21 / 39
不満
しおりを挟む4日目間の滞在を終え、私は無事に元の世界に戻っていった。
次の週はみんなにちゃんと休んでもらいたかったので、私はあちらへは行かずに元の世界で過ごす予定だ。
「それであの後アーノルドさんとはどうだったの?」
「1番最初に浄化した場所まで連れて行ってもらったの! すごい綺麗になっていて驚いた」
「そうなんだ、私もいつかめいが頑張って浄化した場所を見てみたいわ」
今まではそういっても実現することはなかったのだが、これからはそんな軽口も本当に実現できるのだ。色々あちらの世界でやりたいことを話すのも楽しくなる。
「うん、それでねおにぎりを作って食べてもらったの」
「それは良いわね。他には何か作ったの?」
「ううん、私がそんなに料理上手じゃないの知っているでしょう。だからみゆちゃん料理教えて!」
「いいわよ! 次のお休みはこっちにいるんでしょう? 一緒に作りましょうか」
そうして私はこちらでの久々の連休をみゆちゃんに料理を教えてもらったり、異世界に移ることを考え身の回りの物を少しずつ減らしたり、仲の良かった友達に遠くに移住すると若干の嘘を加えお別れをしたりして休みを過ごした。
「じゃあみゆちゃん、今週からは浄化がまた始まるから向こうについてもお留守番になるけど本当に良いのね?」
「えぇ、よろしくね」
そう確認するとみゆちゃんを連れて行く。私はいつも木曜の夜に向こうに行って、日曜の夜に帰って来ていたのでみゆちゃんは金曜は有給を取っている。
今後も毎週とは行かないが、振休や有給を駆使して出来る限り向こうに行く予定となっている。
「そういえばライザーのどこを好きになったの?」
あのしっかり者のみゆちゃんが私みたく一目惚れとは思わない。彼女ならこっちの世界でも良い人を捕まえられるはずなのに。
「うーーん、本音を言うと今はまだちゃんと好きじゃないの。でも私のことを好きだってハッキリ言ってくれるでしょう。ほら、こっちの男の人ってあまりそういうこと言ってくれないじゃない? そこは良いなって思ったの。あとは何より私の気持ちを1番に考えてくれることね。私が口に出さないことまで分かってくれて、あの人になら私の人生を任せても良いかなって思っちゃったんだよね」
まだ好きじゃないと言いつつみゆちゃんの瞳はいつもより柔らかく、ライザーのことを思っていることが伝わってきた。2人とも私にとっては大事な人なので、上手く行くと良いな。
◇
翌週の異世界へ行く日、みゆちゃんと一緒にベッドに入る。目を覚ますと、宿屋のベットの上だった。ちゃんとみゆちゃんも隣にいる。
「みんなおはよう。休みはゆっくり出来た?」
「はい、おかげさまで久々に家族とゆっくり過ごせました」
そう答えるのは王都に家族を残して参加してくれてるザッカリーだ。
「話は聞いているかもしれないけど、今日から私の友人のみゆちゃんが加わるの。基本的には宿やテントで留守番になるからよろしくお願いします」
「山内みゆです。みなさんの邪魔にはならないようにするのでよろしくお願いします」
「みゆは俺の婚約者となる予定だから誰も手ぇ出すなよ」
そう言ってライザーがみんなに圧をかける。
「だそうだ。みゆさんはメイ様をあちらの世界で支えてくれていた大切な人だ。きちんとした扱いをしてくれ。それと……メイ様は俺の婚約者となった。旅には影響のないよう配慮するから、今まで通り頼む」
そうアーノルドが報告すると、一瞬しんとその場が静まりかえる。不安になったのも束の間、すぐに歓声が上がった。
「おめでとう!!」
「やっとかぁ、長かったなぁ」
「メイ様! 良かったですね」
みんなそれぞれ祝ってくれる。反対されたらどうしようと心配していたので、みんな受け入れてくれたようで良かった。
アーノルドと顔を見合わせて微笑むのを、周りのみんなも温かい目で見ていた。
◇
婚約してから3ヶ月。今もまだ4日滞在して3日帰る日々が続いている。
2人の関係はというと、アーノルドも私のことをメイと呼んでくれるようになり、口調も大分砕けてきた。
みゆちゃんとライザーも順調だ。
アーノルドが休みの日は一緒に街に出てデートもしている。彼は公私混同しないタイプなので、休みが合うのはひと月に2日程だ。私が休みの日でも、見回りや討伐の番にちゃんと着いている。そういう所が周りから信頼されるんだろう。その代わり夜に私の部屋の見張り番をしている時には時々夜の散歩に誘ってくれる。
トントントン
「メイ、起きている? 起きていたら少し夜の散歩しないか?」
こんな風に誘ってきてくれる。私はカーディガンを羽織一緒に外に出る。
「夜の散歩といっても街は歩けないから中庭に行くくらいなんだけど良いかい?」
「うん! アーノルドと一緒に過ごせるだけで嬉しいもの!」
そういって笑うと彼も笑い返してくれる。とても幸せな時間だ。しかし私は最近少し彼に対して不満がある……。彼が私に触れてくれないのだ。今も彼の隣を歩いているのだが、手は繋がれていない。私たちは付き合い始めて婚約もしている仲なのに、物理的な距離は相変わらず少し開いている。
アーノルドとキスをしたのもあの告白の時の一度だけ。こうした夜の散歩だけでなく、街に出ても手を繋いでくれない。私が人とぶつかりそうになると肩を寄せてくれるがすぐ離されてしまうのだ。
前までは近くで見るだけで満足してたのに、私はなんて欲張りになってしまったんだろう。
最近は浄化中も集中力を欠くことが多くて時間がかかっている。そんな私は最低だ。早くこの問題を解決しなきゃいけないのに、こんな不満を彼に直接言うのは阻まれる。
最初はこの国の人がそういうタイプなのかと思っていた。結婚するまでは触れてはいけないとかそういう風習なのかと。しかしライザーがこの前みゆちゃんと隠れてキスしているのを見てしまったし、ネールにそれとなく聞いてみても、婚約者ならキスくらいすると言われてしまった。
やっぱりアーノルドは私のことをそんなに好きじゃないのかも知れない。聖女としてしか見られてないんじゃないかと不安になる。
滞在3日目の夜にアーノルドに声を掛けて誘う。今日はテントでの野宿で彼が見張り番だった。宿での散歩では誰かしらの気配を常に感じるが、野外での散歩はみんなから少し離れたところに行けば2人きりのように感じることが出来るから好きだ。
2人でしばらく歩き、みんなのテントから離れたところに2人で座る。夜の森は真っ暗なのだが、手持ちのランプが2人を照らし出し、ここだけが幻想的な空間になっているように感じる。そして夜空を見上げると、満天の星が輝いている。
「元の世界だとこんなに星が綺麗に見えないんだよ。星が見えないくらい周りが明るいの」
「それは想像できないな。そんなに明るいなら夜になった気がしなそうだね」
そうして話をしながら彼の肩に頭を寄せる。このまま引き寄せてくれないかなって期待したけど、彼はされるがまま受け入れてはくれるが、向こうからは来てくれない。
「ねぇ……もう一度あの時みたくキスして欲しいな」
勇気を出してそう問いかけてみる。
すると彼は困ったように笑って、私の額にキスをする。違うのにと私が拗ねると、「みんながいるからごめんね」と謝られ、私はそれ以上言ったらただの我儘になると思い黙るしかなかった。
せっかく勇気を出したのに……。テントに戻ると1人涙が止まらなかった。
◇
元の世界に戻ってくるとみゆちゃんに相談する。あちらでは常に誰かが近くにいるので、こういった話はしにくいのだ。
「アーノルドさんに触れてもらえないって? 気にしすぎなんじゃない?」
「そうかなぁ」
「アーノルドさんはライザーと違って考え方も真面目そうだもの。比べる必要ないと思うけどね。もし不安なら自分からキスしてみれば良いじゃない」
みゆちゃんに相談しても、あまり深刻に受け止めてもらえない。そういえばみゆちゃんは普段は頼りになるけど、恋愛は上級者すぎて初心者の私にはハードルが高いアドバイスばかりだったんだ。
みゆちゃんみたく大人っぽく美人だったらアーノルドもその気になるのかなと少し落ち込んでしまう。聖女としてではなく妹ぐらいにしか思われてないんじゃないかと思ってきた。
0
こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
従者は永遠(とわ)の誓いを立てる
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
グレイス=アフレイドは男爵家の一人娘で、もうすぐ十六歳。
傍にはいつも、小さい頃から仕えてくれていた、フレン=グリーティアという従者がいた。
グレイスは数年前から彼にほんのり恋心を覚えていた。
ある日グレイスは父から、伯爵家の次男・ダージル=オーランジュという人物と婚約を結ぶのだと告げられる。
突然の結婚の話にグレイスは戸惑い悩むが、フレンが「ひとつだけ変わらないことがある」「わたくしはいつでもお嬢様のお傍に」と誓ってくれる。
グレイスの心は恋心と婚約の間で揺れ動いて……。
【第三回 ビーズログ小説大賞】一次選考通過作品
エブリスタにて特集掲載

