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最悪だ。
最悪。
さいあく。
この世界には競馬がない。
競馬がないのだ。
あの感動と興奮。
私の疼きと欲求を解消してくれない。
……いや、まあ、それ自体は知っていた。
私はこの世界で生まれこの世界で育ちこの世界の常識を持っている。
貴族家令嬢としてそれなりの教育を受けていたので社会にはそれなりに詳しい。
だから知っていた。
知っていたはずだ。
知っていたはずなのに。
どうしてだろうか。
残念だ。
本当に残念だ。
けれどその程度では諦めない。
諦められない。
無いならないなりに出来ることがある。
寧ろ無いのであれば自分が望むように自分で作ればいい。
感動と興奮を生み出すあの場所を。
それこそ私は男爵家の令嬢。
それもそこそこ力がある貴族でありその当主から甘やかされている存在。
働きかければ自由に生み出せる。
……ただ、問題があるとすればオブライエン家があまり評判の良い貴族ではないこと。
行ってしまえばオブライエン家は帝国建国と国内騒乱の戦いで成り上がり。
元は行儀の悪い傭兵集団。
おまけに反社会勢力に顔が利く。
だからこそ帝国内の発言力を生み出しているのだけれどこれはよろしくない。
力が武力が有効なのは戦乱期だけ。
平和となり社会が発展していく中で暴力とは害悪でしかない。
統治機構としての武力は軍隊で十分。
平和な社会では暴力以外を求められそれしか取り柄がないモノは淘汰されてしまう。
現状、オブライエン家は武力以外の取り柄がない。
過去の栄光に胡坐をかき権力に寄生している。
父や文官たちは努力しているようだが実を結んでいない。
詰まる所、そう遠くない未来でこのままのオブライエン家ではお取り潰しになる。
帝国中枢からも離れた土地で大した名産もない領地であれば当然も当然だ。
理想を夢を作り出せたところで維持できないのであれば意味がない。
寧ろ一度手に入れて手放すとなれば血の涙が出る。
では娯楽が少なく競技の発展に乏しいこの世界で競馬を産業として取り組めばどうか。
これも難しい。
何故なら競馬という競技は賭博行為が付随するから。
動物を用いた娯楽において重要で大変なのがその育成。
訓練でどれだけ強化しても本番は違う。
調教で良い動きをしていても本番では実力を出せない馬もいる。
調教時は悪くとも経験を積むことで強くなる馬もいる。
だから草の根を広げる必要がある。
けれど、現実として何の実績もない名前も知らない馬を応援するのは難しい。
そこに興味を持たせ資金を集めるためにはある程度の賭博行為が必要。
賭博行為が無くとも応援は出来るのだがあった方が熱くなる。
賭博行為も節度を守り適度であれば人生を楽しくする香辛料となる。
ただ、そこに暴力が絡んでくると様相が変化する。
大きな力が影響する非合法という印象が生まれる。
更に運営母体が反社会勢力と通じているとなれば関わること自体が反社会的行為だと思われてしまう。
そうなれば一般的には受け入れられず一部の馬鹿の阿呆のやることと見なされてしまう。
それは私の望むところではない。
賭博行為はあくまで競技を楽しむための一環。
その馬を応援するため、競馬自体を維持するためのお布施。
競馬とは人間と馬による攻防を見るためのものだ。
それらを実現させるには家の力が必要。
けれど家の力を使えば競馬自体の魅力を失いかねない。
不味い。
これはどうしたものか。
いや、まあ、これも知っていたはずの事なのだけれど。
「……ベルモット、何か気に入らない事でもあるのかい?」
考え事が顔に出ていたのか父が心配そうに声をかけて来た。
余程心配なのか何度も私の顔色を窺っている。
自分の状況を考えればそれもそうかと思える。
今はまだ私の誕生会の最中。
それも主要である晩餐会。
晩餐会なのに立食ではなく私は無駄に豪勢な壇場を作られまつられている。
そんな私が表情を曇らせれば主催である父が困るのも当然か。
これは私が悪い。
「ああ、お父様。いえ、特にありませんよ。少し考え事があるだけです」
「そ、そうか」
「ですが、もう大丈夫ですので」
今日この場は男爵家令嬢である私の誕生会。
