19 / 39
婚約
しおりを挟む翌日の朝、アーノルドの両親と一緒に朝食を頂く。昨日は挨拶しかしていなかった為とても緊張したが、和やかな雰囲気で会話をすることが出来た。
「父上、食事が終わったら少し時間をくれませんか。報告したいことがあるので」
「10分くらいしか時間が取れんが、それで構わんか」
「はい、十分です。ありがとうございます。メイと母さんも同席して下さい」
「うん、分かった」
何の話をするのだろう……?
朝食が終えると、応接間に移動しメイドがお茶を4人分用意してくれる。アーノルドの両親、そして私たちが向かい合わせで座る。話が始まる前の緊張した雰囲気に、これではまるで結婚の挨拶をするみたいだなと思っているとアーノルドが口を開く。
「お時間を取らせて申し訳ありません」
「いや、それで報告とは何だ?」
「昨日メイに思いを告げ、付き合うことになったので報告をしようと思って」
本当に交際の挨拶だったのか。自分には関係ないと覆っていたので、急に私も緊張してくる。もし反対されてしまったらどうしようと不安になる。
「聖女様とお前が……?」
「はい、そうです」
「あらまあ」
アーノルドのお母さんは驚いた様子だが笑みを浮かべており、反対はされていないようで安心する。
「メイ様、本当にこやつでいいのですか? 昔から剣にしか興味を持たず、それ以外は取り柄のない男ですが」
「いいえ、私はアーノルドが良いのです。彼以外には考えられません」
「メイ……」
暫く試すかのように私を見つめるお父様。負けじと私も見つめ返し、真剣な強い思いであることを伝える。そうしていると、ふとお父様の表情が和らぐ。その優しい顔はやっぱり彼に似ていた。
「これはこれは、余計な心配だったみたいですな。そこまで息子の事を慕ってくれているとは。我々も2人を祝福する。アーノルド、聖女様と付き合うのだ、しっかりしろよ」
「はい、もちろんです」
良かった。お父さんにも反対されずに私たちの事は認められたみたいだ。
「ところでこのことはもう王には報告したのか?」
「まだですが……」
「聖女様とのことなんだ。ちゃんと報告した方が良いだろう。今から私と一緒に登城して挨拶しよう。すぐに準備なさい」
というやり取りがあり、急遽王様にも会うことになった。こちらの展開も早すぎてついていけない。アポイントもなしに王との面会を取り付けるなんてさすが宰相様だ。
「おぉ。先週振りだな。こんな頻繁に会うとは思わなかったぞ」
私も思いませんでした、すみません。
「まぁライザーからの報告で2人に関しては聞いていたから驚いてはいない」
「任務中であるにも関わらず、メイ様とこのような関係になってしまって申し訳ありません。降格でも、部隊の離脱でもなんでも受け入れる覚悟です」
そうアーノルドが告げるので慌てる。
彼がいなくなったら浄化の旅を続けていけない。
「そう固く考えんで良い。聖女様を一番近くで支えてくれたのだ、お互いを好き合っても不思議はない。むしろ聖女様の相手を無理やり引き離したらわしが悪者扱いされてしまうわい」
そう王様が笑ってくれて安堵する。本当に話のわかる人で良かった。
「アーノルドが婚約者ならこちらも安心だ」
「婚約者ですか……?」
「俺はそのつもりだったんだけど、メイは違ったの?」
そう悲しそうな声で言われ言葉に詰まる。確かにこの世界の貴族では、付き合ってからの婚約ではなく、婚約してから付き合いが始まるのが一般的だった。
「いえ、私もそのつもりです」
アーノルド以外に結婚など考えられないのだから、今婚約しても問題ないだろう。
「では問題ないな。国王ルイ・ウィルソンの名において、公爵家次男アーノルド・ワットソンと聖女メイの婚約を許可する」
そう言うと魔法で契約書のようなものが浮かび、アーノルド様がサインをするので、それを真似て私もサインをする。
「ではこれにて婚約は結ばれた。もし万が一この婚約を解消したい場合にも私の許可がいる。まぁそのようなことはないと思うがな」