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

【完結】シロツメ草の花冠
彩華(あやはな)
恋愛
夏休みを開けにあったミリアは別人となって「聖女」の隣に立っていた・・・。
彼女の身に何があったのか・・・。
*ミリア視点は最初のみ、主に聖女サシャ、婚約者アルト視点侍女マヤ視点で書かれています。
後半・・・切ない・・・。タオルまたはティッシュをご用意ください。

病弱な幼馴染と婚約者の目の前で私は攫われました。
鍋
恋愛
フィオナ・ローレラは、ローレラ伯爵家の長女。
キリアン・ライアット侯爵令息と婚約中。
けれど、夜会ではいつもキリアンは美しく儚げな女性をエスコートし、仲睦まじくダンスを踊っている。キリアンがエスコートしている女性の名はセレニティー・トマンティノ伯爵令嬢。
セレニティーとキリアンとフィオナは幼馴染。
キリアンはセレニティーが好きだったが、セレニティーは病弱で婚約出来ず、キリアンの両親は健康なフィオナを婚約者に選んだ。
『ごめん。セレニティーの身体が心配だから……。』
キリアンはそう言って、夜会ではいつもセレニティーをエスコートしていた。
そんなある日、フィオナはキリアンとセレニティーが濃厚な口づけを交わしているのを目撃してしまう。
※ゆるふわ設定
※ご都合主義
※一話の長さがバラバラになりがち。
※お人好しヒロインと俺様ヒーローです。
※感想欄ネタバレ配慮ないのでお気をつけくださいませ。

三度目の嘘つき
豆狸
恋愛
「……本当に良かったのかい、エカテリナ。こんな嘘をついて……」
「……いいのよ。私に新しい相手が出来れば、周囲も殿下と男爵令嬢の仲を認めずにはいられなくなるわ」
なろう様でも公開中ですが、少し構成が違います。内容は同じです。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる