チートやガチ勢に負けないまったり勢の冒険譚

葉十進部

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第四章

煌魔降臨! 決戦アシスター![前編]

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「神様、大丈夫ですか!」
 倒れたリリルを安全なところまで避難させ、ジョセフが回復魔法をかける。
「申し訳ありません、僕たちのせいで………」
「リリルを傷つけてしまった…。本当にすまない!」
「あなた方が…気にすることは……ないのですよ」
 ダメージは相当重いというのに、逆に俺達を心配してニッコリ微笑む。
「敵はたくさんの冒険者からも力を得ていました。この戦いにむけて万全の態勢を整えていた彼女のほうが一枚上だったのです」
 確かに能力と見た目の相性が抜群で、それをフルに活かした戦略で信じられない強さを手にしていた。
「私のことはいいので、フォックスさんは魔王の戦いを見守ってあげてください。彼女にはあなたの力が必要です」
 リリルは横になったまま視線だけを動かしてエメラダを見やる。
「それじゃあジョセフ、あとは頼むな」
「任せて。兄さんも気をつけて」
 エメラダとミスリはいまだ睨みあったまま動かない。
「魔王さまを倒したら次はあなたたちの番よ。神様もすこ~し寿命が延びただけ。
 あなたたちを殺したら私が神であり魔王となってあなたたちが元いた異世界を私の物にするわ~♪」
「ふんっ、神を倒したからって調子に乗らないことね。
 今ここにいるアタシは魔王ではないわ。あんたが神を超えたように、アタシもかつての自分を超えたのよ」
 お互い立っているだけなのに、テリトリーを奪い合うかのようにオーラがせめぎあっている。
「ふふふ、そうこなくっちゃ殺し甲斐がないものね。
 さぁいらっしゃい、人智を超えた戦いの始まりよ♪」
 ミスリが上空へ羽ばたき、エメラダも後を追って上昇する。
「激写ーーーーっ!!」
 飛び上がったエメラダの下に滑り込むように走り込んで、スカートの中の花園を両のまなこを見開いて脳裏に焼きつける。
「えっ? きゃあぁぁーーーーー!!」
 可愛らしい悲鳴を上げてスカートを押さえる様もまたナイス♪
「兄さん! こんな時に何をやってるんだ!」
「あなたは真面目にやる気があるのですか?」
 仲間から口々に責め立てられる。
「す、すまん。身体が勝手に…」
「困った子ね、シリアスなシーンなのに。TPOをわきまえないとダメよ?」
 敵にまで呆れられてしまった……。
 つーか、1番場違いな格好をしているミスリにだけは言われたくないなぁ。
「~~~!」
 エメラダが俺の目の前に降り立つ。
 遠くにそびえ立つハイダウト火山が憑依したみたいに白い噴煙を上げているのが見えるかのようだ。
 ぶっ飛ばさせるのは覚悟の上で覗いたのだ、悔いはない(反省の色なし)
 エメラダは上気した顔で上目遣いに俺をじっと見つめて
「そんなに見たかったのなら言ってくれたらいつでも見せてあげたのに……」
「えっ!!」
 投げかけられたのは魔法でも罵倒でもなくて、甘えた声色に心臓が跳ね上がった。
「べぇーだっ、ウソだよバーカッ」
「なーっ!?」
 仕返しとばかりにおちょくられた。
 小さく赤い舌をチロリと出して、すぐにぷいっとミスリの元へと行ってしまった。
 さすがにまた同じことをする気はない。ただ、じゃれあったような妙な楽しさが心をほんわかとするのを感じながら、真面目モードに移行して戦いを見守る。
「……魔王も変わりましたね」
「神様?」
「神族と魔族ははるか昔から対立していました。私も魔王とは何度も相まみえました。
 元の世界での魔王は敵対する者、魔王の機嫌を損ねた者は同じ魔族であっても容赦なく命を奪っていました。
 あのようなふざけた行為をしたら有無を言わさず消されていたことでしょう」
「あ、相変わらず兄さんは後先考えないなぁ………」
「魔王とは争うだけの関係でしたが、あのように屈託のない表情は見たことがありません。
 あそこにいるのは私の知っている魔王ではないのかも知れませんね。他者を慄然とさせる雰囲気が感じられない。……彼女を変えたのは間違いなくフォックスさんです」
「兄さんが………」
 空で火花を散らして睨み合う2人。さっきまでの間の抜けた空気など一瞬で緊張に塗り替えられた。
「お別れは済んだのかしら?」
 ミスリは余裕の態度を崩さない。神に勝ったことが更なる自信に繋がったようだ。
「この世と別れるのはあんたのほうよ。アタシはあいつと離れる気なんてないわ」
 お互いがタイミングを合わせたように同時に魔法の構成を始めた。
「『精蛇竜流波動アイアタルカレント』」
「『深淵を照らす極光アビス・オーロラ』」
 正面からぶつかる2つのエネルギー。魔法の押し合いはエメラダが優勢だ。
「うくっ、はあっ!」
 ミスリは魔法の軌道をズラして回避し、エメラダより一層高く上昇する。
「さぁ、これでおしまいよ!」
「!」
 ミスリとエメラダ、そしてその直線上にジョセフとリリルがいることに気づき急いでダッシュする。
「『神聖なる裁槍セイクリッド・ジャッジスピア』」
「攻撃が!」
「ジョセフはリリルの治療に専念してろ!
