運命のつがいと初恋

鈴本ちか

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運命のつがいと初恋 第2章

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 夜中に凛子の泣き声がした気がして、目が覚めた。
 布団の暖かさに別れを告げ、廊下の明かりをつけず壁伝いに凛子の部屋へ行ってみると、東園も泣き声で目が覚めたらしくベッドサイドでまだ泣いている凛子を抱き、背中をとんとんと叩いていた。
 暗めに調整されたライトがあたりをほのかに照らしている。
 陽向に気がついた東園が凛子の顔が見えるように身体の向きを変えた。
 凛子を覗き込むと涙で濡れた目が陽向に気づきまたじわりと涙が溢れてきた。

「怖い夢見たのかな」
「どうだろうな」

 凛子が手を伸ばしたので今度は陽向が抱きかかえる。
 身体を揺らし「りんちゃん、一緒に寝ようか」と聞くと、凛子は小さく頷いた。
 
「馨、部屋に帰っていいよ」

 凛子の背中をとんとんしながら言うと、東園は首を振って凛子が寒くないよう陽向ごと毛布を巻き付けた。
 しばらく立ってゆらゆらしていると、凛子の泣き声がやんだ。
 抱いたままゆっくりとベッドに寝転がり、凛子をベッド面にゆっくりと下ろしてみる。 
 一瞬目を開いたのでもう一回抱くかなと思ったけれど、背中をとんとんしているとまた目を閉じた。
 東園も凛子の隣に寝転がり陽向と凛子に布団を掛け、凛子の頭を撫でる。
 両隣に人の温もりがあるせいか、凛子はすぐにすうすうと寝息を立て始めた。
 凛子の向こうの東園は横向きに肘をつきこちらを見ていた。ミッションを終えた相棒に微笑みかけて「部屋に戻る?」と小声で聞いたが、首を振られた。
 じゃあここに三人で寝るのかと思う。
 認めたくないが華奢といわれる陽向や凛子はいいけれど、大柄な東園は狭くないのかなと思う。
 つらつらそんなことを考えているうちに、布団の中が三人分の体温で温かくなってきた。
 一人で寝るより温もるのが早い。
 凛子の規則正しい寝息を聞きながら陽向も目を閉じる。ふと、髪を触られた気がして目を開くと東園の手が陽向に伸ばされている。
 目が合った東園はいたずらが見つかった子どものような、あっと声が聞こえそうな顔をして陽向は可笑しくなった。
 昔よく康平に髪をぐちゃぐちゃにかき混ぜられた、なんでも陽向の髪は柔らかくて触り心地がいいらしい。
 触りたいならどうぞと思ったが声にする前に眠気に襲われまた目を閉じた。

 年内最後の登園日、陽向は凛子と東園を送り出した後近くのデパートへ向かった。
 帰省先の実家に集まる甥や姪に渡すプレゼントを購入するためだ。あと凛子が幼稚園で使うバッグやお弁当箱など足りない物を見る予定もある。
 今は持っている物でいいが入学後は園規定の寸法の物を用意するように指示が来ている。
 このあいだ幼稚園から持ち物表が来たのでそれを見ながら合う物があれば買う、なければミシンを使って作るか、手芸店に注文するか、かなぁと思う。
 前の職場で発表会の衣装など作っていたのでミシン自体は使える。しかしレッスンバックやお弁当箱入れなどの小物は作ったことがない。
 無かったら、無かったとき、また考えよう、と思いながら陽向はまず文房具と玩具のあるコーナーへ立ち寄る。
 姪と甥には頼まれていたキャラクターの限定品を買い、同じフロアにあった丸くてふわふわした手触りの猫型ぬいぐるみも一緒に渡そうと購入した。抱きしめるのにちょうど良い大きさなので自分の分もちゃっかり買い足した。
 そして乳幼児フロアに移って凛子の幼稚園グッズを探して歩く。もし買うなら同じメーカーの物を揃えた方が、なくしたときに見つかりやすいかなと思いながら商品を手に取り確かめていく。
 こぐま幼稚園の指定した寸法はスタンダードな物で選べるくらいには商品があった。
 可愛らしい柄のものも多く凛子が見たら喜びそうだ。ただ凛子の好きなランブーの物はなく、好きなキャラで用意するなら生地を買って作るしかない。
 フロアを一周して、一度機嫌がいいときに凛子と一緒に来ようと決めた。
 まだ入園まで時間があるし、どうしてもキャラクターが良ければ陽向が作ってもいい。
 エレベーターで降りながらそこら中に溢れるクリスマスの飾り付けを目で追う。
 明日はクリスマスイブだった、道理で平日なのに人が多い。
 ついキョロキョロと眺め、この飾りは幼稚園で使えそう、これは使えない、と考える。今は使わなくてもいつか働ける幼稚園が見つかり再就職出来たらきっと役に立つ。
 一階のエレベーター周りには化粧品コーナーがあり、バス停に向かうため陽向は化粧品コーナーを抜け正面ホールへ進む。
 脇にクリスマスプレゼント用の女性小物、紳士小物の特設売り場があり、陽向は足を止めふらりと紳士小物の売り場に入った。
 そういえば東園になにも買っていないな、と思い至った。このあいだ見ようと思っていたけどすぐ帰ったんだった。
 マフラーのコーナーもあり、色んなタイプの物が並んでいる。
 東園は黒いコートを着ている事が多いのでグレーが良さそうだ、普段見るからに上質そうな物を使っているので選ぶのに少々苦労する。
 陽向はファッションに一家言あるような人間じゃないが、ま、気に入らなければ使わないだろう、要は気持ちだ、と思えるタイプなので、一番手触りの良い、陽向が自分が使いたいマフラーを選んで会計をした。
 使ってくれるといいけど、東園は昨日から調子が悪いようだから。
 あれ、と思ったのは昨晩だ。
 風呂上がりなのに東園の匂いが濃く感じ、念のため体調はどうかと聞いたのだが元気だよと返ってきた。
 体臭がきつくなるのは体調が悪いとき、と陽向は思っているので、おかしいなあと昨夜は首を傾げたのだが。
 今朝、キッチンに立っていると、後ろから東園が陽向の肩に頭をもたせかけてきた。
 そんなことは初めてでびっくりしてどうしたのか聞いたら、東園はなんでも無いと笑っていた。
 しかしあれは相当に具合が悪かったと思う。今朝は更に濃厚で、うっかり間近で吸い込んだ陽向はしばらく頭の中まで痺れた感じが取れなかった。
 東園は風邪でも引いたのかもしれない、最近寒いから首を温めたらちょっとはいいのかもと思う。
 デパートから出て歩道を歩いていると強く風が吹いてくしゃみが出た。
 あれ、もしかして自分まで風邪引いちゃったかなと思いながら陽向は帰路を急いだ。

「陽向さん、具合悪いですか?」

 夕方の幼児番組をただぼんやり眺めていた陽向は話しかけられてはっとした。

「ごめんなさい、ぼーっとしてた」

 ソファのそばに立つ三浦を見上げ瞬きをした。
 帰宅後からどんどん身体が重たく、熱くなっている。
 テーブルでお絵描きをしていた凛子がクレヨンを置いて寄ってきた。

「熱計ってみます?」
「そうですね、済みません」
「ひーたんお熱? おむねもしもししましょうね~」

 三浦が体温計を、凛子が人形用のお医者さんキットを持ってきた。体温計を受け取り計測している間、凛子は陽向の胸や腹に子供用の聴診器をあて頷いたり首を傾げたりしている。真剣な面持ちの凛子に「風邪でしょうか」と聞いてみる。

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