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45【亜楼Diary】お互い様
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頼むから、まっすぐ帰っててくれよ……。
そわそわと落ち着きのない不審者の様相で電車に揺られた亜楼は、全速力で堂園家の門をくぐったが、玄関に海斗のスニーカーが並んでいないことを確認すると大慌てでリビングに駆け込んだ。
リビングとつながる奥のキッチンではちょうど眞空と冬夜が仲良く夕食の準備をしているところで、半分じゃれ合いながら和え物を作っている。騒々しく転がり込むようにして帰宅した長兄を見て、二人は頭にハテナマークを浮かべて何事かという顔を亜楼に向けた。
「ハァ、ハァ……か、いと、は? 海斗……帰って、きた、か?」
電車を降りてから家まで全力疾走してきた亜楼は、息が上がっていて途切れ途切れにしか言葉を紡げない。
「まだ帰ってきてないけど……どうかしたの?」
眞空が不思議そうに口を開く。
「そ、……うか……」
「え、いないの? 連絡した? 連絡もつかないの?」
「全部無視されてんだよ」
無視は今に始まったことじゃないが……と自嘲するが、それでも頼むから既読くらいはつけてくれと願う。あんな顔をさせたまま離れてしまったのが悔しくて、少し怖い。
「クソッ、どこ行きやがったんだ……」
虫の居所が悪そうな亜楼に眞空が少し怯えていると、長兄は手にしていたかばんをソファに勢いよく放った。ネクタイの結び目に指をかけて乱暴に緩め、シャツを腕まくりして戦闘態勢に入る。
「海斗いないの? 捜しにいくの?」
すぐにリビングを出ようとしていた亜楼の背中に冬夜が心配そうに声を掛けると、兄は一瞬立ち止まり、眞空と冬夜が並んで立つキッチンカウンターの前につかつかと戻ってきた。状況がまるでわからない二人は、再び頭上にハテナマークを浮かべる。
「海斗はさっきまで一緒だった、……ちょっと、いろいろあって、……けどぜってぇ俺がなんとかするから、おまえらは心配しなくていい」
真剣な目でそう言われ、眞空も冬夜も勢いで思わずうなずいてしまう。
「あと」
亜楼が、二人の顔を交互に見た。
「……兄ちゃん、おまえたちのこと、なんも言わねぇからな」
「ん?」
「……だから、おまえたちもなんも言うなよ、俺がどうなっても」
亜楼は乱暴にそれだけを言い放つと、再び弟たちに背を向けてリビングを飛び出していった。普段亜楼のだらだらしたところの記憶しかない眞空が、長兄のひどく機敏な姿を見て驚く。
「何あれ……」
亜楼の真意がいまいちつかめていない眞空が、兄の奇行に怪訝そうな顔をしていると、
「ふーん、亜楼もようやくその気になったんだね」
と、冬夜がにやにやと亜楼が出て行った方を眺めて言った。
「その気……」
ぼんやりと、眞空が復唱する。亜楼が、その気……。
「……って、え? えぇ!? ……冬夜なんでそれ知ってんの!?」
隣で驚いて固まっている眞空をよそに、冬夜はにこにこしながら夕飯の支度を再開した。上の兄たちは今夜は帰りが遅くなるかもしれないなと、取り分けたほうれん草の胡麻和えに丁寧にラップを掛けてやる。亜楼のあの真剣な目を見たら、本当に何も心配がいらないような気がしてくるので不思議だ。大きい兄にはそういう力がある。
「筒抜けが双子だけだと思ったら大まちがいだよ。僕だってちゃんと、この家の一員なんだからね」
冬夜はまだ唖然としている眞空に極上の笑みで笑いかけると、そんなに遠くはなさそうなダブルデートを想像して、その絶対に楽しい賑やかな光景に胸を躍らせた。
そわそわと落ち着きのない不審者の様相で電車に揺られた亜楼は、全速力で堂園家の門をくぐったが、玄関に海斗のスニーカーが並んでいないことを確認すると大慌てでリビングに駆け込んだ。
リビングとつながる奥のキッチンではちょうど眞空と冬夜が仲良く夕食の準備をしているところで、半分じゃれ合いながら和え物を作っている。騒々しく転がり込むようにして帰宅した長兄を見て、二人は頭にハテナマークを浮かべて何事かという顔を亜楼に向けた。
「ハァ、ハァ……か、いと、は? 海斗……帰って、きた、か?」
電車を降りてから家まで全力疾走してきた亜楼は、息が上がっていて途切れ途切れにしか言葉を紡げない。
「まだ帰ってきてないけど……どうかしたの?」
眞空が不思議そうに口を開く。
「そ、……うか……」
「え、いないの? 連絡した? 連絡もつかないの?」
「全部無視されてんだよ」
無視は今に始まったことじゃないが……と自嘲するが、それでも頼むから既読くらいはつけてくれと願う。あんな顔をさせたまま離れてしまったのが悔しくて、少し怖い。
「クソッ、どこ行きやがったんだ……」
虫の居所が悪そうな亜楼に眞空が少し怯えていると、長兄は手にしていたかばんをソファに勢いよく放った。ネクタイの結び目に指をかけて乱暴に緩め、シャツを腕まくりして戦闘態勢に入る。
「海斗いないの? 捜しにいくの?」
すぐにリビングを出ようとしていた亜楼の背中に冬夜が心配そうに声を掛けると、兄は一瞬立ち止まり、眞空と冬夜が並んで立つキッチンカウンターの前につかつかと戻ってきた。状況がまるでわからない二人は、再び頭上にハテナマークを浮かべる。
「海斗はさっきまで一緒だった、……ちょっと、いろいろあって、……けどぜってぇ俺がなんとかするから、おまえらは心配しなくていい」
真剣な目でそう言われ、眞空も冬夜も勢いで思わずうなずいてしまう。
「あと」
亜楼が、二人の顔を交互に見た。
「……兄ちゃん、おまえたちのこと、なんも言わねぇからな」
「ん?」
「……だから、おまえたちもなんも言うなよ、俺がどうなっても」
亜楼は乱暴にそれだけを言い放つと、再び弟たちに背を向けてリビングを飛び出していった。普段亜楼のだらだらしたところの記憶しかない眞空が、長兄のひどく機敏な姿を見て驚く。
「何あれ……」
亜楼の真意がいまいちつかめていない眞空が、兄の奇行に怪訝そうな顔をしていると、
「ふーん、亜楼もようやくその気になったんだね」
と、冬夜がにやにやと亜楼が出て行った方を眺めて言った。
「その気……」
ぼんやりと、眞空が復唱する。亜楼が、その気……。
「……って、え? えぇ!? ……冬夜なんでそれ知ってんの!?」
隣で驚いて固まっている眞空をよそに、冬夜はにこにこしながら夕飯の支度を再開した。上の兄たちは今夜は帰りが遅くなるかもしれないなと、取り分けたほうれん草の胡麻和えに丁寧にラップを掛けてやる。亜楼のあの真剣な目を見たら、本当に何も心配がいらないような気がしてくるので不思議だ。大きい兄にはそういう力がある。
「筒抜けが双子だけだと思ったら大まちがいだよ。僕だってちゃんと、この家の一員なんだからね」
冬夜はまだ唖然としている眞空に極上の笑みで笑いかけると、そんなに遠くはなさそうなダブルデートを想像して、その絶対に楽しい賑やかな光景に胸を躍らせた。
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