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謁見
謁見③
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「ご衣裳はそう樹国と変わりませんから、こちらの物を準備致しております」
「しかし、こちらの礼儀に悖ります。とにかく私は巻がいなければ何も出来ない人間なのです。どうか、」
「長きの滞在になるかもしれません、黄王様は早く黄に慣れて頂きたい、御国においでのように寛いで頂きたいと願っておりますゆえどうかお聞き届けくださいませ」
「それは、巻一人も傍に置いてはならないということですか?」
「黄王様はそう御考えでございます」
柔らかく、ゆっくりと話す鏡だが譲る気はないようだ。
碧琉は眉を顰める。
こちらも譲る気はない。でもこれ以上ごねていいのだろうか。煌の機嫌を損ねれば、援軍が樹の地を踏むことがないのではないか。碧琉一人では判断出来ない。
どうしていいのか分からず視線を左右に彷徨かせていると鏡は碧琉が話を飲んだと思ったのか「こちらが浴室でございます」と部屋の奥へ進み始めた。
脱衣用の部屋の奥に一面に硝子の張られた浴室があった。
「こ、ここで入るのですか」
「ええ、お使いくださいませ。今すぐ入られますか? ご準備いたします」
「あっ、ええと、……その、これでは、」
「お気に召しませんでしたでしょうか?」
気に入るも何もない。黄の浴室はみなこうなっているのだろうか? 硝子の向こうによく手入れされた庭が見える。
「そういう事ではなく、その、これでは外から見えるのでは」
碧琉が硝子を指差すと鏡も言わんとすることが分かったのだろう、うんと頷いて見せた。
「この庭に人は入れません。先程最後に曲がった角より普段は黄王様と黄王様の許可を受けた者以外立ち入りは禁止されております」
「そう、ですか」
という事はここは人の出入りのない所。
やはり、幽閉、かと思う。碧佳の言ったように黄国を見る事は叶わないようだ。碧琉自身、あわよくば黄の街を見たいと思っていたし、黄の民が食してるものを見回って食べてみたかった。黄の自然も見てみたかった。
幽閉の身になるかもしれないとその可能性を考えなくはなかったが、碧佳の話である程度自由に出来るかもと期待する気持ちの方が大きくなっていた。碧琉はそっと落胆する。
「鏡様」
「あ、計様」
低くしゃがれた声とともに碧琉の父より年上に見えるふっくらとした体形の女性が入ってきた。
黄王や鏡とは違う、前を深くあわせ身体の横に紐で結んだ上着と下穿きのみの服装は一見しただけで高い身分ではないと分かる。しかしその着物は碧琉が見たことのないもので大いに関心を引いた。着替えが簡単そうだ。一枚樹に持って帰りたいなと思う。
「計と申します。現黄王様の乳母で御側に仕えておりました。この度黄王様より碧琉様をお助けするよう命ぜられました。どうぞよろしくお願いいたします」
「黄王様の乳母様でいらっしゃいますか。そんな、こちらこそよろしくお願いいたします」
乳母、といえば樹では高位で使女のような事はしない。驚いて礼を返す。鏡は計様と呼んでいた。自分はどう呼ぶのが正解なのだろう。こういう時にやはり巻がいなければ困る。
「浴の準備をお願いします」
「承知いたしました」
計は頷くと浴室に消えた。
「それでは碧琉様後ほど。宴のお支度は計様がきっちりされるのでご安心くださいませ」
「あ、」
碧琉はにこやかにいう鏡の袖を反射的に引いた。
「あの、文句があるわけじゃないのです、でも、やはり一人だとどうしても、今までも一人というのはなくて、だから、巻一人だけでもここに置いては駄目か、黄王様にお聞きしていただけませんか?」
縋る碧琉の手をやんわり鏡が握る。
同情とも困惑とも取れる曖昧な笑みを浮かべた鏡が深く頷き「それでは」と深く一礼し部屋を出て行った。
「しかし、こちらの礼儀に悖ります。とにかく私は巻がいなければ何も出来ない人間なのです。どうか、」
「長きの滞在になるかもしれません、黄王様は早く黄に慣れて頂きたい、御国においでのように寛いで頂きたいと願っておりますゆえどうかお聞き届けくださいませ」
「それは、巻一人も傍に置いてはならないということですか?」
「黄王様はそう御考えでございます」
柔らかく、ゆっくりと話す鏡だが譲る気はないようだ。
碧琉は眉を顰める。
こちらも譲る気はない。でもこれ以上ごねていいのだろうか。煌の機嫌を損ねれば、援軍が樹の地を踏むことがないのではないか。碧琉一人では判断出来ない。
どうしていいのか分からず視線を左右に彷徨かせていると鏡は碧琉が話を飲んだと思ったのか「こちらが浴室でございます」と部屋の奥へ進み始めた。
脱衣用の部屋の奥に一面に硝子の張られた浴室があった。
「こ、ここで入るのですか」
「ええ、お使いくださいませ。今すぐ入られますか? ご準備いたします」
「あっ、ええと、……その、これでは、」
「お気に召しませんでしたでしょうか?」
気に入るも何もない。黄の浴室はみなこうなっているのだろうか? 硝子の向こうによく手入れされた庭が見える。
「そういう事ではなく、その、これでは外から見えるのでは」
碧琉が硝子を指差すと鏡も言わんとすることが分かったのだろう、うんと頷いて見せた。
「この庭に人は入れません。先程最後に曲がった角より普段は黄王様と黄王様の許可を受けた者以外立ち入りは禁止されております」
「そう、ですか」
という事はここは人の出入りのない所。
やはり、幽閉、かと思う。碧佳の言ったように黄国を見る事は叶わないようだ。碧琉自身、あわよくば黄の街を見たいと思っていたし、黄の民が食してるものを見回って食べてみたかった。黄の自然も見てみたかった。
幽閉の身になるかもしれないとその可能性を考えなくはなかったが、碧佳の話である程度自由に出来るかもと期待する気持ちの方が大きくなっていた。碧琉はそっと落胆する。
「鏡様」
「あ、計様」
低くしゃがれた声とともに碧琉の父より年上に見えるふっくらとした体形の女性が入ってきた。
黄王や鏡とは違う、前を深くあわせ身体の横に紐で結んだ上着と下穿きのみの服装は一見しただけで高い身分ではないと分かる。しかしその着物は碧琉が見たことのないもので大いに関心を引いた。着替えが簡単そうだ。一枚樹に持って帰りたいなと思う。
「計と申します。現黄王様の乳母で御側に仕えておりました。この度黄王様より碧琉様をお助けするよう命ぜられました。どうぞよろしくお願いいたします」
「黄王様の乳母様でいらっしゃいますか。そんな、こちらこそよろしくお願いいたします」
乳母、といえば樹では高位で使女のような事はしない。驚いて礼を返す。鏡は計様と呼んでいた。自分はどう呼ぶのが正解なのだろう。こういう時にやはり巻がいなければ困る。
「浴の準備をお願いします」
「承知いたしました」
計は頷くと浴室に消えた。
「それでは碧琉様後ほど。宴のお支度は計様がきっちりされるのでご安心くださいませ」
「あ、」
碧琉はにこやかにいう鏡の袖を反射的に引いた。
「あの、文句があるわけじゃないのです、でも、やはり一人だとどうしても、今までも一人というのはなくて、だから、巻一人だけでもここに置いては駄目か、黄王様にお聞きしていただけませんか?」
縋る碧琉の手をやんわり鏡が握る。
同情とも困惑とも取れる曖昧な笑みを浮かべた鏡が深く頷き「それでは」と深く一礼し部屋を出て行った。
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