2 / 39
浄化の作業
しおりを挟む「今いる場所は湖からどれくらいのところなの?」
「約1キロ程離れた所です。道が細いので馬での移動となりますので、俺の馬に乗って下さい」
「分かった。よろしくお願いします」
そう言ってアーノルドの前に乗せてもらう。背中に体温を感じ、彼の腕に挟まれドキドキする。
召喚される時は、浄化場所の近くまで浄化部隊が移動してくれている。私の移動をなるべく短くする為だ。私が元の世界に戻っているうちも、彼らはずっと移動続きで大変そうだ。
馬車での移動時は、私と魔道士が馬車の中に乗り、騎士であるアーノルドは外での警備に着く。今日みたいな馬での移動中はアーノルドの馬に乗せてもらうが、かなり揺れるので話す機会はない。その為もう3年も一緒にいるのに、彼との距離は未だに縮まらないのだ。
暫く走ると大きな湖が見えてきた。その手前にある林の中で馬を止める。
「着きました。ノイス領の湖、ノーイ湖です。近くに魔物が出るかも知れないので少しお待ち下さい。確認してきます」
そういうとアーノルドは先頭に立ち、湖の方を確認しに行く。遠目から見ると魔物は感じないが、湖全体が邪気に侵されて黒く濁っている。
暫く周囲の様子を見守るとアーノルドが戻ってくる。
「手前側はノイス領の騎士団が守ってくれていたので魔物はいません。あちらで浄化の祈りをお願いします」
「分かったわ」
そう言って湖の手前まで案内される。
私の周りを魔道士団、騎士団がいつもの配置で囲い守ってくれる。
浄化部隊は少数精鋭である。魔道士5人、騎士10人で、部隊の隊長がアーノルド。魔道士の代表がライザーだ。
しかし今回みたく広範囲の浄化の場合は、その領土の騎士団にも協力してもらっている。
「では始めます」
そう告げると私は湖の表面に手を触れる。そこから意識を集中して、邪気の根本を探る。
邪気には植物のように、根本のようなものがあるのだ。そこから広範囲のに渡って邪気が噴出されるので、その根本を探してそこをピンポイントで浄化する必要がある。
だがこの作業がなかなか大変で、かなりの集中力を要するのだ。初めの頃はこの根本を探すだけで2日かかってしまうこともあった。今ではだいぶ慣れて1日で根本の確認と浄化作業まで問題なく進められるようになったのだが、場所によってはまだ時間がかかってしまう。
この根本を探している間は、周囲の音も聞こえなくなるくらい神経が研ぎ澄まされる。時間の感覚も分からないくらい集中し目を閉じ探っていると、何かに当たる感覚が伝わる。あった、ここだ。
「見つけた! 浄化します」
根本を見つけ次第、浄化の力を流し込む。私の体全体から浄化のキラキラとした魔力が放たれ、それをもう一度手に集めて流していく。
邪気の中を通って根本に流し込むように、じっくりと時間をかけて浄化する。中途半端な浄化だとまた再発する可能性があるのだ。
暫くすると頭がくらくらしてくる。そう感じた所で私は湖から手を離し浄化の力も止めた。
アーノルドに目で合図を送ると近づいて抱えあげてくれる。この状態の時は1人で立てないほどフラフラなのだ。おそらく魔力切れ一歩手前といった所だろう。
「あり……がと……」
「いえ、お疲れ様です」
ゆっくりと彼を確認すると、怪我はしていないようで安堵する。気づけば騎士や魔道士の足元には魔物の残骸である魔石がゴロゴロ転がっている。彼らがこうして守ってくれるから私は安心して浄化に専念出来るのだ。
「今日は近くの宿を取っております。そこに着くまでゆっくり休んで下さい」
そう優しく微笑まれ、言葉に甘えて私は目を閉じる。こうして抱き上げてくれても顔色に変化がないのは女として見られていないようで悲しいが、彼の微笑みを見れば先程までの疲れも飛んでいってしまいそうだ。
◇
「お目覚めですか? 今日の夕食はどうしましょう。いつも通りでよろしいですか?」
「うん、重たいものは無理そうだからお粥でお願い。フルーツもあったら嬉しい」
「分かりました。用意してくるのでお待ち下さいね」
そう言って出て行ったのは女性騎士のマーサだ。彼女は私のお世話係兼護衛である。
こうして浄化した後はぐったりとしているので、室内でお粥をいつも用意してもらっている。アーノルドとも話せないし、地元の特産品も食べれないので悲しい。でもそのおかげで胃がデトックスされ以前より健康的になったし、痩せたのでそれで納得している。
元気がある時はみんなと一緒に食事を取ったり、地元のフルーツを食べたりするのが唯一の楽しみだ。
今日は宿に泊まっているが、近くに宿がなければ野宿することも多い。野外のテントにもだいぶ慣れてきたが、柔らかいベットと温かい部屋で寝れるのはやはり嬉しい。
ご飯を食べるとお風呂に入り、明日に備えて寝る。魔力は休んでいるうちに回復するので、早く寝てまた明日の浄化に備えなければならない。
◇
翌日支度を整えると昨日と同じように湖に行き、浄化を進める。
このノーイ湖は本来ノイス領の観光地にもなっている程大きい湖なのだ。日本で言う琵琶湖のようなものだろうか。
そのせいか根本が遠くのかなり奥深い所にあり、なかなか浄化の力が届きにくい。
なんとか浄化しようとするがその前に私の限界が来てしまった。これは次週に持ち越しだ。
私が力を抜くとアーノルドがすぐに駆け寄り支えてくれる。
「みん……な、ごめん」
「いえ、今回は時間が掛かると予想していましたので気にしないで下さい」
浄化が翌週に持ち越しになると、その分魔物が発生したり、みんなが討伐にあたったりする必要が出てくるので、毎回申し訳なくなってしまう。
「ほら、宿に着くまでいつも通り休んで下さい」
そうアーノルドに言われるとホッとして、気づいたら寝てしまっていた。
その後宿で目覚めた私はまたお粥を食べた。一休みするとみんなに挨拶を告げる。
「じゃあまた来週もよろしくね。それまでの間の討伐のことも申し訳ないけどよろしくお願いします。怪我しないでね」
「はい、明日向こうでゆっくり休んでまた来週お願いします」
2日目の寝ている間に元の世界に戻ってしまうので、私は寝る前にみんなに挨拶するのが習慣となっていとなっているのだ。何でも無意識化の方が異世界を渡りやすいらしい。
部屋に戻り湯船に浸かると、寝巻きに着替えてベットに入る。
「私が向こうに行っている間に誰も怪我をしませんように……」
そう祈って私は眠りについた。次目覚めた時はいつもの日本のアパートに居るはずだ。
◇
トントントン、ガチャ
「………」
「………」
「メイ様……?」
扉を開けて中に入ってきたのはアーノルドだった。目が合って暫く2人とも驚いて固まる。だが少しするとアーノルドの頬が赤くなってきてすぐ後ろを向く。
「……メイ様、その……足が捲れています」
「………キャーーーー! 出て行って!!」
私の寝相が悪かったのか布団は下の方に丸まっているし、ワンピースタイプのパジャマを選んだせいで、スカートが太腿の辺りまで捲れ上がっていた。びっくりした私は思わずアーノルドを部屋から追い出してしまった。
0
こちらも良かったらよろしくお願いします。思い出屋〜幸せな思い出と引き換えにあなたの願いを叶えます〜
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。
みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」
魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。
ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。
あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で運命的な出会いをする。
【2024年3月16日完結、全58話】
従者は永遠(とわ)の誓いを立てる
白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
グレイス=アフレイドは男爵家の一人娘で、もうすぐ十六歳。
傍にはいつも、小さい頃から仕えてくれていた、フレン=グリーティアという従者がいた。
グレイスは数年前から彼にほんのり恋心を覚えていた。
ある日グレイスは父から、伯爵家の次男・ダージル=オーランジュという人物と婚約を結ぶのだと告げられる。
突然の結婚の話にグレイスは戸惑い悩むが、フレンが「ひとつだけ変わらないことがある」「わたくしはいつでもお嬢様のお傍に」と誓ってくれる。
グレイスの心は恋心と婚約の間で揺れ動いて……。
【第三回 ビーズログ小説大賞】一次選考通過作品
エブリスタにて特集掲載

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆

初恋の呪縛
緑谷めい
恋愛
「エミリ。すまないが、これから暫くの間、俺の同僚のアーダの家に食事を作りに行ってくれないだろうか?」
王国騎士団の騎士である夫デニスにそう頼まれたエミリは、もちろん二つ返事で引き受けた。女性騎士のアーダは夫と同期だと聞いている。半年前にエミリとデニスが結婚した際に結婚パーティーの席で他の同僚達と共にデニスから紹介され、面識もある。
※ 全6話完結予定
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。

【完結】聖女召喚の聖女じゃない方~無魔力な私が溺愛されるってどういう事?!
未知香
恋愛
※エールや応援ありがとうございます!
会社帰りに聖女召喚に巻き込まれてしまった、アラサーの会社員ツムギ。
一緒に召喚された女子高生のミズキは聖女として歓迎されるが、
ツムギは魔力がゼロだった為、偽物だと認定された。
このまま何も説明されずに捨てられてしまうのでは…?
人が去った召喚場でひとり絶望していたツムギだったが、
魔法師団長は無魔力に興味があるといい、彼に雇われることとなった。
聖女として王太子にも愛されるようになったミズキからは蔑視されるが、
魔法師団長は無魔力のツムギをモルモットだと離そうとしない。
魔法師団長は少し猟奇的な言動もあるものの、
冷たく整った顔とわかりにくい態度の中にある優しさに、徐々にツムギは惹かれていく…
聖女召喚から始まるハッピーエンドの話です!
完結まで書き終わってます。
※他のサイトにも連載してます

おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる