49 / 64
49【堂園家Diary】真実①
しおりを挟む
堂園家のリビングに通された由夏の前に、眞空がそっとお茶を出す。茶を運んでくれた眞空を見上げて、由夏はまだ涙ぐんでいる瞳で小さく目礼した。
ソファに座るよう案内された由夏の真向かいには秀春が腰を下ろし、息子四人は行儀よくダイニングテーブルについて、ただならぬ雰囲気の二人の様子をじっとうかがっている。食べかけの朝食を急いで平らげ、食器はみんなで手際よくキッチンへ下げていた。
「……由夏ちゃん、本当に久しぶりだね。あれから……もう十五年以上経ってしまったか。どうだい、元気にしてるかい?」
少し緊張した声音で、秀春が口を開く。声は緊張していたが、由夏を見つめる瞳はひどくやさしかった。
「えぇ、なんとか、やっています」
そのやさしい瞳に導かれ、ようやく涙を落ち着かせてきた由夏が、拙いながらも懸命に答える。
「そうか、由夏ちゃんが元気で何よりだよ。……驚いただろ、こんなに大きな子供が四人もいて」
秀春が、ちらっとダイニングテーブルの方へと目を向けた。大きい子供たちも、視線を方々に、異様な空気に飲まれてずっと緊張している。
「見よう見まねで父親をしていてね。……俺も、あれから、なんとかやっているよ」
秀春のあれから、という言い方に、長い長い年月への想いが含まれた。
「今日は突然どうしたの? わざわざ家の方に来るなんて……用事があったのならひばり園でもよかったのに。由夏ちゃんが遊びに来たら、きっとみんな喜んだと思うよ」
「……大切なお話があったので、こちらにお邪魔させていただきました」
由夏の声は、まだ涙で少し揺れていた。
「本当は、何度か門の前までは来たことがあったんです。でもいつも、チャイムを鳴らす勇気がなくて……。でも今日は本当に、覚悟を決めてきました。家族のみなさんにも、聞いていただきたくて……」
そう言った由夏は、ダイニングで大人しくしている息子たちにも軽く視線を流す。
「大切な、話……?」
由夏は大きく深呼吸をして息を整えると、涙に滲んだ眼を不意に捨て去り、目の前の秀春をしっかりと見据えた。
「冬夜を、引き取りたいと思っています」
揺るぎない由夏の声に、家族の誰もが圧倒された。名を呼ばれた冬夜はびくっと肩を震わせ、残りの息子たちは一斉にそんな冬夜を不安そうに見る。
「どうして……冬夜なの、……由夏ちゃん……?」
家族の誰もが同じ疑問を持ち、そして皆が同じ答えを心に浮かべた。長い長い時間を経て、やっと、迎えが来たのだと。
「私……私が、……冬夜の、母親だからです!」
稲妻が走った衝撃で、堂園家全員がすべての動きを封じられた。
「秀春さん……」
由夏は、まだしっかりと秀春を見つめていた。名をなぞられた秀春も、由夏から目が逸らせなかった。由夏の口唇が戦慄いて、続きを紡ぐ。
「冬夜は……、冬夜は、……私と秀春さんの子供です」
「──!?」
秀春が、目を見開いた。
「由夏、ちゃん……?」
「信じてもらえないかもしれませんが、そうなんです」
目を合わせたまま、由夏と秀春の世界だけがスローモーションになる。瞬きすら、長い時間が掛かるようだった。
「……ちょっと待ってくれ……、突然何言ってんだ、あんた……」
冷静を努めるがまったく無効になってしまっている亜楼が、わなわなと震える口唇を必死に噛みしめて、由夏の方を睨むように見る。兄の使命感からか、ついきつい口調になってしまっている長男を、向かいに座っている海斗がテーブルの下のつま先でつついてたしなめた。
「とにかく、俺たちにもちゃんとわかるように説明してくれよ……俺はまじでわけわかんねぇんだけど。……冬夜が、あんたと秀春さんの、子供? ほら、冬夜なんて、ずっと固まってんだろ……」
うつむいたまま微動だにしない末弟を視界の隅に入れ、亜楼が由夏に詰め寄る。同じく寸分も動かずに青ざめた顔をしている秀春の、代弁のつもりでもあった。
「すみませんでした、突然このようなこと……。順を追って、きちんと説明させていただいてもよろしいでしょうか……?」
「……そうしてくれ」
亜楼が代表してぶっきらぼうにそう言い放つと、由夏は小さな白いショルダーバッグから水色のハンカチを取り出して目頭を押さえた。
一度きちんと涙を拭いてから、あとはしっかりとした口調で、由夏は彼女が持つ真実を話し始めた。
ソファに座るよう案内された由夏の真向かいには秀春が腰を下ろし、息子四人は行儀よくダイニングテーブルについて、ただならぬ雰囲気の二人の様子をじっとうかがっている。食べかけの朝食を急いで平らげ、食器はみんなで手際よくキッチンへ下げていた。
「……由夏ちゃん、本当に久しぶりだね。あれから……もう十五年以上経ってしまったか。どうだい、元気にしてるかい?」
少し緊張した声音で、秀春が口を開く。声は緊張していたが、由夏を見つめる瞳はひどくやさしかった。
「えぇ、なんとか、やっています」
そのやさしい瞳に導かれ、ようやく涙を落ち着かせてきた由夏が、拙いながらも懸命に答える。
「そうか、由夏ちゃんが元気で何よりだよ。……驚いただろ、こんなに大きな子供が四人もいて」
秀春が、ちらっとダイニングテーブルの方へと目を向けた。大きい子供たちも、視線を方々に、異様な空気に飲まれてずっと緊張している。
「見よう見まねで父親をしていてね。……俺も、あれから、なんとかやっているよ」
秀春のあれから、という言い方に、長い長い年月への想いが含まれた。
「今日は突然どうしたの? わざわざ家の方に来るなんて……用事があったのならひばり園でもよかったのに。由夏ちゃんが遊びに来たら、きっとみんな喜んだと思うよ」
「……大切なお話があったので、こちらにお邪魔させていただきました」
由夏の声は、まだ涙で少し揺れていた。
「本当は、何度か門の前までは来たことがあったんです。でもいつも、チャイムを鳴らす勇気がなくて……。でも今日は本当に、覚悟を決めてきました。家族のみなさんにも、聞いていただきたくて……」
そう言った由夏は、ダイニングで大人しくしている息子たちにも軽く視線を流す。
「大切な、話……?」
由夏は大きく深呼吸をして息を整えると、涙に滲んだ眼を不意に捨て去り、目の前の秀春をしっかりと見据えた。
「冬夜を、引き取りたいと思っています」
揺るぎない由夏の声に、家族の誰もが圧倒された。名を呼ばれた冬夜はびくっと肩を震わせ、残りの息子たちは一斉にそんな冬夜を不安そうに見る。
「どうして……冬夜なの、……由夏ちゃん……?」
家族の誰もが同じ疑問を持ち、そして皆が同じ答えを心に浮かべた。長い長い時間を経て、やっと、迎えが来たのだと。
「私……私が、……冬夜の、母親だからです!」
稲妻が走った衝撃で、堂園家全員がすべての動きを封じられた。
「秀春さん……」
由夏は、まだしっかりと秀春を見つめていた。名をなぞられた秀春も、由夏から目が逸らせなかった。由夏の口唇が戦慄いて、続きを紡ぐ。
「冬夜は……、冬夜は、……私と秀春さんの子供です」
「──!?」
秀春が、目を見開いた。
「由夏、ちゃん……?」
「信じてもらえないかもしれませんが、そうなんです」
目を合わせたまま、由夏と秀春の世界だけがスローモーションになる。瞬きすら、長い時間が掛かるようだった。
「……ちょっと待ってくれ……、突然何言ってんだ、あんた……」
冷静を努めるがまったく無効になってしまっている亜楼が、わなわなと震える口唇を必死に噛みしめて、由夏の方を睨むように見る。兄の使命感からか、ついきつい口調になってしまっている長男を、向かいに座っている海斗がテーブルの下のつま先でつついてたしなめた。
「とにかく、俺たちにもちゃんとわかるように説明してくれよ……俺はまじでわけわかんねぇんだけど。……冬夜が、あんたと秀春さんの、子供? ほら、冬夜なんて、ずっと固まってんだろ……」
うつむいたまま微動だにしない末弟を視界の隅に入れ、亜楼が由夏に詰め寄る。同じく寸分も動かずに青ざめた顔をしている秀春の、代弁のつもりでもあった。
「すみませんでした、突然このようなこと……。順を追って、きちんと説明させていただいてもよろしいでしょうか……?」
「……そうしてくれ」
亜楼が代表してぶっきらぼうにそう言い放つと、由夏は小さな白いショルダーバッグから水色のハンカチを取り出して目頭を押さえた。
一度きちんと涙を拭いてから、あとはしっかりとした口調で、由夏は彼女が持つ真実を話し始めた。
11
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。


目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる