契約聖女は毎週異世界に派遣されています。~二重異世界生活もそろそろ終わりが来るようです~

高崎 恵

文字の大きさ
上 下
28 / 39

余談 ライザーの手紙

しおりを挟む
 
「不安か?」

 ライザーが心配そうに聞いてくる。

「不安はもうないよ。アーノルドを信じて待つって決めたから」

「そうか。なら良かった。今回の事件は俺たちも前から怪しい噂を聞いて、この街に来る前から調べていたんだ」

「そうだったの?」

 全然知らなかった。ライザーとアーノルドが情報を掴み、部隊で協力して調査している所に私が捕まってしまったのだそうだ。あの時部隊のみんなが誰も相手をしてくれなかったのはその調査をしていたからだったのか。

「あぁ。なのにメイが先に捕まるから焦ったぜ。まだアジトの場所も掴めてなかったからな」

「ごめんなさい」

「あぁ、でも調? お前にしてはよく考えたな。おかげで聖女の評判も鰻登りらしいぞ」

「うん。使えるものは使わないとと思って。私のせいでみんなに迷惑かけたくなかったから、聖女の権力を使ってみたの」

「あぁ、良い作戦だったと思うぞ。聖女様がそう言う限り調査の奴らは何も言うことができないからな。おかげで俺らもお咎めなしだ。感謝してる」

 ライザーに褒められるとは珍しい。ムズムズしてしまう。

「そういえばこれ、みゆちゃんからの返事だよ」

 そう言ってライザーに手紙を渡す。こっち来れないみゆちゃんにライザーは手紙を書いているのだ。それを私が郵便屋さんとなり繋いでいる。異世界との文通なんてロマンチックじゃないか。


「みゆちゃんなんて?」

「……元気だそうだ」

「あぁ、うん」


 ライザーからもらう手紙は毎回便箋何枚書いてあるのだろうと思うほど分厚いのだが、みゆちゃんからの返信はペラッペラなのだ。

「ライザーどんまい」

「……はぁ。俺の愛がまだ足りないのか」

 足りないどころか重すぎると思う。






 暫く進むと森の中で止まる。

「今日はここで野宿することにします。今回は急な変更だったので、まだ先に出発している部隊の調査が終わってないのでこれ以上進むことが出来ないのですみません」

 リドルは謝るが私は別に野宿でも構わない。

「ううん、安全を優先してくれてるのでしょ? 久しぶりの野宿も楽しみ。だってリドルの野営ご飯は美味しいんだもん」

「ありがとうございます。腕によりを奮いますね」

 そうして私は4日間移動を繰り返し、元の世界に帰っていった。次こちらに来た時には、浄化場所近くの街まで移動してくれている予定だ。


 帰る時に渡されたライザーからの手紙は、5cmは行くのではないかという分厚さだった。この世界の紙が分厚いことを考慮しても異常だと思う。


 ◇


「はい、これライザーからの手紙」

「うん、ありがとう」

 ライザーから預かった手紙を元の世界に戻ってくるとみゆちゃんに届ける。

「みゆちゃんこの手紙ちゃんと読んでるの?」

「うん? それでアーノルドと仲直りは出来たの?」

 良い笑顔で流されてしまった。みゆちゃんがこの手紙を受け取る時に嬉しそうにしている顔を見たことがない。強いて言えば一番最初に渡した時は少し嬉しそうだった……かな? 頑張れライザー。心の中で応援する。

 手紙を渡すと4日間の出来事を報告する。ライザーのことも伝えようかと思ったら全部手紙に書いてあるからいいと断られてしまった。


「なるほどね。アーノルドさんと暫く会えないのか。せっかく仲直りしたのにね。でもまぁそれくらい距離おいた方が良いんじゃないあなた達の場合」

「何でそんなこと言うの。ただでさえ週4日しか会えないのに。しかも会えていてもそんなに一緒にいれる訳じゃないし」

「だからそれがおかしいんだって。普通の恋人だって、そんなに会ってるのは同棲してるカップルくらいよ。普通社会人の恋人同士なら良くて週1、2回、予定が合わなければ1か月に数回とかよ」

