契約聖女は毎週異世界に派遣されています。~二重異世界生活もそろそろ終わりが来るようです~

高崎 恵

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聖女と付き合うということ

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「この馬鹿!! 幻術使って行方をくらますやつがいるか!! こういう為に教えたんじゃねぇ!!」

 私を迎えに来てくれたのはライザーだった。いつもより口調が厳しく、かなり怒っているのが伝わる。

「ごめんなさい……」

「あぁ、起こって悪かった。ちゃんと反省してるならいい。来たのがアーノルドじゃなくて俺で悪かったな。さすがに俺の探知魔法じゃないと見つけられなかったぜ」

「ううん、来てくれてありがとう。私1人じゃ帰れなかったから助かった」

 素直にお礼を言うと、ため息をつきながらもライザーは許してくれた。


「それでどうしたんだ? あいつと喧嘩でもしたのか?」

「喧嘩なんかじゃないよ。私が一方的に怒ってただけで、アーノルドは別に何も言い返してもくれなかった。私の言ったことに反論もしてくれなかったんだもん」

 違う、そうじゃないって言ってくれるのを期待していたのに。結局彼は黙ったまま肯定も否定もしなかった。それは私の言ったことを肯定しているようなものだ。彼にとって私は聖女としてしか見られてないんだ。

「それで、メイがそんなに怒った理由は何なんだ」

「……言いたくない。でも私も最低だったと思う。思ってもないことを言っちゃったり、元の世界を選んだらみたいなこと話しちゃった。本当はそんなつもり全くないのに」

「あいつだってそれがメイの本心じゃないってきっと分かってるさ。とにかく宿に帰るぞ」

 ライザーがそう言って一歩踏み出すが、私は歩き始めることが出来ない。今帰ってもアーノルドとどんな顔をして会えば良いのか分からない。

「どうした?」

「まだ帰りたくないの」

「……お前そのセリフはアーノルド以外には言っちゃいけないやつだ」

「??」

「俺以外の男に言ったら勘違いされるから注意しろよ。分かったな」

 そう強く言われて慌ててコクコクと頷く。


「安心しろ、あいつには俺からちゃんと説教しといた。それでも顔を合わせたくないなら転移魔法を使って部屋まで直接送るぞ」

「そんなことで魔力使わさるのは勿体ないよ」

「別にこれくらいお安い御用だ。じゃあ転移するぞ。目を閉じろ」

 そう言われて目を閉じるとすぐに空間がぐにゃりと歪む感覚の後に浮遊感がする。転移の魔法も何度か経験しているのだが、こればっかりは慣れない。


「メイ様!! 心配したんですよ!!」

 部屋に戻るとマーサが抱きついてくる。みんなにも相当心配をかけてしまっていたみたいで申し訳ない。


「ごめんなさい。次はこんなことしないわ」

「アーノルドが悪いんです。メイ様は悪くないので謝らないで下さい」

「ううん、私が幻術使って逃げたんだもん。迷子になったのも自分のせいよ」

「いえ、そこまでメイ様を追い詰めさせたアーノルドに責任があります。メイ様今日はお部屋で食事にしましょう」

 マーサが気を遣ってくれて、その日はアーノルドと顔を合わせずにすんだ。


 次の日もマーサがアーノルドを私に一切近づけさせず、馬車に乗せられた。マーサに聞いたところ、他の隊員にも今回の話は流れているみたいで、みんなアーノルドが悪いという話になってるみたいだ。


「どうしよう。アーノルドが悪者になっちゃってる」

「アーノルドが悪いんだから当然だろう」

 ライザーに言っても同じ返答だ。

「だって私が勝手に逃げ出して迷子になったのよ! アーノルドは悪いことしてないし、私が勝手に悩んで不安になってただけなのに」

「不安にさせたのはアーノルドのせいだろう? だったらアーノルドが悪い」

「でも……」

 アーノルドが一方的に悪者にされるのは納得が行かない。

「いいか、メイ。お前は北山メイであるが、聖女でもあるんだ。そのことをこの国では切っても切り離せない。アーノルドは公爵家の息子だが所詮そこまでだ。聖女様とは格が違う」

「……」


「この国では聖女は唯一無二の存在なんだ。王様は代わりがいくらでも立てられるが、聖女は1人しか居ない。聖女様が居なければ、魔物に怯えて暮らすのが永遠に続くんだ。お前のおかげで邪気も減り、魔物も出なくなった地域ではさらに聖女様人気が高まっている」

「うん」

「メイと付き合うとはそういうことなんだ。お前がどんな思いを抱こうと、どんなにお前が悪かろうと聖女様ではなく相手が悪いと周りは思う。あいつはそのことを覚悟した上でお前に思いを告げた。だから今回みんなから非難されているのも当然だと受け止めているし、メイが悪いとかそんなことは思っていない」

 私はそんなこと全然想像していなかった。1人の人間として好きになってもらいたいって思いだけで、周りから私達のことがどう思われるかなんて想像もしていなかった。
 アーノルドがそんな覚悟で私に思いを告げてくれたのに、私は勝手に色々不安になって彼に迷惑をかけている。



「まぁそんなに心配するな。隊のやつらは、ただの痴話喧嘩だって分かってる。ただメイを迷子にさせた責任は取ってもらわなきゃならないから暫くみんなでお灸を添えてるだけだ。プライベートと仕事をしっかり分けられる奴らだから、みんなしっかりアーノルドの指示には従っているから安心しろ」

「うん……分かった」


 しかしそれ以降アーノルドと話し合うことは出来なかった。私の周りには誰かしらが来て話しかけてくれて、アーノルドからガードしていて2人きりにはなれない。

「はぁ。このまま自然消滅ってことにはならない……よね……?」


 その日はアーノルドが私の部屋の見張り番だった。ドアの内側に立ち、どうやって声を掛けようか悩んでいると、扉がノックされる。

 トントントン
「まだ起きているか?」

「うん、起きてるよ。今扉を開けるね」

「いや、良いです。このままで聞いてください」

「……うん」

 何を言われてしまうのだろうか。まさかお別れじゃないよね?

「この前はごめん。俺が不甲斐ないが為にメイが危険な目に遭うところだった」

「そんな! あれは私が悪かったの。私こそ勝手に怒って飛び出しちゃってごめん」

「いや、俺が悪かったんだ」

 そういうと暫くお互いに無言が続く。これ以上続けてもお互いが謝るだけで終わってしまうだろう。

「……ごめん、暫く距離を置きたいんだ。部隊長としてメイを街中で1人にさせてしまった今回の件の責任もある。メイのことを守りたいといった誓った言葉に嘘偽りはない。だがこの関係のせいでそれが守れなくなるならもう一度考え直さなければいけない」

「アーノルド……」

「とにかくもう一度色々考えたいんだ」

 そう言われてしまい何も返すことが出来なかった。アーノルドの気持ちを信じきれなかった私のせいだ。彼のことを信じよう、私には彼しかいないと確認したばかりなのに。私は馬鹿だ。


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