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移動中の過ごし方
しおりを挟む「おはようございます。無事に帰れたようで良かったですね」
「うん、ありがとう。今週もよろしくね」
また異世界へと派遣された私は今週も湖の浄化に取り掛かる予定だ。
今日もアーノルドの馬に乗せてもらい湖まで移動する。先週距離が縮まったと思ったが、やはり浄化の間は喋る機会がほとんどない。
湖に着くとアーノルドが下見を終え、各自守りの体制に入る。私はいつも通り息を整え浄化を始める。向こうにいた期間が短いから浄化に影響するかと心配したが問題はないようだ。しかし、その日も浄化の途中で限界がきて、アーノルドに抱え上げられ運んでもらい宿に着く。今日もやはりお粥だ。
「はい、どうぞ」
そう言うとスプーンにすくったお粥を口まで運んでくれるアーノルド。いつもだったら素直に甘えてしまうのだが、この前のデートの時を思い出し恥ずかしくなってしまう。
「自分で食べれるから大丈夫だよ」
「……どうぞ気にせず」
結構押しが強い。暫く無言の睨み合いが続くが、彼が折れてスプーンを置き、お粥の器を近くで持っていてくれる。私は自分でスプーンを手に取り口にしようとしたのだが、上手く力が入らず落としてしまう。それを見たアーノルドは良い笑顔でじっと私を見て、無言のプレッシャーを掛けてくる。
「…………すみませんでした。やっぱり食べさせてください」
「はい、喜んで」
そう言って笑顔であーーんをしてくれる。……最初から素直に食べてた方がダメージが少なかった気がする。
◇
翌日の浄化で、なんとか湖全ての浄化を終えることが出来た。黒かった水面は綺麗なエメラルド色をしている。
今回は余力があった為、綺麗になった水面にもう一度浄化の力を流し込む。こうすることで、自然の回復力を高めることが出来るのだ。今は邪気に侵されていた為、魚や水草なども見ることが出来ないが、暫くすればまた通りになるはずだ。
宿まで着くと、今日はみんなと一緒に夕食を頂く。ただ私は浄化の力を使って疲れてはいるので、みんなとは別メニューだ。お粥とフルーツ……悲しくなんてないんだから! ぐすん。
「明日についてですが、めい様には申し訳ないんですが次の浄化先への移動に付き合ってもらいたいんですがよろしいですか?」
そうアーノルドが告げる。口調も以前のように戻っていて悲しい。
「うん、そうしないと次の派遣の日に間に合わないのでしょう? 大丈夫だよ」
「ありがとうございます。一応次の街には昼過ぎには到着するので、その後は自由にして頂けるかと思います」
「分かった、ありがとう」
そうして私は部屋へと戻って眠りについた。元の世界に帰っているかもと思って寝たのだが、翌朝部屋へ確認にきたアーノルドの声でまだ異世界へいるのだと分かる。
「それでアーノルドと進展はあったか?」
そう不躾に聞くのはライザーだ。今日の移動は私の体調も考えて馬車である。馬車の中は魔法で護衛が出来るライザーの担当なのだ。だから私はライザーと過ごす時間が1番多い。
「ライザーも私の気持ちを知ってたの?」
「あぁ。本人以外全員気づいているぞ」
穴があったら入りたい。
「何でそんなにバレバレなのに本人は気づいてないのよ」
逆に本人も気づいてくれたら意識してくれるかも知れないのに。そんなことを考えてしまう。
「あいつは昔からモテるからなぁ。そこら辺の好意には慣れ過ぎて鈍感なのかも知れないな。くそ、あいつを殴りたくなって来た」
「やめてよ。アーノルドは何も悪くないのに。でもそうなのね、やっぱりアーノルドはモテるんだぁ」
あの見た目に聖女の浄化部隊の騎士代表に選ばれる実力だ。モテないはずないだろう。
「あぁ。奴は公爵家の次男だしな。跡取りではないにしろ、浄化が終われば何かしらの爵位を与えられるだろうし、優良物件だな」
「公爵家の次男……知らなかった」
アーノルドは自分のことはあまり話してくれない。でもこんな基本的なことも知らなかったなんてショックを受ける。
「あぁ、みんなここでは身分に関係なく聖女様に仕えることを誓ってるからな。そういう俺も侯爵家の三男だ。俺も浄化が終わった矢先には爵位をもらえる予定だ。どうだ、アーノルドがダメなら俺にしないか?」
「ライザーは私みたいなのじゃなくて、お姉さんタイプの美人が好きなんでしょ? 冗談言わないで」
私はどちらかと言うと可愛い系のタイプとみゆちゃんに言われている。みゆちゃんとずっといたせいか、お姉ちゃんがいる妹タイプだと言われることが多い。本当の私は恐らく一人っ子なのだが。
「あぁ確かに美人の方が好きだが、お前の嫁ぎ先がなかったら貰ってやるよ。まぁ聖女様なら引く手数多だと思うがな」
「私は聖女としてじゃなくて、北山めいとして好きになってもらいたいのよ」
「?? 変わらなくないか?」
この人もみゆちゃんと同じタイプらしい。もし2人が会うことになったら気が合いそうだ。みゆちゃんの好みをあまり聞いたことはないが、こういう口調が悪いが親切な人も嫌いでは無いと思う。
そうして移動しながら軽食を取り暫く走ると小さな街に着いた。
「ここが今日泊まるイースの街だ。宿はもう押さえているから、自由に楽しみ帰ってきたらいい」
「そうなのね、ありがとう」
「今日はアーノルドが警備番の日だから俺が付き添いになるけど良いか?」
「うん、よろしくお願いね」
そうライザーが告げ、一緒に街に出る。本当はアーノルドが良かったが仕事なら仕方がない。彼らはこうして街に出た時には街の警備をしたり、次の街まで危険がないか先回りして調査したり色々しなければいけないらしい。
「話には聞いてたけど、本当にみんな休みなく働いているのね」
「めいだって向こうに帰ったらずっと働いているんだろう? それと同じだ」
「でも私は1日休んでるし。みんなはこうして半休みたいのが多いんでしょ?」
私が週2日しか来れないために、次の街まで休みなく移動して、無駄がないようにしているのだ。
「あぁ。でもこれは俺たちの国の問題だからな。めいに散々助けてもらってるのに、俺たちがこうして頑張るのは当たり前だろう? それに浄化の旅が終わったらさっきも言ったように俺たちには褒賞金やら何やらが出るんだ。だからそこまで気にするな」
そう言われてしまえば、私がとやかく言う話ではないのだろう。気持ちを切り替え街探索を楽しむことにする。
「どこか見たい店はあるか?」
「うーんやっぱり日用品が欲しいかも。今まで使わなかったけど鞄とかお財布とか欲しいな。でもみんなの荷物になるからやめた方が良いかしら」
「それくらい邪魔にならない。むしろ今までが少な過ぎたんだから遠慮せず買え」
私のこっちでの荷物は部隊のみんなに移動中は預けている。お金だけは何かあって揉めるのが嫌だから元の世界まで持って帰っているのだ。私が身につけているものは一緒に元の世界へ行くので、いつもポケットにお金をいれて、この前は聖女人形を抱いて寝た。
「だったら買っちゃおうかな。売ってるお店があったら入りたい」
「わかった、じゃあ行こう」
こうして私は雑貨屋に入り、斜めがけのポシェットタイプの鞄と、緑色の長財布を手に入れた。これはちゃんと自分のお金で買ったやつだ。
「夕飯はアーノルド達と待ち合わせしている店があるからそこで食べるぞ。こっちだ」
着いて行った先の酒場ではもうみんなが集まっていた。何人か居ないが彼らは夜の警備組だそうで、昼間寝て今はもう警備に当たってるそうだ。
「その鞄はライザーに買ってもらったのですか?」
「これは私が自分で買ったの! 結構可愛くて気に入ってるの」
「それなら良かったですね」
そうアーノルドと会話をして席に着く。やっぱり1日長くいる分、前よりも会話が出来ていて嬉しい。
その後宿に戻り眠りに着くと、翌朝には元の世界に戻っていた。
そんな2泊3日の異世界生活をして、早くも1か月が経とうとしていた。
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こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
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