王は愛を囁く

鈴本ちか

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黄国へ

黄国へ ②

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「お迎えありがとうございます。樹国王子、碧琉でございます。道中よろしく頼みます」
「黄国王より命を受けお迎えに上がりました私は黄国外事高官の鏡(きょう)、こちらは柳(りゅう)、こちらは駿(はやみ)でございます。何かございましたら何なりとお申し付けくださいませ」
「ありがとうございます」

 真ん中の女性、鏡がよく通る声で、でっぷりとした右側の男性を指し柳、左側の背が高い男を駿と指した。
 碧琉は上げた顔と声から、鏡の齢は五十程と推察した。
 第三位といえど王族の碧琉に対して何ら気張ることなく、目鼻立ちの派手な顔に柔和な笑みを浮かべている鏡はよほどこういった場所に慣れているのだろう。
 穏やかな微笑みに碧琉の緊張は徐々に和らいでいく。

「いやしかしなんとお美しい」
「これ、王子に向かって何たることを」
「いえ、よいのですよ」

 それまでじっと碧琉を眺めていた柳が独り言程度の声量でぼそりと呟く。
 すかさず柳を非難した駿に碧琉が視線を移すと駿は顔を赤らめ急いで顔を床に伏せた。
 柳、鏡を見ればそちらも額を床に擦り付けていた。

「大変申し訳もございません、」
「よいのです、これは樹の正装です。緑地に金刺繍は王族だけが着用を許されています」

 肩よりも長い金髪を結い上げ碧琉は筒状の髪飾りをつけている。王は冠を、王族は碧石のはめ込まれた髪飾りをつける、これも樹の正装の一部だ。 
 四季のある樹では正装時の着物は袖が長い。その上、肌に触れるものも合わせれば四枚も重ねているので春を迎えた今は暑くて仕方がない。もちろん春用の地の薄いものを着用しているが、早く脱がないと汗疹が出来そうだ。
 しかし自国の正装を褒められるのは嬉しい。碧琉は簡易な着物でも良いじゃないかと思っていが、巻に無理やり着させられて良かった。

「そろそろお時間で御座います」

 樹の高官である朴(ぼく)が部屋の入り口から中に声を掛ける。
 とうとう出るのか。忘れつつあった緊張が戻り暑さとは違う汗が全身からじわりと滲み出た。
 立ち上がった黄国の三高官に碧琉は思わず「あの、」と声を掛けた。

「黄国は、ちゃんと援軍を送って下さいますよね?」

 密書を交わしているのだ、疑っているわけではない。しかし碧琉は確かめずにはいられなかった。

「勿論でございます。黄国は樹国をお守りいたします」
「そう、そうですよね」
「お会いになられたらきっと安心される筈です。我が王は樹に誠実であります」
「ありがとうございます」

 力強く言う鏡に柳、駿も頷く。
 本当に誠実、なのだろうか。碧琉は疑問をぐっと飲み込んだ。樹は協力関係を結ぶに当たり見返りとしての金銭提示をしていた。しかしそれらを蹴った黄国は援軍の帰還を期限に碧琉の黄国滞在を望んだと聞いた。
 黄の思惑はどこにあるのか。気を引き締めていかねばならない。相手を理解できない以上緩めるわけにはいかない。
 碧琉はすっと息を吸い込んだ。
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