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しおりを挟む「領内での産業か。それは当家としても願ってもないことだ。支援は難しくない。そしてそれが産業として上手くいくのであれば傭兵からの脱却も不可能ではない。だが……」
「競馬、馬を使用した娯楽が受け入れられるとは思えないと」
私のお願いに対して父は真面目に受け止めてくれた。
そこには父としての甘い顔だけではなく男爵家当主としての顔もあった。
先ずは産業を生み出すことについては好意的。
大した名物も魅力のないオブライエン家領に産業は必要。
それ自体は父も理解していてあれこれ手を伸ばしていた。
そういった状況にあったので私の提案も難しいモノでは無かった。
問題は競馬というモノが産業になるという事にしっくりきていないところ。
というよりは娯楽競技そのものにピンと来ていない様子。
これについては仕方のないところが多い。
帝国が平和になり戦乱が遠のいたとはいえ近代的とは程遠い。
領民たちの生活もあまり余裕はない。
流石に日々の生活だけで手いっぱいという事はなく食事に衣装に無駄を施しているが夢の世界よりも随分と質素。
娯楽や遊びというモノが極端に少ない。
帝国国内で娯楽は賭博や決闘くらい。
それも市民が楽しむモノでは無く一部の特権階級が遊んでいるだけ。
観光産業としているところはない。
その状況では娯楽が産業になる事が理解しにくいのだろう。
「ベルがしたいことであれば協力を惜しむつもりはない。ない、が、な」
「ううん、大丈夫よパパ。これについては男爵家当主としての意見が聞きたいの。遊びや道楽でやるつもりはないから」
「そ、そうか。事業開始の資金提供くらいは問題ないが……」
「それで十分よ、パパ」
父はとても申し訳なさそうにするがこれについては割り切っている。
私も夢を見なければそんなことを考えもしなかった。
というより何故成り立つのかはあまり理解していない。
私は単純に夢を妄信しているに過ぎない。
異世界で成り立つのであればこの世界でも成り立つはず、と思っているだけ。
なので一先ず興味を持ってもらえただけで満足。
資金提供もしてもらえるので不満などあろうはずもなかった。
「それとならず者、反社会勢力の方だけれど」
「それについては昔から帝室からの要請があったからな。当家が行おうとすれば国として多くの中枢貴族が協力してくれるだろう。だが……」
「自家の力が確立できていなければ潰されると」
「そう、だな」
こちらもある程度は想像の範囲内。
平和な世界で武力が必要でないことくらい父も理解している。
けれどそれを直ぐに手放してしまえば家が成り立たなくなる。
中央への影響力が無くなれば地方は廃れる。
私が贅沢できていたのも中央での権力があればこそ。
それが無くなれば私だけではなく領民の生活も悪化する。
意外とすれば既に中央から武装解除の要請があったという事。
オブライエン家の武装解除ではなく国内の反社会勢力の掃討が目的なのだろうけれど。
これについては帝国中央、帝室からの要請があるという事なので難しくないだろう。
問題はやはり競馬が娯楽として観光として産業として成り立つかだ。
それについては頑張るしかない。
父の協力を取り付けた後は事業計画の打ち合わせ。
ここからが本番と思ったのだけれど何故か父に驚かれ、泣かれた。
てっきり提案するだけで細かいところは任せられると思っていたらしい。
それに加えてまともそうな計画であったため子どもの成長に涙したと。
その反応は甚だ受け入れがたいのだが昨日までの私を思えば仕方のないことなのかもしれない。
我が儘で傲慢で自惚れ。
世間知らずの勘違い娘。
知恵の足らない残念なモノ。
それが私で、説得のために口にした計画だって夢に頼ったもので自分の言葉ではない。
ま、私としては其処に後ろめたさや恥を感じるわけでも無いので気にしないが。
資金はオブライエン家から賄うとして当分は人材の確保と関係機関の設立。
人材については父が責任を持って選んでくれるそうなので私がすべきことは決まった。
道楽としてではなく産業として成立させるためには各種事務員が必要。
そして競馬をするには競馬場や馬を管理する厩舎、調教場、その先は生産場などが必要となってくる。
これらの経営方針や管理方法、進む未来も考えなければならない。
それに出来れば競馬というモノを可能ならばオブライエン家に縛り付けたくない。
競馬の機構だけで利益を生み出し独立させたい。
貴族の持つ特権にしてしまえば産業として成立しやすいのかもしれない。
けれどそれでは閉鎖的で独善的になる。
その中では競馬自体の発展ではなく利益利権の拡大に重きを置くようになってしまいがち。
私の根本的な目的は競馬という競技の発展。
他家が参入するのならば協力しよう。
より良いものを生み出すためには競い合おう。
その結果、競馬の中心が私から離れても構わない。
所詮諸行無常なのだから領地の産業が1つで永続的に成り立つわけでもない。
競馬自体が生まれ引き継がれるなら本望だ。
勿論家の事業としてするので失敗、多額の負債はお断りだが。
父との打ち合わせは比較的好感触で終わった。
それでも私のすべきことは多い。
やることは山積みだけれど私はワクワクしていた。
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