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66.ハイジャック
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○月〇日。
俺は、妙な夢を見てうなされてた。自分で判る位に。
目が覚めると、澄子が心配して声をかけた。「あんた、どうしたん?」
「何か悪い夢見たらしい。トイレ行って来よう。明日、早い、頼むで。」
頼むで、とは営みなし、の言外の言葉。澄子は呑み込みが早い。
翌日。関西空港で、午前7時20分発の飛行機に、依頼人の渡嘉敷松矢と搭乗した。
仙台空港に着くと、実家の奥さんと家族が待ち構えていた。
実家で話し合う筈が、空港で話し、渡嘉敷を追い返す為に出張って来ていたのだ。
喫茶店にも入らず、ロビーで話をし、俺は『5回目の浮気』に同乗の相槌を打ち、本庄弁護士に間に入って貰い家裁に行くことで合意して貰った。本庄先生には、既に所長から話を通してある。
結局、家族は帰り、俺は『とんぼ返り』する為にチケットを買いに行った。
渡嘉敷は、暢気に土産を売店で買っている。
12時10分発の飛行機に乗り、朝早かったから、2人とも、うとうとと居眠りしていたが、13時55分に関空に到着出来ないことが起こった。
ハイジャックが起きたのだ。
「みんな、よく見ろ。これが何か判るな?」リーダーと3人の部下は拳銃を持っていた。
「大人しくしていたら、向こうで降ろしてやる。そうで無ければ、窓からバイバイだ。」
「笑えない冗談だな、幸田さん。」左隣の男がそっと声をかけて来た。
「初めまして。ケン・ソウゴだ。あんたの名前は知っていたが、初めて会った。さっき名刺の整理をしていたからな。大文字伝子に連絡は取れるか?」
「間接的なら。」「じゃ、そうしろ。その前に、騒ぎを起こせ。俺が何とかするから。」
俺は、自分で言うのも何だが、判断は早い。
「そやから、言うてますやん。もう5回目でっせ。離婚するしかないでしょ?」
俺は、渡嘉敷が愚図ってないのに、そういう演技をした。
「おい。そこの。自分らの立場が判って無いんか?」
その男が近寄って来たら、ケンは横に退いてから、男に組み付いて倒した。
他の部下2人が近寄ってきたが、上手く交わしたケンは驚いた。
リーダーがいない。リーダーは、操縦室に向かっていた。
俺は、急いで総子にメールした。便名を書き、『SOS』と。ケンが乗っていることも書いた。
ケンが追いついた時(ここからは後から聞いた話だが)、操縦席は開けられ、操縦士と副操縦士を拳銃で殺したが、跳弾で自分自身も動けなくなった。
飛行機は、数分だけ自動操縦で機体を維持したが、すぐに傾き、コントロールを失った。
俺は、機体が揺れる中、必死でメールした。指が震えてなかなか思うように動かなかったが。
ケンは、操縦士を退かせ、自らが操縦を始めた。
俺は、必死に嘘をついた。
「皆さん。落ち着いて下さい。インターポールの刑事が犯人を抑えました。」
CAが走って来て、言った。
「あなたも刑事さん?」「いや・・・探偵です。」
「お連れの刑事さんが、管制塔に連絡を取って、羽田に不時着するから乗客を安心させろと言っています。」
「そうか。」やはり、機体が体制を整えたのは、ケンが操縦しているんだ。
俺は、そのまま芝居を続けて、乗客を説得した。
日本人は、意外と映画のシーンを現実と混同する。インターポールは『警察』じゃない、お役所だ。探偵は、日本では正式な職業じゃない。興信所所員であって、拳銃も持ち合わせていない。
やがて、飛行機は羽田に着いた。羽田で皆が降りた後、空港警察が入って来て、ケンに言った。「パスワードを拝見。イーグル国の・・・成程。御案内します。あなた方も。」
俺達が案内された場所は、飛行機の裏で、オスプレイが止まっていた。
「お疲れ様、偽物さん。」とケンに言う男がいた。
驚いていると、その男がケンを指して「彼の名前はムラサメ・シン。俺がケン・ソウゴ。大文字から連絡があって、俺の部下で親友のムラサメがハイジャックの『処理』していることを知って、ここに誘導したんだ。
側にいた、EITO東京本部の副隊長の一佐が言った。
「大阪支部までオスプレイでお送りするわ、幸田さん。あ、あなたは『身内』じゃないわね。」
一佐は、渡嘉敷に当て身を食らわすと、軽々と肩に背負って歩き出した。
一緒に来たオスプレイのパイロットがクスクスと笑っている。
「取り敢えず、ありがとうございました。」俺は、本物のケンと偽物のケンに礼を言い。一佐に続いた。
16時には到着する、とオスプレイのパイロットは言った。
総子からメールが来た。また、総子に借りが出来てしまった。
EITO大阪支部に到着すると、一美が来ていて、ランボルギーニで渡嘉敷を府警に送った。
渡嘉敷の5回目の浮気相手は、半グレのおんなだった。
渡嘉敷は、会社を狙われていたのだ。
「もてる」と思っている男はハニートラップにかかったら、イチコロだ。
俺は、何故か給食センターのバンに二美に乗せられた。
「お疲れ様。」と言った二美に俺は「はい。」と、素直に応えた。
―完―
俺は、妙な夢を見てうなされてた。自分で判る位に。
目が覚めると、澄子が心配して声をかけた。「あんた、どうしたん?」
「何か悪い夢見たらしい。トイレ行って来よう。明日、早い、頼むで。」
頼むで、とは営みなし、の言外の言葉。澄子は呑み込みが早い。
翌日。関西空港で、午前7時20分発の飛行機に、依頼人の渡嘉敷松矢と搭乗した。
仙台空港に着くと、実家の奥さんと家族が待ち構えていた。
実家で話し合う筈が、空港で話し、渡嘉敷を追い返す為に出張って来ていたのだ。
喫茶店にも入らず、ロビーで話をし、俺は『5回目の浮気』に同乗の相槌を打ち、本庄弁護士に間に入って貰い家裁に行くことで合意して貰った。本庄先生には、既に所長から話を通してある。
結局、家族は帰り、俺は『とんぼ返り』する為にチケットを買いに行った。
渡嘉敷は、暢気に土産を売店で買っている。
12時10分発の飛行機に乗り、朝早かったから、2人とも、うとうとと居眠りしていたが、13時55分に関空に到着出来ないことが起こった。
ハイジャックが起きたのだ。
「みんな、よく見ろ。これが何か判るな?」リーダーと3人の部下は拳銃を持っていた。
「大人しくしていたら、向こうで降ろしてやる。そうで無ければ、窓からバイバイだ。」
「笑えない冗談だな、幸田さん。」左隣の男がそっと声をかけて来た。
「初めまして。ケン・ソウゴだ。あんたの名前は知っていたが、初めて会った。さっき名刺の整理をしていたからな。大文字伝子に連絡は取れるか?」
「間接的なら。」「じゃ、そうしろ。その前に、騒ぎを起こせ。俺が何とかするから。」
俺は、自分で言うのも何だが、判断は早い。
「そやから、言うてますやん。もう5回目でっせ。離婚するしかないでしょ?」
俺は、渡嘉敷が愚図ってないのに、そういう演技をした。
「おい。そこの。自分らの立場が判って無いんか?」
その男が近寄って来たら、ケンは横に退いてから、男に組み付いて倒した。
他の部下2人が近寄ってきたが、上手く交わしたケンは驚いた。
リーダーがいない。リーダーは、操縦室に向かっていた。
俺は、急いで総子にメールした。便名を書き、『SOS』と。ケンが乗っていることも書いた。
ケンが追いついた時(ここからは後から聞いた話だが)、操縦席は開けられ、操縦士と副操縦士を拳銃で殺したが、跳弾で自分自身も動けなくなった。
飛行機は、数分だけ自動操縦で機体を維持したが、すぐに傾き、コントロールを失った。
俺は、機体が揺れる中、必死でメールした。指が震えてなかなか思うように動かなかったが。
ケンは、操縦士を退かせ、自らが操縦を始めた。
俺は、必死に嘘をついた。
「皆さん。落ち着いて下さい。インターポールの刑事が犯人を抑えました。」
CAが走って来て、言った。
「あなたも刑事さん?」「いや・・・探偵です。」
「お連れの刑事さんが、管制塔に連絡を取って、羽田に不時着するから乗客を安心させろと言っています。」
「そうか。」やはり、機体が体制を整えたのは、ケンが操縦しているんだ。
俺は、そのまま芝居を続けて、乗客を説得した。
日本人は、意外と映画のシーンを現実と混同する。インターポールは『警察』じゃない、お役所だ。探偵は、日本では正式な職業じゃない。興信所所員であって、拳銃も持ち合わせていない。
やがて、飛行機は羽田に着いた。羽田で皆が降りた後、空港警察が入って来て、ケンに言った。「パスワードを拝見。イーグル国の・・・成程。御案内します。あなた方も。」
俺達が案内された場所は、飛行機の裏で、オスプレイが止まっていた。
「お疲れ様、偽物さん。」とケンに言う男がいた。
驚いていると、その男がケンを指して「彼の名前はムラサメ・シン。俺がケン・ソウゴ。大文字から連絡があって、俺の部下で親友のムラサメがハイジャックの『処理』していることを知って、ここに誘導したんだ。
側にいた、EITO東京本部の副隊長の一佐が言った。
「大阪支部までオスプレイでお送りするわ、幸田さん。あ、あなたは『身内』じゃないわね。」
一佐は、渡嘉敷に当て身を食らわすと、軽々と肩に背負って歩き出した。
一緒に来たオスプレイのパイロットがクスクスと笑っている。
「取り敢えず、ありがとうございました。」俺は、本物のケンと偽物のケンに礼を言い。一佐に続いた。
16時には到着する、とオスプレイのパイロットは言った。
総子からメールが来た。また、総子に借りが出来てしまった。
EITO大阪支部に到着すると、一美が来ていて、ランボルギーニで渡嘉敷を府警に送った。
渡嘉敷の5回目の浮気相手は、半グレのおんなだった。
渡嘉敷は、会社を狙われていたのだ。
「もてる」と思っている男はハニートラップにかかったら、イチコロだ。
俺は、何故か給食センターのバンに二美に乗せられた。
「お疲れ様。」と言った二美に俺は「はい。」と、素直に応えた。
―完―
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