契約聖女は毎週異世界に派遣されています。~二重異世界生活もそろそろ終わりが来るようです~

高崎 恵

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祈り

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「アーノルド!!」

 私はアーノルドの所までフラフラの体を無理やり動かし駆け寄ると、彼の左半身が黒い邪気に覆われている。

「メイ! 浄化しろ! 恐らくドラゴンの爪の邪気に当たったんだ!」

 すぐさま彼の体に触れ、浄化の魔力を流し込む。しかしドラゴンの浄化に力を注ぎ過ぎたせいですぐに魔力が切れてしまう。

「何で! 何でこんな時に力が出ないの!? 出てよ! 浄化しなきゃならないのに!!」

「落ち着け! 深呼吸してもう一度やるんだ!!」

 そうライザーに言われてもう一度試すが、やはり浄化の力を使い果たした私の力は弱く、すぐに消えてしまう。

「アーノルドっ!! まだだよ! 仲直りしたばっかじゃん!! 一緒にやりたいこと、伝えたいことがまだまだ沢山あるのに!!!」

 今の私は彼の体に縋り付くことしか出来ない。

「何か、何か方法はないの!?」





「ライザー! めい! すごい音がしたけどどうしたの!? ってアーノルドさん……っ!」

きっとドラゴンが現れた時の衝撃だろう。みゆちゃんが心配して湖まで来てくれたらしい。しかし私にはみゆちゃんに構っている余裕がない。

「他に方法といえば、魔石と祈りのアイテムが有ればどうにかなるかも知れないが……。あとは本人の魔力も落ちてるからそれの補充もしなければならない」

「そんなっ……! 魔石はもうないのに……」

 私の手の中にある魔石は力を使い果たしたかのように真っ黒なただの石に変わり果てている。きっともう使えない。

「いや、魔石なら先程のドラゴンから取れたのがあるぞ!あとは祈りのアイテムと本人の魔力を宿したものが有れば良いんだが……。そうだ、そのブローチだ!!」

「!! アーノルドの魔力!? これだ!!」

 私は胸につけたブローチを取り出す。調査の為に別行動をする前に彼から渡された物だ。これに彼の魔力が込められているはず。

「これはアーノルドの魔力で間違い無いな。だが祈りのアイテムが足りない」

「今から作れば!!」

「それでは間に合わない」

 ライザーが苦しそうにアーノルドを見る。まだかろうじて息をしているが、どんどんか細くなってきているのを感じる。……時間が足りない。

「バカめい! あるじゃないあなたの祈りを込めて作った物が!! 彼ならめいが刺繍したハンカチを今も持っているはずだわ!!」

 そうみゆちゃんが叫ぶと、ライザーがアーノルドの服を探す。

「確かにあいつなら肌身離さずアレを持っていたはずだ。確か右胸のポケット!!」

 そう言ってライザーが取り出したのは私が刺繍したハンカチだった。

「それは……でも、ただ刺繍しただけだよ。祈りなんて……」

「めいが彼のことを思って刺繍したのでしょう! 彼の無事を祈って作ったんじゃないの!? 自分のことを信じなさい!!」

 そうみゆちゃんに言われてハッとする。そうだ、あれはアーノルドの無事を祈って心を込めて刺繍したのだ。あれが聖女の祈りのアイテムにならないなんてことはないはず!!

「ライザー! どうすれば良いの!」

「魔石をアーノルドの身体の上に載せろ!! 邪気に侵されている部分だ!! 早く! 時間との勝負だぞ!!」

 ライザーの言う通りすぐに彼の身体の上に載せる。

「そうしたらハンカチとブローチを握りながら浄化の魔力を使え! それを魔石に流し込むんだ!!」

 言われた通りハンカチとブローチを握りしめて、いつものように浄化の魔法を使う。するとハンカチとブローチの魔力が混ざりあい、心地よい魔力が流れこんでくる。その魔力を全て魔石に注ぎ込む!

「お願い! アーノルドを助けて!!」

 そう思いながらありったけの力を振り絞ると、魔石がそれに反応して眩い光を放ちアーノルドの身体を包んでいく。


「間に合った……か……?」

「アーノルド……」

 光が収束すると、邪気はなくなっており、そこには血まみれの彼が横たわっていた。かろうじてまだ息はしている。まだだ、まだ治療しなければいけない!

「ヒール!!」

 ヒールを使って治そうとしたが、彼の細い息は変わらない。

「邪気は浄化したから、後はこいつの生命力が耐えられるかどうかしかないんだっ……」

 そうライザーが声を振り絞って告げる。

「アーノルド!! 嫌だよ! このままお別れなんて嫌だ。ねぇ、起きて、また一緒に出掛けよう。夜のお散歩しよう。まだ浄化の旅だって残ってるんだよ! こんな所で終われないでしょ!?」

 彼の手を握って必死に呼びかけるが、その手を握り返してはくれない。さらに体温がどんどん奪われ、冷たくなっていくのが伝わってくる。

「ダメだって!! もう、どうしたら良いの!? ねぇ、答えてよアーノルド!! いつものように話しかけてよ! 私のこと守ってくれるんじゃなかったの!? このままじゃ私の心が壊れちゃうよ。アーノルドが居なきゃ私はダメなの!!」


「めい……。もう……」

 みゆちゃんが抱きしめてくれるが、私はそれを振り解き再度アーノルドにヒールをかけようと準備をするが、その時にかすかな声が聞こえた。


(……するの。……だったら……するのよ)


「今の声は何??」

「声? 何も聞こえないわよ? どうしたの?」

(助けたいんだったら……するの。……すれば良いのよ)


「しっ! 静かにして!」

 助けたいんだったらって言ってる! けど肝心な所が聞き取れない! 私が必死に叫ぶと辺りは鎮まりかえる。

 するとアーノルドに寄り添うように蝶が止まる。


「蝶……? あなたが話してるの?」

(助けたいなら浄化の力を内側に流し込むの。内側に流せば良いの)

「内側に流す……。でもどうやって……」

(早くしないと間に合わないよ。早く彼に力を流してあげて。そうしたら元気になるはず)

 元気になる……。一か八かやるしかない。そう決意すると、私はもう一度浄化の力をかき集め、アーノルドにキスをする。浄化の力を彼に注ぎ込むように。そして注ぎ切ったのと同時に私の意識は飛んでいった。暗い闇の中へと。



 ◇



 ここはどこ……?

 前も後ろも上も下も分らない。ただ黒い空間がひたすらに続いている。
 とにかく進まなきゃいけない、そう感じて一歩踏み出すと、かすかに声が聞こえる。その声が聞こえる方向に向かって歩いていくと、だんだん声も大きくなって聞き取れるようになってくる。



「優秀な長男が居て公爵家は安泰だな。次男なんか居ても使いどころがないだろう。娘だったらまだ違たのに」
「兄の方が優秀なんだろう? 良いなお前は自由に出来て」


「どうせお前なんか公爵家のコネで入ったんだろう」
「実力もないくせに親のコネで隊長に選ばれるなんて恥ずかしくないのか?」
「あんな顔だけの男、どうせすぐ魔物にやられてしまう」
「大人しく文官を目指していれば良いのに、なんで騎士になろうとなんかしたんだ。俺たちの良い迷惑だ」


 ……これはアーノルドを批判する人の声?
 彼が今まで言われてきた言葉?

(そう、邪気に侵されて心が弱くなっているの。彼の心まで浄化しないと元の彼は戻ってこないよ)

 また先程の声が聞こえるが、蝶の姿は見えない。本当に蝶が喋っていたのか確信はないのだけど。

「あなたは誰……?」

(そんなことより早く彼を助けないと手遅れになるよ)

 そう言われて私はさらに暗闇を突き進む。そうすると彼の姿が見えてきた。

「アーノルドッ!!」


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