上 下
49 / 63

図書館があるみたいです。

しおりを挟む
あれから数日後。私は神殿のお手伝いをしながら過ごしている。
 ミラー様は王宮に行ったっきりだし、ユーリはララさんと一緒に過ごしていることが多い。リア様に至っては何をしているかすら不明だ。

 今日も洗濯を手伝う予定だったのだが、天気が崩れてしまい中止となった。
 どうしようかと困っていると、休みになったのならば図書館で時間を潰したらどうかと仲良くなった神官の人が教えてくれたのだ。

 私はゲームの世界を見て、こちら世界のことも知った気になっていたが、今のこの世界について詳しくは知らない。
 ちゃんとこの世界のことを知らなければユーリ達の手助けは出来ないと思い、本でも見て勉強しようと思ったのだ。
 あわよくば何かあのヒントが得られないかと。

「それにしても広い……」

 教えてもらった図書館はなんと2階建てだ。
 神殿と言っても建物は一つではない。
 メインは祈りの間がある中央の神殿。ここに祈りの間やみんなの居住区がある。

 それとは別に作業棟と呼ばれる建物や、畑や酪農をしている区域等もある。そういった建物は一般の人も入れるのだそう。
 その中の一つに図書館があり、1階が一般の人達へも解放しており、2階は神殿関係者しか入れないそうだ。

 ……そして今私がいるのは2階だ。



「おや、ユリ殿。これからどこかへ向かうのですか?」

「おはようございますリア様。洗濯を手伝っていたんですがこの天気で暇になってしまい、図書館に行こうかなって思ってたところです」

「……それは良い案ですね。そんなあなたにこれをあげましょう」

「これは……?」

 そう言って渡されたのはカードらしきもの。

「それは図書館の2階へ入ることの出来る魔法のカードです」

「!? えっ!? それは不法侵入というやつですか? さすがにそれは不味いんじゃ……」

「いえ、合法的にもらったものなので大丈夫ですよ。私の調べ物は終わったのであなたに渡します。……その方が面白くなりそうなのでね」

「……?」

 最後の一言が非常に気になるが、リア様は詳しく話すつもりはないらしい。
 とりあえずもらえるものは貰っておこうと思いカードを受け取る。

「ユリ殿、念のため必要何時以外は認識阻害の魔法を自分に掛けて下さい。その方が安全ですから」

「分かりました」

「あと認識阻害の魔法は特殊なスキル持ちには阻まれてしまうので怪しまないでも大丈夫ですよ?」

「どういうことですか?」

「勇者や聖女の性質上、そういった魔法は彼らには効かないんです。だから他の人があなただと認識出来なくても彼らはあなただと認識して話し掛けても魔法は解けてないので驚かないで下さい」

 なるほど。確かに急に話しかけられたら驚いてしまうかもしれない。
 私が頷くとリア様は用事があるからと去って行く。
 1人になると自分に認識阻害の術を施して図書館に向けて歩み始める。

 ……さすが認識阻害の術だ。いつもはすれ違う神官の方達が挨拶してくれたり、話しかけられたりするのだが、今は会釈だけだ。ちゃんと私だと認識されていないらしい。

 そうして最初は1階部分を見ていたのだがあまり目ぼしいものがなかったので2階へと上がって来たのだ。
 もしかしたらここで何かみんなの役に立てる情報が見つかるかも知れないと思って。