 頼むぜ、相棒!」
 ギリギリ攻撃に間に合い、魔剣を高く掲げる。
 エメラダはちらりと後ろを確認して散魔光弾ソーサリーバレットで大雨のごとく降り注ぐ魔法の一部を打ち砕く。地上にまで降りかかる槍は魔剣から発生した蒼白い光の壁に全て弾かれた。
「惜しかったわ、気づかれちゃったのね」
 やっぱり今の攻撃はリリルが狙いだったのか…。
「他を狙うなんてずいぶん余裕を見せてくれるわね!
 『爆龍灰燼撃ドラゴニックバーストアッシュ』」
「『清浄を具現せし水虎プルガシオン・ヴァハトゥンバーグ』」
 炎の龍と水の虎が縦横無尽に天を翔け、牙を剥きだしにする様はまさに竜騰虎闘りゅうとうことうのごとくである。
 天上の闘いは雷雲を呼び風が暴れ、この世の終末を思わせるほど荒れ狂っている。
 2人は戦場を地上に移して、こちらも激しく争う。
「『深淵を照らす極光アビス・オーロラ』」
「『邪眼歪曲殺イーヴィルアイディストーション』」
 揺らめくように色を変えるまばゆい光はエメラダに届く前に、不自然にぐにゃりと屈折して押し潰されるように消えていった。
 消えた先、さっきまでミスリが立っていた場所には誰もいない。
「! そっちっ!」
 ミスリは低空飛行で大きく右に回ってエメラダに接近していた。
「『煌魔翠玉弓エメラルダルク』」
 バッと身体を四半回し矢を連続で射る。
 しかしミスリは氷上を滑るようになめらかにこれらを全て躱し、魔手刀を正拳突きのように鋭く突き出す!
「かはっ!」
 エメラダは翼で自分を包み込みガードする。そして、敵の動きが止まった刹那に尻尾で脇腹を打った。
 ミスリはバッティングされた球のように勢いよく横へ飛ぶ。エメラダは手を緩めることなく追撃の弓を引く。
「くっ!」
 一瞬シールドを張ろうとした挙動がみられたが、エメラダの弓は魔法を吸収する。手を止め翼で飛ぶ。だが片翼を矢が撃ち抜きミスリは地面に落下した。
「ぐっ!」
 戦況はエメラダに傾いている。ミスリもそれを自覚して苦痛と悔しさで顔をしかめる。
「ふふっ、あはははは!」
 と思ったら今度は笑いだした。
「強いわね魔王さまは。このまま戦っても勝つのはちょ~っとだけ大変かもね」
 ミスリの言葉に眉をピクリと動かす。
「ちょっとですって? なにが可笑しいのか知らないけど、フォックスがいたからアタシは力を失う前以上に強くなることができた。
 心に温かい気持ちを与えてくれる相手のいないあんたに勝ち目はないわよ」
 エメラダの言葉が気に障ったのか、ミスリの表情に憎悪が表れた。
「言ってくれるじゃないの……!
 絆によって生まれる力がこんなにも強くなるなんて想定外だったことは認めてあげる。でもそれで勝った気にならないことね。
 良いことを教えてあげる。…その絆があなたの弱点なのよっ! 『真なる光ジェニュイン・シャイン』」
「!?」
 ミスリはエメラダにではなく、まっすぐ俺に向かって魔法を放った!
「ぐっ、ぐぅ……」
 さすが上位の魔法だけあってさっきよりも威力が高いことが、シールドを張っている魔剣を通じて伝わってきた。
「それがあなたの敗因よっ!
 『永遠の晶獄エターナルクォーツプリズン』」
 ミスリはエメラダの注意がこちらに逸れた僅かな隙をついて魔法を発動させた!
「い、いやーーっ!」
 突然エメラダが悲鳴をあげた。よく見ると、エメラダの両足が氷漬けにされたようにクリスタルで覆われている。
「まさかあの魔法をっ!?」
 後ろでリリルが驚いている。
「一体なんなんだ、あの魔法は?」
 攻撃魔法を凌ぎきり、後ろを振り向く。
「あれは私が元の世界で魔王に対して使った封印魔法ですよ!」
「なっ、なんだって!?」
 俺が召喚する直前、エメラダを窮地に追い込んだっていうあの………。
「私のほかには一部の天使にしか使うことができないというのに……。まさか彼女の召喚した力があの魔法を使える者だったなんて……。
 まずいですよ。あれは生涯に1人の封印にしか使えませんが、その分非常に強力で特に魔族に高い効果を発揮します。成功すれば、未来永劫相手をクリスタルに封じ込める、魔族に対する切り札とされている魔法です」
「なっ、そんなに強力な魔法なのか!」
「かつて私が魔王に使ったときはあと一歩、体全体を封じ顔をクリスタルが覆う、というところでした」
「い、いや……やめて……」
 エメラダがひどく動揺している。あんなエメラダは初めて見る。どうやらリリルに封印されかけたときのことがトラウマになっているらしい。
「エメラダッ、エメラダーッ! 俺の声を聞けっ!」
「フォックス………」
 こちらを振り向いた瞳には涙がにじんでいる。
 さっきまで強気だったエメラダがここまで怯えるなんて………。
 人間だと封印されるなんて経験をすることはまず無いからよく分からないが、死ぬのと同じか、もしくはそれ以上の恐怖なのかもしれない。
 だから封印魔法から救って召喚した俺に対してあんなにも恩を感じていたのか………。
「落ち着け! 例えミスリの魔法がリリル以上に強かろうが魔族に有効だろうが、お前もその時より強くなってるだろ!
 それにエメラダの心の中には精神が繋がっている人間である俺がいるんだ! 落ち着いて集中しろ、大丈夫だから。言っただろ、全力を出せって」
 俺の言葉に頷き、大きく深呼吸をする。
「余計なことを……! 早く封印されちゃいなさいっ!」
 ミスリが封印魔法に流す魔力を大きくする。
「はぁぁーーーっ!」
 エメラダも全身の魔力を解き放ってクリスタルの進行に対抗する。
「がんばれエメラダーッ!」
 膝近くまで覆っていたクリスタルが徐々に元の脚に戻っていく。
 その様子にミスリが苦々しく呟く。
「また魔力が上がったですって!? くっ、 本当に厄介ね絆の力は……」
「ここにフォックスがいることが分かったから……、いつでもアタシのことを守ってくれるフォックスがアタシに勇気と力をくれる。アタシは1人じゃない! あんたなんかには絶対に負けないっ!」
 落ち着きを取り戻したエメラダは胸に手を当てゆっくりと、そして力強く言葉を紡ぐ。
 さざ波一つ立たない静かな水面のようでいて、海のような途方もなさを感じさせる魔力がだんだんとクリスタルを押し下げる。
「 ……できればこの手だけは使いたくなかったのだけど、仕方ないわね…」
 ミスリが何かを取り出し、俺達に見えるようにわざと高く掲げる。
「あれは魔石? 一体なにを……まさかっ!?」
「後悔するがいいわっ、ここからが地獄の始まりよっ!」
 ミスリは自分の身体に刻まれた召喚陣に魔石を押しつけた!
「召喚魔法の重ねがけだとっ!?」
「なんて無茶なことをっ! もし新しく召喚する力が魔族のものだったら、相反する力によって肉体が崩壊してしまいますよっ!」
「そ、それほどの危険を冒して? 敵も相当追い詰められているんですね」
「あああぁぁぁーーーーーー」
 召喚陣から溢れだした虹色の光に包まれミスリが絶叫を上げる。
「くそっ! エメラダッ、今のうちに封印を打ち破るんだ!」
「えぇ!」
 再び魔力を高めて封印水晶からの脱出に専念する。
「ああぁぁーーー………ぁあは、……はは………、あははははは!!」
 光の中から聞こえる叫び声が不気味な笑い声へと変わっていく。
「きゃぁっ!」
「エメラダ!?」
 集中していたエメラダの魔力がバチィッ、と弾き返され悲鳴を上げる。
「なんて魔力なの! 力がみなぎるわ~!」
 虹色の光がミスリの身体に吸い込まれるように消えていき、俺達の目の前に純白の4枚翼となった姿を現した。
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