 ……確かに。そう言われればそうだと思う。

「だからお互い依存してる部分があったのよきっと。少しはアーノルドさん離れして、精神的に自立しなさい」

 うん、否定出来ない。アーノルド離れ出来ないせいで今回こんなややこしいことになってしまった気もする。

「しっかり距離を置いて、大人の関係を築いていきなさい」

「うん、ありがとうみゆちゃん。やっぱりみゆちゃんが居ないと私はダメだなぁ」

 そう言うともうしょうがないなぁと苦笑して私の頭を撫でてくれる。結局みゆちゃんも私に甘いのだ。

 私はそんな人たちに囲まれて甘えて生きてきたのだろう。今後はみんなに頼らなくても大丈夫なように鍛えなければ。


「それで? ライザーからの手紙にはどんなことが書いてあるの?」

 みゆちゃんが手紙を開けたのを見てすかさず聞いてみる。

「見る?」

 そう言って一枚渡してくれる。みゆちゃん宛の手紙を見ていいのかと一瞬悩んだが、すぐに好奇心が勝って読んでしまう。


 --------


 ◯月◯日

 7時 起床 アーノルドのトレーニングに付き合う
 8時 朝食 アーノルドと旅路の確認、指示出しをする。
 9時 宿を立つ。東へ馬で移動
 12時 昼食 途中の村でもらったパンで済ます
 14時 街道沿いの宿に宿泊、巡回番で魔物を数体退治する。
 18時 宿に戻り夕食
 20時 風呂、ミーティングを済ませ自室にて魔法の研究
 23時 就寝

 ◇今日の研究成果

 やはりこちらの世界に留めようとするパワーが必要だと思われる。それを強くするには魔石が有効なんじゃないかと思い、実験中だ。


 --------


「これは何? 業務日誌か何か?」

 意味が分からない。意味が分からなすぎるよライザー。これが恋人に送る手紙? 王宮に送る業務報告書の間違いじゃなくて??

「これが1週間分、毎日何をしているか書いているわ」

「……。意味がわからない……」

「なんでも浮気してないか疑われないように、毎日の行動記録を書いてくれてるみたいなの。基本毎日同じような行動しかないし、面白くもないから書かなくて良いって言ってるんだけどね。書くんだったらちゃんと面白いネタを用意して欲しいわ。1枚目に目を通してあとは読まずに戻しているわよ」

 みゆちゃんの毒舌が炸裂している。少しライザーが不憫になる。

「私からも手紙の内容について言っておこうか?」

「本人が書きたいなら好きにさせたら良いわ。何度か言っているけど一向に変えないのよ。本当は私にもを書いて欲しいみたいだけど、それなら手紙を受け取らないと言ったら諦めたみたい」

 みゆちゃんの返事が短い訳だ。これだったらまだ恥ずかしいくらいの恋文の方がマシじゃないだろうか。ライザーって恋愛不器用なのかしら。私には偉そうなこと言ってたのに。そう思うとライザーのことを少し可愛く思い笑ってしまった。次あちらに帰った時にからかってみよう、いつものお返しだ。
しおりを挟む
こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

従者は永遠(とわ)の誓いを立てる

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
グレイス=アフレイドは男爵家の一人娘で、もうすぐ十六歳。 傍にはいつも、小さい頃から仕えてくれていた、フレン=グリーティアという従者がいた。 グレイスは数年前から彼にほんのり恋心を覚えていた。 ある日グレイスは父から、伯爵家の次男・ダージル=オーランジュという人物と婚約を結ぶのだと告げられる。 突然の結婚の話にグレイスは戸惑い悩むが、フレンが「ひとつだけ変わらないことがある」「わたくしはいつでもお嬢様のお傍に」と誓ってくれる。 グレイスの心は恋心と婚約の間で揺れ動いて……。 【第三回 ビーズログ小説大賞】一次選考通過作品 エブリスタにて特集掲載

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

【完結】シロツメ草の花冠

彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。  彼女の身に何があったのか・・・。  *ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。  後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。

恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。 キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。 けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。 セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。 キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。 『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』 キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。   そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。 ※ゆるふわ設定 ※ご都合主義 ※一話の長さがバラバラになりがち。 ※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。 ※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

三度目の嘘つき

豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」 「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」 なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘

ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。 どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

処理中です...