18 / 39
告白
しおりを挟む「じゃあメイが好きなのは……誰?」
私はその問いに答えることが出来ず、じっとアーノルドを見つめる。その質問はどういう意味? 私のことを気にしてくれているの?
「それは……。私が好きなのは……」
緊張してしまって最後まで告げることが出来ない。私が好きなのは目の前のあなたなのに。私がそう言ったらあなたは受け入れてくれるの?
「いや、違うな。誰が好きかとか、もうそういう問題じゃないんだ」
「……?」
私はじっと彼のことを見つめる。暫くすると彼は決意をしたかのような強い瞳でその口を開く。
「俺じゃダメかな。他の人に任せたくない。俺がメイのことを守りたいんだ」
アーノルドの言葉に私の胸が高鳴る。ドキドキと心臓がうるさい。
「それ……は、どういう意味……なの?」
「メイ、俺は君のことが好きなんだ。君を他のやつに渡したくない」
そう言われた瞬間、まるで沸騰したかのように体が熱くなる。
「それは……私が聖女だから?」
でも臆病な私は彼の言葉でまだ安心できない。欲張りな私は1人の女性として好かれることを求めてしまう。
「もちろん聖女であるメイも大事だよ。でも俺は1人の男として、君の横に立ちたいんだ。1人の女性としてメイのことが好きだよ」
その言葉を聞いた瞬間、私は涙が溢れてしまう。ずっと、ずっとずっと欲しかった言葉だ。
「私もっ! 私も……アーノルドのことが好き。……ずっとずっと好きだったの」
そう言って私は彼に抱きつく。彼は私を受け止めて優しく抱きしめてくれる。
「……本当に? 嘘だろう。本当に?」
「本当に決まってるじゃない。私だってずっとアーノルドの横に並びたかった! 聖女じゃなくて、メイとしてアーノルドと一緒に居たかったの。でもこの気持ちは迷惑かと思ってずっと言えなかった!」
「てっきりメイは俺の顔が好きなだけなのかと思っていたよ」
そう言って苦笑するアーノルド。
うん? 私の好きな気持ちバレていたの??
「初めて会った時から、俺の顔をじっと見ているのは感じてたし、旅の最中も俺の顔をよく見てるなって思ってたよ。だから俺の顔が好きなだけで、俺自体には興味ないのかと思っていた」
私はそんなに分かりやすかっただろうか。確かにそれではみんなにもバレバレだろう。
「そんなことないよ。確かに顔はめちゃくちゃ好きだし、ずっと見てられるけど。最初は一目惚れだったけど、今はアーノルドの優しいところも、笑顔も、私に甘いところも含めて全部が好き」
そう私が言うと珍しく彼の顔が赤くなる。
「見ないで欲しい。そこまで言われるとさすがに照れる」
「あとは、強いところも、時々抜けてるところも、朝が少し弱い所も全部全部好きなの!」
照れたアーノルドなんて貴重過ぎる。私は遠慮なく近くでアーノルドを堪能する。そうすると彼は横を向いて顔を隠してしまう。
「私だってアーノルドは私のことを聖女として大事なだけで、女だって認識されてないのかと思ってたよ」
「そんな訳ないだろう! 意識してるから他の奴に身体を触らせないようにしてたんだ」
「もしかして毎回アーノルドが運んでくれたり、馬に乗せてくれてたりしたのはそういう理由?」
てっきり彼が隊長だからそうしてくれているだけかと思っていた。まさか独占欲を感じてくれていたのだろうか。
「そうだよ。別に他の奴に任せても問題ないけど、俺が嫌だったからそうしていたんだよ」
そう少し拗ねたように言ってる彼も可愛すぎる。私は鼻血が出ないかと心配になってきた。
「確かに最初は聖女として大切に思っていた。しかし次第に1人の女性として守りたいと思っている気持ちに気付いたんだ。でも真剣に浄化に向き合う君にそんな邪な想いを持つのは騎士として失格だと思っていたよ。浄化の力を捧げる君は本当に綺麗で、神秘的で、そんな姿を見るたびに気持ちに蓋をしていた」
