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救出
しおりを挟むあれから数時間、もう天窓から入るのは月の光になってしまった。でも私はまだ諦めない、彼はきっと来てくれる。私は彼のことを信じると決めたのだ。
「みんな、多分助けが来てくれるなら暗くなってからです。もうすぐ来るはずです。何が起こっても慌てないでゆっくり深呼吸をすることを忘れないようにして下さいね」
そうみんなに伝え、私も深呼吸をする。
それから暫くすると外が少し騒がしくなってくる。剣と剣がぶつかり合う音が鳴り響き、戦闘の様子がこっちまで伝わってくる。
「……きた! みんなもう少しの辛抱よ!!」
そう私が言った途端倉庫の扉が開かれる。
「来い! お前を人質に脅してやる!!」
最初に私を連れ去った男が腕を引っ張って無理やり連れて行く。彼女達が声をあげそうになるが、私は首を振って黙るように伝える。
「(だいじょうぶ)」
口の動きだけでそう彼女達に伝え、私は大人しく男に担がれて行った。倉庫は一番奥にあったらしい、戦闘の音がどんどん大きくなってくる。どうやら仲間はみんな戦闘の方に駆り出されているようで、ここまでの道に監視の者などは誰もいない。あの女性たちも戦闘が終わるまで無事でいられるだろうと安どする。
しかし部隊のみんなは無事なのだろうか。そもそも普段は魔物相手に戦っているけど、人と戦うのは見たことない。果たして人を相手にした時も彼らは強いのか。
さらに奥に進むと激しい戦闘の音が聞こえてくる。
「アーノルド! ここは俺が止めるから先に行け!! ファイアボール!!」
ライザーがそう叫ぶ声が聞こえる。アーノルド達の前には30人程の男の仲間が戦っており、奥でも部隊のみんながそれぞれ4,5人相手に戦っているのが見える。
「ちっ。騎士だけじゃなく魔法使いまでいるのか」
そう男が呟く。
「ここは任せた! 先に行く」
そう叫んで走り出そうとするアーノルドの前に男が躍り出る。
「いや、ここから先は行かせない。この嬢ちゃんがお前らの大事なやつなんだろう? 傷つけてられたくなければここから立ち去ることだ」
そう言うと男は私を乱暴に下ろし、ナイフを首に突きつける。
「アー……ノル……ド……」
「その人を離せ!! その人を傷つけたらただじゃおかない」
アーノルドと男が睨みあう。アーノルドは剣を男に向けじりじりとひるむ様子もなく近づいていく。
「……」
「……くそっ! こいつがどうなってもいいんだな!」
男はそう言うとより強くナイフを押しつけ、私の肌を傷つけた。刃が首筋にあたり、血が流れるのを感じる。幸い切り付けられたわけではなく、少しかすっただけだ。
そう安堵したその瞬間豪風が吹き付ける。
「許さない!!!! 俺の大切な人を傷つけてただで済むと思うなよ!!」
アーノルドが風魔法を剣に乗せて男を一振りで払ったようだ。気づくと男は後ろに大きく吹き飛ばされ、倉庫の壁にのめり込んでいた。
「メイ!! ごめんっ」
そう言って強く私を抱きしめるアーノルド。
「アーノルド!! 怖かった!!」
私は彼に縋り付いて、安堵で涙が溢れてしまう。彼はそれを受け止め、ポンポンと優しく頭を撫でてくれる。彼の胸の鼓動を聞いていると、少し落ち着いてきた。
「アーノルド、この奥の倉庫の中に女の人達が囚われているの」
「っ! わかった!! ライザー!! 中に囚われてる人がいる!」
「分かった! そっちは任せろ!!」
そう言うとライザー達が走って行く。男の仲間はアーノルドの剣技を見た瞬間腰を抜かしたようで、へなへなと地面に座り込んでいる。ライザーに続き、他のみんなも敵を確保すると倉庫に向かって行く。彼らが行ってくれたなら安心だ。
アーノルドは倉庫の方へは行かずに私を抱えて馬車まで運んでくれる。みんなが戻ってくるまでここで待機だ。
「メイ……本当に無事で良かった。宿にメイが居ないと分かった時本当に肝が冷えたんだ。自分から距離を置こうと言ったくせに、本当に距離が空いてしまったら不安で仕方なかった。俺はメイはいつまでも俺のことを思ってくれてると甘えていたのかも知れない」
「アーノルド。私アーノルドなら絶対助けに来てくれるって信じてたよ。来るのを信じてずっと待ってた」
「来るのが遅くなってごめん。警備の数が予想外に多くて夜まで待たなければならなかったんだ」
「ううん、それは仕方ないよ。みんなが無理して怪我をしなくて良かった。それにしてもよくこの場所が分かったわね?」
「あぁ。メイがこれを落としてくれたんだろう? 君を探している途中でこれを見つけて、その後を辿ってきたんだ」
「気づいてくれたんだ、良かった……」
私は運ばれている途中で一度目が覚めたのだ。その時に鞄に入れていた玉菓子を少しずつ道に落として行った。アーノルドが私を探してくれた時の目印になるように。
「あぁ。このおかげで早くここを突き止めることが出来たよ。よく頑張った」
「迷惑をかけてごめんなさい」
「いや、メイをなくしてしまうと思ったら生きた心地がしなかった。俺にはやはりメイが必要なんだ。……落ち着いたら話を聞いてくれるかい?」
「うん」
そう言うと強く抱きしめ、額にキスをくれる。そしてみんなが来るまで、ずっと抱きしめてくれた。
あれから女の人達も全員救出された。しかもあの倉庫には、怪しい薬物や輸入禁止の動物など違法な物が沢山あったそうだ。
その日では調べきれない為、見張りの者を数人残して宿へ戻って行った。翌日に王宮から調査の者を派遣してくれるそうだ。
捕まえた男達はライザーの魔法で拘束し、先に王宮に送りつけた。今頃取調べを受けているはずだ。
宿に着いた時にはもう日付の変わりそうな時間だった。
みんなが気を遣って私とアーノルドを2人きりにしてくれる。
「もうそろそろ帰る時間だね」
「あぁ。今回は君を傷つけてしまってごめん。俺は護衛騎士失格だな」
「そんなことない! 私にはアーノルドが必要なの!」
そう言ってアーノルドを見つめる。すると彼はいつも通りの笑顔を見せてくれる。私が一番好きな彼の表情だ。その笑顔を見ると安心する。
「またこっちの世界に戻ってきたら話す時間を作ろう」
「うん。私も話したいことがいっぱいあるの」
「ほら、今日はもう遅い。疲れているんだから早く休まないと。今日は寝るまでここでついているから」
そう言うと私の頭を優しく撫でてくれる。そしてその手の気持ち良さに私の意識は自然と落ちて行った。
「メイ……? 寝たか。傷つけてごめん。でももう二度とこの手を離さないから」
◇
翌朝元の世界に戻って準備をしていると、首に切り傷がついているのをみゆちゃんに見つかってしまい怒られてしまった。
「めいのほんっとバカ!! 今度こんな怪我したらもうあっちの世界へ行かさないからね!!」
そう怒られるが、とても心配してくれているのが伝わってくる。嬉しくてニコニコしたらさらに怒られてしまい大変だった。
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