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ゆりすみれ

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54【眞空+冬夜Diary】いじわる②

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「引くって……、やっぱり僕に言えないようなこと、ほんとはしてたの……?」

 改まった態度の眞空に、冬夜がおそるおそる問い返す。

「じゃなくて、」

 眞空が少し情けない顔をして、冬夜を甘く見つめ返した。

「……ずっと、頭の中で、シミュレーションしてたから」

「!」

「おまえを抱く練習、頭の中でずっとしてた。……両想いになるずっと前からだよ」

 想像の中で何度も冬夜にくちづけて、何度も夢中で押し倒した。数え切れないほど脳内でくり返した一連の動作は、一度も現実で試したことなどないのに、刻みつけられた記憶のようにしぶとくからだに残っている。眞空は今日、ただそれを丁寧に再現しているだけだ。

「頭ン中で冬夜にめちゃくちゃえろいことして、何回も抜いてた。……って、ごめん、これやっぱ引くよな!?」

 ひざの上の冬夜が目を丸くして固まっていることに気づき、眞空が慌てて口を閉ざす。

「ち、違う! びっくり……しちゃって! ……だって僕も、同じだったから」

「え?」

「一緒だよ……僕も、想像の中の眞空に、何度も何度も抱かれてた……そういうの考えながら、眞空でいっぱい抜いてた」

 聞かされた言葉に一瞬目を見張ったが、すぐに気が抜けたように眞空が目元を緩ませる。

「同じ家にいるのに、別々の部屋で、おれたちお互いにそんなことしてたの……? ……あははっ、何それ」

「ふふっ……ほんと、僕たち何やってんだろうね」

 くだらないお揃いがおかしくて、顔を見合わせて二人で笑った。いとしさが募って、冬夜の色素の薄い美しい髪を、眞空がやさしくかき上げる。

「これからは二人でしようね」

「うん、眞空とする。一人で抜くの禁止だよ……もったいないから」

「もったいないって何」

 眞空がまた笑う。続きをしようと首に角度をつけて冬夜に顔を近づけたが、ふと悪巧みを思いついてキスをするのをやめた。

「?」

 迫ってきた口唇が途中で止まり、冬夜が不思議そうな顔をする。

「いいこと思いついた」

「どうしたの」

「冬夜の想像の中のおれはさ、どんな風にしてた? ……教えて?」

「!?」

 耳朶じだを撫でる距離で艶っぽく眞空に尋ねられ、冬夜がどくっと胸を震わす。

「え、……言うの?」

「言えないくらい、すごいことしてたの? おれ」

 眞空が、ふふっと笑みをこぼした。

「ちが……」

「冬夜が頭ン中で想像したおれと同じように、おまえのこと抱きたいな……」

「……っ」

「それが、冬夜の望む“おれ”なんだろ?」

 とてもいいアイデアだと、得意げに兄が自分を見つめてくる。眞空にしては珍しく、譲らない顔だ。

「ね、教えて……?」

「──っ、もうっ……」

 また耳の近くで甘くささやかれて、冬夜はあっさり降参した。そもそも眞空の要望を却下する思考は、冬夜の中に最初から存在していない。

「……ま、眞空は、僕を前にするといつも……我慢できないって感じで、ちょっと、乱暴に……ベッドに押し倒してきて……」

「ふふっ、……“おれ”、がっついてる」

 そう言うと眞空は、ひざにのせていた冬夜の肩と腰をぐっとつかむと、荒々しくなぎ倒すようにしてベッドの中央に横たえた。衝撃で、スプリングが大きく跳ねる。倒した冬夜の上に、すぐさま眞空が勢いよく乗り上げた。

「それから?」

「……っ」

 生き生きとしている兄を、潤む赤い目でじぃっと見上げながら、冬夜が正直に教える。

「キス、……するよ、眞空は」

「どんな?」

「っ……、こじ開けてくるみたいに、入ってきて……ぐちゃぐちゃにしてくの……よだれ、いつも横から垂れちゃう……」

「激し……」

 わざと引き結んで待っている冬夜の口唇に、眞空が無理やり舌をねじ込んだ。

「っ、……んんっ……ん」

 最初こそ少し逃げようとしたが、冬夜の舌は口内であっさりと眞空に絡め取られる。唾を飲み込む暇を与えられず、眞空からそれを大量に流し込まれたら、唾液はすぐに溜まり、口の端からあふれて垂れ出した。眞空のものとよく混ざった二人の唾液が、つぅっと伝って、冬夜の陶器のような白い頬を何度も汚す。

「んんぅ……ん、っあ」

 のしかかる兄の重みで、冬夜は身動きが取れない。眞空は冬夜の両腕を上げ、まくらの上で束ねて押さえつけた。逃れられない眞空の執着に、冬夜はじんじんと肌を火照らせていく。熱い。

「……っ、んは、あ、……」

「激しくて強引なの、好き?」

「っ、わかんな……ぃ、けど、……想像の中の眞空が、……いつも、そうする、からっ……」

「好きなんだね」

 目元をふんわりと緩ませて、眞空が納得した。まくらの上で束ねた弟の両手がいじらしく暴れるのを、眞空がぐっと押し戻す。

「いいね。……おれもそうするの、実は結構好き、なのかも……」

 隠れたそういう部分すら見透かして冬夜が虚像を作っていたのだとしたら、とんでもない相性の良さだなと眞空が感心する。したいことと、されたいことの一致に気づき、眞空のからだがひどく疼いた。こんな従順でなんでもさせてくれそうな弟を前にしたら、もう本当に、見境などなくなってしまうかもしれない。

「っ、はぁ……まそらぁ……」

「次は何するの? “おれ”は」

「……ぐりぐり、したり……かりかり、したり……っ、する、……胸のとこ」

「さっき吸ったときも良さそうにしてたけど、冬夜、乳首気持ちいいの?」

「わかんな……」

「わかんないのにしてほしいんだ……? やらしいね……」

 眞空の指が、冬夜の胸にすっと伸びた。言われた通り、突起の周りを指でかりかりと引っ掻いてみたり、粒ごとつまんでぐりぐりと動かしてみたりする。眞空も初めての感触に手探りだったが、冬夜の反応を見ていじり方を習得していく。

「……やぁっ、ん、それ、やっ……あ……」

「ん……かわいい声出るね、……冬夜これが好きかな」

 先端を、触れるか触れないかのギリギリのところで擦れる刺激を与えると、冬夜の声があまく高くなった。見つけた好いところを、何度も指で往復してやる。

「ん、……やっ、……ヘ、ヘンだよね、っ……女の子、じゃないのに……あ、んっ、……こんなとこ……」

「ヘンじゃないよ? 男だってここ好きでしょ。気持ちいいの、隠さないで……もっと、かわいい声聞かせて?」

「ん、……っ、ちょっとだけこすれるの、……すき……、すきっ、……あぁっ」

「好き? じゃあ、いっぱいしようね」

「……いっぱい? ……いっぱい、むり……、あ、っん……そんなに、したら……」

 撫でて焦らすような曖昧な刺激をしつこく施され、冬夜が身をくねらせて甘い声ばかりをもらす。冬夜は頭上に置いたままだった両手でまくらをぐっとつかみ、熱を充分にはらんだ妖艶な瞳で兄を見上げた。

「……そんなに、だめ、ぇ……まっ……んんっ、んっ……」

 抵抗の途中で口唇はふさがれ、またシーツの中に深く沈められる。逃れられない。

「……またビンビンになっちゃった? ……冬夜の硬いの、当たってるよ」

 弟の欲深い肉棒が腹部に触れて、眞空が小さく笑った。先端が肌の上を滑り、先走りでぬめっているのもよくわかる。

「……っ、……」

「ほら冬夜、早く次にすること教えてくれないと、またおまえだけ先にイっちゃうよ……?」

 楽しむ余裕のある眞空がずるくて、とても大人びて見えた。頭の中で作り上げていた架空の眞空と、目の前の本物の眞空が重なったり離れたりして、まるで二人にもてあそばれているような感覚におちいる。冬夜は瞳を溶かしながら、小さく口唇を動かした。想像の続きを、思い出す。

「……いれるとこ、柔らかくしてくれる、よ……」

 最大限に恥じらって、冬夜が答えた。

「いれるとこって、どこ? ……どこに、何を、いれるの?」

 眞空がまた冬夜の耳に口唇を寄せて、ささやくようにしっとりと尋ねる。

「……やっ」

「ねぇ、何が欲しいの?」

 耳に、恋人の熱い息がたっぷりとかかった。

「──っ!?」

 からだ中に熱が巡り、頬が一気に紅潮する。そこまで言わせるのかと、潤んだ目で兄を責めるように仰げば、眞空はひどく愛おしそうな顔をして自分を見下ろしていた。想像の中では見たことがない、あまく、すべてを許して包み込んでくれるようなやさしいまなざしに、つられて冬夜の顔もとろけるように崩れてしまう。

 本物の、眞空。もうひとりで妄想なんてしなくていい。これからはずっと、本物の眞空が、僕を。

 眞空、眞空、……眞空──。

「……いじわる」

「ん?」

「まそら、いつもすごくやさしいのに……えっちのときだけ、すごくいじわる……」

「!」

 言われて一瞬目を見開くが、眞空はすぐにあまやかな顔に戻って、冬夜の頬をそっと撫でた。

「ごめんね、おまえが可愛くて、とまんないんだよ……」

 今までの人生で、まったく言われ慣れていない“いじわる”に、眞空は思わず胸を弾ませてしまった。たったひとりに言われる、いじわる。甘いいじわるが許される距離が、尊くて、うれしくて、ふと泣きたくなる。

「おれがいじわるするの、……世界中で冬夜だけだよ」

「僕、だけ……?」

「いじわるなおれ、嫌い?」

 誠実に見つめられ、冬夜がぶんぶんと首を大きく横に振った。

「……すごく……、すっごく、すきぃ……」

 眞空が、好き──。眞空が望むなら、なんだって、したい。

 火照り続ける肌をなだめながら、冬夜が眞空の手を取った。自分から脚を開き、眞空の手を、これから恋人の欲望を咥え込む場所に誘導する。

「ここだよ、まそら……」

「ここ、いれていいの?」

 連れてこられた箇所を眞空が指ですっとなぞると、冬夜のからだがぞくっと跳ね上がった。

「さいしょは……ゆび、いれて?」

「うん……」

「そのあとは、まそらの、ほしい──」

 冬夜の甘すぎる声と、垂れ流しの色香に当てられ、眞空がぎりぎりと口唇を噛む。

「……っ、……あー、くそっ……」

 さすがに余裕がなくなって、眞空は枕元に置いていたローションを、ひどく乱暴に引っつかんだ。
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