18 / 63
勇者の所に落ちたようです。
しおりを挟む私はあのミラー様と話した翌日に、荷物をまとめこの城を出ていく準備をしている。持ち物はあまりない。あの報酬やこちらで新しく頂いた下着などは私しか使えないだろうから持って行く荷物に詰めている。
荷物はチート能力を使い、バックの中を4次元空間にして詰め放題だ。バックの持ち主にしか取り出せない仕様にしている為、盗難対策もバッチリダだ。
餞別とお世話になったお礼としてミラー様とローラン、リア様にも同じように加工を施したバックをプレゼントする。ローランに聞いたところによると、見た目より容量が多いバックは魔道具として存在しているらしいが、4次元で入れ放題というのはまだないそうだ。
「本当にこんな貴重なものを私がもらっても良いのでしょうか。これ1つで一体いくらの価値があるのか……」
「みんなには本当にお世話になったもの。これは私からのお礼だから受け取って」
「はい、本当にありがとうございます。出発は今夜の予定なんですよね」
「うん、夜に発つつもりだからそれまではよろしくね」
昼に出て行った方が安全だと言われたが、あの勇者が日中はダンジョンに居る可能性があるのだ。今回私は転移で彼のもとに行こうと思っている。リア様に聞いたら、彼をイメージしながらそこに行くと強く思えばチート能力で転移できるはずと言われている。だから彼がテントに居るだろう夜に移動することにしたのだ。
「承知いたしました。では今から昼食を準備してまいります。何かリクエストはございますか」
「うーーん、じゃああのパスタが食べたいな、海鮮たっぷりの」
「あれお気に入りでしたもんね。では厨房に行って参ります」
ローランが居なくなると一気に寂しさが増してくる。ここのお城に来てずっとローランと一緒に過ごしてきたのだ。実は私と一緒に旅に着いて来てくれると言ってくれたのだが、お断りした。彼女を危険な目に合わせるわけには行かないから。
私は準備を進めながら、この城での思い出にふける。衣裳部屋を見返すとあの胸元がざっくり開いたドレスと、夜会で着た美しいドレスが目に入る。ミラー様との夜会もなんだかんだ言って素敵だったな……王子様のようなというか本物の王子様にエスコートされ、お姫様になったような気分だった。あんなドレス一生着れないだろうし、良い体験だったな。
このドレスは旅にも必要ないし、持って行かないつもりだ。私はそのさらに奥にあるワンピースを取り出す。これはあの勇者にもらった服だ。あまりセンスが良いとは言えないけど気に入っている。今日はこれを着て勇者の元へと行く予定だ。そのワンピースを部屋の方に持ち出し壁にかけておく。
その日のディナーはフルコースを用意してくれた。きっとローランが計画してくれていたのだろう、その気持ちが嬉しい。ご飯も食べて、湯船に浸かり大満足な私はホクホクのままローランに別れを告げる。しんみりしてしまうのは苦手なのだ。
「ローラン、今までありがとう。またね」
「はい……。ユリ様の安全をいつまでも祈っております」
「うん、ありがとう。ローランも元気でね」
私が笑顔で告げると、ローランも微笑んで去って行った。私はあのワンピースに着替えると、あの勇者のことをイメージする。今はもう夜9時になる。この時間ならきっとあの勇者もテントに居るはずだ。彼の所へ行きたい、そう強く願うと私の体が強い光に包まれ、思わず目を閉じる。
◇
ピチャン。
うん? 何か温かいというかこれはお湯??
光に包まれたと思ったら強い浮遊感に襲われる。そしてその浮遊感が終わったと思ったら温かいお湯の中に居た。
「はっ!? お前何で」
彼の声が聞こえ恐る恐る目を開けると……。
そこには肌色の彼が居た。肌色というか、素っ裸の彼が……。
「なっなっなっ! 何で裸なのよ!!!」
「バカっ! 大きな声出すなよ! 他の客に気づかれるぞ!! とにかく落ち着け!!」
「ごめん。ちょっと状況が分からなくて」
「何でお前がここに居るんだよ」
「ここはどこなの?」
「ここは宿屋の男湯だ。早く出て行け!」
そう言われて周りをよく見るとここは温泉だった。幸い屋外にあり、ここは少し奥に入った岩場の所で他の客からは運良く死角になっている。良かった、あわや覗きだと訴えられちゃうところだったわ……。というか男湯に入ってる時点でもうアウトだが。
目の前の彼は入浴中だったのか。良かった、腰にタオルを巻いていて大事な部分は隠れてる。私の視線に気づいたのか彼の顔が更に赤くなる。
「あら、結構良い身体付きなのね」
その場の空気が気まずくて茶化すようにそう言ってしまったのだが、他の客の話し声が聞こえてくる。どうやらこちらに向かって来ているようだ。
「まずい。お前黙ってろよ」
そう言うと彼は私を隠すように抱え込み、岩場の影に隠れる。いわば岩ドン状態だ。
ドキドキドキドキ。どちらの心臓の音なのか分からないくらい彼と接してしまっている。石鹸で洗い立ての匂いを感じ、ドギマギしてしまう。
「…………」
「…………」
「ふぅ。危なかった」
どうやら私たちのことには気づかずに奥の浴場に向かってくれたらしい。
「助かった……。ありがとう」
「あぁ……って、お前なんて格好してんだよ!」
そう言って顔を赤くする彼を見て自分の格好を確認するが、どうやら彼に抱え込まれた時に上半身も濡れてしまったらしい。白いブラウスが透けて、肌に張り付いてしまっている。
「とにかくお前はここから出て服をどうにかしろ。俺の部屋は201号室だからそこで待ってろ。ここに来たんだからそれくらいの転移出来るだろう?」
「うーーん、やってみる。あなたの剣は部屋にあるの?」
「あぁ置いて来ている」
「じゃあそれを目印にするわ。それなら行ける気がする」
そう言って彼の剣をイメージして再び転移をする。強い光に包まれると浮遊感が襲ってくる。次に目を開けると、ベットが1つのシンプルな部屋の中に居た。恐らくそこが彼の泊まっている部屋なのだろう。壁には彼の剣が立て掛けてあった。
まずは服を魔法で乾かす。彼が戻ってくるまでに乾いてなければまた怒られてしまいそうだ。もちろんチート能力で服を乾かすくらいお手の物だ。
彼が戻ってくるまではまだ時間がかかるからどうしようか……。とりあえずベットに座って待つことにした。このシンプルな部屋には本当にベットしかなく、椅子とテーブルすらないのだ。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
世話焼き宰相と、わがまま令嬢
たつみ
恋愛
公爵令嬢ルーナティアーナは、幼い頃から世話をしてくれた宰相に恋をしている。
16歳の誕生日、意気揚々と求婚するも、宰相は、まったく相手にしてくれない。
いつも、どんな我儘でもきいてくれる激甘宰相が、恋に関してだけは完全拒否。
どうにか気を引こうと、宰相の制止を振り切って、舞踏会へ行くことにする。
が、会場には、彼女に悪意をいだく貴族子息がいて、襲われるはめに!
ルーナティアーナの、宰相に助けを求める声、そして恋心は、とどくのか?
◇◇◇◇◇
設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
それを踏まえて、お読み頂ければと思います、なにとぞ。
R-Kingdom_2
他サイトでも掲載しています。
【完結】愛を知らない傾国の魔女は、黒銀の騎士から無自覚に愛着されて幸せです
入魚ひえん
恋愛
【一言あらすじ】
不遇でも健気な前向き魔女と、塩対応なのに懐かれてしまい無自覚に絆されていく生真面目騎士の愛着ラブコメ!
【いつものあらすじ】
エレファナは誰もが恐れるほどの魔力を持つ、ドルフ帝国に仕えるためだけに生まれてきた魔女だった。
皇帝の命で皇太子と『婚約の枷』と呼ばれる拘束魔導を結ばされていたが、皇太子から突然の婚約破棄を受けてしまう。
失意の中、命を落としかけていた精霊を守ろうと逃げ込んだ塔に結界を張って立てこもり、長い長い間眠っていたが、その間に身体は痩せ細り衰弱していた。
次に目を覚ますと、そこには黒髪と銀の瞳を持つ美形騎士セルディが剣の柄を握り、こちらを睨んでいる。
そして彼の指には自分と同じ『婚約の枷』があった。
「あの、変なことを聞きますが。あなたの指に施された魔導の枷は私と同じように見えます。私が寝ている間に二百年も経っているそうですが……もしかしてあなたは、私の新たな婚約者なのでしょうか。さすがに違うと思うのですが」
「ああ違う。枷は本物で、形式上は夫となっている」
「夫!?」
皇太子との婚約破棄から、憧れていた『誰かと家族になること』を一度諦めていたエレファナは、夫と名乗るセルディの姿を一目見ただけですぐ懐く。
「君を愛することはない」とまで言ったセルディも、前向き過ぎる好意を向けられて戸惑っていたが、エレファナに接する様子は無自覚ながらも周囲が驚くほどの溺愛ぶりへと変化していく。
「私はセルディさまに言われた通り、よく飲んでたくさん食べて早めに寝ます。困ったことがあったらお話しします!」
(あ。気のせいでしょうか、少し笑ってくれたように見えます)
こうしてエレファナはセルディや周囲の人の愛情あふれるお手伝いをしていきながら、健やかさと美しさ、そして魔力を取り戻しはじめる。
***
閲覧ありがとうございます、完結しました!
コメディとシリアス混在のゆる設定。
相変わらずですが、お気軽にどうぞ。
【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。
樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」
大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。
はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!!
私の必死の努力を返してー!!
乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。
気付けば物語が始まる学園への入学式の日。
私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!!
私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ!
所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。
でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!!
攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢!
必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!!
やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!!
必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。
※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。
※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
婚約破棄されて無職、家無しになったので、錬金術師になって研究ライフを送ります
かざはなよぞら
恋愛
ソフィー・ド・セイリグ。
彼女はジュリアン王子との婚約発表のパーティー会場にて、婚約破棄を言い渡されてしまう。
理由は錬金術で同じ学園に通うマリオンに対し、危険な嫌がらせ行為を行っていたから。
身に覚えのない理由で、婚約破棄を言い渡され、しかも父親から家から追放されることとなってしまう。
王子との婚約から一転、ソフィーは帰る家もないお金もない、知り合いにも頼れない、生きていくことも難しいほど追い詰められてしまう。
しかし、紆余曲折の末、ソフィーは趣味であった錬金術でお金を稼ぐこととなり、自分の工房を持つことが出来た。
そこからソフィーの錬金術師としての人生が始まっていくのだ――
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる