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やっかいな匂いがします。
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「また行ってしまわれるのですね……」
ローランがそう呟く。
朝食を食べ終えたらミラー様と合流して神殿に戻る予定なのだとローランにも伝わっている。
私もローランと離れるのは寂しいけど、彼女を連れて行く訳にはいかない。そう話していると、ローランから小包を渡される。
「これは?」
「これは私の家に代々伝わる手鏡でございます。この鏡は対になっていて、私の持っているもう一方の鏡と通信できるのです」
そう言うとローランも懐から同じデザインの鏡を見せてくれる。この世界はこういった通信が出来る機器は限られているからとても貴重な物だ。
そんなものを私にくれても良いのかと確認したのだが、大丈夫ですと押し切られてしまう。
「この鏡はそもそも私の先祖が当時の落界人様に仕えていた際に頂いた魔道具なのです。もしまた落界人に仕えることがあった時に、その人を助けてあげるようにと」
「そうなのね。そういうことならありがたく頂くね」
「はい、お城でまた何か分かりましたら連絡させて頂きます」
支度を整えてもらうと、ミラー様との約束の場所まで案内してもらう。今回はちゃんとした手続きの下、転移するのだ。
本来は登録した者が事前申告して、許可が降りないと城への転移はしてはならないらしい。それを破ると厳しい罰則が待ってるそう。
私の場合はミラー様直々の依頼だから問題にはならなかったのだが、今後はちゃんとルールを守らないといけないから、今日からは正規の転移室から神殿へ行く予定だ。
「おや、そこに居るのは厄介者のお嬢さんじゃないか」
「あなたは……ザック侯爵?」
声を掛けて来たのは、落界人としてこの城へ初めてやって来た時にあのセクハラ目線を投げて来たおじさんだった。その後のパーティーでアクシデントでズボンが脱げ、みんなに可愛いクマのパンツを晒したあの男だ。
侯爵の方からふわりと柑橘系の香水の香りがする。意外とそういう所に気を遣っているのかと感心するが、それで不快感が消える訳じゃない。
今だって私を睨みつけるようにこちらを見ている。
「君が不用意に転移なんてするから厄介なことが起きたんじゃないのか? お前みたいなのがうろちょろしているから」
「それはっ」
ローランが口を開こうとするのを手で制する。彼女の立場からしたら、侯爵に楯突いて良いはずがない。
それに色々知らなかったとはいえ、確かに私のせいで毒殺疑惑に関してもややこしくしてしまっただろう。
「勇者と一緒にいるそうだな。あの魔王がいるとか戯言を言っている男と。あいつと共に自滅してしまえば良いのにな」
その言葉に私も冷静で居られなくなる。私のことを悪く言われるのは良いが、彼のことを悪く言われて黙ってられるはずがない。
国の為にたった一人で頑張ってきた彼を侮辱するなんて。
「あなたっ!」
「おや、そこにいるのはザック侯爵ではないか」
「ミラー様……」
今度はどんな仕返しをしようか考えていた時にタイミング良く現れたのはミラー様だった。
「ユリ殿がなかなか来ないから探しに来たんだ。侯爵が見つけてくれたなら助かった。礼を言うよ。じゃあ行こうかユリ殿」
「いや、ミラー様これは違くて」
私が反論しようとするが、ミラー様は私の手を取ると侯爵に別れを告げその場を強引に去る。
「今は大人しくしていて」
そう耳元で囁かれては大人しくするしかないじゃないか。本当にミラー様はずるいんだから。
しばらく歩くとある扉の前に着く。扉に掌を当ててミラー様が魔力を流すと扉が開いた。
「ここは登録した者の魔力を流さないと開かないんだ。君の魔力も登録するからここに魔力を流して」
そう言われて、扉の裏側にある水晶に魔力を流すと、白かった水晶玉が一瞬淡く光る。
「うん、これで登録完了だよ。さっきは悪かったね。あそこで問題を起こしても厄介な事になるから強引に離れてもらったよ」
「……そうですよね。城の中で今揉め事を起こしたら」
「騎士団の団長である彼にはむかったら、今調査中の殺人容疑をかけられ兼ねないからね」
「殺人容疑ですか?」
「ああ、実は昨日城の裏の森から遺体が見つかったんだ……」
少し悔しそうなミラー様。詳細を聞くと、なんとミラー様に毒を仕組んだ人物が分かったそうだ。
普段からミラー様の身の回りの世話をしていた侍女の一人が森の中から遺体で見つかった。その侍女の遺体からは毒殺で使われたのと同じ種類の毒が見つかったらしい。
その日の毒味後の食事の配膳も彼女がしていたそうだ。恐らく毒味が済んだ後に毒物を混入したのだろうとされている。
「しかし不審な点も多いんだ。君が気づいた後すぐに行われた身体調査で彼女に毒薬は見つからなかった」
「どこかで捨てたんですかね」
「あぁ。あとは彼女だけでなく、彼女の両親も殺害されていたんだ」
「両親も……。罪が発覚することを恐れて迷惑が掛かる前に殺してしまったのでしょうか……」
「いや……」
そう私が問うと暫く黙り込むミラー様。何やら悩んでいる様子だ。眉間に皺を寄せて、真剣な様子で前を見ている横顔すら美しい。
あぁ、私は顔だけなら断然ミラー様派なんだよな。ゲーム内でも推しはユウだったけど、見た目ならザ王子様なミレー様が断トツだった。ユウに関しては見た目が好きと言うより、こう応援したくなる感じだったんだよな。だから推し。こんな時に不謹慎だが、そんなことを考えていると、ミラー様が重い口を開いてくれた。
「僕の優秀な部下達に独自調査をしてもらったんだ。そこで不審な点がいくつか見つかった」
なんでも彼女の両親には長時間縄で縛られたような痕が手と足についていた。そして両親の死亡時刻は彼女の死亡時刻より早かった。
「それでは彼女は両親を殺してない……。なら誰に両親は殺されたのですか!?」
「しかしさらに厄介なのが、騎士団の調査報告では彼女の死亡時刻の方が後、彼女が両親を殺害したと結論付けている。これで毒殺未遂の犯人も死亡で調査も終わらせると」
「それは……」
単純に騎士団の調査不足か……。もしくは騎士団の中に情報を操作している者がいるかも知れないということか。
「君の思っている通りだよ。僕の優秀な部下には敵わないと思うが、あの縛られた痕についても調査書には載っていなかった。恐らく内部に厄介な奴が潜んでいる。だからあの侯爵には今は何も言わずに泳がせているんだよ」
そう言うミラー様だが、とても辛そうだ。仮に侯爵が犯人だとしても、何が彼をそんな顔にさせるんだろうか。
「……僕が彼女の異変に気づいていたらこんなことにはならなかったかも知れない。きっと両親を囚われ、脅されて毒物を入れたんだろう。彼女の両親にも幼い時からお世話になっていたのに」
「ミラー様……」
そうだ。ミラー様は身近にいた人を使われて、殺されたんだ。恐らくミラー様を殺したいが為に利用された。
ミラー様の世話をしていたということは、かなり信用された家柄だったに違いない。ローランみたく、代々城に仕えるような。ミラー様のショックは計り知れないだろう。
「ミラー様、こうしたら良かったって思うことは沢山あります。私の前の世界でもっとこんなことしたかったなって」
どうせこんなことになるなら、仕事なんかせずに遊んで暮らしていれば良かったとか。もっと旅行だって行きたかったし、美味しいものも食べたかった。家族や友人にだってちゃんとお別れを告げたかったなとか。もっと親孝行すれば良かったとか……。
「でもこうすれば良かったって思ってももうどうも出来ないんです。だからこそ、私はこれからそんな後悔をしないように、前を向いて生きていこうと思っています」
常にその選択をして後悔しないか。今の私はそれを基準に考えている。人生いつどうなるか分からないから。
