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下着を買いに行くようです。

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 あの日から彼との共同生活をしてもう1週間も経つ。彼は毎朝剣の特訓をすると、そのまま森の中へ入っていく。そこで何をしているか分からないが、私は洗濯物や洗い物、彼が持ってきてくれた食料を使って料理をしながら待っている。まるで家政婦のようだが、これもなかなか大変である。

 川での洗濯物は慣れたのだが、自分で火を起こして料理するのが大変なのだ。まず燃やすのに良さそうな乾いた枝や葉を探す所から始めなければならない。そうして集めた枝に火打石を叩き火をつける。火が付いたら火加減をみながら風を送り、消えないように見守りながら調理しなければいけない。

 異世界だから魔法が使えるのかと思ったが、どうやら違うらしい。あれから彼は私を監視しているのだと言って、最低限以外の事は教えてくれない。食料は分け与えてくれるが、それ以上のことはない。あと3週間程で王城から鑑定士が来るというので、それまでには距離を詰めたいのだがどうしよう……。

「ねえ、あなたはどうして一人で旅をしているの?」

 距離を詰めるにはまずお互いの事を知らなければいけないと思った私は森から帰ってきた彼に質問をする。答えてくれるかは分からないが、何もしないよりましだ。

「俺は勇者だからな。だから旅をしている」

「……勇者??」

 中二病なのか? 彼はもう中学生といった年齢じゃないと思うのだが……。

「信じていないだろう」

「ええ。勇者なんて私のいた世界には現実にいなかったもの」

「この世界にも俺しかいないだろうからな。信じなくても仕方ない。だが俺はスキルとして『勇者の剣』を持っているんだ。だから勇者であることに間違いはない」

「スキルってどういうこと?」

「この世界の人は誰でもスキルというものをもって生まれてくるんだ」

 私が聞くと、彼がスキルについて説明してくれる。スキルとは皆が持って生まれてくるのだそうだが、色んな種類があるそうだ。花を咲かせる、天使の歌声、馬鹿力など本当に様々。そういったスキルで自分にあった職業に就くことが多いらしい。花を咲かせるなら花屋、天使の歌声なら歌手、馬鹿力は……よく分からない。そんなスキルの中でも特殊なのが、聖女、勇者と名のつくスキル。めったに生まれないとされているそうで、目の前の彼がその唯一の持ち主だそうだ。

「じゃあ私にもスキルがあるのかしら……?」

「あぁ、それを鑑定士が見てお前が有益かどうか判断する」

「え、能力で判断されてしまうの? それじゃあどんなに頑張っても回避できないじゃない!!」

 知識チートも何もあったもんじゃない。

「そもそもお前が善人であれば問題ないんだ。努力しようがしまいが関係ない」

「善人って?」

「落界人に選ばれる奴は2パターンあるんだ。前の世界で善行を行い気に入られてこちらの世界に来た者、それから悪行を働いて罰としてこちらの世界に落とされた者」

「だったら私は善人よ!! こどもを助けて代わりに死んだんだもの!!」

「誰だって自分は善人だと主張するだろう。そんな本人の主張を信じるわけにはいかない」

 むむ。確かにそうだろう。それにそれを証明する手段が今の私にはない。

「でも本当に助けたのよ」

「あぁ、だからスキル鑑定を行う。スキル鑑定をして善人の場合は、『異世界チート』というスキルになっているはずなんだ。そのスキルを持っていたら国に保護され、生活を保障される。だがそうでない場合悪人とされ強制労働が待っている」

 異世界チート!! なんて素晴らしい響きなんだろう。私はそのスキルを持っているに違いないが、万が一そのスキルを神様がつけ忘れている可能性もあるだろう。今すぐそれを確かめる方法はないのだろうか。私がそうして考えているのを察したのか、彼が私の望みを消してくる。

「スキルは鑑定士が判断するまでは分からない。スキルの能力も鑑定士が持ってくる石板に触れるまでは発動しない仕組みだから今確認は出来ないぞ。危ないスキルを持つものもいるから、鑑定をしてからじゃないと使えないようになっているんだ」

 なんて用意周到な神様なのだろう。そんなに心配するならそんな危ないスキルをつけなければ良いのに。やっぱり神様の考えることなんて人間には分からない。

「分かった。大人しく鑑定士が来るまで待つしかないのね」

「そういうことだ。余計なことは考えるなよ」

 そう言われた私は今日も先に眠りについた。彼はいつも私より後に寝て先に起きているんだが、しっかり休んでいるのだろうか。少し心配になる。

 ◇



「おい!! 何だこれは!?」

「うん? 何かあった?」

 昼間洗濯物を干したあと、木の枝を探していたら川の方から彼の声が聞こえてくる。どうしたのかと思ったら洗濯物を干してあるのを見たみたいだ……しまった、今日は下着を干していたんだった。私は1枚しかない下着をどうしようかと思い、昼間彼のいない間に洗うことにしたのだ。シャツとワンピースは買ってくれた物と彼から借りていたものの2着を着まわしている。

