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33【亜楼+海斗Diary】乱心
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眞空が純一に鬱陶しがられている同じ昼休みに、海斗はひと気のない廊下の窓にからだのほとんどを預け、こちらは完全に放心状態で外の様子を見ていた。海斗の目には、今何も映っていない。ただ頭の中で、昨晩亜楼がこぼした夢みたいな言葉が、何度も何度も行ったり来たりしているだけだった。
亜楼の顔が浮かぶ。困っているようで、何かを怖れているようで、苛立っているようで……でもどこかやさしい顔。そしてそのままあまい声で、好きだ、と言われた。
つい昨日の夜のことだ。海斗はいつものように亜楼の部屋に行き、散々好きだとわめき散らした。涼に宣戦布告をしたばかりだったし、気持ちの量だけは負けたくないからと、いつも以上に気合いを入れて想いをぶつけた。亜楼はまた怒って、呆れて、あきらめて、弟がまたわけのわからない自棄を起こす前に、静かに海斗を組み敷いた。
『……っ、なんでっ……こうなるんだよっ……』
『わぁわぁうるせぇおまえを黙らすには、これがいちばん手っ取り早ぇからだよ』
『な、……あっ、……やっ、め』
亜楼の大きなてのひらが弟の肌をまさぐれば、海斗がまんざらでもない声をもらす。
『……好きだのなんだの騒いでさ、……結局こうされたくて、俺んとこ来るんだろ……?』
『ちが、……は、っ、……あ』
戸惑う振りをしてみせるが、意味のないセックスでも求められれば海斗はうれしかった。この前のときもう二度と部屋に来るなと怒ったのに、亜楼はまた受け入れてくれた。うれしい。いつものように、ネクタイで視界を覆われる。
『……弟の顔見て素直のイケるほど、俺はサカってねぇからな』
『わかってる……』
ネクタイは、涼への罪悪感を和らげるものなのだと海斗はわかっている。それでもこの先、ネクタイさえあれば亜楼が自分を抱いてくれるなら、海斗はもうそれでよかった。
『……っ、あっ、あっ、……んっ、あっ、んっ……』
仰向けでシーツに沈む裸の弟の上に兄が乗り上げ、挿入する。こすれる接続部分がただ熱く、刻まれる律動に、弟の規則的な喘ぎがこぼれる。今夜も海斗は他の家族を気にして控えめに啼き、亜楼は海斗の中で力強く暴れた。肌と肌がぶつかる鈍い音が、亜楼の部屋に重たく落ちていく。
互いが迷いなく絶頂へ近づいているとき、海斗は亜楼のからだがいつもより激しく自分に執着していることに気づいた。目隠しをされている分、感覚が研ぎ澄まされているので、少しの変化でもすぐにわかってしまう。
『……はっ、あろ、なんか……んっ、はぁ、今日、おまえ……ヘ、ン?』
『……』
亜楼は何も答えなかった。答える余裕もないのか、いつもより荒々しい淫らな息づかいだけが、海斗の耳朶をくすぐっていく。
『ど、したのっ……ぁんっ、んっ、いつもより、やらしい、んだけど、……手つき、とかさ……』
『……』
『酔ってん、のっ……? ……んっ、はぁっ、あっ、やっ……』
『……』
少し茶化してみても、何も返してこない亜楼に不安を覚える。亜楼が苦しそうに自分を抱いていたら嫌だと、表情を確認できない海斗が急に心細くなった。そんな顔をさせているのなら、今すぐにでもやめたい。
『……ま、じで……おかしいよっ、おまえ……はぁっ、んっ、……なんか、しつこ、い……ああぁっ、おく、っ、おく、は、だめっ……っ』
自身の芯が爆ぜたがっているのを海斗が必死に我慢していると、突然亜楼が揺さぶりを止め、海斗に覆い被さった。からだを寄せて、弟を抱きしめる。
『……海斗』
『!?』
最中に初めて名を呼ばれ、海斗は呆然とするばかりだった。耳をくすぐる、少しかすれたあまい声音に胸が高鳴る。名前、呼ぶなんて、ずりぃ……。