夢のための工夫は後々考えるとして今は主役としての体面を整えなければ。
最悪。
さいあく。
この世界には競馬がない。
競馬がないのだ。
あの感動と興奮。
私の疼きと欲求を解消してくれない。
……いや、まあ、それ自体は知っていた。
私はこの世界で生まれこの世界で育ちこの世界の常識を持っている。
貴族家令嬢としてそれなりの教育を受けていたので社会にはそれなりに詳しい。
だから知っていた。
知っていたはずだ。
知っていたはずなのに。
どうしてだろうか。
残念だ。
本当に残念だ。
けれどその程度では諦めない。
諦められない。
無いならないなりに出来ることがある。
寧ろ無いのであれば自分が望むように自分で作ればいい。
感動と興奮を生み出すあの場所を。
それこそ私は男爵家の令嬢。
それもそこそこ力がある貴族でありその当主から甘やかされている存在。
働きかければ自由に生み出せる。
……ただ、問題があるとすればオブライエン家があまり評判の良い貴族ではないこと。
行ってしまえばオブライエン家は帝国建国と国内騒乱の戦いで成り上がり。
元は行儀の悪い傭兵集団。
おまけに反社会勢力に顔が利く。
だからこそ帝国内の発言力を生み出しているのだけれどこれはよろしくない。
力が武力が有効なのは戦乱期だけ。
平和となり社会が発展していく中で暴力とは害悪でしかない。
統治機構としての武力は軍隊で十分。
平和な社会では暴力以外を求められそれしか取り柄がないモノは淘汰されてしまう。
現状、オブライエン家は武力以外の取り柄がない。
過去の栄光に胡坐をかき権力に寄生している。
父や文官たちは努力しているようだが実を結んでいない。
詰まる所、そう遠くない未来でこのままのオブライエン家ではお取り潰しになる。
帝国中枢からも離れた土地で大した名産もない領地であれば当然も当然だ。
理想を夢を作り出せたところで維持できないのであれば意味がない。
寧ろ一度手に入れて手放すとなれば血の涙が出る。
では娯楽が少なく競技の発展に乏しいこの世界で競馬を産業として取り組めばどうか。
これも難しい。
何故なら競馬という競技は賭博行為が付随するから。
動物を用いた娯楽において重要で大変なのがその育成。
訓練でどれだけ強化しても本番は違う。
調教で良い動きをしていても本番では実力を出せない馬もいる。
調教時は悪くとも経験を積むことで強くなる馬もいる。
だから草の根を広げる必要がある。
けれど、現実として何の実績もない名前も知らない馬を応援するのは難しい。
そこに興味を持たせ資金を集めるためにはある程度の賭博行為が必要。
賭博行為が無くとも応援は出来るのだがあった方が熱くなる。
賭博行為も節度を守り適度であれば人生を楽しくする香辛料となる。
ただ、そこに暴力が絡んでくると様相が変化する。
大きな力が影響する非合法という印象が生まれる。
更に運営母体が反社会勢力と通じているとなれば関わること自体が反社会的行為だと思われてしまう。
そうなれば一般的には受け入れられず一部の馬鹿の阿呆のやることと見なされてしまう。
それは私の望むところではない。
賭博行為はあくまで競技を楽しむための一環。
その馬を応援するため、競馬自体を維持するためのお布施。
競馬とは人間と馬による攻防を見るためのものだ。
それらを実現させるには家の力が必要。
けれど家の力を使えば競馬自体の魅力を失いかねない。
不味い。
これはどうしたものか。
いや、まあ、これも知っていたはずの事なのだけれど。
「……ベルモット、何か気に入らない事でもあるのかい?」
考え事が顔に出ていたのか父が心配そうに声をかけて来た。
余程心配なのか何度も私の顔色を窺っている。
自分の状況を考えればそれもそうかと思える。
今はまだ私の誕生会の最中。
それも主要である晩餐会。
晩餐会なのに立食ではなく私は無駄に豪勢な壇場を作られまつられている。
そんな私が表情を曇らせれば主催である父が困るのも当然か。
これは私が悪い。
「ああ、お父様。いえ、特にありませんよ。少し考え事があるだけです」
「そ、そうか」
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