上 下
26 / 63

食事は色々大変みたいです。

しおりを挟む
 
 
 ミラー様が連れてきてくれたのはお洒落なレストラン。マーク様が先に着き話を通してくれていたようで個室に案内される。
 マーク様も同席するようで、ミラー様の隣にマーク様、ミラー様の前に私、その隣にユーリが座る。


「ではユリ殿は好きなメニューを選んでくれ」

 ミラー様がそう言うと、マーク様がメニューを渡してくれる。しかしメニューを渡されたのは私だけで、他の3人は何も見ていない。

「あの、メニューが1つしかないならミラー様からどうぞ」

 こんな個室でメニューが1つしかないのはおかしいと思うが、やはり先に私が見るのは違うだろうと思いミラー様に渡そうとするが断られてしまう。

「僕たちはもうメニューを決めてるから良いんだ。ユリ殿が好きなのを選んでくれたら注文するよ」

 そう言われてしまったら早くメニューを決めなければならない。ユーリもこの店は初めて来たはずなのに大丈夫なのかな?そう心配しつつ、メニューを見る。さすが港町なだけあって、海鮮を使ったサラダやパスタ、ピザなどが多い。


「じゃあ私はこのたっぷりシーフードシチューのパイにしようかな」

 こちらの料理は元いた世界に似ている。どちらかと言うと西洋の料理が近いけど私はそちらも好きだから問題ない。
 ベルを鳴らすとマーク様が注文をしてくれる。


「ミラー様達は視察でこの港町に来ていたんですよね? 視察ってどこを見ていたんですか?」

「……お前、そんなこと気軽によく聞けるな。国家機密に関することかも知れないんだぞ」

 私がミラー様にそう問いかけるとユーリから注意が入る。うっかりしていたが確かにそうだ。彼の方が常識人みたいで少し悔しい。

「そんなに大袈裟な話じゃないから平気だよ。答えられないことはちゃんとそう言うから気軽に話してくれて構わない。その方が僕は嬉しいからね」

 そうミラー様が優しく言ってくれるとユーリがまた不機嫌そうな顔をする。彼は一体いつまでその調子でいるつもりなのだろうか。
 暫く4人で雑談していると料理が運ばれてくる。私の前には湯気が立った温かいパイと具沢山のスープが置かれる。
 他の人の頼んだものを見ようとすると、思わず固まってしまう。


「皆さんは何を頼んだんです……か? えっ?」

 彼ら3人の前に置かれたのは、海の幸のパエリア。しかし私の物と違って一切湯気が立っていなくて冷めてしまっている。
 王子様に冷めたものを出すなんてこの店はどうかしてる! そう思って立ち上がり店員を呼ぼうとすると、ユーリに腕を掴まれ「とにかく座れ」と促される。


「驚かしてすまなかったね。僕たちのはあえて冷めたのを出してもらっているんだよ。ほら、毒見をしなければいけないから出来立ては食べれないんだよ」

「遅延性の毒もありますので、毒見係が食べてから30分経たないと食べれませんので。だから私が早く到着して先に3人分頼んでいたのです」

「そうだったんですね……そうとは知らず失礼しました。でも何でユーリまで毒見してもらってるの? 普段何も気にしてなかったけど本当はダメなの?」

 彼は普段一緒にご飯を食べるが、自分で作った時もお店で食べる時もそんなこと全く気にしてなかったのに。もしかして暖かいのが食べたくて毒味を省いていたのか。

「俺はこの人と食べる時だけ毒見が必要なんだよ。そういう決まりなの。だからこの人とご飯行きたくなかったんだよ。俺と一緒にいると余計にリスク背負うのに何で誘うんだか」

「ミラー様と居る時だけなんだ……?」

 冷めたパエリアは少しお米が乾燥してきている。出来立てだったらさぞ美味しかっただろうに。それにしてもユーリはやはりだからミラー様と一緒にいる時は毒見が必要なのか? だったら普段から必要そうだが何故一緒の時だけなのだろう。私が首を傾げていても誰も教えてくれない。これは国家機密に関することなのだろうか。


「すまないね。こればかりは仕方ないからユリ殿も気にしないでくれ。じゃあ頂こうか」

 そう言ってミラー様はスプーンで掬うと、「ふー、ふー」と息を吹きかけてパエリアを口に運ぶ。うん?

「あの、ミラー様? 今ふーふーしましたか?」

「あぁ、僕は猫舌なんだ」

「でもそのパエリアもう冷めてますよね? 冷ます必要ないんじゃ……」


「こいつはこういう奴なんだよ。気にするな」

「そうなんです。ミラー様は猫舌だと言っていますが温かい料理など食べたことないはずなんです」

 呆れた様子で言うユーリと困った顔のマーク様を見て私も納得する。うん、ミラー様はこういう人だった。ゲームでのミレー様はもっとしっかりした人なイメージだったんだけどな。
 ふと横を見るとユーリの口元にご飯が付いているのを発見する。全く、こういう所がまだ子供なんだから。


「もう、ご飯ついてるよ。ミラー様の前なんだからちゃんとしてよね」

 ペシッ。
 そう言って私が彼の口元のご飯を取ろうとするとその手を叩かれ拒絶される。


「……そういうのいいから」

「ご、ごめん。自分で取れたよね」

「……あぁ」




「そういえばこの港町は海鮮の他にも有名な物があるんだ。明日見に行ってみないかい?」

 少し気まずくなってしまった私達のことを怪訝そうに2人が見ていたが、そこには触れずにミラー様が話を逸らしてくれた。そんなミラー様に助けられてなんとか食事を食べ終え、私たちは今日泊まるミラー様達が貸し切っている宿に向かった。


 ◇


「ではここが今日借りている宿だよ」

 そうミラー様が紹介したのは恐らくこの辺りで1番高級な宿に違いない。広いロビーにはシャンデリアがぶら下がっており、ふかふかなソファーがいくつも並んでいる。


「おい、ここ一泊いくらするんだよ」
「私だって分からないわよ。あなたここも泊まれるか聞きに来たんじゃなかったの?」
「こんなとこ来るわけないだろう。あの宿はきっと冒険者お断りだったんだ」
「どうしよう。1ヶ月パンしか買えないかも」

 ミラー様に聞かれないように小声で囁き合う。とても私達が気軽に払えるような値段じゃない。


「君達は普段一緒に過ごしてるんだろう? 部屋は一緒が良いかい? それとも別にするかい?」

 そうミラー様に聞かれ、ユーリと顔を見合わせる。気まずさ的には別にしたいが、2部屋借りたら今月はパンすら買えなくなるかも知れない。そう瞬時に判断した私達は頷き合う。

「1部屋……」
「まぁ僕が君達を相部屋にする訳ないけどね」

 そうミラー様がニコッと告げた瞬間ユーリの顔が青くなる。……今月はひもじい生活になりそうだ。

「安心して下さい。貸切として全部屋代をこちらで支払いは済ませているので、宿泊費は要りませんよ」

「「良かったあ~~」」

 そうマーク様が言ってくれてやっと喜ぶことが出来た。マーク様にそれぞれの部屋の鍵を頂き一度部屋に荷物を置きに行く。


「1人なんて久しぶりだな……。少し寂しくなっちゃう」

 ユーリの所に来てから彼と離れることはほとんどなかったから。久々に一人でいるとかなり部屋が広く感じる……。いや、これ本当に広い部屋だ。
 恐らくスイートルームまでは行かないだろうが、1人部屋にしてはかなり広い。室内にドレッサーやデスク、簡易キッチンまである。恐らくミラー様が用意してくれた良い部屋なのだろう。
 いくらするのかと思うと恐ろしいけど、一生泊れなさそうな部屋だから思う存分味わってしまおう! ユーリもこんな広い部屋を与えてもらったのかな?



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

〖完結〗旦那様には出て行っていただきます。どうか平民の愛人とお幸せに·····

藍川みいな
恋愛
「セリアさん、単刀直入に言いますね。ルーカス様と別れてください。」 ……これは一体、どういう事でしょう? いきなり現れたルーカスの愛人に、別れて欲しいと言われたセリア。 ルーカスはセリアと結婚し、スペクター侯爵家に婿入りしたが、セリアとの結婚前から愛人がいて、その愛人と侯爵家を乗っ取るつもりだと愛人は話した…… 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全6話で完結になります。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

処理中です...