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王宮への帰還
しおりを挟む翌日の朝、宿らしき所のベットの上で起きる。
昨日ラッピングしたハンカチも無事にこっちに持ってこれたようだ。無くさないようにテーブルに置いてある私の荷物に入れておく。
支度を整え部屋を出るとアーノルドが扉の前で待っており、いつも通りみんなの待つ部屋まで案内してくれる。
「今日はこの先の村の畑の浄化をお願いします。そんなに広くない場所ですので恐らく1日で浄化が終わると思われます。そして浄化が終わり次第王宮へと出発する予定です」
結構忙しい1日になりそうだ。
「ここから王都までは2日あればつける。明後日には王宮に入り、その翌日にメイは王様との面会予定だ」
もう4日いることが前提で日程が組まれている。ライザーがそう言うのだから、今日から4日滞在になるのは確実だと思っていいだろう。
「分かりました。みんな今回もよろしくね」
軽い朝食を食べると早速出発する。
今回は宿から徒歩で行けるみたいなので、みんなで列になって移動する。
「聖女様がいる! ついにこの土地に来てくださったんだ!!」
「本物よ! 見て、本当に黒髪なのね。とても可愛らしいわ!」
「お母さん、聖女様が来てるって本当ー? どこにいるのー?」
隊列が目立つのか、街道を歩いていると村の人達が集まって騒いでいるのが聞こえる。
私は民衆の前に出ることがほとんどないので、こうして人前に現れるとなると人集りが出来てしまうのだ。でもそうなると浄化に集中しにくいので困ってしまう。
「聖女様はこれから畑の浄化に向かう! 浄化の力に集中する為、これより先はしばらくの間立ち入り禁止とさせてもらう!」
そうアーノルドが大きく宣言してくれると、すかさずライザーが魔法で土壁を作ってくれる。これで浄化に集中出来そうだ。
畑に着くと、そこは元が何の植物が埋まっていたのか分からないほどドロドロした邪気に覆われていた。
触りたくないのをぐっと堪えて土に触れる。目を瞑り邪気の根元を探っていく。ここは遠そうだ、もっと近い場所があるはず。そう思いまた別の畑の区域まで行き再度根元を探す。その作業を何回か繰り返すと、根元に直接触れられるくらい近い場所を見つけた。
「ここだ。浄化を始めます!」
私が浄化の力を使い始めると、アーノルドたち守りの騎士や魔道士達の緊張も高まる。浄化している間は、その力に抵抗するかのように魔物が一気に押し寄せるのだ。
どれくらいそうしていたか分からないが、気持ち良い風が顔に当たるのを感じる。浄化が終わった証拠だ。邪気周辺の空気が浄化され、気持ちよく感じるのだ。
「終わりました。今日はまだ余力があるので、畑に浄化の力を注ぎます」
そう言うと再度土に触れ力を流し込む。邪気がなくなったが、カサカサに乾いてひび割れていた地面がふかふかの土に変わっていく。これでこの土地もすぐに使えるようになるだろう。
力を使いふらつく私をアーノルドが支えて歩いてくれる。先程の土壁のところまで来たが、残っていた騎士達のおかげで人集りはもうない。流石に弱っている姿を民衆に見せたら心配させてしまうから誰もいなくて良かった。
宿に着くと、いつも通りお粥を用意され、一休みする。食べ終わったらこの後は馬車に乗って移動しなければならないので、無理矢理お粥を流し込んだ。
私が食べ終えて一呼吸置いたのを確認すると、アーノルドが抱きかかえた私を馬車まで運んで下ろしてくれる。
「いつもごめんね」
「いや、本当は休ませてあげたいんだけど、慌ただしくてすまない。こまめに休憩を入れる予定だから、もし体調が悪ければ無理せず伝えて欲しい」
「分かった。ありがとう」
馬車に乗り込むと待っていたライザーが話しかけてくる。
「もう心は決めたのか?」
「うん、決めたよ。私はこっちに残ることにした。だから今まで通り毎週こっちに呼び出しをお願いね」
「そうなのか。メイがそう決めたなら反対しない。アーノルドにはもう話したのか?」
「いえ、まだ話す機会がなくて言えてないよ」
「王都には昼過ぎには着く予定だ。そこに着いたら護衛を数人残して他の奴は一時休暇に入る予定になる。それまてまにアーノルドと話す時間を作ってやる」
「ありがとう! 助かる!」
そうして途中休みつつ、移動を進め、3日後のお昼には王都に着いた。
「ではこれから王宮へ入る。王宮で王様との全員の謁見が入る予定だ。王宮に入ったら一度休憩を入れるから身なりを整えるように」
アーノルドがみんなに指示をしている。こういう部隊への指示出しの時等は口調がいつもより厳しくなるのだが、それもカッコイイ。仕事が出来る男って感じだ。
「メイ様はいつもの聖女のワンピースで構いません。一度湯に浸かりゆっくり休んでからお越し下さい」
「分かったわ」
