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運命のつがいと初恋 第1章
㉑
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「凛子は、……産まれて半年で俺の両親に預けられ、今まで海外で暮らしていたんだ。俺も一緒だったし、家には両親にメイドも複数いたから寂しい環境ではなかったんだが、ここは日中、家政婦がいるだけだ。もともと人見知りで大人しい凛子には落ち着いた環境が合っているんじゃないかと雇う人数も最小限にしているんだが、今までと環境が変わりすぎてかこちらに来てから凛子は元気がない状態で、……心配している」
「そうなんだ。一緒だったご両親と離れて寂しいのかなぁ。こちらに来られることはないの?」
「一年後には日本に戻る予定なんだが、まだ決まったわけじゃない」
「ベビーシッターさんを雇ったら?」
「帰国してすぐ一人雇ったんだが凛子がなかなか慣れなかったのと、いろいろ問題があって辞めてもらった」
「いろいろって?」
「凛子より俺に興味があるようで、安心して家に来てもらえる感じではなかった」
「ああ、なるほど。それは……なんとも、大変だったね」
一見して分かる生活水準の高さとαらしい容姿が裏目に出ることもあるんだな。男性なのか女性なのかは知らないが、そのシッターさんにもちょっと同情する。こんな完璧な男が同じ空間にいたら気にせずにはいられなかったのだろう。モテを経験せず生きてきた陽向からすればイケメンは爆ぜろと呪ってしまいそうだ。いや呪わないけど。
同情の意を示した陽向に東園は「そこで三田村にシッターを頼みたいんだ」と続けた。
「え、ぼく?」
東園は大きく頷く。
「三田村幼稚園退職したんだろ? 凛子も三田村とは仲良くなれそうだし、俺も三田村なら安心して任せられるから」
「いやっ、幼稚園で働いていたとはいってもシッターはしたことないよ。せいぜい姪っ子や甥っ子の世話程度だし」
「それで十分だ。今の給料に上乗せした金額で契約したいと思っている」
「いやいや、無理だよっ。申し訳ないけど他を当たって」
「……そうか」
激しく首を振る陽向の目にしょんぼりと眉を下げる東園が見える。
ちょっと心が痛むけれど、シッターは無理だと思う。陽向はΩで雇い主になる東園はαだ。一般的にシッターや家政婦、家庭に入る清掃業等の求人にΩの採用枠は少ない。企業側のリスク管理だ。
東園のような立場のある、しかも容姿に優れた人間が陽向のようなぱっとしないΩに手を出すなんてあり得ないが、発情は爆弾と同じだ。いつ何時誰を巻き込み爆発するか分からない。
「三田村ならと思ったんだけど残念だよ」
本当に残念そうなので陽向はそんな東園にひっそりと驚いていた。Ωに頼んでも断られるのは分かりきった事だろうと思う。陽向がΩでも東園には間違いなど起こさない自信がある、という事かもしれない。
「さあ、東園は寝て。何かあったら知らせに行くから。ええと東園の部屋は二階だよね」
「そうだな。でも寝るのは交代しよう。三時間経ったら代わるから、それまで頼む」
「分かったよ。お休み」
二階に上がる東園を見送ったあと、陽向はそろっと和室を窺った。凛子の規則正しい寝息が聞こえる。産まれて半年で両親と離れたなんて本人もだけどお母さんが辛かったんじゃないかなと思う。
凛子を抱いている東園は育児に積極的な父親の見本のようだった。未婚で他人の子ども、を一時期だけかもしれないが育てようと決めたのも思い切った判断だと思うし、凛子の様子を見てシッターを雇ったり幼稚園を探したり、東園はちゃんと育児に取り組んでいるなと思う。ちょっと見直した。
陽向はソファに座るとスマホを取り出し求人サイトを検索し始めた。ゆっくり休んでいる暇はないなと陽向は自分に発破を掛ける。東園はちゃんとしている、自分もちゃんと、しよう。意気揚々とスマホの画面を見つめた。
以前見た求人以外に5件ほど増えていて、園の場所、勤務条件など検索する。
園の方針は気になるところだ。サイトを見ればおおよそのことは分かるのでそれを参考にさせてもらえばいいのだが、もう一つ、園の保護者については情報から推理するしかない。園の場所やα教育、等の記載があると気をつけようと思う。
4件検索したところで設定した目覚ましの電子音がなった。
あっという間に時間が過ぎていた。
東園は3時間経ったら起こしてと言っていたけれど、起こしに行くのも億劫だから寝かせておこうと思う。
陽向は立ち上がってふすまの隙間から凛子の様子を覗いた。
暑いのか布団を蹴り飛ばしている。そっと入って布団を掛けるとやはり暑いのか寝返りを打っている。もうちょっと寝ていて欲しいなと思いながらキッチンに移動する。
コーヒーが飲みたいと思うけれど、勝手に扱うのは気が引ける。好きに使っていいとは言われたけれど。外に買いに行くにも鍵がどこにあるか分からない。
まあいいかと思いつつ陽向はソファに舞い戻りまたスマホを起動した。
「そうなんだ。一緒だったご両親と離れて寂しいのかなぁ。こちらに来られることはないの?」
「一年後には日本に戻る予定なんだが、まだ決まったわけじゃない」
「ベビーシッターさんを雇ったら?」
「帰国してすぐ一人雇ったんだが凛子がなかなか慣れなかったのと、いろいろ問題があって辞めてもらった」
「いろいろって?」
「凛子より俺に興味があるようで、安心して家に来てもらえる感じではなかった」
「ああ、なるほど。それは……なんとも、大変だったね」
一見して分かる生活水準の高さとαらしい容姿が裏目に出ることもあるんだな。男性なのか女性なのかは知らないが、そのシッターさんにもちょっと同情する。こんな完璧な男が同じ空間にいたら気にせずにはいられなかったのだろう。モテを経験せず生きてきた陽向からすればイケメンは爆ぜろと呪ってしまいそうだ。いや呪わないけど。
同情の意を示した陽向に東園は「そこで三田村にシッターを頼みたいんだ」と続けた。
「え、ぼく?」
東園は大きく頷く。
「三田村幼稚園退職したんだろ? 凛子も三田村とは仲良くなれそうだし、俺も三田村なら安心して任せられるから」
「いやっ、幼稚園で働いていたとはいってもシッターはしたことないよ。せいぜい姪っ子や甥っ子の世話程度だし」
「それで十分だ。今の給料に上乗せした金額で契約したいと思っている」
「いやいや、無理だよっ。申し訳ないけど他を当たって」
「……そうか」
激しく首を振る陽向の目にしょんぼりと眉を下げる東園が見える。
ちょっと心が痛むけれど、シッターは無理だと思う。陽向はΩで雇い主になる東園はαだ。一般的にシッターや家政婦、家庭に入る清掃業等の求人にΩの採用枠は少ない。企業側のリスク管理だ。
東園のような立場のある、しかも容姿に優れた人間が陽向のようなぱっとしないΩに手を出すなんてあり得ないが、発情は爆弾と同じだ。いつ何時誰を巻き込み爆発するか分からない。
「三田村ならと思ったんだけど残念だよ」
本当に残念そうなので陽向はそんな東園にひっそりと驚いていた。Ωに頼んでも断られるのは分かりきった事だろうと思う。陽向がΩでも東園には間違いなど起こさない自信がある、という事かもしれない。
「さあ、東園は寝て。何かあったら知らせに行くから。ええと東園の部屋は二階だよね」
「そうだな。でも寝るのは交代しよう。三時間経ったら代わるから、それまで頼む」
「分かったよ。お休み」
二階に上がる東園を見送ったあと、陽向はそろっと和室を窺った。凛子の規則正しい寝息が聞こえる。産まれて半年で両親と離れたなんて本人もだけどお母さんが辛かったんじゃないかなと思う。
凛子を抱いている東園は育児に積極的な父親の見本のようだった。未婚で他人の子ども、を一時期だけかもしれないが育てようと決めたのも思い切った判断だと思うし、凛子の様子を見てシッターを雇ったり幼稚園を探したり、東園はちゃんと育児に取り組んでいるなと思う。ちょっと見直した。
陽向はソファに座るとスマホを取り出し求人サイトを検索し始めた。ゆっくり休んでいる暇はないなと陽向は自分に発破を掛ける。東園はちゃんとしている、自分もちゃんと、しよう。意気揚々とスマホの画面を見つめた。
以前見た求人以外に5件ほど増えていて、園の場所、勤務条件など検索する。
園の方針は気になるところだ。サイトを見ればおおよそのことは分かるのでそれを参考にさせてもらえばいいのだが、もう一つ、園の保護者については情報から推理するしかない。園の場所やα教育、等の記載があると気をつけようと思う。
4件検索したところで設定した目覚ましの電子音がなった。
あっという間に時間が過ぎていた。
東園は3時間経ったら起こしてと言っていたけれど、起こしに行くのも億劫だから寝かせておこうと思う。
陽向は立ち上がってふすまの隙間から凛子の様子を覗いた。
暑いのか布団を蹴り飛ばしている。そっと入って布団を掛けるとやはり暑いのか寝返りを打っている。もうちょっと寝ていて欲しいなと思いながらキッチンに移動する。
コーヒーが飲みたいと思うけれど、勝手に扱うのは気が引ける。好きに使っていいとは言われたけれど。外に買いに行くにも鍵がどこにあるか分からない。
まあいいかと思いつつ陽向はソファに舞い戻りまたスマホを起動した。
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