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32【眞空Diary】ブラコン①
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もう一緒に登校もしてくんないってこと? ……純一を、取ったのかよ。
午前の授業を終えると早々に自作の弁当をかき込み、眞空は机に突っ伏して狸寝入りをしていた。週明けの今朝、低血圧の冬夜が珍しく陸上部の朝練に行ってしまったので、激しく落ち込んでいるのである。純一も今朝は真面目に部活に顔を出したと聞いて、疑いたくないことまで疑ってしまう。海斗に言わせると、単に夏の地区予選が近いから真面目に練習してるだけだろ、らしいのだが、眞空にはそんな自分に都合のいい解釈を聞き入れる耳はなかったようだ。
先週の土曜日にあんなにも楽しそうな二人を見てしまった眞空は、純一といつも通りに言葉を交わす自信があまりなかった。純一のことは親友だと思っているから憎みたくない、嫌いになりたくない、でも。
……もし本当に冬夜が純一を選んだら、おれは二人を祝福できるんだろうか。純一を、許せるんだろうか……。
机とほとんど一体化しながらそんな自己嫌悪の無限ループに陥っていた眞空に、容赦なく純一が話しかけてきた。とてもスマートに空気を読まない男は、眞空の肩を思いきり揺すって乱暴に起こす。
「なーに寝てんだよ! 次移動だぜ、理科室」
「あぁ……」
眞空は渋々からだを起こし、机の中から化学の教科書を引っ張り出した。
「……おまえの弟、なかなか手強いのな」
同じように純一も化学の用意をしながら、唐突にぽつりと眞空にこぼした。いつもは挑発的な曲者である純一が、曖昧な苦笑を浮かべて参っている。その苦笑があまりにも純一に似合わなくて、眞空はふと親友が心配になった。結局無類のお人好しである。
「え、なんで……?」
「なんか……大事なところでするっとすり抜けられたっつーか。デート、雰囲気悪くなかったんだぜ? 冬夜もずっと笑ってて、俺もずっと楽しくて、……でもずっと、なんか足りなかった」
足りないものの正体がわからず、眞空がひどく不思議がる。あんなに楽しそうに、よく笑っていたのに。
「一日中その足りない何かを探すばっかで、冬夜は集中力なくしてた。……あー、今思えば冬夜は全然俺に集中してなかったな。言いたいことは、何ひとつ言わせてくれなかった」
「へぇ……そうなんだ」
充分うまくいっているように見えたデートだったので、眞空は素直に驚いた。あれは上辺だけだったのか? でもなんでそんなことをする必要が?
「ま、一筋縄じゃいかねぇとは思ってたし、気長にがんばらせてもらうけどね、お兄さん?」
「……」
からかうような、いつものいやらしい笑み方に戻った純一に、眞空は何も言い返さなかった。冗談なのか本気なのかを判別する気力は、今日はもう残っていない。
「なんだよ元気ねぇなぁ。ちょっと冬夜が朝練出て一緒に登校してくんなかったからって、んな落ち込むことかよ。どんだけブラコンなのおまえら」
「!? お、おれ、そんなこと、ひと言も言ってねぇのに……」
心を完全に見透かされズバリと言い当てられてしまった眞空は、純一の鋭すぎる観察眼に不気味ささえ感じてしまう。
「おまえら見てりゃバカでもわかるっつーの。冬夜もなんか、淋しがってたんだよ、今朝。……ほんと、おまえらのブラコン、うざい」
すっぱりと言い捨てて、化学の用具を揃えた純一は先に歩き出した。あ、ま、待てよ……と、少し放心していた眞空が慌ててあとを追う。
「地区予選近いんだから仕方ねぇだろ。そんくらい我慢しろよ、バカ兄弟」
午前の授業を終えると早々に自作の弁当をかき込み、眞空は机に突っ伏して狸寝入りをしていた。週明けの今朝、低血圧の冬夜が珍しく陸上部の朝練に行ってしまったので、激しく落ち込んでいるのである。純一も今朝は真面目に部活に顔を出したと聞いて、疑いたくないことまで疑ってしまう。海斗に言わせると、単に夏の地区予選が近いから真面目に練習してるだけだろ、らしいのだが、眞空にはそんな自分に都合のいい解釈を聞き入れる耳はなかったようだ。
先週の土曜日にあんなにも楽しそうな二人を見てしまった眞空は、純一といつも通りに言葉を交わす自信があまりなかった。純一のことは親友だと思っているから憎みたくない、嫌いになりたくない、でも。
……もし本当に冬夜が純一を選んだら、おれは二人を祝福できるんだろうか。純一を、許せるんだろうか……。
机とほとんど一体化しながらそんな自己嫌悪の無限ループに陥っていた眞空に、容赦なく純一が話しかけてきた。とてもスマートに空気を読まない男は、眞空の肩を思いきり揺すって乱暴に起こす。
「なーに寝てんだよ! 次移動だぜ、理科室」
「あぁ……」
眞空は渋々からだを起こし、机の中から化学の教科書を引っ張り出した。
「……おまえの弟、なかなか手強いのな」
同じように純一も化学の用意をしながら、唐突にぽつりと眞空にこぼした。いつもは挑発的な曲者である純一が、曖昧な苦笑を浮かべて参っている。その苦笑があまりにも純一に似合わなくて、眞空はふと親友が心配になった。結局無類のお人好しである。
「え、なんで……?」
「なんか……大事なところでするっとすり抜けられたっつーか。デート、雰囲気悪くなかったんだぜ? 冬夜もずっと笑ってて、俺もずっと楽しくて、……でもずっと、なんか足りなかった」
足りないものの正体がわからず、眞空がひどく不思議がる。あんなに楽しそうに、よく笑っていたのに。
「一日中その足りない何かを探すばっかで、冬夜は集中力なくしてた。……あー、今思えば冬夜は全然俺に集中してなかったな。言いたいことは、何ひとつ言わせてくれなかった」
「へぇ……そうなんだ」
充分うまくいっているように見えたデートだったので、眞空は素直に驚いた。あれは上辺だけだったのか? でもなんでそんなことをする必要が?
「ま、一筋縄じゃいかねぇとは思ってたし、気長にがんばらせてもらうけどね、お兄さん?」
「……」
からかうような、いつものいやらしい笑み方に戻った純一に、眞空は何も言い返さなかった。冗談なのか本気なのかを判別する気力は、今日はもう残っていない。
「なんだよ元気ねぇなぁ。ちょっと冬夜が朝練出て一緒に登校してくんなかったからって、んな落ち込むことかよ。どんだけブラコンなのおまえら」
「!? お、おれ、そんなこと、ひと言も言ってねぇのに……」
心を完全に見透かされズバリと言い当てられてしまった眞空は、純一の鋭すぎる観察眼に不気味ささえ感じてしまう。
「おまえら見てりゃバカでもわかるっつーの。冬夜もなんか、淋しがってたんだよ、今朝。……ほんと、おまえらのブラコン、うざい」
すっぱりと言い捨てて、化学の用具を揃えた純一は先に歩き出した。あ、ま、待てよ……と、少し放心していた眞空が慌ててあとを追う。
「地区予選近いんだから仕方ねぇだろ。そんくらい我慢しろよ、バカ兄弟」
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