王宮に入るとマーサだけが私の側に残り、他の人は別室へと案内される。
「マーサは準備をしなくて良いの?」
「私はメイ様がお湯を浴びてる間に準備をするので気にしなくて大丈夫ですよ。ではメイ様のお部屋に案内しますね」
そう言われ、私は王宮の侍女に湯浴みをて伝わってもらう。前回手伝ってもらった時は恥ずかしくて抵抗したのだが、彼女達は湯浴みでマッサージまでしてくれ、それがとても気持ち良いのだ。その気持ち良さを知ってしまってからは抵抗することなく身を任せている。
身支度が終わると謁見前の待合室に案内される。そこには正装に身を包んだみんなの顔があった。
アーノルドは安定の格好良さだ。初めて見た時と同じ、白いパンツにジャケット。裾や襟に金の刺繍が施してあり、ジャケットには3本の青いストライプが入っている。このストライプが騎士や魔道士の格を示すそうだ。さらにジャケットの上からマントを羽織っており、その美しい姿に鼻血が出そうだ。
「うん? どうかした?」
私の熱視線に気づいたのか、話しかけてくれるのだが、カッコ良すぎて言葉が上手く出てこない。私の口よちゃんと動け。
「また見惚れてるの?」
そう言ってくすっと笑うと、見せつけるかのように前髪をかきあげて、その素晴らしい顔を私に向けてくれる。サービス精神旺盛過ぎる、供給が多すぎて私の頭はついていけない。
「俺なんかよりメイ様の方が何倍も素敵ですよ」
そう耳元で言われてもうどう反応して良いか分からない。私は助けを求めライザーの方に向かった。うん、決して逃げた訳じゃない。カッコ良すぎるアーノルドが悪いのだ。
ライザーは黒のパンツとジャケット。騎士団は白、魔道士団は黒と別れているそうだ。
ジャケットには白いストライプがこちらも3本入っている。団長クラスが3本、中堅クラスが2本、新人の中で功績をあげたものが1本、新人は無印からスタートするそうだ。ライザーの金髪と黒のマントが良くあっている。こちらもモテそうだ。
「ネールは1本になったのね」
そう私が声を掛けたのは、この部隊の中で唯一の同い年のネール。あとは全員年上だ。彼は初めて会った時は無印だったはずだ。
「あぁ、部隊での活躍が認められてな。メイちゃんのおかげだ」
彼は最初の頃気軽に話せた唯一の人なので、その時に私のことを様付けで呼ばないようお願いしたらメイちゃんと呼んでくれるようになった。こっちの世界での男友達のような存在だ。
しばらくすると、王への謁見室に案内される。アーノルドとライザーを先頭にみなで並んで入る。
王様からは3年間への慰労と感謝の言葉が告げられ、皆にボーナスの臨時支給と2週間の休暇が言い渡された。今日は王宮で晩餐会も開いてくれるらしい。
割と呆気なく謁見が終わり、待合室に戻った後各自解散となった。皆と浄化の旅に出るのは3週間後だ。その間ゆっくり休んで欲しい。
そして今はアーノルド、ライザー、マーサと打ち合わせ中である。
明日の王様との面会が終わるまでは3人は私の護衛として残ることになった。
来週以降も私がこちらに来たければ、付き添ってくれるらしい。それで来週以降の予定をどうするか決めている。
「向こうにいてもすることないんだけど、こっちに来てもみんなの休みがなくなっちゃうし迷惑だよね」
「別に休みはたっぷりあるし、案内することは迷惑なんかじゃないよ」
そうアーノルドが優しく告げてくれる。
「そうだ! 向こうの私の友人がこっちに来てみたいって言ってたんだけど、連れてくることはできる? 浄化しなくて良いなら連れてきても良いのかなって」
「メイと手を繋いだりくっついて寝てくれれば恐らくは連れてこれるだろう。だがその人がどれくらいこの世界に留まれるかは俺にも分からないな」
「そうだよね……」
私はこの国に必要とされているから何日か留まることが出来ているけど、みゆちゃんを連れてきてもすぐにあちらの世界に引っ張られる可能性がある。
「まぁ眠りに着くまでは戻ることはないだろうから、一度連れてきても問題ないだろう。では来週はいつものように呼び出すからそのつもりでいてくれ」
「分かった、ありがとう」
「呼び出し場所はアーノルドの実家の屋敷で良いか? お前んちなら何人増えても問題ないだろう。聖女様の警備も問題ない」
「あぁ、わかった。家には事情を話しておくよ」
私の意見を聞かぬ間にアーノルドの実家お泊まりが決まってしまった。どうしよう、何を着ていけば良いのか悩んでしまいそうだ。
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こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
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