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55【眞空+冬夜Diary】いじわる③

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「……は、……ああっ、あ………、…………、………ん、っ」

 服をすべて剥ぎ取った仰向けの冬夜の脚を大きく割り、眞空は濡らした指を弟の後ろの穴に少しずつ侵入させていた。眞空自身も、もう何も身につけていない。熱を孕んだ二人の素肌が、薄闇の中でじっとりと汗ばんでいく。

「冬夜、息、止めないで。ゆっくり、息して」

 潤滑剤は冬夜が自分で用意していた。新品だったであろうそれはすでに開封されていて、少しだけ使った形跡があった。

「自分でしてたの?」

「ほんの、ちょっと、だけ……はぁ、んんっ、……、……あ……」

 息を止めるなと言われても、慣れない冬夜は意識していないと時々呼吸を止めてしまう。

「まそらと、えっちしたくて、……練習、……、ん、……でも、あんまり、うまくっ、はぁっ、……ん、できなくて……」

 いざそのときに痛がったり怖がったりしたくなくて、冬夜は少しだけ、以前から自分でほぐしていた。

「ゆび、おくまで入れるの、……自分だと、へたくそで、っ……はんっ、あっ、あ……」

 眞空の長い中指が、冬夜の中を慎重にかき回す。冬夜が痛がらないように。冬夜が怖がらないように。冬夜の窪みは、狭いながらも兄の指を強欲に飲み込んで、静かに奥深く沈めていく。

「冬夜が練習しててくれたから、もう結構、奥まで行ってるよ……」

「っ、……いつも、ぼく、じょうずに、……できなかったのにっ……」

 冬夜が瞳のふちに涙を溜めながら、眞空をせつなげに見つめた。

「まそら、なんで、……はっ、っ、あ……そんな、じょうずなの……器用、だから……? あっ、……やっ……」

「上手? ……そっか、よかった」

 眞空が目を細めて、ほっとしたように口元に笑みを浮かべる。

「……おれ、手先が器用でよかったな」

 手先が器用だったから、難しい折り紙で冬夜の気を引けた。あの頃下心がなかったなんていう嘘は、もうつける気がしない。きっと最初から冬夜とどうにか近づきたくて、折り紙をだしに使っただけだ。あの頃から、冬夜にとっての特別な何かになりたかった。

「折り紙なんかでおまえの懐入ってさ……」

 冬夜を広げる眞空の指が、まだ行きたい、もっと行きたい、と奥に進む。奥にあるものを、知りたがる。

「──っ、ひゃ……っ!」

 冬夜が短い悲鳴を上げ、下肢を震わせた。ひどく驚いて、反射で閉じようとする脚を、眞空の左手が強く押さえつける。知りたかったものにたどり着いた気がして、眞空はふっと笑みをこぼした。ぐりぐりと、好奇心の強い指先が冬夜の中を探りながら圧す。

「……──いっ! だ、めっ……そこだめっ、ぐりぐり……っだぁっ、めぇ、……おかし、く、なるっ……」

「今はこうやって、冬夜のこと、……気持ちよくさせてやれるし、ね……?」

 持って生まれた長所を、今は存分に利用する。この優秀な指先で、的確に、弟をあまく啼かせてやる。

「あぁっ、……まそ、らぁ……、もぅ、やぁ……やっ……」

「だめだよ、ほら、脚閉じないで。力抜いて、おれに、ゆだねて……」

 指でも吸いついて強く持っていかれる感じがするのに、ここに自分の竿を挿れたら一体どうなってしまうのかと、眞空はその未知に激しく焦がれた。穢れのない弟のからだに、驚くほど魅せられている。挿れたい。まだ誰も挿れたことのないここに、深くねじ込んで、知りたい。冬夜を、この熱の疼きを、全部知りたい。

 冬夜、……冬夜──。

「まそらっ、……ほし……っ、もぅ、ほしい、……っ、来て、……」

「指じゃ、もう足りない?」

「たりな……っ、……あぁっ、……まそらの、おっきいの……ほしぃ」

 眞空が挿れたいと願った同じタイミングで、ナカをとろとろにかき回された冬夜が、焦れて兄を呼び寄せる。互いに限界なのはよくわかって、しっとりと見つめ合うことさえ、もう時間が惜しかった。

「……待って、ゴム……」

 眞空は慌てて、さっき買ってきたばかりのゴムを手繰り寄せた。冬夜がシャワーを浴びている間に、遅くまでやっている近所のドラッグストアまで自転車をすっ飛ばして、こっそり買ってきたものだった。ゴムだけを買うのが恥ずかしすぎて、飲み物やお菓子など余計なものまでたくさん買ってしまったのは、冬夜には隠しておく。

「……え、っと……あれ……?」

 眞空の手が、大きく震えていた。うまくつけられない。初めてなのだ。ひどく緊張している。

「ごめ……まって、ね」

 焦れば焦るほど、猛った陰茎と震える指は言うことを聞いてくれない。さっき器用だと褒められたばかりなのに、なんて情けないのだろう。優秀なはずの指先が、こんな大事なときにだけまったくの役立たずで、眞空は顔を曇らせた。このシーンだって、数え切れないくらい頭の中でシミュレーションしていたのに。想像の中では、もっと手際よく、さらりと冬夜を抱けていたのに。

「ははっ、ごめ……かっこわる……」

 冬夜の想像の中の自分を背伸びして演じたって、本物はこのざまだ。こんなの絶対冬夜の理想の男じゃないだろ……と、白けた空気に弟が幻滅したのではと眞空が怖がったとき。

「大丈夫だよ」

 気づけば冬夜が起き上がって、眞空のどうしようもなく震える手に、自身の手を重ねていた。

「想像通りにいかないと、驚くよね」

 眞空の焦燥を敏感に感じ取り、冬夜がやさしく兄の手を退けた。震える眞空に代わって、途中で止まっていたゴムを根元まで丁寧に下ろしてやる。

「でも、今が現実だよ。これが本物の、僕たち」

 うまくなくても、みっともなくても、二人で許し合って、笑い飛ばせたらそれでいい。

「眞空が好きだよ」

「……っ」

 言葉が出なくて、眞空はそのまま冬夜を強く抱きしめた。

「どんな眞空も、全部だいすき」

 どんなに格好悪くても、冬夜はずっと許してくれていた。意気地なしで、臆病で、この恋だって家族のために何度もあきらめようと思っていたのに。情けない自分を、冬夜は根気よく引っ張り上げてくれた。その美しく、強い手で、それでもいいよと笑ってくれた。

「……っ、おれも、……だいすき」

 絞り出すようにそう言って、眞空は抱きしめた冬夜をゆっくりと押し倒した。冬夜の背を、もう充分に乱れたシーツに縫いとめる。

 脚を左右に大きく開かせ、腰を自分の方にぐいっと引き寄せた。セックスにはまだ使ったことのない欲の塊を手に持ち、さっき指で柔らかくしたばかりの弟の後ろに押しつける。

「挿れるね……」

「ん……、……っ、……──ああぁっ」

 ゆっくりと押し広げられながら熱く凶暴なものが入ってくるのを感じて、冬夜は思わず大きな声を上げた。じっくり、じわじわと、突き進んでくる兄のたかぶりが、やがて冬夜の中をいっぱいに満たす。

「……っ、…………、…………、うぅっ……」

「つらい? ごめんね、……息、ちゃんと、して……」

「……まそ、っらぁ……」

 おそらく今侵入できる限界まで竿を収めて、眞空が動きを止めた。そのまま胸を冬夜の胸につけ、肌と肌を触れさせる。冬夜の耳元に、口唇を運んだ。

「入っちゃったね」

「……ん、……」

 息の多い眞空の艶めいた声に、冬夜が瞳を潤ませる。

「世間になんて言われようと……、兄弟なのにおかしいって思われてもさ……、」

 ひとつに、なる──。

「冬夜は、おれのものだよ」

「──っ」

 冬夜の瞳から、溜まっていた涙がぽろっと流れ落ちた。

 長い、長い時間。ひとりぼっちだったのに、友達になって、一度は離れ離れになった。運命の再会をして、兄弟になって、恋人になった。長い、長い時間。今、すべて報われたのだと、冬夜が強く思う。

 眞空のものに、なれた──。

「……動いてみても、いい?」

 冬夜が小さくうなずくと、眞空は弟に預けていた上体を起こし、下半身を動かし始める。最初はおそるおそる、徐々に力と重さを加えて、冬夜の中にねじ込んだ硬い芯を前後に打ちつけていく。

「……ああぁ、はぁっ、あっ、あっ、んぁっ、あっ、」

 眞空の動きと連動して、冬夜からあまい声がもれ出した。奥の方に当たるときに、淫らな顔で声が出る。

「冬夜のナカ、……狭っ、……締めつけ、すごい、んだけどっ……」

 顔を歪ませながらも、眞空は腰を打ちつける強さを加減してやることはできない。たん、たん、たん、たん、と激しく肌をぶつけ、冬夜の中でさらに肥大させてしまった性器を、奥に奥にと執拗に送り込む。

「やぁっ、ああっ、あ、んっ、ああぁ、っあ……」

「はっ、……冬夜の声、耳にクる、っ……、かわい……」

「やだっ、……おっきい、こえっ、あっ……ん、かってに、でちゃうっ、……あっ」

 予想以上に大きな声があふれてしまい、冬夜が焦る。抑えようとしても眞空に奥を突かれてしまえば叶わず、咄嗟に両手で口を覆った。物理で誤魔化そうとする。

「……なんで? だめだよ、……っ、かわいい声、もっと聞かせてよ」

 せめてもの抵抗で出てきた冬夜の手は眞空によってすぐに払いのけられ、冬夜の口はあっさりと解放された。遮るものがなくなった弟の口からは、絶えず甘い喘ぎが紡がれる。

「ああっ、……っ、こえ、だめなのっ、……あ、んぁっ、……かべ、っ、うすいのっ……あぁっ……あ、」

 壁が薄いことを身をもって知っている冬夜は、正直気が気ではなかった。あんな風に海斗をからかった手前、絶対に聞かれてはいけないのに、からだは言うことをまったく聞いてくれない。はしたなく声を上げ、兄に揺らされているだけのただの人形のようになってしまう。

「壁? ……っ、今さらでしょ、……もう、みんな知ってんだから、大丈夫だよ? ……はぁっ、やば……きもちい……」

「んっ、やっ、……っ、きこえちゃうっ、……きこえ……、はぁっ、ああ、あ、んっ……」

「エッチしてるの、バレたら、……イヤ?」

「……!?」

「……、おれは、っ、……冬夜抱いてるの、……ちょっと自慢したいよ、……」

 眞空が、せつなげに、かつ不敵な笑みを浮かべて、下にいる冬夜を見つめた。からだだけを先に重ねて、反則的に距離を縮めていった兄たちの顔が、一瞬だけ脳裏をかすめていく。……あいつらに、自慢したい。

「……んんっ、んぁ、……やっぱり、いじわる……ああっ、まそらぁ、っ……まそらっ……」

 再び聞けた“いじわる”に、眞空が満足そうに目元を緩める。そういう満たされた顔の眞空を見てしまったら、冬夜はもう、眞空の膨れた根で気持ちよくなっている声を存分に聞かせてやるほかなかった。そもそも、余計なことを考える余裕はもうない。

「はぁっ、ああっ、……も、やっ、やぁっ、ああっ、やめっ……」

 口元からあっさり払いのけられた手が行き場をなくし、冬夜は無意識に頭上に両手を上げた。まくらをぐっとつかみ、なんとか自分を保とうとする。何かにしがみついていないと、からだがバラバラになってしまいそうなほど、眞空から与えられる摩擦が熱く激しい。くらくらする。意識もいつまでもつかわからない。淫楽に溺れている、と素直に思う。

「……、おれ、……っ、もぅ、やばいか、もっ……、おれもさっき……一回出しとけば、よかった」

 それでも限界までは耐えるつもりで、眞空が冬夜に己をぐいぐいと打ち込む。正直自分を制するのに精一杯で、冬夜の好いところを探してやる余裕もなかった。好きな子を前に、本能の言いなりになったからだが、ただとまらない。

「冬夜のナカ、どうなってんの、……っ、きもちよくて、どうにかなりそ……」

「あぁっ、ん……まそらぁ、……っ、まそら、あぁんっ、だめぇ、……そんな、ゆすったら、……も、だめ、ぇ……」

 涙と唾液でぐちゃぐちゃになった顔で何度も名を呼ばれ、いとおしさが沸点に達した。抱きしめたくて、抱きしめたくて、たまらない。

「冬夜」

「……?」

「まくらじゃなくて、おれのこと、ぎゅってしてよ」

「!」

 まくらに嫉妬した眞空が、冬夜を強く呼び寄せる。呼ばれた冬夜は、慌ててまくらからぱっと手を離し、眞空の背に腕を回した。しがみつくように、重なってひとつの何かになるように、強く背中を抱きしめる。ぴったりと重なって、二人分の熱で肌を溶かし合う。

「眞空……っ、」

「……もう、出そう……っ、……出していい?」

「……っ、んっ、……いいよ、来て……来て眞空」

 冬夜の、揺るぎないまっすぐな声に導かれる。眞空が、これまででいちばん激しく腰を振る。奥を、えぐるように。痕を、刻むように。誰もここには触れさせない。おれのものだと、わからせる。

「……、ごめ、……加減できないっ……やさしく、っ、できな……っ」

「ああっ、はぁ……、あああっ、……ン──!」

「……っ、イキそ……、……でるっ、──ッ」





「……エッチ、しちゃったね」

 冬夜の中で射精した眞空が、力尽きてくったりと弟に体重を預けてそう言った。動くのも億劫で、まだ冬夜の中に熱いものを挿れたままにしている。

「うん、しちゃったね……」

 冬夜も大人しく、脱力した兄の重みを受け入れていた。背に回したままの腕で、あまく眞空を抱く。興奮で、しばらく鼓動がおさまりそうにない。

「あーっ、冬夜っ、……かわいい、すき……さいこう……」

 想いがあふれて、眞空が冬夜の頬に自身のそれをすり寄せた。語彙はなくなり、ただ恋人を喜ばせる単純な単語しか今は出てこない。

 最高で、最愛の。弟で、恋人。

「……好きな子の中でイクのって、こんなに気持ちいいんだ……」

「気持ちよかった?」

 すり寄ってきた眞空の頬をくすぐったく受け止めながら、冬夜が訊く。

「めちゃくちゃよかった……、冬夜は違うの?」

「……今日もう2回イってる僕が、違うわけないでしょ。……すごかったよ、眞空」

 二人で初めてを共有して、二人でくすくすと笑い合った。

「やばいな……、こんなの、やみつきになる」

 当初の懸念がいよいよ現実味を帯びてきて、眞空は苦笑するしかない。

「おれ、やっぱり、毎日したいって言っちゃいそうなんだけど……」

 それを聞いて、冬夜がふと顔をほころばせた。

「ふふっ、……いいよ、毎日しよ」

「毎日っていうか……とりあえず、今からもう一回、……したい、……かも……」

 控えめにだんだんと語気を弱めながらも、譲らない貪欲さが垣間見える眞空に、冬夜が胸をときめかせる。

 エッチのときだけ遠慮のない眞空、僕、すごい好き……。

「がっついてて、ごめん。……でも、したい……」

 眞空の要望を却下する思考は、冬夜の中にいつだって存在していない。

「いいよ。……いくらでも、僕を欲しがっ……、んっ……ん……」

 冬夜の言葉の途中で、我慢のできない眞空のせっかちな口唇が落ちてきた。

 もう一度、キスからはじめる──。
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