王様にも祝福してもらい、王宮を後にする。
その後アーノルドの馬でライザーの家に寄ってもらい、みゆちゃんと再会した。
「みゆちゃん、なんだか眠たそうだけどどうしたの?」
「うん? 眠らせてもらえなかったのよ。ほら、寝ると元の世界に戻っちゃうから。めいはちゃんと眠れたの?」
「うん、公爵家のベットはふかふかですぐに寝ちゃった!」
「……そう。良かったわね」
みゆちゃんは今日もこの世界に留まれているらしい。ライザーも嬉しそうにしていて良かった。
その後みゆちゃんと2人きりにしてもらって今後のことを話し合う。
「みゆちゃん今後どうするの? 本当にこっちに来てこちらの世界に住むの?」
「えぇ、めいと同様に元の世界に未練もないもの。めいが居ないならあっちにいても仕方ないわ。だったらめいもいて、ライザーさんがいるこっちの世界の方がよっぽど良いわよ」
「でも仕事も頑張っていたのに……」
みゆちゃんはずっとデザイナーの仕事をしたくて、専門学校を出て就職した。今の会社ではその夢であった子供服のデザインの仕事につけて、やり甲斐を持って働いてたはずだ。私と違って仕事に責任を持っていたのに。
「確かにずっとやりたかった仕事だけど、こっちで出来ないこともないかなって。私はメイと違って力もないから、一から頑張るしかないけど新しいことに挑戦するのも楽しそうじゃない。それにね、会社なんて所詮代わりがいくらでもいるのよ」
「そんなことないよ。みゆちゃんは色々仕事任されていたし、実績だって1番で社内表彰されていたじゃない」
「まあ今は私が売り上げトップだしね。でも次から次へ新しい人は入ってくるし、私が抜けてその一瞬は大変かもしれないけど、結局いずれ他の誰かが私の穴を埋めるようになるの。私じゃなきゃダメなんていう仕事は結局ないのよ。だったら私を必要だと言ってくれる人のそばに居たいじゃない。めいならその気持ちわかるでしょう?」
そう言うみゆちゃんはもう心を決めているようだった。本人がこう言っているのだから、私がとやかく言うことじゃないのだろう。それに私もみゆちゃんと離れなくて良いと思うと心強い。
「じゃあみゆちゃんもライザーと婚約するの?」
「いえ、私達は婚約出来ないわ」
「え? どうして?」
「ライザーさんは侯爵家の方よ。かたや私は異世界から来たどこの骨かもわからない女。私が実績を残すまで婚約は認められないでしょうね」
「そんな……」
確かにみゆちゃんは私と違ってこちらの世界に来ても何も生活の保障がないのだ。それなのにこんな大きな決断を出来るなど私では考えられない。
「別にそこはそんなに気にしてないの。元々結婚願望もそんなになかったし。今はどうやって異世界で生活するかの方が重要よ」
「……うん。そうだね」
「魔法を使える世界なんて夢みたいじゃない。色んな可能性が溢れていると思うわ。とてもわくわくしてるの」
みゆちゃんが目をキラキラと輝かせている。それは仕事のことを楽しそうに話してくれる時の表情と同じだった。きっと心から楽しみに思っているのだろう。その表情をみて、みゆちゃんの決めたことを私も応援しようと決めた。あっちの世界で助けてもらった分何かあったら次は私がみゆちゃんのことを助ける番だ。
それからアーノルド達も含め今後のことを話あった。
今回みゆちゃんがどれくらいこの世界にいられるか調べ、次回からは私の召喚と一緒にみゆちゃんも来てこの世界に少しずつ馴染むようにしていく作戦らしい。それと同時並行でライザーがこちらに引き留める手段を探すという事だ。
私が浄化に行っている間はみゆちゃんは宿やテントでお留守番する予定だ。いつも荷物などの留守番として部隊から1人置いて行くので、何かトラブルに巻き込まれる心配もないだろう。
その日の晩にみゆちゃんは元の世界に戻っていたと、翌日屋敷にきたライザーが悲しそうに教えてくれた。
0
こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる