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目覚め
しおりを挟む病室に入ると彼は眠っていた。
「アーノルド。守ってくれてありがとう。カッコ良かったよ」
そう彼に話しかけながら、ベットの横に座り彼の手を握る。あの日邪気に侵された彼を浄化したのだが、身体の浄化は全て出来たのだが、物理的な怪我はまだ治療中なのだそう。ドラゴンと一人で戦ったのだ、数カ所の骨折だけで済んだことに治療士は驚いていたそう。
その骨折も今は全てほぼ治っており、あとは本人の心の問題だと言っていた。邪気に侵されると心にも影響があるらしく、本人が目覚めるのを拒否していて、ちゃんと覚醒出来ないのじゃないかと言われた。今は起きても夢と現実の間にいるような状態で、会話もままならないと聞いている。
あの日夢の中で見たアーノルドの姿が、心が弱っていた彼の姿だったのかも知れない。
「アーノルド、起きてよ」
彼の手を握りしめる。
「また声を聞かせて、みんな待ってるよ」
そうやって何度も声を掛けるが、彼からの返事はない。胸の上下する動きだけが彼が生きてるのだと教えてくれる。
「あの暗い空間にまだいるの? あなたを必要としてる人はここにいるよ」
あれは夢じゃなく彼の心の中だったのだろう。まだあそこにいるのだろうか。
「カッコいいアーノルドも、弱いアーノルドもどっちも好きだよ」
そう告げて彼にキスをする。意識のない彼とのキスの方が多いのはどういうことかと思わなくもないが、彼が起きたら沢山してもらえばいい。彼にもう一度力を分け与えるように、優しいキスを送った。
◇
「……イ、…………メイ」
「う……ん……?」
「メイ、おはよう」
「おはよう……ってアーノルド!? 起きたの!?」
誰かに呼ばれている気がして目を覚ましたら、私を呼んでいたのはアーノルドだった。彼のベットの横に座っていたはずなのだが、私は座ったまま彼の胸を枕にして少しの間眠ってしまったようだ。目を開けると、視界いっぱいに彼の優しい笑顔が広がっている。
「アーノルドッ!! もう! 遅いよ!! アーノルドが居なくなっちゃうかと思ってすごく怖かったんだから!!」
彼に抱きつき、温かさを感じてやっと安心する。あの冷たい彼の体温をまだ覚えている。あの時は本当に彼が死んでしまうかと思った。
「心配をかけてごめん。メイが助けてくれたんだろう? ありがとう」
「ううん、私の方こそ守ってくれてありがとう」
「暗い空間にずっといた。もう自分なんか必要ないって思いが何度も繰り返していたら、メイが俺を呼ぶ声が聞こえてきたんだ。その声が聞こえてきたと思ったら温かい力が体を巡って起きることが出来た。メイのおかげで目覚めることが出来たよ、ありがとう」
「アーノルド……」
「メイもあの空間に居たんだろう? あれは俺が今まで言われて来た言葉だった。自分では気にしないと思っていたのに、ずっと心の奥底で気にしていたんだろうな。ずっと公爵家の次男は必要ないだとか、親の権力を使ってるだとか、周りにやっかみを受けながら過ごしてきたんだ。それを黙らせる為に、自分の実力を示す為に浄化の部隊を選んだってのもあったんだ」
やっぱりあれは過去にアーノルドが受けてきた言葉だったのか。
「……あんな姿を見られてカッコ悪いな。幻滅した?」
「そんなことない! 誰だってそんなことを言われ続けたら嫌になるよ。アーノルドは私が弱くても関係ないでしょ? それと同じで私はどんなアーノルドのことも好き! 弱いあなただからこそ、私の弱さにも気づいてくれて守ろうとしてくれたんでしょう?」
私が彼に幻滅することなんかない。もしここで彼がまた不安になってしまったら再び眠りについてしまうかと思い、必死に訴える。
「私はアーノルドのことが好き。あなたが居なきゃ生きていけないくらい」
「メイ……良く顔を見せてくれないか」
そう言うと彼は私の両頬を包み込み、顔を上げさせる。
「俺の為に泣いてくれたのかな。ごめん」
いつの間にか泣いていたみたいだ。彼はそう呟くと、私の涙の跡に優しいキスを送ってくれる。
「なっ! 何するの!」
「心配をかけたお詫び」
そういたずらな笑顔で言われてしまうと、私は何も言い返すことが出来なくて、照れ隠しで怒ってしまう。
「もう! 本当に心配したんだからね! 心配かけてっ! 私は怒ってるんだから!」
