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57【亜楼+海斗Diary】やり直し②
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「はぁ? んなモン、もういらね……」
呆れた亜楼がそこまでは言葉にして、だがふと根源に思い当たりそのまま一旦口を閉じた。自業自得。そもそも最初にネクタイを引っ張り出してきたのは他の誰でもない、自分だった。
「あ、いや……もう目隠しはいらねぇんだよ。もう今は、おまえの顔見てイケるから……」
「お、おまえのイキ方なんか知らねぇんだよっ!? とにかく、……なんかエロいことすんなら、し、しろよ、ネクタイ……っ」
顔が勝手に熱くなっているのは自分でもよくわかって、感情だだ漏れの顔面が憎く、海斗はつい喧嘩腰になってしまう。
「だから、もういらねぇって言っ……」
「オレがいるんだよっ! ……ないと、無理……っ、……恥ずかしくて、しねる……」
亜楼が自分を誤魔化すまじないとして使っていたネクタイは、いつの間にか海斗を羞恥から守る盾になっていた。
「海斗おまえ……、恥ずかしいのか?」
「……わ、悪ぃかよ……っ」
今日の弟のよそよそしさの理由がわかって、亜楼が軽く笑いながら訊く。
「部屋に入るなり勝手にキスしてきたり、口でするとか言ってイキってたくせに、あの勢いはどこ行ったんだよ」
「蒸し返すなって! ……あれは必死すぎて、どうかしてただけっつーか……」
恋は盲目とはよく言ったもので、攻略不可能かと思われた亜楼相手に、あのときはなりふり構っていられなかった。それなのにいざ振り向いてもらったら、海斗はどう振る舞うのが正解なのかよくわからない。特にからだを触れ合わせることに関しては、未熟すぎて、どうしたって恥じらいが先に立つ。
「ふーん? 必死ねぇ」
亜楼がにやにやして、茹で上がっている海斗を見つめる。
「……恥ずかしいに決まってんじゃん。……っ、だって、おかしいだろ、……兄弟だぞ!?」
おまえがそれを言うのかと、亜楼が苦笑した。散々こっちを振り回しておいて今さらそれはねぇだろと、海斗に仕返ししてやりたい気持ちにもなる。誰のおかげでこうなったと思っているのか。
「何言ってんだよ……」
亜楼が海斗の首筋に顔を寄せて、艶かしく告げる。
「おまえが俺を……、ただの兄貴でいられなくしたんだろ?」
「……っ」
首筋にかかった亜楼の熱っぽい息に驚いて、騒いでいた海斗の口が自然と閉じる。
「責任取ってもらわねぇとなぁ」
亜楼はそのまま首筋に、ちゅ、と軽く口唇を押しつけると、やさしく海斗の肩を抱いた。恥じらって緊張している海斗が怖がらないように、やさしく、そっと。
「……目隠しは、完全に兄ちゃんが悪かった……ごめんな」
弱い自分を紛らわすには、あのとき、それしか思いつかなかった。
「そういうプレイもアリっちゃアリだけど……。でも俺は、おまえの目見てヤりてぇんだよ」
ネクタイを無理やり剥ぎ取ったときに見た、海斗のせつなさに溺れた瞳を思い出し、亜楼のからだが急く。あの目を、もう一度、最初からちゃんと見たい。あの瞳を愉悦で泣かせながら、強く乞われたい。
「俺はおまえの顔が見てぇし、海斗にも俺を見てほしい」
「……!?」
「やり直してぇんだ……あんな、勢い任せの……下半身だけのセックスじゃなくてさ……」
耳元で響く亜楼の声が低く甘やかで、海斗は心臓が早鐘を打つ音を聞いた。兄の隣で聞くバクバクとしたそれは、止まることを知らずに勝手に加速していく。
「ちゃんと、俺とおまえの、やつ」
けんかの延長ではない、心を向け合ったセックスを。
「オレと、亜楼の……?」
「そう。……好き同士のやつがする、えろくて気持ちいいこと、な?」
好き同士、という言葉に惹かれて、海斗の心が強く揺さぶられた。ずっと憧れていたその関係で、心ごと、つながりたい。
「おまえが恥ずかしいってんなら、今日は全部、後ろからしてやるよ」
「う、しろ……って……?」
「さわんのも、挿れんのも、後ろからすんだよ。それなら、そこまで顔見えねぇだろ」
譲歩のつもりで亜楼が提案した。海斗の気持ちを置き去りにして、無理やりしたくはない。これでダメなら、今夜は海斗を抱き枕にしてこのままここで眠るだけだ。その上で、もう一度海斗を誘う。
「キスも、嫌か? ……キスは、ほら……目瞑ってたらなんも見えねぇから……」
「……」
「……あー、……やっぱ今日はやめとくか。気分じゃねぇのに、無理にやってもしょうがね……」
「やっ、じゃ、ない……っ!」
慌てて、海斗が大きな声を出した。前のめりになり、紅潮した頬と潤む瞳で亜楼をキッと睨むように見つめる。恥ずかしくてたまらないのに、からだが、もう知っている熱を激しく欲する。したい。亜楼と、好き同士の──。
「する、……したい……っ……」
己の肩を抱いている亜楼の手の上に、海斗が自分の手を重ねた。やめんなよと、てのひらで訴える。
「キスしちまったら、……もう離してやんねぇぞ?」
最後までやっちまうけど? と、やさしい兄は最終確認を怠らない。
「……今だって、手、離す気ねぇくせに」
亜楼の大きなてのひらで、身動きが取れないほどがっちりと肩を抱かれている海斗が、口を尖らせてぼそっとつぶやく。
「ははっ……言うじゃねぇか。……そうだよ、せっかく寄ってきてくれたのに、離してやるわけねぇだろ……」
海斗が重ねてくれた手に、亜楼が指を絡めた。海斗の肩の上で、指先と指先を甘くつなぐ。
亜楼が今度こそ顔を傾けて、海斗の口唇に自分のそれを重ねた。ゆっくりと、感触を味わうように、舌を挿れていく。
「んっ……、ん、……っ」
キスからセックスを始めるのは、初めてだ。
呆れた亜楼がそこまでは言葉にして、だがふと根源に思い当たりそのまま一旦口を閉じた。自業自得。そもそも最初にネクタイを引っ張り出してきたのは他の誰でもない、自分だった。
「あ、いや……もう目隠しはいらねぇんだよ。もう今は、おまえの顔見てイケるから……」
「お、おまえのイキ方なんか知らねぇんだよっ!? とにかく、……なんかエロいことすんなら、し、しろよ、ネクタイ……っ」
顔が勝手に熱くなっているのは自分でもよくわかって、感情だだ漏れの顔面が憎く、海斗はつい喧嘩腰になってしまう。
「だから、もういらねぇって言っ……」
「オレがいるんだよっ! ……ないと、無理……っ、……恥ずかしくて、しねる……」
亜楼が自分を誤魔化すまじないとして使っていたネクタイは、いつの間にか海斗を羞恥から守る盾になっていた。
「海斗おまえ……、恥ずかしいのか?」
「……わ、悪ぃかよ……っ」
今日の弟のよそよそしさの理由がわかって、亜楼が軽く笑いながら訊く。
「部屋に入るなり勝手にキスしてきたり、口でするとか言ってイキってたくせに、あの勢いはどこ行ったんだよ」
「蒸し返すなって! ……あれは必死すぎて、どうかしてただけっつーか……」
恋は盲目とはよく言ったもので、攻略不可能かと思われた亜楼相手に、あのときはなりふり構っていられなかった。それなのにいざ振り向いてもらったら、海斗はどう振る舞うのが正解なのかよくわからない。特にからだを触れ合わせることに関しては、未熟すぎて、どうしたって恥じらいが先に立つ。
「ふーん? 必死ねぇ」
亜楼がにやにやして、茹で上がっている海斗を見つめる。
「……恥ずかしいに決まってんじゃん。……っ、だって、おかしいだろ、……兄弟だぞ!?」
おまえがそれを言うのかと、亜楼が苦笑した。散々こっちを振り回しておいて今さらそれはねぇだろと、海斗に仕返ししてやりたい気持ちにもなる。誰のおかげでこうなったと思っているのか。
「何言ってんだよ……」
亜楼が海斗の首筋に顔を寄せて、艶かしく告げる。
「おまえが俺を……、ただの兄貴でいられなくしたんだろ?」
「……っ」
首筋にかかった亜楼の熱っぽい息に驚いて、騒いでいた海斗の口が自然と閉じる。
「責任取ってもらわねぇとなぁ」
亜楼はそのまま首筋に、ちゅ、と軽く口唇を押しつけると、やさしく海斗の肩を抱いた。恥じらって緊張している海斗が怖がらないように、やさしく、そっと。
「……目隠しは、完全に兄ちゃんが悪かった……ごめんな」
弱い自分を紛らわすには、あのとき、それしか思いつかなかった。
「そういうプレイもアリっちゃアリだけど……。でも俺は、おまえの目見てヤりてぇんだよ」
ネクタイを無理やり剥ぎ取ったときに見た、海斗のせつなさに溺れた瞳を思い出し、亜楼のからだが急く。あの目を、もう一度、最初からちゃんと見たい。あの瞳を愉悦で泣かせながら、強く乞われたい。
「俺はおまえの顔が見てぇし、海斗にも俺を見てほしい」
「……!?」
「やり直してぇんだ……あんな、勢い任せの……下半身だけのセックスじゃなくてさ……」
耳元で響く亜楼の声が低く甘やかで、海斗は心臓が早鐘を打つ音を聞いた。兄の隣で聞くバクバクとしたそれは、止まることを知らずに勝手に加速していく。
「ちゃんと、俺とおまえの、やつ」
けんかの延長ではない、心を向け合ったセックスを。
「オレと、亜楼の……?」
「そう。……好き同士のやつがする、えろくて気持ちいいこと、な?」
好き同士、という言葉に惹かれて、海斗の心が強く揺さぶられた。ずっと憧れていたその関係で、心ごと、つながりたい。
「おまえが恥ずかしいってんなら、今日は全部、後ろからしてやるよ」
「う、しろ……って……?」
「さわんのも、挿れんのも、後ろからすんだよ。それなら、そこまで顔見えねぇだろ」
譲歩のつもりで亜楼が提案した。海斗の気持ちを置き去りにして、無理やりしたくはない。これでダメなら、今夜は海斗を抱き枕にしてこのままここで眠るだけだ。その上で、もう一度海斗を誘う。
「キスも、嫌か? ……キスは、ほら……目瞑ってたらなんも見えねぇから……」
「……」
「……あー、……やっぱ今日はやめとくか。気分じゃねぇのに、無理にやってもしょうがね……」
「やっ、じゃ、ない……っ!」
慌てて、海斗が大きな声を出した。前のめりになり、紅潮した頬と潤む瞳で亜楼をキッと睨むように見つめる。恥ずかしくてたまらないのに、からだが、もう知っている熱を激しく欲する。したい。亜楼と、好き同士の──。
「する、……したい……っ……」
己の肩を抱いている亜楼の手の上に、海斗が自分の手を重ねた。やめんなよと、てのひらで訴える。
「キスしちまったら、……もう離してやんねぇぞ?」
最後までやっちまうけど? と、やさしい兄は最終確認を怠らない。
「……今だって、手、離す気ねぇくせに」
亜楼の大きなてのひらで、身動きが取れないほどがっちりと肩を抱かれている海斗が、口を尖らせてぼそっとつぶやく。
「ははっ……言うじゃねぇか。……そうだよ、せっかく寄ってきてくれたのに、離してやるわけねぇだろ……」
海斗が重ねてくれた手に、亜楼が指を絡めた。海斗の肩の上で、指先と指先を甘くつなぐ。
亜楼が今度こそ顔を傾けて、海斗の口唇に自分のそれを重ねた。ゆっくりと、感触を味わうように、舌を挿れていく。
「んっ……、ん、……っ」
キスからセックスを始めるのは、初めてだ。
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