今さら気にもとめない。そんな住む世界が違う人達と関わっても何の得もない事も分かっていた。

 「おい邪魔だ」

 振り返ると黒スーツ集団2軍の先頭の男に強くぶつかりよろけた反動でバンっと掃除道具が落ちて大きな音を立てた。
サングラスにスーツにネクタイ、皮靴に指輪そしてギラギラの腕時計。すべてハイブランドで統一された目の前のその男を数秒で鑑定した。

 「そんなとこにぼさっと立ってんな」

 乱れたスーツを直して立ち去った男の香水の残り香が漂う後ろを、またぞろぞろと金魚のフンのようについていく黒スーツ集団。
嵐が過ぎ去ったように元の賑やかな空気に戻った

 『あれはー…680万ってとこかな』

 完全に見えなくなるともやっと落ちた道具を戻して脱げかけたキャップを深く被り直した。"あれ?"胸元に手を当てながら足元に視線を落として探す。さっき確実に手に触れてあったのにどこに?

 「ああもう!名札どこだよ」

  短気な性格だからこそこの清掃の仕事は向いてると思う。コンビニや居酒屋のバイトも大体は客と喧嘩になってクビ。それを考えるとここは居心地がいい。ただこの仕事を続けているには他にも大きな理由があった。

 見つからない名札を諦めてロビーを後にする。次々と飛行機が滑走路に入ってくる忙しいゴールデンウィークも今日が最終日。
電光掲示板がパチパチと入れ替わり到着アナウンスも立て続けに流れる。
 
 "ただ今シンガポール航空 802便が到着致しました"
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