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喧嘩
しおりを挟む今日は異世界に来て3日目、昨日浄化が完了したので、また半日ほど移動してその後は自由時間となる。
今回はアーノルドも休みだから、午後は一緒に街に出かける予定だ。休みを一緒に過ごすのは2週間ぶりである。
宿に着き、準備を済ませるとアーノルドが待っている玄関に向かう。
「お待たせ! アーノルドは疲れてない?」
「あぁ疲れていないよ。それで今日はどこへ行こうか」
「うーーん、北は寒くなると思うからカーディガンが欲しいかも。服屋に付き合ってくれる?」
間もなく西の浄化が完了して、北の領土に行く予定だ。もうすぐ秋になるし、どんどん寒くなってくるだろう。
「そうだね。ガーディガン以外にも北に備えて揃えた方が良いかも知れない。色々見てみようか」
そう言ってアーノルドが歩いていくが、やはり手を繋いでくれない。私の隣、手が触れそうで触れない距離を歩く。そして私も自分からその手を掴むことが出来ずにいる。
服屋に着くと、茶色の落ち着いたカーディガンを気に入って買うことにする。少しは大人っぽく見せたいと思い、普段買わない色にしたのだ。
「その色を買うの? なんだか珍しいね。良いと思うよ。落ち着いた色も似合うと思う」
うーーん、反応もいつも通り優しい。彼はいつも優しいからそれが私に対してだからなのか、素でそうなのか分からない。
「あっこのカーディガンなら男性用も同じ色があるのか。ほら前にお揃いのものが欲しいと言っていただろう。これなら一緒に着れるんじゃないかな? 俺も買って良い?」
「お揃いのを着てくれるの?」
ペアルックを嫌がる人も居ると思うけど大丈夫なのかな?
「うん、メイはそうしたいんだろう? それにメイは俺のものだって周りにも伝わるし良いと思う」
うん、さっきまでの不安は一気に消し飛んだ。彼のたった一言で回復してしまうなんて本当に自分は単純だなぁと思う。
2人で茶色のカーディガンを買い店を出て暫く歩くと、あるお店に興味を惹かれる。
「可愛い!! これは何??」
そこにはカラフルな飴玉のようなものが置いてあった。大きさはビー玉より小さいくいの大きさなのだが、丸い玉の中心にウサギやらお花などの柄が入っている。金太郎飴のようなものかな?
「お嬢さん、これは玉菓子と言って色々な形のチョコを飴で包んでるんだよ。一個食べてみるかい?」
そう言っておじさんがうさぎが入っているものを1つくれる。口に入れてみるとピーチ味みたいだ。
「ある程度舐めたら割ってみな。そうするとチョコが出てきて2つの味を楽しめると言うわけだ」
「ふふ、面白い! アーノルドは食べたことある?」
「あぁ、小さい頃に食べたよ。懐かしい。この色んな柄が入ってるやつとか好きなんじゃない?」
「本当だ! おじさんこれ買うわ」
この世界のお菓子も買えて気分も上がってくる。買ったものを開きさっそく一粒たべる。今度はオレンジ飴にチョコ、なかなか美味しい組み合わせだ。
彼が小さい頃に食べていた味だと思うと感慨深い。今まで住んでいた世界も何もかもが違うのだ。どんな些細な事でも彼のことを知りたいと思ってしまう。そんなことを思う私は重たい女なのだろうか。
「アーノルドも一粒食べる?」
そう言ってアーノルドの口に入れようと手を近づけたが、顔をふいっと横を向かれ、要らないと断られてしまった。
「……この後はどうする? まだ夕飯には早いから、何かカフェで甘い物でも食べようか」
「それも良いけど、アーノルドは自分の買い物とかは良いの?」
先程の飴玉を断られたことを気にしない訳ではないが、気持ちを切り替える。せっかくの2週間ぶりのデートなのだ、楽しまなきゃ損!
「あぁ。防具なんかも今は消耗してないから買い替える必要ないしね。そういえばここの地域はお団子が有名なんだ」
「お団子? 食べたい!!」
「じゃああそこの店で買って、公園で食べようか」
「うん!」
「はい。メイの分はこのピーチと、メロンだね」
「ありがとう」
お団子と言って元の世界のようなクシに刺さっているアレを想像していたが、この世界のものは少し違うらしい。カットされたフルーツを牛皮に包んでそれを串で刺して食べやすいようにしているみたいだ。これはこれで好きだな。
お団子を食べて芝生でゆっくり過ごす。望んでいた恋人のような触れ合いはないが、これが私たちの距離感としてはちょうど良いのかも知れないと思い始めてきた。
「わーーー! 危ないっ!」
「え?」
「っ! こっちだ!」
子供達が遊んでいたボールが私たちのいた方向に飛んできたのだが、アーノルドが慌てて私を抱き寄せ間一髪私の横をボールが通って落ちる。
ボールがぶつかりそうになりヒヤッとしたが、久々にアーノルドに抱き寄せられてドキドキと胸が高鳴る。しかしその時間はあっという間に終わった。
私がアーノルドの胸に寄りかかった瞬間、バリっと剥がすように引き離され元の位置に座らせられたのだ。
「……」
「……」
お互い気まずい空気になる。さっきのはまるで私のことを拒絶したみたいに感じる。アーノルド自身も今の対応は不味かったと感じているのかぎこちない様子だ。
「……」
「……アーノルドは私のことが好きなんだよね?」
「あぁもちろん」
すぐ返事が返ってきて安心する。
「……じゃあ何で触れてくれないの? 私が聖女だから遠慮しているの?」
「それは…………」
「答えられないんだ……」
「……」
アーノルドは口を開こうとするが、結局口を結んでしまう。
「これなら元の世界で榊さんを選んだ方が良かったのかも知れない……」
彼なら私が聖女だとかそんなの関係なしに、私のことをちゃんと彼女として扱ってくれたかも知れない。
「さ、かき……?」
「……アーノルドは私が聖女じゃなかったとしても、好きになってくれていた?」
「それは……」
そう言いかけてまた黙ってしまう。
「もういい! アーノルドのバカ!!」
私は居ても立っても居られず、その場から逃げ出した。
「はぁ、はぁ」
アーノルドが追いかけてこようとしたのだが、幻術の魔法を使いなんとか逃げてきた。私の容姿を認識しにくくなる魔法で、普段は魔力を消費してしまうため使わないのだが、もし盗賊や誘拐にあった時に便利な魔法だからとライザーが教えてくれていた。まさかこんな所で使うとは思わなかった。
どうしよう。がむしゃらに走ってきたのでここがどこかも、宿は帰る道も分からない。しかも宿の名前もいつもアーノルド達に任せていたので覚えていない。これじゃあ人に道を聞くことも出来ない。
とりあえず近くのベンチに座り頭を冷やすことにする。
なんて馬鹿な質問をしてしまったんだろう。あんなこと聞いてもアーノルドが困るだけって分かってたのに……。しかも榊さんのことまで出して。榊さんとどうなるなんて本当に考えて居ないのに。こっちの世界に居るとそう決めているのに。1人で考えていると涙が出てきてしまう。どれくらいここにいたのだろう。あたりが段々と暗くなってきて余計に不安になってくる。
「メイっ! メイっ! いるか!?」
頭を上げると私を呼びながら走ってくる人影が見えた。慌てて手を振りここにいることをアピールする。
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