そんなことを思っていたのか。確かに真面目なアーノルドらしい。騎士としての彼は、私に想いを持つこと自体罪深いことだったのだろう。
「それに君が居るべき場所はここじゃないと思っていたしね。元の世界にいなきゃいけないのに、自分の気持ちを告げて君の心に負担をかけたくなかったんだ。君はきっと僕の気持ちに応えられないことを悩んでしまうと思ってね」
「そんなことないのに!」
「あぁ。でもあの時はそう思っていた。そうしたら君はこっちの世界で暮らしていくと宣言するし、かと思ったらライザーに結婚を申し込んでるしで、もうなり振り構っていられなかった。自分の気持ちを何も言わずに、ライザーの横に立つ君を見たら絶対に後悔すると思ったんだ」
そう熱い眼差しで言われて私の体も熱くなってしまう。
「もう遠慮もしないから。俺だけのメイでいてくれ」
そう耳元で呟くと彼の顔が近づいてくる。
私はそっと目を閉じて彼の口づけを受け入れた。
顔が離れていくと、お互い真っ赤な顔をして微笑み合う。あぁこんなに幸せな日が来るとは思って居なかった。生きてて良かったと初めて心から思えた。
それから私たちは丘の上で暫く思い出話にふけっていた。3年も一緒にいたのだ、話は止まらなかったが、その間も私たちの手は繋がれていた。以前は埋まらなかった拳一つ分の距離を、やっと今日近づけることが出来たのだ。
夕方彼の屋敷に帰ってくると、すでにライザーとみゆちゃんがいた。
2人仲良く手を繋いでいる。あれ? なんかおかしくない?
「実は私たち付き合うことにしたの」
「えっ!? みゆちゃん!?」
「あぁ。ちゃんと将来のことも考えている。俺の魔法の才能があれば、こっちの世界にずっと居座れる魔法だって見つけるはずだ。なんとしてもな!」
待って、みゆちゃん。あったその日に付き合うって、しかもこっちに住むつもりって嘘でしょ!? 異世界に引越しってそんな簡単に決めること!?
「あなた達も進展があったみたいね。おめでとう! 今度お祝いしなくっちゃ」
私たちの変化にも気づいたみゆちゃんが嬉しそうに言う。
「ありがとう……ってそうじゃないでしょ! 正気なの!?」
「うん、本気よ」
確かにライザーは根は真面目な良い人だし、3年間一緒に過ごした仲だ。彼にならみゆちゃんを任せても良い。でも人のことは言えないが、異世界で結婚って、そんな簡単に決めて良いの……?
その後、今日はライザーの屋敷に泊めてもらうといって、みゆちゃん達は去っていった。
「あの2人……大丈夫なんでしょうか?」
びっくりし過ぎて思わず敬語が出てしまう。
「俺も予想外な展開すぎてついていけない……。気が合いそうだし大丈夫なんじゃないかな」
両思いになって嬉しかった気持ちも、驚きのあまりどこかに飛んでいってしまいそうだ。
「ねぇ、俺と2人だってこと忘れてない?」
「!! そんなことないよ!」
「そうかな。2人のことに驚いて俺の存在を忘れてたみたいだから、少し寂しかったな」
そう微笑まれまた私はすぐにアーノルドのことで頭がいっぱいいっぱいになる。
「そのネックレスずっと着けてくれてるんだね」
そう言うと、彼が以前プレゼントしてくれた花のネックレスに口付ける。
「今度はもっとちゃんとした物をプレゼントするから、その時は受け取って欲しい」
「……はい」
きっと私が彼に勝てる日は来ない気がする。その晩私は今日一日のことを思い出し、なかなか寝付けずに次の日を迎えた。
0
こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる