上 下
14 / 63

ミラー様とのお茶会のようです。

しおりを挟む
「どう? この庭園は気に入ってくれたかな?」

「はい、とても綺麗で良い匂いに囲まれて幸せな気分になれます」

「それは良かった。君の黒髪にはこの白い花が似合いそうだね」

 そう言うと花を一つ摘み、私の髪に挿してくれる。

「うん、イメージ通りだ。まるで君を飾る為に咲いていたみたいだ」

 うん、ミラー様が言うと何でも様になる。
 今日はミラー様に誘われて、王宮の庭園でお茶会をしている。とても美しく花が咲き誇っているのだが、私の後ろにはローラン、ミラー様の後ろにはマークが控えているので2人きりではない。そうこの会話を2人に聞かれてるのが私には居た堪れない。

「……アリガトウゴザイマス」

「うん? 調子でも悪いのかな?」

 そういうと私の顔を覗き込んでくるミラー様。綺麗なお顔が近づいてきて思わず目を閉じてしまう。

 コツン。
「うーーん熱はないみたいだね。うん? でも顔が赤くなっているよ」

「……」

 もう私の思考回路は崩壊している。何、これは何のプレーなの。私はおでこで熱を測られていたの? え、ミラー様って天然なの? まつ毛もこんなに長いんだぁ羨ましいな。

「おーーい。ユリ殿ーー?」

「……」

 目の前でひらひらと動いているこれはミラー様の手なのか? その手ですら神々しい光を放っているように見えてきた。

「マークどうしよう、ユリ殿の様子がおかしい」

「ミラー様が離れればすぐに回復すると思います」

「離れて彼女が倒れたら大変じゃないか」

「そのままでいる方がユリ殿の心臓に悪いかと思いますので、ここは大人しく離れて下さい」

「分かったよ」

「……」

「ユリ殿、ミラー様はもう近くに居ないので安心してください。はい、しっかり深呼吸して」

「スーー、ハァーー、スーー、ハァーー。やっと生き返ったぁ。いやあ危なかった。マーク様ありがとうございました」

「いえ、こちらこそすみませんでした。ミラー様には後で厳しく言っておきますので」

 マーク様のおかげでやっと落ち着いてくることが出来た。ミラー様とマーク様は二人とも26歳らしいのだが、どうやらマーク様にはミラー様も弱いみたいだ。

「落ち着いたようだし、あちらでお茶をしながら話そうか」

 そういうと庭園の端にあるテーブルに案内され、ローランがお茶と焼き菓子を出してくれる。

「それで話というのは無線機についてで良いのかな」

「はい、まず確認したいのですが、これはどういった場面で使用する予定なのですか?」

「主な使い道はダンジョンの中から外への連絡手段にしたいんだ。今までダンジョンの中で危険な目に遭っても外へ助けを呼べずに亡くなってしまう冒険者も多いんだ。だからそういった時に外部へ助けを呼ぶことが1番の目的だよ」

「私の力がそんなところでも役に立つんですね」

 何も分からず言われるまま作業をしてきたが、この力が誰かの役に立っていると思うと嬉しい。ここでこの仕事を続けるのも良いなと思ってしまう。

「そうだよ。君は気づいていないかも知れないが、今まで作ってきた魔道具だって沢山の困っている人を助けているんだ」

「ありがとうございます。そう言われるとやる気が出てきます」

「それは良かった」

「ではやはり持ち運びの邪魔にならないものが良いですね」

 うーーん持ち運びに邪魔にならなくて会話出来るもの……。そうだ! あれがあるじゃないか!!

「ミラー様バッジってありますか?」

「バッジ? 聞いたことがない言葉だな」

「うーーん、ピンがついていて服とかに着けられるものなんですけど」

「これではダメかな?」

 そう言うとミラー様は服についていたブローチを一つ取って渡してくれる。

「これで大丈夫です!! 今から少し細工をしても大丈夫ですか?」

「ああ、問題な……」

「ミラー様! そのブローチは隣国からもらった宝石を使用しているんですよ! そんな簡単に加工させないで下さい!!」

「別にそれくらいな……」

「えっ……なんてもん渡してくるんですか! やめて下さいよ!!」

 一体いくらするのか、考えただけでブローチを持っている手が震えてくる。

「こちらでお願いします」

 そう言ってマーク様が先程のブローチと引き換えに、自分がつけていたブローチを渡してくれる。

「こちらは宝石など使っていないものですからどうぞ」

「ありがとうございます」

 マーク様がいて本当に良かった。ミラー様は普段はしっかりしてるくせに時々こんな感じの暴走があると最近分かってきた。イケメンで仕事も出来るけど少しポンコツなのだ。そんなポンコツっぷりもイケメン効果でむしろプラスになってしまうのだからずるい。

「あともう一つ欲しいんですけどありますか?」

「私のを使用してください。こちらも高価なものじゃありませんので」

 そう言うとローランがもう一つブローチを渡してくれる。

「ありがとう。ではやってみます」

 ブローチを2つ手に握り、あの某アニメの少年探偵団のバッジをイメージして魔力を流していく。あとは連絡方法はこうしてっと。
 魔力を流し終えるとブローチが一瞬淡く光る。これで魔道具に変化したのだ。

「出来ました! これが小型無線機です。話したい相手を思い浮かべて魔力を流すと、相手のバッジが振動します。振動を感じたらバッジを握り魔力を流すと相手と話せるようにしました」

「おお! すごいな。さっそく試してみ良いかい?」

「はい!! じゃあミラー様はこっちをどうぞ」

「少し離れた方が良いだろう。僕がある程度離れてから君に合図を送るから話してみてくれ」

「分かりました」

 そうするとミラー様が花壇の向こうに歩いていく。暫くするとバッジに振動が来たので、魔力を流していく。

「……ミラー様聞こえますか?」

「ああ君の可愛い声が良く聞こえるよ。大成功だ」

「……」

「……あれ? 返事が聞こえないな。やっぱり壊れているのかな」

「聞こえてるので大丈夫です! 戻ってきてください!!」

「せっかく君と2人で話せているのにもったいないな。じゃあそちらに戻るよ」

 戻ってきてご満悦のミラー様と少し疲れた様子のマーク様。いったいあちらで何があったのだろうか。


「これはすごいね。すぐにも広めて行きたいけど君意外には作れないからな。どうしようか」

「とりあえず安価で壊れにくい素材のブローチを生産させましょう」

「そうだな。それで各冒険者ギルドに配布して、ダンジョンに入る冒険者への貸し出しを義務付けよう。冒険者ギルドの職員にもこれを持たせて、何かあった場合はギルドに向けてヘルプを呼ぶようにすれば冒険者の危険もかなり減ってくるだろう」

「はい、それが良いかと思います。ではいくつ必要かの概算も出さなければいけませんね」

「ああマークよろしく頼む」

 ミラー様とマーク様の2人でどんどん話が進んでいく。こうして仕事のことになるとしっかりテキパキしていてとっても素敵なんだけどな。

「こほん。お二人ともこちらにまだユリ様がいらっしゃることをお忘れではないですか?」  

 ローランが声をかけてくれてやっと2人がこちらの世界に呼び戻される。

「あっ……ごめんユリ殿」

「いえ、私はそういったことは分からないので構いません」

「ユリ殿にはブローチの必要数が確保出来たらまた依頼するよ。それまではゆっくり休んでいてくれ」

「分かりました」

「本当はもっと一緒に居たかったんだがここで失礼するよ」

 そう言うと私の髪に刺した花に触れるミラー様。

「君とここで別れるのが寂しいな。君が僕の物になってくれたら良いのに」

「ミラー様……」

「もう心は決まっているんだろう? 申し訳ないがその返事は僕の心の準備が出来てからにして欲しいな」

「……はい」

「ありがとう。じゃあね」


 私を部屋まで送り届けてくれると、別れを告げて去っていった。彼の後ろ姿が少しだけ寂しそうに見えて、ほんの少し罪悪感を感じる。だけど私はミラー様とは婚約出来ない。一国を一緒に背負っていく覚悟など一般人だった私には無理なのだ。そういうのは幼い頃からちゃんと教育された令嬢がふさわしいと思う。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

王太子殿下が好きすぎてつきまとっていたら嫌われてしまったようなので、聖女もいることだし悪役令嬢の私は退散することにしました。

みゅー
恋愛
 王太子殿下が好きすぎるキャロライン。好きだけど嫌われたくはない。そんな彼女の日課は、王太子殿下を見つめること。  いつも王太子殿下の行く先々に出没して王太子殿下を見つめていたが、ついにそんな生活が終わるときが来る。  聖女が現れたのだ。そして、さらにショックなことに、自分が乙女ゲームの世界に転生していてそこで悪役令嬢だったことを思い出す。  王太子殿下に嫌われたくはないキャロラインは、王太子殿下の前から姿を消すことにした。そんなお話です。  ちょっと切ないお話です。

殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。 真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。 そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが… 7万文字くらいのお話です。 よろしくお願いいたしますm(__)m

彼はもう終わりです。

豆狸
恋愛
悪夢は、終わらせなくてはいけません。

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...