「……そうだな。君が言うとより説得力があるよ。今は彼女の為に真犯人を見つけるのが大事だよな、ありがとう。じゃあ神殿へ行こうか」
「はい!!」
ローランがそう呟く。
朝食を食べ終えたらミラー様と合流して神殿に戻る予定なのだとローランにも伝わっている。
私もローランと離れるのは寂しいけど、彼女を連れて行く訳にはいかない。そう話していると、ローランから小包を渡される。
「これは?」
「これは私の家に代々伝わる手鏡でございます。この鏡は対になっていて、私の持っているもう一方の鏡と通信できるのです」
そう言うとローランも懐から同じデザインの鏡を見せてくれる。この世界はこういった通信が出来る機器は限られているからとても貴重な物だ。
そんなものを私にくれても良いのかと確認したのだが、大丈夫ですと押し切られてしまう。
「この鏡はそもそも私の先祖が当時の落界人様に仕えていた際に頂いた魔道具なのです。もしまた落界人に仕えることがあった時に、その人を助けてあげるようにと」
「そうなのね。そういうことならありがたく頂くね」
「はい、お城でまた何か分かりましたら連絡させて頂きます」
支度を整えてもらうと、ミラー様との約束の場所まで案内してもらう。今回はちゃんとした手続きの下、転移するのだ。
本来は登録した者が事前申告して、許可が降りないと城への転移はしてはならないらしい。それを破ると厳しい罰則が待ってるそう。
私の場合はミラー様直々の依頼だから問題にはならなかったのだが、今後はちゃんとルールを守らないといけないから、今日からは正規の転移室から神殿へ行く予定だ。
「おや、そこに居るのは厄介者のお嬢さんじゃないか」
「あなたは……ザック侯爵?」
声を掛けて来たのは、落界人としてこの城へ初めてやって来た時にあのセクハラ目線を投げて来たおじさんだった。その後のパーティーでアクシデントでズボンが脱げ、みんなに可愛いクマのパンツを晒したあの男だ。
侯爵の方からふわりと柑橘系の香水の香りがする。意外とそういう所に気を遣っているのかと感心するが、それで不快感が消える訳じゃない。
今だって私を睨みつけるようにこちらを見ている。
「君が不用意に転移なんてするから厄介なことが起きたんじゃないのか? お前みたいなのがうろちょろしているから」
「それはっ」
ローランが口を開こうとするのを手で制する。彼女の立場からしたら、侯爵に楯突いて良いはずがない。
それに色々知らなかったとはいえ、確かに私のせいで毒殺疑惑に関してもややこしくしてしまっただろう。
「勇者と一緒にいるそうだな。あの魔王がいるとか戯言を言っている男と。あいつと共に自滅してしまえば良いのにな」
その言葉に私も冷静で居られなくなる。私のことを悪く言われるのは良いが、彼のことを悪く言われて黙ってられるはずがない。
国の為にたった一人で頑張ってきた彼を侮辱するなんて。
「あなたっ!」
「おや、そこにいるのはザック侯爵ではないか」
「ミラー様……」
今度はどんな仕返しをしようか考えていた時にタイミング良く現れたのはミラー様だった。
「ユリ殿がなかなか来ないから探しに来たんだ。侯爵が見つけてくれたなら助かった。礼を言うよ。じゃあ行こうかユリ殿」
「いや、ミラー様これは違くて」
私が反論しようとするが、ミラー様は私の手を取ると侯爵に別れを告げその場を強引に去る。
「今は大人しくしていて」
そう耳元で囁かれては大人しくするしかないじゃないか。本当にミラー様はずるいんだから。
しばらく歩くとある扉の前に着く。扉に掌を当ててミラー様が魔力を流すと扉が開いた。
「ここは登録した者の魔力を流さないと開かないんだ。君の魔力も登録するからここに魔力を流して」
そう言われて、扉の裏側にある水晶に魔力を流すと、白かった水晶玉が一瞬淡く光る。
「うん、これで登録完了だよ。さっきは悪かったね。あそこで問題を起こしても厄介な事になるから強引に離れてもらったよ」
「……そうですよね。城の中で今揉め事を起こしたら」
「騎士団の団長である彼にはむかったら、今調査中の殺人容疑をかけられ兼ねないからね」
