チートやガチ勢に負けないまったり勢の冒険譚

葉十進部

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第四章

神VS神人 怒りのリリル

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「仲間になる気がないのなら仕方ないわね。かわいそうだけどここで死んでもらうわ。せめて苦しまないように殺してあげる♪」
 緊張した空気が辺りを支配する。
 イーワンやニッツはかなり厄介な能力を持っていた。それを上回る強さを持つというミスリは一体どんな能力を持っているのか?
「まずは私に行かせてください」
 リリルが一歩前に出る。
「止めておきなさい。今の神では手も足も出ないわよ」
「あの者は神族わたしたちの力を悪用し多くの命を奪いました。神として私が裁かねばなりません」
 リリルの瞳には怒りの感情が滲み出ている。
 同胞の力を守るべき対象を殺すことに利用されたのだ。リリルの怒りがいかほどのものか想像もできない。
「一人ずつ挑んでくるのは構わないけど、SRランク程度のあなたでは私にキズすらつけられないのが分からないのかしらね?
 それよりもそっちの魔王さまのほうがまだ可能性はあるんじゃない?」
 ミスリはリリルでは相手として物足りないと、エメラダを指名する。
「神様、僕も一緒に戦います。自分の力試しに人を殺すなんて許せない!」
「ジョセフさんの気持ちは私が預かりますのでここは私に任せてください」
 そう言って俺達から離れてミスリと対峙する。
「相手との力量差も分からないようじゃ神様も落ちたものね。
 そんなに最初に死にたいのならかかってらっしゃい」
 指をくいくいと曲げてリリルを挑発する。
「自らの罪を悔い改めなさい!
 『背負う十字架クロイツプレッシャー』」
 ミスリを中心とした大地の雑草が全てぺしゃんと横たえる。おそらく重力系の魔法だと思うのだが、当のミスリは平気な顔をしている。
「この程度で私の動きを封じられると思ったの?
 『神聖なる裁槍セイクリッド・ジャッジスピア』」
 リリルの魔法の影響をまったく受けずに光の槍が雨のように降り注ぐ。
「『風精の闘刃シルフスラッシャー』」
 光の槍と風の刃がぶつかり合う。
「あははは、そのまま串刺しよ!」
 風刃は対象を相殺することができずにことごとく消滅して、リリルは光槍の的となってしまう。
「神様!」
「なんだよ、全然押されてるじゃないか。 エメラダと戦ったときはもっと強かったように感じたけど」
 風に乗って躱したりしてなんとか直撃は避けたが、身体のいたるところからかすった血が流れている。
「あの時アタシの力はSRの中級クラス、神は上級クラスだったけれど、あの時から神の力は上がってないのよ」
「じゃあ今のエメラダのランクは?」
「それには私が答えてあげるわ」
 リリルとの戦闘中だというのに、ミスリは余裕しゃくしゃくでこちらの会話に参加してくる。
「能力を発揮したニッツはSSRの上級クラスの力があったわ。それを倒した魔王さまはすでにSSRを超えた強さを手にしている。違うかしら?」
「ふん」
 エメラダの態度が肯定を意味していることがだんだん分かるようになってきた。
「SSRを超えてるって、SSRが最高ランクじゃないのか!?」
「それは魔族のことをよく知らない人間が勝手に決めた基準よ。アタシや神の本来の力はその程度のランクに収まらないわ」
 エメラダは不服そうに俺の言葉に補足する。
「神様もエリィさんとそれほど時間を置かずにこちらの世界にやって来ているのに、なぜそんなにも力の差ができてしまったんですか?」
「それはあなたにも原因があるのよ」
 ミスリに思わぬ指摘をされたジョセフが驚く。
「僕?」
「あなたさっきから神様と呼んでいるわね。真面目な男の子なのでしょうけど、神様もこの世に生を受けた存在よ。1個人として見てあげなくちゃ絆なんて生まれっこないわ。
 その点君は魔王さまとずいぶん仲良くなったのね♪」
 敵の冷静な分析になんだか照れてしまう。
「ジョセフさんは悪くありません」
 もうかなり消耗しているらしく立っているのにもふらついている。
「私はこの世界に来てジョセフさんに協力を求めても、魔王を倒すことは自分の使命であると1人で抱え込んでいました。
 魔王とフォックスさんの絆の力に敗れあなたたちのことを知った後も、神である自分が人々を守らねばならないと必要以上に固く考えてしまっていたようです。
 ふふ、そういう意味では私とジョセフさんは似た者同士なのかもしれませんね」
 追い詰められているはずなのになぜかリリルは微笑んでいる。
「この状況で笑っていられるなんて余裕なのね」
「神様、あとは僕たちに任せて下がってください!」
「あと少し……、もう少しなのです」
 息も絶え絶えの状態でも、リリルの瞳からは光が失われていない。
「この状況を打開できる秘策でもあるのかしら? そうは見えないけど腐っても神様、何かする前にこの一撃で終わりにしてあげる」
 ミスリが両手を掲げて魔力を集中させる。
「避けろ、リリルッ!」
「もう遅いわ!
 『真なる光ジェニュイン・シャイン』!!」
 ボロボロのリリルを起点に光が大爆発する。
「神様ーーーーっ!」
「あはははは、まずは1人目! 次は誰が相手をしてくれるの?」
 リリルは俺達3人を順番に見る。
「やっぱり本命の魔王さまね。あなたなら少しは楽しめそうだわ」
「まだ戦いは終わっていませんよ」
 ボフッ
 ミスリが背を向けていた爆煙からリリルが上空へ脱出する。しかし、その姿に今までとの違いがあった。
「なに…あの姿は……? もうほとんど体力は残ってなかったはずなのに今の攻撃に耐えたの!?」
「どうしてあの姿に……!」
 ミスリとエメラダが同時に驚いた。特にエメラダは信じられないものを見たような顔をしている。
 リリルの背中から翼が出ていた。ミスリのような実際に生えているのではなく、光輝燦然とした光が翼を形どっている。
 髪にも魔力が充実しているかのように鮮やかにキラキラと光っている。
「私は自然の力を取り込み一時的に自分の力として使うことができます。1度に多くのエネルギーを消費すると自然界のバランスを崩してしまうため、この世界に来てから少しずつ自然のエネルギーをこの身に蓄積してきました。
 魔王との戦いには間に合いませんでしたが、こうして元の姿に戻ることができました。
 罪を認め償うのであれば、私は何もいたしません。ですがこれ以上、道を外すというのであれば、この世界の力をもってあなたに天罰を下します」
 な、なんて神々しいんだ………
 俗世とかけ離れた気高いオーラが人の本能の奥底に刻まれた神への畏怖の念を呼び覚ます。
「そういうことだったのね。神とは長年に渡って争ってきたけど、神だけ魔力の回復が早いと思っていたら厄介な能力を持っていたものね」
 エメラダが苦々しく呟く。
 かつて実際に戦ったエメラダだからこそ、あの能力の有用性を身をもって知っているのだろう。
「天罰を下すですって? ふざけないで!」
 これまで人をからかって楽しんでいたミスリが初めて声を荒げだ。その表情には怒りや憎しみ、悲しみといったいろんな感情が入り交じっている。
「私に自由と力を与えてくださったのはアシスター様よ。私は自分の意志でこれからを生きるわ。何者にもこの自由を奪わせたりはしない!」
 ミスリも翼を羽ばたかせてリリルの正面まで上昇する。
「残念です。あなたは必ず私が止めてみせます」
 珍しい空中戦が始まった。
 光と純白が大空に絵を描く筆のように縦横無尽に軌跡を残し、時に衝突してエネルギーが輪状に弾ける。
「『虹の露アルカンシェル・ロゼ』」
「『深淵を照らす極光アビス・オーロラ』」
 鮮彩な光が目に映る空の色を変える。
 2人の力がぶつかる度に地上にいる俺達にまでエネルギー振動波が届く。
「くっ、すごい衝撃だな。吹き飛ばされそうだ」
「はあぁっ!」
 リリルが放った光をミスリは羽ばたくのを止めて自分から落下することで躱し、すぐさま翼を広げて死角に回って反撃する。
「死ねぇー!」
 それをリリルは優雅に海中を泳ぐ人魚のように身体をひねって回避する。
「これが神クラスの戦い………。あの人も神様と互角に渡りあってる…」
 これまで見たこともない壮絶な力のぶつかり合いに、ジョセフは根が生えたようにじっと戦いの行く末を見つめている。
「でも自然のエネルギーも使えるリリルの方が長期戦になれば圧倒的に有利だよな」
「それは逆ね」
 エメラダが首を横に振る。
「さっき神自身も言っていたとおり、1度に多くのエネルギーを自然から吸収することはできないの。世界のバランスを崩し多くの生命に影響を与えるから。
 あの能力は長い期間をかけてようやく発動できるもの。アタシと神のように長年戦い続けていれば再度発動させることはできるけれど、この戦いにおいてあの姿を維持し続けるのはそろそろ限界のはず……」
「そ、そんな……」
 空を見上げ一進一退の攻防を繰り広げるリリルを見守る。そう言われれば光の翼の輝きが弱くなってるような気もする……。
「はぁっ、はぁっ。
 天使の力を人の精神力だけでここまで引き上げるなんて………。アシスターという人間は恐ろしい魔法を創ってしまったようですね……。
 なんとしてもここを突破し、彼を止めなくては。
 次の一撃に私の全魔力を込めます」
 リリルは一層魔力を高めて両の手の間に魔力を集中させて魔法を構築していく。
「ふふふ。あなたを殺して私が代わりに神になってあげる」
 ミスリも同じように魔力を紡ぐ。
「『未来へ導く希望の光ギデ・アヴニール・ホープシャイン』」
「『真なる光ジェニュイン・シャイン』」
 双方から放たれた2つの光がぶつかり激しくせめぎあう。
「そ、そんな……くっ……」
 対立する魔力の激流は少しずつリリルの方へ押されていく。
「神様がんばれー!」
「負けるなリリルー!」
「くっ、はああぁぁーーっ!」
 俺達の声援に応えるように放出する魔力量を上げて互角まで押し戻した。
「元の姿に戻ることは予想外だったけれど、あなたはよく頑張ったわ。ご褒美に私の能力について教えてあげる。
 『愛と美の女神ヴィーナス』は私の美しさに比例してどこまででも強くなることができる能力よ。
 あなたたちが来るまでの間に殺した冒険者たちやそこの男の子たち、私を綺麗だと思う心の動きが私に力を与えてくれるの!」
「なっ!? それじゃあ僕たちは知らず知らずのうちに敵のパワーアップに加担させられていたのか……!」
「だからわざとそんな格好をしていたのか。男を魅了し、力を得やすくするために」
 俺とジョセフの反応にご満悦に笑う。
「そのとおり。あなたたちのおかげでこんなにも強くなることができたわ。
 見なさい、これが神を超えた力よっ!」
 ミスリが魔力の出力を急上させた。放たれる光線が膨れ上がり、リリルの勢いを大きく上回る。
「ま、まだ魔力が上がるなんて………くっ、う……あ…あ……ああああぁぁぁーーーーーー!」
 リリルは激しさを増した大瀑布のような魔力の流れを押し留めることができずまともに飲まれてしまった。
「神様ーーーーーっ!」
 力をなくした姿に戻り光の翼も失って、壊れた人形のように真っ逆さまに落下した。
「リリル! うわっ!」
 飛び出そうとした俺とジョセフの足元にミスリが魔法を放って牽制する。
「うっ……」
 かすかに身じろぎはするもののリリルは身体を起こすことすらできない。
「あの攻撃を食らってまだ生きてるなんてさすが神様ね。あの子たちが私の力を上げてくれなかったら、もう少し苦戦していたかもね。
 可哀想な神様、仲間が敵を強くしたことで殺されるなんて♪
 さぁ、後悔するがいいわっ! あなたたちのせいで神様は死ぬのよー!」
 手刀を魔力の剣に変え、狂虐の笑みを浮かべてリリルの身体を突き刺す。
 バキィッ!
「いいところで邪魔しないでよね、魔王さま?」
 エメラダがミスリとリリルの間に割って入って攻撃を防いだ。
「ま…まさか、あなたが……わ…私を……助けて…くれる…なんて……」
 息も絶え絶えにか細い声でエメラダに語りかける。
「別に助けたくて助けたんじゃないわ。
 あんたが死んだら、アイツが自分を責めて傷付くから。それがイヤだっただけよ」
「ほんとに仲が良いのね…。私がどれだけ望んでも決して手に入れられなかった物……」
 ミスリは一瞬どこか遠くを見て視線をエメラダに戻す。
「次は魔王さまが相手? でも分かったでしょう、私はすでに神を超えた存在なのよ。
 もう誰にも私を止められないわ~♪」
 全力のリリルと戦ったばかりだというのに溢れる魔力に恍惚とした表現で叫ぶ。
「フォックス」
 相手の魔力の余波で髪をなびかせながら、エメラダがこちらを向く。
「アンタ、アタシがこの人間に負けると思う?」
 俺は魔力感知の能力に優れてるわけじゃないから、どちらの方が実力が上か推し測ることなんてできない。
 しかしまっすぐにこちらを見つめる瞳は、そんな推測などを期待しているような目じゃない。
 不安の色はなく、むしろ安心して心に寄りかかってきているような温かささえ感じる。
 そんな彼女を支えるには心で感じたままを答えるのが大切な気がした。
「エメラダなら勝つよ、絶対に。
 あんなすごい力を見たあとなのに不思議と落ち着いてるんだ、エメラダは負けないって自然と思える。
 俺はエメラダを信頼してる。いつでも側にいるから、全力でぶっ倒してこい!」
「フォックスが信じてくれるなら、アタシは誰にも負けない!」
 エメラダは満面に喜びを浮かべた。心から溢れたとても明るい笑顔だ。
「見て、これがアタシの本当の姿よ!」
 エメラダの身体から雲を衝くほどの魔力が解き放たれる。
 雲を散らし、太陽の光に照らされたエメラダの背にはリリルと同じように魔力が凝縮した翼と尻尾があった。
「ふ~ん、やっぱり魔王さまは元の力を取り戻していたのね」
「これが俺と出逢う前のエメラダの姿………」
 ヴェールを被ったかのように翠の魔力オーラに覆われ、翼と尻尾は高純度魔力でエメラルドグリーンの色をしている。
 まさに『翠煌の魔王エメラダ』と呼ぶに相応しい。
 俺は見惚れて吸い込まれるようにエメラダを見つめていた。
「あらあら良いのかしら~、そんな異形の姿を彼に曝しちゃって? ビックリして嫌われちゃったんじゃないの~♪」
 エメラダがチラリと視線だけ動かす。
「やっぱエメラダは綺麗だな~。マジ絶世の美女だ…」
 ミスリの言葉は耳には入ってきていなかった。見とれていてポツリと出たただの独り言だった。
「バカ………」
 翠のヴェールの向こうでエメラダが頬に朱を注ぐ。
「その幸せそうな表情が絶望に変わることになるのよ」
「始めましょうか、アタシたちの力を見せてあげる」
 ここに第二回戦の火蓋が切られた。
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