契約聖女は毎週異世界に派遣されています。~二重異世界生活もそろそろ終わりが来るようです~

高崎 恵

文字の大きさ
上 下
29 / 39

アルコ山の湖

しおりを挟む
 

「はいこれ、みゆちゃんからの返事」

「おぅ、ありがとうな」

 思わずライザーの顔をじっと見てしまう。

「何だ?」

「いや、なんでもない。ただ手紙の内容はもう少し変えた方が良いと思うよ」

「なっ! 見たのか!?」

「あっ! 来週はみゆちゃんも来れるってよ!」

 そう言って逃げる。ライザーが真っ赤になって何か言ってるが知らんぷりだ。




 今回はアルコの山の湖が浄化場所らしい。湖は浄化に時間が掛かるから苦手だ。しかもあそこは火山によって出来た火口湖だと聞いている。水深がかなり深く、手強そうだ。


「ねぇ、今回の浄化は多分時間かかるよね?」

「あぁ。2週間で済めばいいがそれ以上かかる可能性も考えている。そのことも踏まえて場所を選んだ。俺たちが浄化で滞在してる間にアーノルドも合流出来る様にな」

 まだ馬車での移動中。この後馬に乗り換えるそうなので今のうちにライザーに聞きたいことを尋ねる。

「アーノルドはどれくらいで戻って来れそうなの?」

「短期決戦と言ってたから調査も2週間くらいだろう。早ければ来週には合流出来ると思うぞ」

 2週間か……。確かにこの2日で浄化しきれなければ合流できそうだ。

「わざと遅らせるなよ」

「分かってるよ!」

 そう軽口を叩きながら山の入り口まで来る。
 ここから先は場所を降り、馬で行けるところまで行きその後は徒歩で山頂の湖を目指す。山頂までは2時間あれば着くそうだ。




 馬を降りて歩くこと30分程して湖のが見えるところまで来ると、先に行ってた調査隊からストップがかかる。

「魔物の数がかなり多いです。一回魔物を討伐してからじゃないととても近づけません」

「だそうだ。どうするリドル?」

 ライザーは魔道士の代表だが、部隊をまとめて指示出しをするのは騎士の仕事だ。今回はリドルの判断が隊の判断となる。

「魔物の数はどれくらいいるんだ?」

「ざっと100匹は居るかと思います。スライム系からウルフ系まで様々な種類がいます」

 100匹はきつい。騎士達は一対一の接近戦向きで私を守りながら戦うのだし、魔道士が5人居たとしてもかなり厳しい状況だ。しかもモンスターの種類が多いと対策や防御も難しくなってくる。動きが想定しにくいし、モンスターによって弱点の攻撃が異なるのだ。


「……先にメイ様に魔物を直接浄化してもらい数を減らしてもらいます。俺たち騎士がメイ様の周りを囲って守りますので、浄化をお願いします。メイ様の浄化から溢れた範囲の魔物を魔道士の者たちで討伐して、全滅したところすぐに湖に近づく」

「あぁ。俺もそれに賛成だ。メイの浄化の力を使ってしまう分、今日の浄化が多少進まないかも知れないが、その数相手にメイの力なしでは対抗出来ないだろう。少しでも浄化が進めば魔物の発生速度も落ちるしな。メイもそれで良いか?」

「もちろん!」

 私の浄化の力は邪気だけでなく直接魔物を浄化することが出来るのだ。でも邪気を浄化しない限り無限に魔物が出続けるので、普段は魔物退治は部隊のみんなに任せて邪気の浄化に集中させてもらっている。


胸元につけたブローチに触れる。こうして遠くに居てもアーノルドのことを感じることが出来る。怖い気持ちがないと言ったら嘘になるが、彼がきっと見守ってくれている。うん、きっと大丈夫!





「行くぞ!俺とネールが先頭を行く、他の騎士隊のメンバーはメイ様を囲って守りながら前進。その後方を魔道士隊で固めて浄化しきれなかった魔物を頼む。ネール行くぞ!」

 そうリドルが叫ぶとネールと魔物を倒し、私が進む道を開けてくれる。
 魔物が見渡せる場所に立ち、浄化の魔法を辺り一面に広げて魔物を一気に浄化させなければならない。

「浄化!!」

 そう叫ぶと私の体から発した浄化の魔力が辺り一面に広がり、魔物を一瞬で浄化させていく。想定より少し多めに魔力を消費してしまったが、根本を探る力はまだ残っている。今日は根本の場所を特定するだけで終わりそうだ。浄化を進められたとしてもほんの少しだろう。そう覚悟しつつ前へと進んでいく。

「半分は浄化出来たぞ! メイ様そのまま湖の手前まで行くので、湖の浄化をお願いします! みな、いつも通りの隊列でいくぞ! 油断するな!」


 みんなが守ってくれている中、湖の表面に触れる。邪気に侵され黒く濁った水は触れるだけで悪寒が走る。周りで戦闘の音が途切れない中、それらを遮断し根本を探ることに集中する。この浄化が進まないと永遠と魔物が湧き出てしまう。


 根本を探ろうとするのだが、大体の場所は分かったが、なかなか深い所にあるらしくなかなか辿り付けない。今日少しでも浄化を進めないとまた明日も同じ状況からのスタートになってしまうのに。


「焦るな! 俺たちなら大丈夫だから、焦らずしっかり進めろ! まだ力も持つだろう!」

 そうライザーが遠くから叫ぶ声が聞こえる。深呼吸をして、もう一度ゆっくりと根本の場所を探る……そうすると何やら大きな塊にぶつかる。これが根本……? 今までとの感覚が違うので不安になるが、他にそれらしきものはない。

「見つかりました! 浄化します!」

 周りの空気がより一層緊張が走る。浄化の魔力を流している間が、魔物が次々湧き上がり1番危険なのだ。


 少しずつ根本全体を覆うようにして浄化の魔力を流す。しかしなかなか浄化が進む気配がない。いつもなら少しずつ根本が小さくなる感覚があるのだが……。浄化しようとすると抵抗し、周りの邪気を吸い取って力を保とうとしているかのように感じる。しかもこの形は何? 卵のような形……? そうしている間に頭がくらくらしてくる。

「終わりだ! 一旦引くぞ! 俺がメイ様を運ぶからネールは前を頼む。ライザー達は後ろから援助してくれ!!」

 リドルの焦った声が飛ぶが、もう意識を保ってられなかった。





「気がつきましたか? もう宿に着いています。安心して下さい」

 気がつくとベットに寝かされマーサが付いていてくれた。

「みんなは……怪我はない?」

「何人か傷は負っていますが既に治癒魔法で治療済みです。安心してください」

「良かった……。リドルとライザーはいる? 確認したいことがあるの」

「はい、呼んできます」


 あの湖は何かが変だった。何だか嫌な予感がするので、リドルとライザーにも早く確認したい。ただの思い過ごしなら良いのだけど……。何かとても良くないことが起こりそうな予感がする。この世界に来てからこういった予感は外れたことがないのだ。
しおりを挟む
こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!

未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます! 会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。 一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、 ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。 このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…? 人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、 魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。 聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、 魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。 魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、 冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく… 聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です! 完結まで書き終わってます。 ※他のサイトにも連載してます

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...