「殺人容疑ですか?」
「ああ、実は昨日城の裏の森から遺体が見つかったんだ……」
少し悔しそうなミラー様。詳細を聞くと、なんとミラー様に毒を仕組んだ人物が分かったそうだ。
普段からミラー様の身の回りの世話をしていた侍女の一人が森の中から遺体で見つかった。その侍女の遺体からは毒殺で使われたのと同じ種類の毒が見つかったらしい。
その日の毒味後の食事の配膳も彼女がしていたそうだ。恐らく毒味が済んだ後に毒物を混入したのだろうとされている。
「しかし不審な点も多いんだ。君が気づいた後すぐに行われた身体調査で彼女に毒薬は見つからなかった」
「どこかで捨てたんですかね」
「あぁ。あとは彼女だけでなく、彼女の両親も殺害されていたんだ」
「両親も……。罪が発覚することを恐れて迷惑が掛かる前に殺してしまったのでしょうか……」
「いや……」
そう私が問うと暫く黙り込むミラー様。何やら悩んでいる様子だ。眉間に皺を寄せて、真剣な様子で前を見ている横顔すら美しい。
あぁ、私は顔だけなら断然ミラー様派なんだよな。ゲーム内でも推しはユウだったけど、見た目ならザ王子様なミレー様が断トツだった。ユウに関しては見た目が好きと言うより、こう応援したくなる感じだったんだよな。だから推し。こんな時に不謹慎だが、そんなことを考えていると、ミラー様が重い口を開いてくれた。
「僕の優秀な部下達に独自調査をしてもらったんだ。そこで不審な点がいくつか見つかった」
なんでも彼女の両親には長時間縄で縛られたような痕が手と足についていた。そして両親の死亡時刻は彼女の死亡時刻より早かった。
「それでは彼女は両親を殺してない……。なら誰に両親は殺されたのですか!?」
「しかしさらに厄介なのが、騎士団の調査報告では彼女の死亡時刻の方が後、彼女が両親を殺害したと結論付けている。これで毒殺未遂の犯人も死亡で調査も終わらせると」
「それは……」
単純に騎士団の調査不足か……。もしくは騎士団の中に情報を操作している者がいるかも知れないということか。
「君の思っている通りだよ。僕の優秀な部下には敵わないと思うが、あの縛られた痕についても調査書には載っていなかった。恐らく内部に厄介な奴が潜んでいる。だからあの侯爵には今は何も言わずに泳がせているんだよ」
そう言うミラー様だが、とても辛そうだ。仮に侯爵が犯人だとしても、何が彼をそんな顔にさせるんだろうか。
「……僕が彼女の異変に気づいていたらこんなことにはならなかったかも知れない。きっと両親を囚われ、脅されて毒物を入れたんだろう。彼女の両親にも幼い時からお世話になっていたのに」
「ミラー様……」
そうだ。ミラー様は身近にいた人を使われて、殺されたんだ。恐らくミラー様を殺したいが為に利用された。
ミラー様の世話をしていたということは、かなり信用された家柄だったに違いない。ローランみたく、代々城に仕えるような。ミラー様のショックは計り知れないだろう。
「ミラー様、こうしたら良かったって思うことは沢山あります。私の前の世界でもっとこんなことしたかったなって」
どうせこんなことになるなら、仕事なんかせずに遊んで暮らしていれば良かったとか。もっと旅行だって行きたかったし、美味しいものも食べたかった。家族や友人にだってちゃんとお別れを告げたかったなとか。もっと親孝行すれば良かったとか……。
「でもこうすれば良かったって思ってももうどうも出来ないんです。だからこそ、私はこれからそんな後悔をしないように、前を向いて生きていこうと思っています」
常にその選択をして後悔しないか。今の私はそれを基準に考えている。人生いつどうなるか分からないから。
「……そうだな。君が言うとより説得力があるよ。今は彼女の為に真犯人を見つけるのが大事だよな、ありがとう。じゃあ神殿へ行こうか」
「はい!!」
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