『……海斗、顔見たい、見せて……』
『ど、どうしたんだよっ!? 顔見たら萎えるって言っただろ!? 弟の顔見ながらじゃイケねぇんだろ!?』
余裕なくすがるように言ってきた亜楼に対して、海斗は何故か反射的に手でネクタイを守っていた。今はまだオレを見てくれなくてもいいから無理すんな、とご乱心の兄をなだめようと躍起になる。
『……いいから、見せろっ……おまえの顔、見てぇんだよっ』
暴力に任せてネクタイを剥ぎ取ろうとする亜楼に、海斗も負けじと必死に目元の布切れを死守する。二人はつながったまま、しばらく取っ組み合いのけんかのようになっていた。
『ダメだって!』
『手、離せ!』
『見んなよっ!』
『見せろっつってんだろ!』
やがて乱心している兄が勝ち、自分が巻いたネクタイをするりと引き抜いた。目隠しが外され、海斗の潤んだ目が空気に触れる。闇の中で、見つめ合う。暗がりの下、二人は初めて、セックスをしているときの互いの顔を見た。息をするのも、忘れる。
そして亜楼が、いとおしそうに海斗の頬をなぞり、
『好きだ……』
と口にした。困っているような、怖れているような、苛立っているような、それでいてひどくあまい表情をしているのが、暗がりの中でも海斗にははっきりとわかってしまった。
『!? 今……なんつった……?』
聞きまちがいか、幻聴か、海斗がしっかり確認する間もなく、亜楼は再びからだを激しく揺らし始める。
『あっ、……はぁっ……ああぁっ、まっ、て……やっ、でる……でるっ……』
油断していたのか海斗はそれからすぐに達してしまい、亜楼もすぐあとを追って吐精した。
爆ぜたあとは、まるで何もなかったように亜楼はいつも通りだった。
『早く服着て、部屋戻れ。……ぜってぇバレねぇようにしろよ』
顔も見てくれず、乱暴にそう言い放つだけの、しつけに厳しい兄の顔。シャワー浴びてくる、と亜楼はそのまま部屋を出ていった。
真意を確かめられなかった海斗は、ベッドの上に放り出されたネクタイを握りしめて、ひたすらにうろたえる。
何? 夢? ……好きだって言わなかったか? 好き? オレを……好き?
亜楼の顔が浮かぶ。困っているようで、何かを怖れているようで、苛立っているようで……でもどこかやさしい顔。そしてそのままあまい声で、好きだ、と言われた。
つい昨日の夜のことだ。海斗はいつものように亜楼の部屋に行き、散々好きだとわめき散らした。涼に宣戦布告をしたばかりだったし、気持ちの量だけは負けたくないからと、いつも以上に気合いを入れて想いをぶつけた。亜楼はまた怒って、呆れて、あきらめて、弟がまたわけのわからない自棄を起こす前に、静かに海斗を組み敷いた。
『……っ、なんでっ……こうなるんだよっ……』
『わぁわぁうるせぇおまえを黙らすには、これがいちばん手っ取り早ぇからだよ』
『な、……あっ、……やっ、め』
亜楼の大きなてのひらが弟の肌をまさぐれば、海斗がまんざらでもない声をもらす。
『……好きだのなんだの騒いでさ、……結局こうされたくて、俺んとこ来るんだろ……?』
『ちが、……は、っ、……あ』
戸惑う振りをしてみせるが、意味のないセックスでも求められれば海斗はうれしかった。この前のときもう二度と部屋に来るなと怒ったのに、亜楼はまた受け入れてくれた。うれしい。いつものように、ネクタイで視界を覆われる。
『……弟の顔見て素直のイケるほど、俺はサカってねぇからな』
『わかってる……』
ネクタイは、涼への罪悪感を和らげるものなのだと海斗はわかっている。それでもこの先、ネクタイさえあれば亜楼が自分を抱いてくれるなら、海斗はもうそれでよかった。
『……っ、あっ、あっ、……んっ、あっ、んっ……』
仰向けでシーツに沈む裸の弟の上に兄が乗り上げ、挿入する。こすれる接続部分がただ熱く、刻まれる律動に、弟の規則的な喘ぎがこぼれる。今夜も海斗は他の家族を気にして控えめに啼き、亜楼は海斗の中で力強く暴れた。肌と肌がぶつかる鈍い音が、亜楼の部屋に重たく落ちていく。
互いが迷いなく絶頂へ近づいているとき、海斗は亜楼のからだがいつもより激しく自分に執着していることに気づいた。目隠しをされている分、感覚が研ぎ澄まされているので、少しの変化でもすぐにわかってしまう。
『……はっ、あろ、なんか……んっ、はぁ、今日、おまえ……ヘ、ン?』
『……』
亜楼は何も答えなかった。答える余裕もないのか、いつもより荒々しい淫らな息づかいだけが、海斗の耳朶をくすぐっていく。
『ど、したのっ……ぁんっ、んっ、いつもより、やらしい、んだけど、……手つき、とかさ……』
『……』
『酔ってん、のっ……? ……んっ、はぁっ、あっ、やっ……』
『……』
少し茶化してみても、何も返してこない亜楼に不安を覚える。亜楼が苦しそうに自分を抱いていたら嫌だと、表情を確認できない海斗が急に心細くなった。そんな顔をさせているのなら、今すぐにでもやめたい。
『……ま、じで……おかしいよっ、おまえ……はぁっ、んっ、……なんか、しつこ、い……ああぁっ、おく、っ、おく、は、だめっ……っ』
自身の芯が爆ぜたがっているのを海斗が必死に我慢していると、突然亜楼が揺さぶりを止め、海斗に覆い被さった。からだを寄せて、弟を抱きしめる。
『……海斗』
『!?』
最中に初めて名を呼ばれ、海斗は呆然とするばかりだった。耳をくすぐる、少しかすれたあまい声音に胸が高鳴る。名前、呼ぶなんて、ずりぃ……。
『……海斗、顔見たい、見せて……』
『ど、どうしたんだよっ!? 顔見たら萎えるって言っただろ!? 弟の顔見ながらじゃイケねぇんだろ!?』
余裕なくすがるように言ってきた亜楼に対して、海斗は何故か反射的に手でネクタイを守っていた。今はまだオレを見てくれなくてもいいから無理すんな、とご乱心の兄をなだめようと躍起になる。
『……いいから、見せろっ……おまえの顔、見てぇんだよっ』
暴力に任せてネクタイを剥ぎ取ろうとする亜楼に、海斗も負けじと必死に目元の布切れを死守する。二人はつながったまま、しばらく取っ組み合いのけんかのようになっていた。
『ダメだって!』
『手、離せ!』
『見んなよっ!』
『見せろっつってんだろ!』
やがて乱心している兄が勝ち、自分が巻いたネクタイをするりと引き抜いた。目隠しが外され、海斗の潤んだ目が空気に触れる。闇の中で、見つめ合う。暗がりの下、二人は初めて、セックスをしているときの互いの顔を見た。息をするのも、忘れる。
そして亜楼が、いとおしそうに海斗の頬をなぞり、
『好きだ……』
と口にした。困っているような、怖れているような、苛立っているような、それでいてひどくあまい表情をしているのが、暗がりの中でも海斗にははっきりとわかってしまった。
『!? 今……なんつった……?』
聞きまちがいか、幻聴か、海斗がしっかり確認する間もなく、亜楼は再びからだを激しく揺らし始める。
『あっ、……はぁっ……ああぁっ、まっ、て……やっ、でる……でるっ……』
油断していたのか海斗はそれからすぐに達してしまい、亜楼もすぐあとを追って吐精した。
爆ぜたあとは、まるで何もなかったように亜楼はいつも通りだった。
『早く服着て、部屋戻れ。……ぜってぇバレねぇようにしろよ』
顔も見てくれず、乱暴にそう言い放つだけの、しつけに厳しい兄の顔。シャワー浴びてくる、と亜楼はそのまま部屋を出ていった。
真意を確かめられなかった海斗は、ベッドの上に放り出されたネクタイを握りしめて、ひたすらにうろたえる。
何? 夢? ……好きだって言わなかったか? 好き? オレを……好き?
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