「ごめんなさい。下着の替えがないから昼間洗って干していたの。乾いたら片づけるね」

「下着ってこんな堂々と干さないだろう!! っていうことはお前今何履いてるんだよ!!」

「何って……何も下着をつけてないわよ。だってそれしかないんだもの」

「……っ! だからもう少し羞恥心を持ってくれ!!」

 彼はそういうが、私だってこんな痴女みたいな発言はしたくない。だが事実がそうなのだから仕方ないだろう。ずっと1週間洗濯しないで身につけっぱなしの方が嫌だった。昼間一人でいる分には下着をつけなくてもまあいっかと思ってしまったのだ。

「もういい、分かった。とにかくこっちに近づくな!」

「そんな言い方しなくても良いじゃない。別に下着つけなくても見えやしないわよ!」

「そういう問題じゃない! とにかく夜戻ってくるからそれまでにちゃんと着ろよ!!」

 そういうと彼は走り去ってった。うーーん、なかなか可愛いらしい勝負下着だったから刺激が強かったのかしら。よれよれの下着をみられるよりマシかな。あの日の下着をちゃんとしたものにしておいて良かった。

 ◇

 翌日の朝テントの外に出ると彼が待ち構えていた。

「おい、町に行くぞ」

「私も連れて行ってくれるの?」

「あぁ、着いて来い」


 そう彼について歩いてから1時間程で町に着いた。あの森はかなり町から離れている所にあるみたいだ。彼は町に詳しいようで、迷うことなくスイスイと歩いていくとあるお店で立ち止まる。

「ここで肌着を買え。俺はここで待っているから、お金はこれで払え」

 そう言ってお札を3枚渡してくれるので、お礼を言ってお店の中に入る。中には優しそうなおばさんが居て、こちらでの下着の使い方を教わりつつ私に合うものを選んでくれた。

「ありがとう。ちゃんと買えたよ」

 そう言っておつりを彼に渡す。彼はそれを受け取るとまた歩き始めるので大人しく着いていく。

 辿り着いたのは、冒険者ギルドのようだ。受付には様々な依頼が貼ってあり、中には冒険者のような格好をした人たちが居る。町を歩いている時も冒険者パーティーのような集団が歩いているのも何度か見かけた。

 彼は受付に何か話し、鞄から魔物の素材のような物を渡すと対価を受け取っている。どうやら依頼の品を納めに来たらしい。

「用事は終わったから後は帰るだけだが何か他にいるものはあるか?」

「そうしたら調味料と食料をみたいわ」

 何せ味付けをしようにも彼は塩しか持っていなかったのだ。今作っている料理も殆どが素材の味だ。それはそれで美味しいのだが、やはりちゃんと味付けした料理を久々に食べたい。

「自分の物じゃなくて良いのか……」

「うん? さっき買ってもらったし他に必要な物はとかに無いわ」

 本当は身体や髪を洗う石鹸も欲しいのだけど、彼にお金を出してもらっている存在でそんな我儘なことは言えない。食料なら彼のお腹にも入るので無駄遣いにはならないだろう。

「食材ならいつも買ってる店があるからそっち行くぞ」

 そう言う彼についていき、野菜、肉、卵と鶏ガラ、油、胡椒、そして醤油のような物を買ってもらう。

「ふふ、お肉なんて久しぶり! 今日の夕飯は楽しみにしていてね!!」

「料理なんて何作っても一緒だろう」

 絶対彼の舌を唸らせてやるんだから! そう私は決意して森の入り口に帰っていった。

 帰ってくると、彼はまた森へ出かけていく。彼が帰ってくる前に美味しい料理を作ろうと取り掛かる。

 野菜は千切ってサラダにし、油と塩胡椒、鶏ガラの粉末を混ぜた手作りソースをかける。お肉は塩を振ってさらに胡椒を強めに振る。シンプルながら塩胡椒が良い味を出すだろう。卵は明日の朝焼いて醤油をかけて食べる予定だ。


 ちょうど肉が焼き上がった頃、彼が森から帰ってくるので一緒に夕食にする。

「いただきます」
「いただく」

「早く食べてみて! 美味しく出来たと思う」

「見た目は普段と変わらないが……。うまい。これうまいぞ」

「でしょう!! 胡椒があるだけでだいぶ味が変わるのよ!!」

「あぁ。とても胡椒というのが効いていて美味い。このサラダにかけてあるやつも美味しいな。葉物の味は苦手だったがこれなら食べられる」

 今までは洗った野菜を千切って塩振って食べてただけだからね。それに比べたら美味しいに決まってる。

「ね! ちゃんと調味料使って調理すればこんなに味が変わるのよ!」

「あぁ。今まで料理なんて適当にしかしてこなかったが、これは美味いな。店以外でこんな美味い物食べたのは久しぶりだ。また調味料? を買ってくるから作ってくれ」

「本当!? 他にも欲しい調味料があったから、また食材がなくなってきたら買ってきて欲しいな」

「あぁ、分かった」

 そう言うと彼はパクパクと食べその日のメニューを完食した。


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