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27【眞空Diary】見たかったもの①
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掛け慣れない伊達眼鏡と、目深にかぶったこちらもかぶり慣れないバケットハットのせいで、眞空の視界はずいぶんと狭くなっていた。どうもしっくりこないのか何度も眼鏡やバケハの位置を調整しながら、映画館の柱の影に隠れてチケット売場辺りの様子をうかがっている。
あれから限界の速さで駅に向かい、うまく電車に飛び乗った。生まれて初めてこんなにも速く走れたと、眞空は実は海斗にも劣らないのではないかと思うほどの己の潜在能力を思わず見直してしまう。家を出るときの準備も早かったが、あれは昨日の晩から行こうかどうしようかギリギリまで迷っていて、一応眼鏡と帽子の王道変装道具だけは用意していたからだった。
……何やってんだ、おれ。尾行とか、サイテーじゃん……。
電車を降りてから映画館までも猛ダッシュで来たので、まだ息は上がったままだった。肩を揺らしゼェゼェと荒く息をしながら、柱に隠れてこっそり何かを盗み見している姿は完全に不審者で、土曜の家族連れやカップルたちが遠巻きに眞空を怪訝そうに見ている。そんな周りの好奇の目にも構っていられないほど、眞空はチケット売場で仲良く購入の順番待ちをしている冬夜と純一から目が離せなかった。
デート前日の昨日までに、何故か純一からも冬夜からも今日のデートプランを細かく知らされていた。純一としてはデートの約束を取りつけたことを自慢したかったのだろうと容易に想像できるが、どうして冬夜までデートの行き先を詳しく教えてくれたのかは少し理解に戸惑った。
まさか……いや、でも。……妬いてほしいって、思ったとか? ……いいや、そんなわけ、あるはずないよな。
勝手に自己完結し、眞空はそれ以上考えるのはやめた。自惚れは敵だと己を律する。それでも知らされていたおかげですぐに追いつき二人を発見することができたのは有り難いと、眞空はまだ荒い息づかいの中で小さく安堵した。とりあえず絶対バレないようにしないと……と、眞空は柱の後ろでがんばって細くなる。
わざとなのか、時々純一が必要以上に近づいて冬夜に耳打ちするように話しかけるのを見るたびに、眞空は柱の後ろで心臓をぎゅっと握られたように苦しみ悶えた。すぐに飛び出して二人を引き剥がしてやりたいと思うが、もちろん眞空にそんな勇気があるはずもない。そんな勇敢な兄であれば、こんな風にこそこそと陰湿めいた行動など取らずにとっくに冬夜を奪っている。
冬夜と純一の番になり、純一が先輩らしくリードして二人分のチケットを買っていた。そのあと二人は飲み物などを調達し、連れ立ってシアターの方へ入っていく。中までついていくとさすがにバレる危険と隣り合わせになりそうなので、ここは大人しく外で終わるのを待つことにした。
わ、ポップコーンなんか買っちゃって、楽しそうじゃん……。
冬夜は朝の低血圧不機嫌を微塵も感じさせないほど、よく笑っていた。さっきおれにはちょっと冷たかったのに……と眞空はまた落ち込んで、隠れるのに使っていた柱にもたれてへたり込んだ。ハットを更に深くかぶり直し、情けなく萎れた顔を人目にさらすまいとする。
あれ? おれ、なんか勢いでここまで来ちゃったけど、結局何しに来たんだろう? デートをやめさせる……とか、そんなヒーローみたいなこと、できやしないのに。
急に尾行の目的を見失って、眞空は改めて自問した。純一が冬夜に何かを無理強いすることがないように見張るつもりだったような気もするが、さっきの二人の様子からはそんな心配など皆無のようにも思える。何より、冬夜が楽しそうだったのだ。
冬夜、笑ってたな……いつの間にか、あんな風に自然に笑えるようになってたんだな。
まだ幼かった頃、あまり笑わない儚げな少年だった冬夜を思い出す。ひばり園で眞空が遊びに誘っても、冬夜はよそよそしく他人行儀に微笑む程度にしか顔を緩ませなかった。
冬夜が楽しそうに笑うなら、もうそれでいいんじゃないのか? ……たとえ隣にいるのが、おれじゃなくても。
いつだって見たいのは、冬夜の笑った顔だから。
あれから限界の速さで駅に向かい、うまく電車に飛び乗った。生まれて初めてこんなにも速く走れたと、眞空は実は海斗にも劣らないのではないかと思うほどの己の潜在能力を思わず見直してしまう。家を出るときの準備も早かったが、あれは昨日の晩から行こうかどうしようかギリギリまで迷っていて、一応眼鏡と帽子の王道変装道具だけは用意していたからだった。
……何やってんだ、おれ。尾行とか、サイテーじゃん……。
電車を降りてから映画館までも猛ダッシュで来たので、まだ息は上がったままだった。肩を揺らしゼェゼェと荒く息をしながら、柱に隠れてこっそり何かを盗み見している姿は完全に不審者で、土曜の家族連れやカップルたちが遠巻きに眞空を怪訝そうに見ている。そんな周りの好奇の目にも構っていられないほど、眞空はチケット売場で仲良く購入の順番待ちをしている冬夜と純一から目が離せなかった。
デート前日の昨日までに、何故か純一からも冬夜からも今日のデートプランを細かく知らされていた。純一としてはデートの約束を取りつけたことを自慢したかったのだろうと容易に想像できるが、どうして冬夜までデートの行き先を詳しく教えてくれたのかは少し理解に戸惑った。
まさか……いや、でも。……妬いてほしいって、思ったとか? ……いいや、そんなわけ、あるはずないよな。
勝手に自己完結し、眞空はそれ以上考えるのはやめた。自惚れは敵だと己を律する。それでも知らされていたおかげですぐに追いつき二人を発見することができたのは有り難いと、眞空はまだ荒い息づかいの中で小さく安堵した。とりあえず絶対バレないようにしないと……と、眞空は柱の後ろでがんばって細くなる。
わざとなのか、時々純一が必要以上に近づいて冬夜に耳打ちするように話しかけるのを見るたびに、眞空は柱の後ろで心臓をぎゅっと握られたように苦しみ悶えた。すぐに飛び出して二人を引き剥がしてやりたいと思うが、もちろん眞空にそんな勇気があるはずもない。そんな勇敢な兄であれば、こんな風にこそこそと陰湿めいた行動など取らずにとっくに冬夜を奪っている。
冬夜と純一の番になり、純一が先輩らしくリードして二人分のチケットを買っていた。そのあと二人は飲み物などを調達し、連れ立ってシアターの方へ入っていく。中までついていくとさすがにバレる危険と隣り合わせになりそうなので、ここは大人しく外で終わるのを待つことにした。
わ、ポップコーンなんか買っちゃって、楽しそうじゃん……。
冬夜は朝の低血圧不機嫌を微塵も感じさせないほど、よく笑っていた。さっきおれにはちょっと冷たかったのに……と眞空はまた落ち込んで、隠れるのに使っていた柱にもたれてへたり込んだ。ハットを更に深くかぶり直し、情けなく萎れた顔を人目にさらすまいとする。
あれ? おれ、なんか勢いでここまで来ちゃったけど、結局何しに来たんだろう? デートをやめさせる……とか、そんなヒーローみたいなこと、できやしないのに。
急に尾行の目的を見失って、眞空は改めて自問した。純一が冬夜に何かを無理強いすることがないように見張るつもりだったような気もするが、さっきの二人の様子からはそんな心配など皆無のようにも思える。何より、冬夜が楽しそうだったのだ。
冬夜、笑ってたな……いつの間にか、あんな風に自然に笑えるようになってたんだな。
まだ幼かった頃、あまり笑わない儚げな少年だった冬夜を思い出す。ひばり園で眞空が遊びに誘っても、冬夜はよそよそしく他人行儀に微笑む程度にしか顔を緩ませなかった。
冬夜が楽しそうに笑うなら、もうそれでいいんじゃないのか? ……たとえ隣にいるのが、おれじゃなくても。
いつだって見たいのは、冬夜の笑った顔だから。
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