サクラ・エンゲージ

ゆりすみれ

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 桜助が担任教師に溺れたのは、今から一年と二ヶ月前の、入学式の翌日だった。

 そのとき桜助は着慣れない真新しいブレザーを気持ち悪く思いながら、眼前で咲き乱れる桜の大樹を眺めて、そういえば自分が桜をいとうようになったのはいつからだろうとぼんやり考えていた。

 中庭の桜が最後の力を振りしぼって咲いている。明日は雨だと言っていたので、今日が最後の花盛りだろう。春空を埋めるように群れている淡い薄桃色の花弁を、桜助は目を細めてまぶしそうに見つめた。

 ある程度の分別がつく年端になると、男なのに花を表す漢字が名前に織り込まれている違和感に、まず桜助自身が驚き嫌悪した。

 なんて女々しい名前なのだと、幼い頃は漢字にするのが恥ずかしくてわざとひらがなで書いてばかりいた。桜助がそれを弱みのように感じ始めると、周りもそこに付け込んで容赦なく名をからかい出した。

『男のくせにサクラなんて女みてぇ。変な名前』
『おまえには全然似合わないな』

 実際桜助は幼い頃から上背だけはある大人びた印象の子供だったので、花の名などという可憐なものとは無縁の少年だった。わざわざ言われなくても似合ってないことくらい重々承知していた。

 だいたい桜なんて仰々しすぎる。古来より万人に愛でられているようなものと同じ名を与えられたって、荷が重いだけだ。

 自分は万人に好かれるような人間ではないと、桜助は陰湿に己の性格を分析する。人付き合いもうまいとは言えなくて、斜に構えることに慣れてしまって、大抵のことに無関心。愛想がある方でもないし、無駄だと思うものは容赦なく切り捨てるし、周りに心を開放しようとは微塵みじんも思わない。桜と違ってずいぶんひねくれているなと、自分自身に嫌気が差す。

 だから桜が付く下の名で呼ばれることが苦手で、桜助は家族と本当に気を許した人にしか名を呼ばせていなかった。

 桜が咲く四月が嫌い。クラス替えで自己紹介をしなければならない四月が嫌い。ふわりふわりとはかないのに芯を揺るがせずにどっしりと咲き誇る、桜が嫌い。

 そうやってずっと、八つ当たりのように嫌いだと思っていたのに。

 紘夢に出逢ってしまった。

 それは入学式翌日の昼休みで、桜助はひとりで中庭に出てきていた。まだ校内のマップをほとんど把握していない桜助でも、この場所にはあまりひと気がないことだけは受験や入学説明会のときから知っていた。誰にも会いたくなかった。

 どこかのモデルでもやれそうな端正な顔立ちに、艶のある黒髪。背丈があって目立つこともあり、桜助は入学二日目でさっそく教室内で浮いていた。愛想笑いで馴れ合うつもりはないし、こんな見た目と性格なので集団生活で浮くのは今に始まったことではないと、二日目にして桜助はクラスに馴染むのをあっさりと放棄した。

 教室にいても女子たちの好奇の視線が面倒だし、名前のことも容姿のことも何かしら言われるのが面倒だし、とにかく何もかもが面倒に思えて、桜助はなんの考えもなしにふらっと中庭を訪れたのだった。

 桜を前に、足を止める。

 柔らかい春の風を抱きとめてしばらくたたずんでいると、桜の大樹の下に人がいることに気がついた。太い根から少し離れた芝生の上で、人が寝そべっている。

 その人はひらひらのレースで縁取りされている白い日傘を広げて地面に立てかけ、その下に上半身を潜らせるようにして寝ていた。

 桜助はおそるおそる近づいてしゃがみ、日傘の下に隠れている顔をのぞき込む。

『……担任、の人?』

 春風にかき消されてしまうほど細い声でそうつぶやいた。強めの風が吹き抜けて、落下中の花弁が舞い狂う。

 あどけなくて、無防備で、まるで子供のようにすやすやと寝息を立てている担任教師から、どうしてか目が逸らせなくなる。

 なんて穏やかで、なんて安らぎに満ちた顔で寝ているんだ、この人は。

 あまりにも童顔で、汚れ防止のためかワイシャツの上から学生が着るようなジャージを羽織っていたので、昨日と今日教壇に立っているところを見ていなければ絶対に敷地内にある付属大学の大学生とまちがえていたと桜助は思う。

 のぞき込まれた気配に気づいて、紘夢がゆっくりと目を覚ました。ぎょっとした桜助は、慌てて後退あとずさり教師から距離を取る。

『ん……新入生か……?』

 日傘を退けて上体を起こした紘夢は、桜木の天辺てっぺんに向かってぐーんと伸びをした。桜助のタイの色をちらっと見て、寝起きの柔らかくかすれた声で問う。えんじ色のネクタイは今年の一年生だ。

『こんなとこ来てどうした? 迷子か?』

『は? 違う。……ただの散歩だ』

 迷子などと子供扱いされたのがなんだか不愉快で、桜助はぶっきらぼうに答えた。顔だけならあんたの方がよっぽどガキみてぇだが? と胸の内だけで軽く毒づいてみる。

『なんだ、じゃあ……校内探検ってこと? 感心感心。どっか行ってみたいとこがあるなら案内してやろうか?』

 急に教師面をして真面目な提案をしてきたかと思ったら、そのすぐあとに紘夢はいたずらっ子のようににやりと口のを持ち上げて笑った。

『……って、実はおまえ友達作るの下手なタイプだろ? クラスでさっそく浮いたな? 入学二日目の昼休みにひとりで中庭なんてお決まりすぎるんだよ。先生はなんでもお見通しなんだから』

 まるでそんな生徒を何人も見てきたような軽さと自信で、それでいてひどくやさしい声音で紘夢は言った。愛想もなく、態度もでかい、面倒そうな生徒になりかねない自分を放っておくいつもの教師とは、初めからどこか違っていた。

 さっきまで堂々と昼寝をしていた自堕落教師が得意気にしたり顔をするので、桜助はそのまぬけさに目を丸くしてしまう。

『……あんたこそ、こんなとこで昼寝なんて変だろ、教師のくせに』

『あー、それ差別だね。教師だって春は眠たいでしょ? ほらあれ……春眠暁を覚えずってやつ知ってる? それに若造は職員室に居場所ないの、気ぃ遣うの』

 居場所を探してさまよっていたのは、どうやら同じらしかった。

 桜助はあとから知ったことだが、徳ちゃんという愛称で生徒たちから慕われているお兄さん的存在の紘夢も、年配のベテラン教師陣からすればその気さくさや生徒寄りの思考が充分異端児らしく、あまりよくは思われていないようだった。職員室での居眠りなど言語道断だったのだろう。

『……職員室でいじめでもあんの?』

『おれのことはいいの。おまえの方が大変だろ。いかにも人付き合い苦手そうなのに、見た目ばっか派手でさ……教室居づらいか? 苦労するな』

 桜助と紘夢は顔を見合わせて、少しだけ笑った。

『……あんた、桜……好きなのか?』

 雪のようにはらはらと花びらを舞い降らせる桜を見上げて、桜助がふいに訊いた。

 この昼寝だって大方花見のついでなのだろう。自分は桜を目の敵のように思っているが、この人みたいに無邪気でひねくれてなさそうな人はみんなと同じようにやさしい目で桜を愛でるのだろうと、桜助はありふれた返答を予想する。

 何故こんなことをこの人に訊いてしまったのか。なんと答えてほしかったのか。

『んー? 桜? 別に……興味ないけど、なんで?』

『優雅に花見でもしてんのかなって思ったから』

『してないしてない。ここ日陰だったから寝床にちょうどよかっただけ。ほら、この日傘も二年の女子に借りてさ、日よけと落ちてくる毛虫よけなんだ』

『毛虫……』

 紘夢はひらひらレースの白い日傘をうれしそうにくるくる回してみせた。頭上の桜より、断然この日傘が気に入っている様子だ。桜助は意外そうな顔をして紘夢をじっと見つめる。

『それにこの場所はちょうど校舎からすごく見えにくいんだよ。なんか……いろいろ面倒になって隠れたくなるときもあるだろ? ここはそういう場所。いつ誰が来たっていい。おまえ最初からいいとこ見つけたな』

 まるでまた来てもいいよと言われているようで、桜助は落ち着かない気持ちになった。

『桜……こんなに綺麗に咲いてるのに、あんたには見向きもされてないんだな』

『なんだよ、桜にこだわるなぁ。確かに綺麗だけど、昔毛虫が顔に落ちてきたことあってそれ以来トラウマだよ。どっちかっていうとおれはあんまり好きじゃない』

 万人が桜を愛でていると思っていた。みんな薄桃色の花弁に魅了されていると思っていた。桜はそういう存在でなければならないと、いつしか勝手に決め付けていた。

 桜をあんまり好きじゃないと言った人に、初めて出逢ったような気がする。見た目にとらわれず好きか嫌いかを選べる紘夢に、単純に興味が湧く。ずっとこの名をかせのように思っていたのが急に馬鹿馬鹿しくなって、桜助は小さく苦笑した。

 なんと答えてほしかったのかの答え合わせを終えると、桜助は心の中に生まれた重たくて熱い感情にすぐさま名前を付けた。

 好きだと思った。無防備な寝顔と、桜を好きじゃないと言って微笑んだ黒目がちの瞳。

『つうかおまえ、おれのクラスだよな? ……待って、名前わかる、思い出す……昨日自己紹介したもんな……。た……た……たかはし? 高橋だろ? 当たり?』

 高橋。それはまちがいなく桜助の名字だったが。

『……桜助』

 ほとんど無意識に、桜助は気づいたらそう口にしていた。

『?』

『さくらに、助けるのすけで、おうすけ』

 あんなにも呼ばれることをいとっていた下の名を、この人になら呼ばれてもいいと思った。

『ん……? 名字じゃなくて名前の方で呼んでほしいの? ……あはは、いいね。桜助って呼べばいい?』

 あのときそう言って桜助をからかった紘夢が、今はいちばん名前呼びにうるさい。

 その日から、寝床にちょうどいい日陰を作ってくれるその桜木の下は二人の避難場所になった。

 それは居場所を見つけられない不器用な二人の大切な場所で、桜の花弁がすべて散り去って瑞々みずみずしい葉を揺らし始めてもその価値はまったく変わらなかった。春の花見頃だけ桜を愛でる万人と違い、二人にとって桜木は花を盛っていようが丸裸だろうが関係なかった。ただ互いの顔を突き合わせる場所であれば、それでよかった。

 強く求めたのは桜助の方だった。桜助自身気味が悪いと感じてしまうほど、激しくひたむきに紘夢を欲しがった。大抵のことに無関心だった自分にこんなにも執着できるものがあるなんて信じられなくて、紘夢を奇跡のように思った。

 最初は頑なに拒んでいた紘夢も、桜助の一途な強引さに負けて途中であらがうのをぱたっとやめた。降伏の白旗をあげた先生は、差し伸べられた生徒の手を強くつかんだ。

 そこからあとはもう、二人で深い深いところまで転がり落ちていくだけだった。誰の目にも触れないように、こっそりと週末だけ紘夢の部屋で抱き合った。月曜が来たらのそのそとベッドからい出し、何食わぬ顔でただの教師と生徒を演じた。

『おまえ名前に桜が入ってたから好きとか嫌いとか訊いてきたの? ごめん、おれ、あんまり好きじゃないとか言ったね』

 無神経だったかと、名を教えられた紘夢が少し気まずそうな顔で桜助を見る。

『いいよ、俺も桜は大嫌いだから』

 大嫌いだったのに。桜も、名前も。

 桜助はもう、そうは言えなくなってしまった。
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