15 / 76
運命のつがいと初恋 第1章
⑮
しおりを挟む
車は滑るように夜道を進む。
駅近辺から住宅街へ入って確かに街灯は減ってきた。
緩やかな坂を登って暫く走ると歩道に面する邸宅の面積が明らかに広くなっている。
暗いから家自体はよく見えないが、きっと立派なのだろう。車は一角でスピードを緩め、車道に面した駐車場に停車した。四台は停められそうな広いガレージの裏に東園の自宅であろう建物がある。自分の部屋はこのガレージにすっぽり入るだろうなぁ、いや、考えると空しくなるからやめようと思う。
北見に促されるまま車を降り、ガレージ脇の門扉を通り過ぎる。庭の端にライトが配されていて暗くても陽向の知っている一般的な庭の広さではないのが分かる。キョロキョロ辺りを見回しながら陽向は北見の後ろに続いた。東園の家だから、きっとあの陽向の苦手な匂いも強いだろう。覚悟しておこうと思う。
「いらっしゃい。北見すまない、ありがとう」
北見が呼び鈴をならす前に玄関扉が開いた。東園は先ほどのスーツからVネックのブラウンセーターにスリムパンツに変わっていた。陽向は家に帰ると襟のよれたトレーナーに安いハーフパンツだからずいぶんお洒落な部屋着だなと思う。
北見が玄関扉を押さえて東園がどうぞと陽向に中へ入るよう促す。
「北見さんありがとうございました」
陽向が頭を下げると北見は強面に笑みを浮かべた。笑うと少しだけ取っつきやすくなるなと思う。北見は東園と少し言葉を交わして一礼すると玄関を閉めた。
「改めてありがとう、上がって」
「お邪魔します。あ、凛子ちゃんは?」
「リビングにいるよ、あれから病院へ行った」
「どうだった?」
二人並んでも余裕のある広い廊下だ。東園はすぐ脇の扉を押した。
「色々と調べてもらったけど、何も反応出なかったよ。風邪だろうって結論だ」
「そうなんだ。凛子ちゃんごはん食べたの?」
「まだだよ」
うなずきながら陽向は東園に続いて部屋へ入った。広いリビングに思わずわっと呟きが漏れた。奥にキッチンがあり、ダイニング、そして陽向のいるリビングと続いている広々とした空間。
壁掛けの大きなテレビとL字の大きなソファ、その間にガラスのローテーブル。ソファには凛子の姿があり、背もたれの右端に東園の背広とネクタイが掛けてある。
ハウスメーカーのカタログに載っていそうなリビングだけど、テレビと窓までのあいだにある木製のキッチンや子供用のカラフルな三段ボックスが幼児の家庭らしいなと思う。康平の家もこんな感じだった。東園の匂いはそうきつくない、気になっていたので少しほっとした。
凛子は昼と同じワンピースで猫のぬいぐるみを抱きしめている。さらさらの黒髪が幼児特有の丸い頬にかかっていてくっきりとした大きな瞳が人形めいている。
「もしかして帰ってきたばっかりかな? こんばんは、凛子ちゃん。病院行ってたんだってね、偉かったね」
凛子は陽向を見て小さく頷いた。
駅近辺から住宅街へ入って確かに街灯は減ってきた。
緩やかな坂を登って暫く走ると歩道に面する邸宅の面積が明らかに広くなっている。
暗いから家自体はよく見えないが、きっと立派なのだろう。車は一角でスピードを緩め、車道に面した駐車場に停車した。四台は停められそうな広いガレージの裏に東園の自宅であろう建物がある。自分の部屋はこのガレージにすっぽり入るだろうなぁ、いや、考えると空しくなるからやめようと思う。
北見に促されるまま車を降り、ガレージ脇の門扉を通り過ぎる。庭の端にライトが配されていて暗くても陽向の知っている一般的な庭の広さではないのが分かる。キョロキョロ辺りを見回しながら陽向は北見の後ろに続いた。東園の家だから、きっとあの陽向の苦手な匂いも強いだろう。覚悟しておこうと思う。
「いらっしゃい。北見すまない、ありがとう」
北見が呼び鈴をならす前に玄関扉が開いた。東園は先ほどのスーツからVネックのブラウンセーターにスリムパンツに変わっていた。陽向は家に帰ると襟のよれたトレーナーに安いハーフパンツだからずいぶんお洒落な部屋着だなと思う。
北見が玄関扉を押さえて東園がどうぞと陽向に中へ入るよう促す。
「北見さんありがとうございました」
陽向が頭を下げると北見は強面に笑みを浮かべた。笑うと少しだけ取っつきやすくなるなと思う。北見は東園と少し言葉を交わして一礼すると玄関を閉めた。
「改めてありがとう、上がって」
「お邪魔します。あ、凛子ちゃんは?」
「リビングにいるよ、あれから病院へ行った」
「どうだった?」
二人並んでも余裕のある広い廊下だ。東園はすぐ脇の扉を押した。
「色々と調べてもらったけど、何も反応出なかったよ。風邪だろうって結論だ」
「そうなんだ。凛子ちゃんごはん食べたの?」
「まだだよ」
うなずきながら陽向は東園に続いて部屋へ入った。広いリビングに思わずわっと呟きが漏れた。奥にキッチンがあり、ダイニング、そして陽向のいるリビングと続いている広々とした空間。
壁掛けの大きなテレビとL字の大きなソファ、その間にガラスのローテーブル。ソファには凛子の姿があり、背もたれの右端に東園の背広とネクタイが掛けてある。
ハウスメーカーのカタログに載っていそうなリビングだけど、テレビと窓までのあいだにある木製のキッチンや子供用のカラフルな三段ボックスが幼児の家庭らしいなと思う。康平の家もこんな感じだった。東園の匂いはそうきつくない、気になっていたので少しほっとした。
凛子は昼と同じワンピースで猫のぬいぐるみを抱きしめている。さらさらの黒髪が幼児特有の丸い頬にかかっていてくっきりとした大きな瞳が人形めいている。
「もしかして帰ってきたばっかりかな? こんばんは、凛子ちゃん。病院行ってたんだってね、偉かったね」
凛子は陽向を見て小さく頷いた。
2
お気に入りに追加
173
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる