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40【眞空Diary】不誠実の代償

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「ふーん、血、つながってねぇってことね。そりゃ顔似てねぇよな、おまえら」

 そばに誰もいないところで話をしたかったので、眞空は放課後の部活に出る前の純一をクラブハウス棟の裏に呼び出した。ここは純一が冬夜にキスをした場所だと聞いていたので本当は近づきたくなかったが、大会前で慌ただしい純一に時間を取らせるのも気が引けて、なるべく純一の負担にならない場所を選んだつもりだった。湿った土の匂いのする薄暗い一角で、横に並んで緑のフェンスにもたれかかる。

 眞空はすべてのはじまりから順を追って丁寧に純一に説明した。両親が事故で死んで海斗と一緒に施設に引き取られたこと。その施設の園長に養子としてもらわれたこと。同じく孤児として施設にいた亜楼と冬夜も園長に養子として引き取られた子供で、自分たち双子とは血のつながりがないということ。

 そして、ずっと冬夜を好きだったこと。つい先日、冬夜も自分を好きだと言ってくれたこと。

 純一は途中で相槌を打つこともせず、ただじっと眞空の話に耳を傾けていた。眞空が話し終えると、驚くでも怒るでもなく、ふーんと薄い反応だけを静かに口元に浮かべた。

「ま、俺もそんなにバカじゃねぇからなんとなく気づいてたけどな、おまえらの気持ちくらいは。だからわざと挑発するようなことしてたのに、気づけよバーカ」

 純一はうつむいて、足元に転がる小石を蹴っている。

「……ずっと、騙してたんだな」

 だるそうにぽつりとつぶやく友の横顔を盗み見た眞空は、その哀しみに充ちた弱々しい双眸そうぼうにはっとさせられて、もたれかかっていたフェンスから慌てて背中を離し純一の方にからだを向ける。

「騙してたわけじゃない! ただ、ずっと言えなくて……ごめん」

 非があったのはまちがいなく自分の方だと眞空はただ親友の哀しみを受け入れるほかなく、そっとまつげを伏せることしかできない。

「俺、おまえがあのとき……俺がおまえに冬夜を好きだって教えたときに、冬夜はおれのものだから手出すなってはっきり言ってくれたら、冬夜のことあっさりあきらめてたぜ? だって勝ち目ねぇじゃん? どうせずっと前から両想いだったんだろ。なんか、俺だけ空回っててバカみてぇ」

「ごめん……怖くて、勇気なくて言えなかった……弟を好きだなんて非常識、誰にも言えなくて……本当にごめん」

 本当は、迷うことなく冬夜を好きだと言った純一の潔さに尻込みしていたと、ただ意気地のなかった自分を省みて口唇を強く噛みしめる。

「……もっと早く、ちゃんと言ってくれればよかったのに……遅ぇんだよ、おまえ。俺が軽蔑するとでも思った? 見くびんなよ。俺はたとえおまえたちが本当に血のつながった兄弟だったとしても、おまえたちの気持ち受け入れてたよ」

「……っ」

「そんくらい、おまえたちがお互いを大事にしてるって知ってたから。なのに……何も言ってくれなかったんだな、おまえは。俺のこと信じてくれなかったんだな。……親友だと思ってたのは俺だけか?」

「そんなことあるわけねぇだろ! おれだっておまえのこと大事な親友だって思ってる! ……親友だと思わせてくれよ……ほんと、ごめん……」

 なんにでも自信があって、欲しいものには貪欲に進んでいく強気な親友がふとこぼした苦笑に、眞空はただ誠実に謝罪の言葉を並べることしか方法を知らない。

 純一はしばらくうつむいたまま、何かを思案していた。そしてふいに顔を上げると、眞空を射貫くように強く見る。

「おまえを嫌いになったわけでも冬夜を嫌いになったわけでもねぇけど、なんとなく腹立つから、しばらくおまえたちと口利かなくていい? ……そういうのなんていうんだっけ? ……あ、絶交だ、絶交」

 とても絶交を提案しているような重々しさはなく、あっさりとそう言ってのけた純一は眞空の返しを聞く前に歩き出した。

「そんな! ちょ、待てって」

「じゃあ俺、部活行くから」

 片手をぴらぴらと振って去っていく純一の背中を、眞空は手を伸ばして引き留めようとするが、その手はあっけなく空を切り裂いたのち下ろされる。

「絶交ってなんだよ……海斗みたいなことすんなよ……」

 ついこの間同じ単語を聞いたなと、眞空が参った。マイナスの感情を伴うことが、そんな頻繁にあっていいはずがない。

 親友だと信じているなら、なおさら正々堂々と闘わなきゃいけなかったのに。遠慮して、気を遣って、勝敗がつくのが怖くて逃げてばっかだったおれに、親友を語る資格なんてあるわけない、よな……。

 遠ざかる純一の背中を呆然と見つめる。眞空は己の意気地なしが生み出してしまったいびつな結果を、沈痛な面持ちで、今はそっと受け入れるしかなかった。
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