赤い顔を見せたくなくてつい横を向いてしまう。
「メイ、こっちを向いて」
「……」
「メイ?」
「……うん」
「メイ、心配かけてごめん。もうこんな心配はかけないから許してくれる?」
「絶対だよ。ドラゴンに1人で向かっていくなんて駄目だからね!」
「あぁ。約束する。もう絶対約束を破らないよ」
「うん」
「メイ、キスしても良い?」
「……」
「メイ?」
「……そんなの良いに決まってるじゃん」
フワッと優しく微笑んだ彼から優しいキスが降ってくる。あぁ、彼が生きていて本当に良かった。
暫く話すと、また彼は寝てしまった。まだ体が回復しきって居ないのだから仕方ない。私は病室を出ると、彼の両親にアーノルドがちゃんと目覚めて会話が出来たことを伝える。
「メイ殿、本当にありがとうございます。なんとお礼を言って良いのか……。王様からも後でお礼をとのことです」
「お礼は良いのですが、そうですね。今回の件については一度ちゃんと話したいです」
「はい、落ち着いたらで良いのでよろしくお願いします」
そう言うとお父さんはお母さんを連れて帰って行った。
自分の与えられた部屋に戻ってくると、ライザーとみゆちゃんが待ち構えていた。
「めい! 体は大丈夫? そろそろ薬が切れる時間だよ」
「うん、確かに少し怠くなってきたかも」
「ベットで横になれ。薬が完璧に切れたら起きてるのも辛いはずだ」
「ありがとう。そうさせてもらうね」
そう言ってベットに横になりながらみゆちゃん達と話をする。
「それであいつはどうだった?」
「ちゃんと目が覚めたよ! 会話もちゃんと出来たからもう大丈夫だと思う」
「良かったねめい!」
「うん、やっと安心したよ」
「本当に今回はよくやった。あのドラゴンが現れた時はもう終わったかと思ったが、メイとアーノルドのおかげで俺達も助かった」
そうライザーにも改めてお礼を言われると照れてしまう。全員無事に帰ってくれたのはライザーのおかげでもあるのだ。
「そんなお礼とか大丈夫だよ。いつも守られているのは私の方だし。それより来週からはどうするの?」
私は今日の夜に元の世界へと戻るはずだから、来週の予定を確認する。アーノルドもあの調子だしすぐに浄化の旅へ出るのは難しいと思っている。
「来週はひとまず浄化は休みになる。アーノルドが回復するまでは動かない予定だ。それに他の場所が今回と同じようになっていないか至急調べている。もし今回のような浄化がずっとされていない場所があれば、そちらを先に浄化していく予定だ」
「うん、分かった。他にないことを願うけど、もしあるならドラゴンが生れるまに浄化しなきゃだもんね」
もう二度とあんな思いはごめんだ。またアーノルドを危険にさらしてしまう。
その後来週の予定を話し終えると、私はあるお願いをする。
その日の晩、私は今アーノルドの病室にいる。本来なら2人きりで一晩同じ部屋で過ごすなどこの世界では許されないのだが、今回は看病を理由に特別に入れてもらえた。ライザーにお願いしたのだ。アーノルドもまだ病人で動けないし何も起きないと判断され、特別にベットの横に椅子を用意してもらい、そこで私は彼の看病をする。
今日寝てしまえば私は元の世界に戻ってしまうのだ。寝落ちするまで彼の傍についていたい。そう思いながら、彼の額のタオルを交換する。彼の体は大怪我から急激に回復しようとしている為、副反応として夜になると高熱にうなされているのだ。そんな彼のお世話をしていると、いつの間にか私は眠りについていた。
「……イ、……メイ起きて」
私の大好きな人の声が聞こえる。
「……メイ、起きて。起きないとこのままキスをするよ」
「……!?」
不穏な言葉を聞いた気がして飛び起きると、目の前にはアーノルドの綺麗な顔がある。
「おはよう」
「……。……キャー!! 出て行って!!」
そう言って思わず彼を叩いてしまう。
デジャブを感じるが、頭がまだ起きていないため、何がどうなっているのか分からない。何故目の前に居ないはずの彼がいるのか。私は元の世界にいるはずじゃないのか。
「まだ寝ぼけているのかな? 寝ぼけているメイも可愛らしいけど、どうやらこちらで5日目の朝を迎えたみたいだよ」
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