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ゆりすみれ

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2【双子Diary】冬の火葬場

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 黒ばかりを身にまとったたくさんの大人たちに囲まれて、双子は小さなその手をぎゅっと握り合っていた。

 わけもわからず連れてこられた場所は今まで嗅いだこともないような不思議な匂いが充満していて、ただでさえ不安定な双子を余計に怖がらせる。ここは死んだ人を焼く場所だと、知らない大人に淡々と教えられた。

『ほんとに……死んじゃったんだな』

 海斗がうつむいたままつぶやいた。痛いほど強く繋げ合った手に視線を落とし、片割れの手をさらに強く握りしめる。

『……うん、死んじゃったね。ついおとといまで、生きてたのに』

 最後に両親と交わした言葉はなんだったか、眞空はもう一度思い出す。自分は確か、いってらっしゃいとそっけなく両親を送り出しただけだった。海斗はお土産をたくさん買ってこいとしつこく言っていた。結婚記念日に二人きりでデートに出掛けた両親は事故に合い、ただいまを告げることなく冷たくなって帰ってきた。せめて元気にいってらっしゃいと言ってあげればよかったと、もう何度悔やんだかわからないあのときの態度を思って眞空はまた奥歯をきつく噛みしめる。

『オレたちこれからどうなるのかな』

 たった8歳の子供が、自分たちの未来を思って途方に暮れていた。たった8歳の海斗でさえ、これからの自分たちを守ってくれる人がこの黒い服の集団の中にはいないだろうということはなんとなくわかる。双子なのだ、その分負担も二倍になる。どんな物好きが自分たちを育ててくれるのだろうかと足りない頭で考えれば考えるほど答えは見つからなくて、兄としての自覚がそれなりにある海斗は暗く沈んでしまう。

『おれ、海斗とはなればなれになるの、イヤだよ』

『オレだってイヤだよ。ぜったいにイヤだ! ねぇ眞空、どんなにすごくて、どんなにえらい人が来てオレたちをはなればなれにしようとしたって、オレたちずっと二人でいよう? 何があっても二人でがんばろう?』

『うん、やくそくだよ』

 何があってもはなればなれにされませんように。二人なら、だいじょうぶだから。

 双子が、絡めた小指と小指をぶんぶんと大きく振って誓いの儀式をしていると、目の前にあった小さな扉が開いて、中から大きくて細長い箱が取り出された。黒ずくめの大人たちはその箱に群がり、何かを選び始めた。納める骨を選んでいるのだと、また別の大人に教えられた。

 大人たちが両親の骨を拾う様子を、二人は別次元のものでも見るようにぼんやりと眺めていた。変わり果てた姿を信じられず、握り合った手がどちらからともなく小刻みに震え出す。

『ねぇ海斗、今何かんがえてる?』

 視線を両親の骨から外さないまま、眞空が問う。

『……たぶん、眞空と同じことかんがえてる』

 男の子なのに泣き虫ね、といつも母親を困らせてばかりいた海斗の目には、期待を裏切らない大粒のしずくが現れ始める。

『言ってよ、海斗』

『イヤだよ、眞空が先に言えよ』

『じゃあ、せーので言おう?』

『……うん』

『せーの』
『せーの』

 震える声と、潰れてしまいそうなほど強く強く握り合った手と手。張り詰めていたものが切れたように、双子はその場にへたり込んでわぁわぁ泣きじゃくった。

 八年の人生で幸いを奪われた、同じ顔を持つ小さな二人。

『どうして死んじゃったんだよぉ』
『どうして死んじゃったんだよぉ』

 綺麗に重なり合った悲痛の叫びが、冬の乾いた火葬場に冷たく響き渡った。
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