「あれ? あなたは……ユリさん?」

「……ララさん」

 ……会うのを避けていたのにまさかここでバッタリと会ってしまうとは。
 人懐っこい彼女は近づいてきて私に話しかける。

「こんな所で会えるとは思ってませんでした! あれ? でもここは一般の方は入れないんじゃ……」

「あっ! ちゃんとカードをもらって入ってるの! 不法侵入じゃないからっ!」

 慌ててカードを見せると、別に疑ってませんよと笑われてしまう。
 あぁやっぱりヒロインなだけある。女の私でも可愛らしく笑う姿に癒されてしまう。

「何かお探しですか? 良ければ案内しますよ?」

 ほら、ヒロイン属性の誰にでも親切をすぐに発揮している。ユーリはあんなこと言ってたけどやっぱり良い子じゃない。

「何を探しているとかはないんだけど……あの魔石とか魔王とかについて何か手掛かりがないかと思って」

 やっぱり悪い子には思えなくて正直に目的を告げる。すると彼女はパッと顔を喜ばせる。

「そうなんですね! 私も一緒です! 何か手掛かりがないかなって探してるんですけど……何も見つからなくて……」

 確かにそんな簡単に見つかったら困りゃしないか。
 ふと彼女が持っている本が目に入る。随分古びた表紙の本だ。

「それは何の本なの? 随分と古いみたいだけど」

「あっ! これは古の時代……今から800年くらい前ですかね。その時に書かれた勇者と魔王についての本なんです! 魔王の復活について記述がある例のアレです!」

「魔王について載っているの!?」

 魔王については存在自体認めてられていないんじゃなかったかしら?
 魔王が復活するなんて話は公には認められてないはずだよね?

「あっ、これは神殿と王家だけに存在する本なので、本当にごく一部の人しか知らないんでした! 禁書の中の禁書で!」

「それ言っちゃいけないやつ……。でもそうなんだ。ちゃんと存在を書いてある本があるのね」

「はい。ここに勇者と聖女についての記載もあるので私も見る権利があるんです。……見たいですか?」

 私がその本を凝視しているのに気付き、おずおずと聞いてくるララさん。

「読みたい気持ちはあるけど、そんな大事な本を私が読む訳にはいかないから大丈夫よ」

「でも多分ユリさんなら見ても大丈夫だと思うんです。先程見せてくれたカードは私と同じレベルのセキュリティカードなんです。だからこの本を持ち出しても問題ないはずですから」

「えっ!? 本当に??」

 リア様どうやってそんなカードを手に入れたの!?
 驚きながらも折角ならと借りることにする。

「本当に良いの?」

「はい。私は何度も読んだので。ただ古い本だからか読めない字体で書いてある部分もあるので注意して下さいね」

「なるほどね。分かった」

 元の世界でも古文だと今は使われていない字だったり文法があったりしたものね。そういう感じかと納得する。

「本を持ち出すときはあの機械を通さないとアラームが鳴ってしまうので注意して下さいね」

 そう言って操作を教えてくれる。バーコードを読み取り、カードをスキャンすれば処理は完了らしい。……なんかすごい今風というか、元の世界並にハイテクなのだが。

 この世界は各々のスキルを使う方向で発達しているので、あまりこうした機械などの文明は発達して居ない。
 機械があったとしても、こんなに使いこなせてる場面はあまり見ないのが普通だったのだが……。

「すごいですよねこれ! 今の神官長が機械が好きでこのシステムを作ったんです! それまでは全部人が対応してて大変だったそうですよ」

「そうなんだ。それはすごいね」

「そうなんですよぉ! 他にも色々システム改革? っていうのをしてて、みんなから尊敬されてるんです!」

 少しの違和感を感じつつも、まぁそんなこともあるかと聞き流す。


 ◇


「じゃあまた何かあれば言って下さいね! 私空いてる時間は大体ここか湖に居るので!」

「分かった。ありがとうね」

 別れを告げるとペコペコ頭を下げて手を振ってくれる彼女。
 やっぱりヒロインは違うな。私はあんなに元気も良くないし、愛嬌もない。

「……危ない危ない」

 また思考がそっちに行くところだった。
 バックに本をしまうと、念のためもう一度認識阻害の魔法を自分に掛けて部屋へと戻る道を進む。
 この本に何かヒントがあれば良いのだが……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

世話焼き宰相と、わがまま令嬢

たつみ
恋愛
公爵令嬢ルーナティアーナは、幼い頃から世話をしてくれた宰相に恋をしている。 16歳の誕生日、意気揚々と求婚するも、宰相は、まったく相手にしてくれない。 いつも、どんな我儘でもきいてくれる激甘宰相が、恋に関してだけは完全拒否。 どうにか気を引こうと、宰相の制止を振り切って、舞踏会へ行くことにする。 が、会場には、彼女に悪意をいだく貴族子息がいて、襲われるはめに! ルーナティアーナの、宰相に助けを求める声、そして恋心は、とどくのか?     ◇◇◇◇◇ 設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。 R-Kingdom_2 他サイトでも掲載しています。

【完結】愛を知らない傾国の魔女は、黒銀の騎士から無自覚に愛着されて幸せです

入魚ひえん
恋愛
【一言あらすじ】 不遇でも健気な前向き魔女と、塩対応なのに懐かれてしまい無自覚に絆されていく生真面目騎士の愛着ラブコメ! 【いつものあらすじ】 エレファナは誰もが恐れるほどの魔力を持つ、ドルフ帝国に仕えるためだけに生まれてきた魔女だった。 皇帝の命で皇太子と『婚約の枷』と呼ばれる拘束魔導を結ばされていたが、皇太子から突然の婚約破棄を受けてしまう。 失意の中、命を落としかけていた精霊を守ろうと逃げ込んだ塔に結界を張って立てこもり、長い長い間眠っていたが、その間に身体は痩せ細り衰弱していた。 次に目を覚ますと、そこには黒髪と銀の瞳を持つ美形騎士セルディが剣の柄を握り、こちらを睨んでいる。 そして彼の指には自分と同じ『婚約の枷』があった。 「あの、変なことを聞きますが。あなたの指に施された魔導の枷は私と同じように見えます。私が寝ている間に二百年も経っているそうですが……もしかしてあなたは、私の新たな婚約者なのでしょうか。さすがに違うと思うのですが」 「ああ違う。枷は本物で、形式上は夫となっている」 「夫!?」 皇太子との婚約破棄から、憧れていた『誰かと家族になること』を一度諦めていたエレファナは、夫と名乗るセルディの姿を一目見ただけですぐ懐く。 「君を愛することはない」とまで言ったセルディも、前向き過ぎる好意を向けられて戸惑っていたが、エレファナに接する様子は無自覚ながらも周囲が驚くほどの溺愛ぶりへと変化していく。 「私はセルディさまに言われた通り、よく飲んでたくさん食べて早めに寝ます。困ったことがあったらお話しします!」 (あ。気のせいでしょうか、少し笑ってくれたように見えます) こうしてエレファナはセルディや周囲の人の愛情あふれるお手伝いをしていきながら、健やかさと美しさ、そして魔力を取り戻しはじめる。 *** 閲覧ありがとうございます、完結しました! コメディとシリアス混在のゆる設定。 相変わらずですが、お気軽にどうぞ。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

婚約破棄されて無職、家無しになったので、錬金術師になって研究ライフを送ります

かざはなよぞら
恋愛
 ソフィー・ド・セイリグ。  彼女はジュリアン王子との婚約発表のパーティー会場にて、婚約破棄を言い渡されてしまう。  理由は錬金術で同じ学園に通うマリオンに対し、危険な嫌がらせ行為を行っていたから。  身に覚えのない理由で、婚約破棄を言い渡され、しかも父親から家から追放されることとなってしまう。  王子との婚約から一転、ソフィーは帰る家もないお金もない、知り合いにも頼れない、生きていくことも難しいほど追い詰められてしまう。  しかし、紆余曲折の末、ソフィーは趣味であった錬金術でお金を稼ぐこととなり、自分の工房を持つことが出来た。  そこからソフィーの錬金術師としての人生が始まっていくのだ――

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています

平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。 自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...